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終章 私達の物語
11 耳障りなモノ
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「美しいジェシカ嬢! どうぞお幸せにーー」
「今日という良き日に、お二人の未来に、乾杯ーー」
そんな喜びと祝福の声が飛び交う中、あまりにも場にそぐわない一筋の鋭い視線が私を容赦なく貫きます。
それはまるで入念に研ぎ澄ませた刃物のような鋭さで、何の抵抗もなく私の胸をすんなりと貫通し、心にまで達します。
そんな恐ろしい鋭さの視線を向けられているだけで、思わず腰を抜かしてしまいそうです。
誰が見ても分かるほどの強い怒りの念。ジェシカ様がいったい何に対してそれほどまでの強い怒りを抱いているのか分かりませんが、とにかくすぐにでも謝らなければならないと、自然とそう思わされます。
それほどまでに鬼気迫る状況でした。
あれほど優しく接してくれていたのに……まるで古くからの友人のように接してくれていたのに……なのに私の事をあんな目で見るなんて……。
ニルヴァーナ公爵邸の薔薇園で私に向けてくれた、温かな太陽のような弾ける笑顔。
嬉しかった。
あの時から私の心の中には常にジェシカ様がいるようになったんですよね。
ジェシカ様の視線が、言葉が、仕草が、匂いが、熱が、それら全てが欲しくて欲しくて仕方がなかったーー。
私が欲しかったものは、間違ってもあんな冷たい視線じゃない。
だから、あの冷たい視線が自分に対して向けられているとは、どうやっても思えませんでした。
思いたくーーありませんでした。
《あの子の本当の名前はジェシカ・キラークイーン》
《あれは悪意に満ちたくだらない茶番で、私達は皆ただ踊らされていただけなのよ》
《あの日、あのお茶会を計画し支配していたのはーージェシカ・ユリアンよ》
《自分の手は決して汚さず、それでいて信頼はちゃっかりと得ている。さすがよね。まさに盤面に君臨するクイーンそのものだわ……》
ベアトリック様の言葉が脳内に蘇ります。
あの日、最終的にはベアトリック様の言葉を信じると言った私ですが、それでもどこか、胸の奥の方ではその言葉を信じられず、信じたくなく、直視するのを避けていました。
だってーー大好きな人から嫌われるだなんて、そんな辛い事、他にないじゃないですか。
そんな現実、すんなりと受け入れる事なんてできっこないんです。
けれど、どれほど自分が目を背けようが現実は変わらずにそこにあるんですよね。
それが今、目の前にある光景そのものなんですよね。
私の事が大嫌いなジェシカ様の心のほんの一部が垣間見えた瞬間、ですね。
「ローレライ嬢! こちらで私とお話しましょう!」
「その可憐なお姿をもっと間近で見せて下さい! さあ!」
「まさに噂通りのうら若き聖母様!」
「絶世の美女ジェシカ嬢と聖母ローレライ嬢ーー」
「今や人気を二分するーー」
「チェスター王国が生んだ二つの宝ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「いや、ローレライ嬢ーー」
「いや、ジェシカ嬢ーー」
「いやいや、ローレライ嬢ーー」
「いやいや、ジェシカ嬢ーー」
大好きな人に嫌われ、辛すぎる鋭い視線を一身に受けて、今にも膝を折り泣き崩れてしまいそうになっている私ですが、周辺を取り囲む方々はそんな事など知る由もなく口々に好き放題言葉を発しています。
していると、
先ほどまで明らかに機嫌が悪そうだったジェシカ様が顔を伏せたまま、こちらに向かって歩いてきました。
怒られる、怒鳴られる、嫌われる、私は瞬時にそう思いました。
迫りくるジェシカ様の足音がやけに鮮明に耳に届いて、ひとつ足音が弾けるたびに心臓が驚くほどに跳ね上がります。
遂に私のすぐ近くにまで迫ったジェシカ様は、およそ初めて見るひくついた苦笑いを浮かべながら私の肩に両手を置いてこう口にしました。
「みっ……みんな何を言っているのかしらね……。バカみたい。たぶんお酒を飲み過ぎて周りがよく見えていないし、自分が何を言っているのか分からなくなっているんだわ。本当、バカみたいよね。私はあのジェシカ・ユリアンなのに、そっ……それなのに、それなのに、みんなーー」
ジェシカ様はうつむき、声を震わせながら呟くように囁きます。
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「みんな……本当に、バカみたい……みんな……」
ジェシカ様は微かに震えながらその白くて小さな自らの手に徐々に力を込めていきます。
まるで何かを握り潰すように、ギュッと。
「ーーっ痛!」
私の肩に否が応でもジェシカ様の爪が食い込みます。
