122 / 125
終章 私達の物語
最終話 これからの私達
しおりを挟む
『私の想いはーーーー』
と、そこまで書き終えたところで部屋のドアが激しくノックされました。
音もリズムも全てバラバラ。今日も変わらず元気のようですね。
「ーーお兄様! ノックはもっと優しく丁寧にしませんとお母様がびっくりなされてーー」
「今から入るよ! って、合図なんだから聞こえないと意味がないだろう⁉︎」
「何ですかその理屈はっ⁉︎ 毎日毎日、お母様からあれほどーーって、お兄様ー⁉︎」
乱暴に開け放たれた扉から小さな天使が二人走り込んで来ました。
「お母様ー! お父様が見つからないんだよっ! いったいどこにいると思う? ねぇっ、お母様ー!」
「ごめんなさい、お母様。私はダメだって言ったんですけど、お兄様が……」
私はその小さな二人の天使をぎゅっと抱きしめ言います。
「二人とも今日も元気ねー! 今日はいったい何をして遊んでいたの?」
「絵っ! 絵を描いたんだっ! 僕、みんなの絵を描いたから早く見て欲しくって、それでお父様を探していたんだけど全然見つからなくって、それで……」
「お母様はお父様がどこにいらっしゃるのかご存知ですか?」
「うーん……。そうね……分かるような、分からないような。よしっ、今から三人で探しに行きましょうか⁉︎」
「うんっ!」
「はいっ!」
小さな天使は小さな歩幅で部屋の中をかけていきます。
私は残り数ページとなった書きかけの古い日記を閉じ、椅子から立ち上がります。
陽の光にあてられ柔らかな印象が際立つその小さな背中に一層の愛おしさを感じつつ視線を少し動かすと、そこには精巧な造りの木製のオルゴール付き写真立てが置いてあります。
その中には、袖のないタイプのシルクのドレスに身を包み皆さんから祝福を受けお祝いのパーティーを楽しんでいる写真が一枚納められています。
何度見ても自然と顔が綻ぶ一枚です。
「早く早くっ!」
「ーーはいはい、今すぐ」
「お父様はどこにいらっしゃるのでしょう?」
「そうねぇ……今日はとてもいい天気だからお外に出てみましょうか?」
「あっ! 確かに外はまだ探してないやっ!」
両手を引かれパタパタと廊下を走っていると、
「ねぇ、アンナ! このポトフちょっと味見てよ!」
「えー⁉︎ 今忙しいのに……んー……塩、もう少し。って、あんたももう料理長なんだから味見くらい自分でしなさいよ!」
「そういうアンナはメイド長だろっ⁉︎ 料理長の補佐くらい言われないでもしろいっ! マイヤーさんは文句ひとつ言わずに仕事こなしてたぞいっ!」
「ーーそっ、それは……そうだけど……マイヤーさんと比べるのは卑怯よ!」
「こっちだって、ランド師匠と比べられちゃたまんないっつーの!」
「「わぁぁぁー!」」
と、キッチンは今日もなにやら騒がしいです。
戸を開け、温かな陽の光を全身に浴び目を細めます。
もうすっかりと春ですね。
「どこだ、どこだー?」
「あちらでしょうか? それともこっち?」
「いつもの木の下にいるんじゃない?」
「そうだ! 今日は天気が良いからお父様はきっと木の下でーー」
「そうですわ! きっとそうに違いありません!」
柔らかな風が吹き抜け、小高い丘の上に立つ木々の枝葉を揺らします。
小さな天使達は時折ふらつきながらも、ぐんぐん丘を登っていきやがてーー、
「いたー!」
「お母様! お父様がいらっしゃいましたー!」
「ん? なになに? どうしたの? みんなして」
「絵っ! 僕、絵を描いたんだっ!」
「お兄様はそれをお父様に見せるんだ! って、張り切ってらしたんです」
「上手じゃないか! すごいすごい!」
「えっへへー!」
「あなた、またこんな所で寝て……」
「あっははは……だってすごく良い天気だから、さ」
「確かにそうですね。こう天気が良いとついつい眠くなってしまいます」
「でしょ?」
「あ……そうそう! あなた」
「ん? 何? どうしたの?」
「新しい日記を買ってくださらない?」
「新しい日記?」
「えぇ。あと数ページになってしまったので……」
「ああ……じゃあ、やっと書き終わるんだね? 君の過去の物語が」
「はい。ようやく」
「次はどうするの? どんな物語を書くの?」
「次はですねー。私達、家族の物語を書こうと思っています」
「僕達の?」
「えぇ。私達がこれから向かうであろう明るい未来の物語を」
「へぇ……。楽しい未来がやってくるかな?」
「えぇ、きっと」
「それにしても、君はよく物語なんて書けるよね。僕には絶対無理だ。一ページ目で寝ちゃうよ、きっと」
「文字を読むと相変わらず眠くなってしまうんですが、文字を書こうとすると不思議と胸がドキドキするんです」
「ふぅん。僕もそういった趣味が欲しいな。僕は無趣味だからさ」
「あら、あなたも趣味があるじゃないですか」
「え?」
「よく晴れた日に木陰でみんなでアップルパイを食べるっていう趣味が」
「あっははは……それは趣味と言えるのかな……?」
「さあ、どうでしょう?」
「ねぇ、ローレライ」
「はい?」
「アップルパイ食べたい!」
「ーーふふふっ。じゃあ、急いで作りましょうか?」
「やったー!」
見上げた空には燦然とお日様が輝いており、これから私達家族が向かう未来を温かく照らしてくれているように感じます。
その未来には辛い事や悲しい事も当然あるのでしょうが、私達家族なら絶対に乗り越えていける。不思議とそう思わせてくれるような、よく晴れた昼下がりでした。
明日も、晴れるでしょうか?