「本当……耳障り……なん、だから……」
「今日という良き日に、お二人の未来に、乾杯ーー」
そんな喜びと祝福の声が飛び交う中、あまりにも場にそぐわない一筋の鋭い視線が私を容赦なく貫きます。
それはまるで入念に研ぎ澄ませた刃物のような鋭さで、何の抵抗もなく私の胸をすんなりと貫通し、心にまで達します。
そんな恐ろしい鋭さの視線を向けられているだけで、思わず腰を抜かしてしまいそうです。
誰が見ても分かるほどの強い怒りの念。ジェシカ様がいったい何に対してそれほどまでの強い怒りを抱いているのか分かりませんが、とにかくすぐにでも謝らなければならないと、自然とそう思わされます。
それほどまでに鬼気迫る状況でした。
あれほど優しく接してくれていたのに……まるで古くからの友人のように接してくれていたのに……なのに私の事をあんな目で見るなんて……。
ニルヴァーナ公爵邸の薔薇園で私に向けてくれた、温かな太陽のような弾ける笑顔。
嬉しかった。
あの時から私の心の中には常にジェシカ様がいるようになったんですよね。
ジェシカ様の視線が、言葉が、仕草が、匂いが、熱が、それら全てが欲しくて欲しくて仕方がなかったーー。
私が欲しかったものは、間違ってもあんな冷たい視線じゃない。
だから、あの冷たい視線が自分に対して向けられているとは、どうやっても思えませんでした。
思いたくーーありませんでした。
《あの子の本当の名前はジェシカ・キラークイーン》
《あれは悪意に満ちたくだらない茶番で、私達は皆ただ踊らされていただけなのよ》
《あの日、あのお茶会を計画し支配していたのはーージェシカ・ユリアンよ》
《自分の手は決して汚さず、それでいて信頼はちゃっかりと得ている。さすがよね。まさに盤面に君臨するクイーンそのものだわ……》
ベアトリック様の言葉が脳内に蘇ります。
あの日、最終的にはベアトリック様の言葉を信じると言った私ですが、それでもどこか、胸の奥の方ではその言葉を信じられず、信じたくなく、直視するのを避けていました。
だってーー大好きな人から嫌われるだなんて、そんな辛い事、他にないじゃないですか。
そんな現実、すんなりと受け入れる事なんてできっこないんです。
けれど、どれほど自分が目を背けようが現実は変わらずにそこにあるんですよね。
それが今、目の前にある光景そのものなんですよね。
私の事が大嫌いなジェシカ様の心のほんの一部が垣間見えた瞬間、ですね。
「ローレライ嬢! こちらで私とお話しましょう!」
「その可憐なお姿をもっと間近で見せて下さい! さあ!」
「まさに噂通りのうら若き聖母様!」
「絶世の美女ジェシカ嬢と聖母ローレライ嬢ーー」
「今や人気を二分するーー」
「チェスター王国が生んだ二つの宝ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「いや、ローレライ嬢ーー」
「いや、ジェシカ嬢ーー」
「いやいや、ローレライ嬢ーー」
「いやいや、ジェシカ嬢ーー」
大好きな人に嫌われ、辛すぎる鋭い視線を一身に受けて、今にも膝を折り泣き崩れてしまいそうになっている私ですが、周辺を取り囲む方々はそんな事など知る由もなく口々に好き放題言葉を発しています。
していると、
先ほどまで明らかに機嫌が悪そうだったジェシカ様が顔を伏せたまま、こちらに向かって歩いてきました。
怒られる、怒鳴られる、嫌われる、私は瞬時にそう思いました。
迫りくるジェシカ様の足音がやけに鮮明に耳に届いて、ひとつ足音が弾けるたびに心臓が驚くほどに跳ね上がります。
遂に私のすぐ近くにまで迫ったジェシカ様は、およそ初めて見るひくついた苦笑いを浮かべながら私の肩に両手を置いてこう口にしました。
「みっ……みんな何を言っているのかしらね……。バカみたい。たぶんお酒を飲み過ぎて周りがよく見えていないし、自分が何を言っているのか分からなくなっているんだわ。本当、バカみたいよね。私はあのジェシカ・ユリアンなのに、そっ……それなのに、それなのに、みんなーー」
ジェシカ様はうつむき、声を震わせながら呟くように囁きます。
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ジェシカ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「ローレライ嬢ーー」
「みんな……本当に、バカみたい……みんな……」
ジェシカ様は微かに震えながらその白くて小さな自らの手に徐々に力を込めていきます。
まるで何かを握り潰すように、ギュッと。
「ーーっ痛!」
私の肩に否が応でもジェシカ様の爪が食い込みます。
「本当……耳障り……なん、だから……」
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