完
と、そこまで書き終えたところで部屋のドアが激しくノックされました。
音もリズムも全てバラバラ。今日も変わらず元気のようですね。
「ーーお兄様! ノックはもっと優しく丁寧にしませんとお母様がびっくりなされてーー」
「今から入るよ! って、合図なんだから聞こえないと意味がないだろう⁉︎」
「何ですかその理屈はっ⁉︎ 毎日毎日、お母様からあれほどーーって、お兄様ー⁉︎」
乱暴に開け放たれた扉から小さな天使が二人走り込んで来ました。
「お母様ー! お父様が見つからないんだよっ! いったいどこにいると思う? ねぇっ、お母様ー!」
「ごめんなさい、お母様。私はダメだって言ったんですけど、お兄様が……」
私はその小さな二人の天使をぎゅっと抱きしめ言います。
「二人とも今日も元気ねー! 今日はいったい何をして遊んでいたの?」
「絵っ! 絵を描いたんだっ! 僕、みんなの絵を描いたから早く見て欲しくって、それでお父様を探していたんだけど全然見つからなくって、それで……」
「お母様はお父様がどこにいらっしゃるのかご存知ですか?」
「うーん……。そうね……分かるような、分からないような。よしっ、今から三人で探しに行きましょうか⁉︎」
「うんっ!」
「はいっ!」
小さな天使は小さな歩幅で部屋の中をかけていきます。
私は残り数ページとなった書きかけの古い日記を閉じ、椅子から立ち上がります。
陽の光にあてられ柔らかな印象が際立つその小さな背中に一層の愛おしさを感じつつ視線を少し動かすと、そこには精巧な造りの木製のオルゴール付き写真立てが置いてあります。
その中には、袖のないタイプのシルクのドレスに身を包み皆さんから祝福を受けお祝いのパーティーを楽しんでいる写真が一枚納められています。
何度見ても自然と顔が綻ぶ一枚です。
「早く早くっ!」
「ーーはいはい、今すぐ」
「お父様はどこにいらっしゃるのでしょう?」
「そうねぇ……今日はとてもいい天気だからお外に出てみましょうか?」
「あっ! 確かに外はまだ探してないやっ!」
両手を引かれパタパタと廊下を走っていると、
「ねぇ、アンナ! このポトフちょっと味見てよ!」
「えー⁉︎ 今忙しいのに……んー……塩、もう少し。って、あんたももう料理長なんだから味見くらい自分でしなさいよ!」
「そういうアンナはメイド長だろっ⁉︎ 料理長の補佐くらい言われないでもしろいっ! マイヤーさんは文句ひとつ言わずに仕事こなしてたぞいっ!」
「ーーそっ、それは……そうだけど……マイヤーさんと比べるのは卑怯よ!」
「こっちだって、ランド師匠と比べられちゃたまんないっつーの!」
「「わぁぁぁー!」」
と、キッチンは今日もなにやら騒がしいです。
戸を開け、温かな陽の光を全身に浴び目を細めます。
もうすっかりと春ですね。
「どこだ、どこだー?」
「あちらでしょうか? それともこっち?」
「いつもの木の下にいるんじゃない?」
「そうだ! 今日は天気が良いからお父様はきっと木の下でーー」
「そうですわ! きっとそうに違いありません!」
柔らかな風が吹き抜け、小高い丘の上に立つ木々の枝葉を揺らします。
小さな天使達は時折ふらつきながらも、ぐんぐん丘を登っていきやがてーー、
「いたー!」
「お母様! お父様がいらっしゃいましたー!」
「ん? なになに? どうしたの? みんなして」
「絵っ! 僕、絵を描いたんだっ!」
「お兄様はそれをお父様に見せるんだ! って、張り切ってらしたんです」
「上手じゃないか! すごいすごい!」
「えっへへー!」
「あなた、またこんな所で寝て……」
「あっははは……だってすごく良い天気だから、さ」
「確かにそうですね。こう天気が良いとついつい眠くなってしまいます」
「でしょ?」
「あ……そうそう! あなた」
「ん? 何? どうしたの?」
「新しい日記を買ってくださらない?」
「新しい日記?」
「えぇ。あと数ページになってしまったので……」
「ああ……じゃあ、やっと書き終わるんだね? 君の過去の物語が」
「はい。ようやく」
「次はどうするの? どんな物語を書くの?」
「次はですねー。私達、家族の物語を書こうと思っています」
「僕達の?」
「えぇ。私達がこれから向かうであろう明るい未来の物語を」
「へぇ……。楽しい未来がやってくるかな?」
「えぇ、きっと」
「それにしても、君はよく物語なんて書けるよね。僕には絶対無理だ。一ページ目で寝ちゃうよ、きっと」
「文字を読むと相変わらず眠くなってしまうんですが、文字を書こうとすると不思議と胸がドキドキするんです」
「ふぅん。僕もそういった趣味が欲しいな。僕は無趣味だからさ」
「あら、あなたも趣味があるじゃないですか」
「え?」
「よく晴れた日に木陰でみんなでアップルパイを食べるっていう趣味が」
「あっははは……それは趣味と言えるのかな……?」
「さあ、どうでしょう?」
「ねぇ、ローレライ」
「はい?」
「アップルパイ食べたい!」
「ーーふふふっ。じゃあ、急いで作りましょうか?」
「やったー!」
見上げた空には燦然とお日様が輝いており、これから私達家族が向かう未来を温かく照らしてくれているように感じます。
その未来には辛い事や悲しい事も当然あるのでしょうが、私達家族なら絶対に乗り越えていける。不思議とそう思わせてくれるような、よく晴れた昼下がりでした。
明日も、晴れるでしょうか?
完
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
131
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる