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1 恒例の家族会議です。
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「遂に来たわね……この日が」
途中だったお茶を再開するように、ティーカップに口を付け母さんが言う。
「来てしまったか……」
豪華すぎる煌びやかなシャンデリアをぼんやりと見つめながら父さんが言う。
「ーーで、これからどうすんの?」
年代物のテーブルに頬杖をつき、気怠そうに私を見ながら双子の弟が言う。
「ほっほっほっほっ! おほほー!」
ジロウは私の膝の上に飛び乗って、尻尾を宙でくねらせながら可愛らしく鳴く。
「今回の件に関しては前々から家族会議で散々話してたんだから、今更驚くことじゃないでしょ! それよりもさっきの同意書! みんな気付かなかったの⁉︎」
「え?」
「何かあったか?」
「アゼル君……でしょう?」
「そうよ母さん! 彼よ! 彼が私を追放しようとしてるのよ⁉︎ これって私との婚約も破棄するって事でしょう⁉︎」
「ああ……その事か。それなら父さんだってすぐに気付いたさ」
「ーーーーだったら何か優しい言葉のひとつでも掛けてよ! 自分の娘が婚約破棄されたのよ⁉︎ 可哀想だなって思わないわけっ⁉︎」
「いやぁ……気持ちは分かるが……なあ?」
父さんは眉根を寄せながらそう言うと、助けを求めるように弟のセシルに視線を送った。
「それも全て含めて俺達は覚悟をしていた筈だろ?」
「そう……だけど……。そうだけど……少しくらい気遣ってくれてもいいじゃない……こう見えて私、けっこう傷付いちゃってるんだから……」
「アネキハナンテ、カワイソウナンダー!」
「ちくしょー! よくもだいじなまなむすめをー!」
「何よその全く感情のこもっていない喋り方は⁉︎」
「だって姉貴が少しだけ気遣えって言ったから……」
「ですー……」
「有るか無いか分からないくらいの気遣いならいらないわよっ! もうっ!」
「ほっ! ほっ! ほっ! ほっ! おっほほー!」
私と父さんとセシルの三人が騒いでいるの見て遊んでいると勘違いしたのか、ジロウが尻尾をピンと真っ直ぐに伸ばして興奮気味に鳴いた。
「アゼル君の事は辛いでしょうけど、セシルの言う通りそれも含めて覚悟をしていた筈でしょ? だったらもう考えるのはよしなさい。辛いだけよ」
「母さん……」
「ーーーーさて。じゃあ、さっそく準備に取りかからないとね!」
母さんは部屋の空気感を一変させるように、胸の前でパチンと手を打ってそう言った。
「必要最低限のものか……着替えは数着なら持ち出しても構わんだろうか?」
「それくらいなら良いんじゃね? 他人の着古したもん置いていかれたって、処分に手間がかかるだけだろうし」
「そうだよな。少し多めに貰っていくか。これから毎日洗濯できるとも限らんし。その他の生活必需品もバレない程度に貰っていこう」
「あっははは……これじゃ俺達、何だか屋敷に忍び込んだ盗賊みたいだね……」
「まぁ……俺達が賊か賊じゃないのかを証明する術がないからな。そもそも……」
「だね。白でも黒でもない際どい所をふらふらしながら歩き続けて来たのが、俺達ホーリーズ家なんだよね」
「改めて考えてみるとすごい事だぞ? よくもまあこの不安定な状況下でここまでやって来たもんだ。奇跡と言っても過言ではない」
「まさに聖女様の奇跡ってやつ⁉︎」
「あー! 奇跡ってそう言う事かっ!」
父さんとセシルはそんなバカげた事を口にしながらも着々と屋敷を出る準備を整えていく。
「ーーーーセシリア。ほらっ、ぼんやりしてないでアンタも早く準備なさい」
「あ、うん……」
私は母さんにバックを手渡され、うつむいたまま必要な物を詰め込んでいく。
途中だったお茶を再開するように、ティーカップに口を付け母さんが言う。
「来てしまったか……」
豪華すぎる煌びやかなシャンデリアをぼんやりと見つめながら父さんが言う。
「ーーで、これからどうすんの?」
年代物のテーブルに頬杖をつき、気怠そうに私を見ながら双子の弟が言う。
「ほっほっほっほっ! おほほー!」
ジロウは私の膝の上に飛び乗って、尻尾を宙でくねらせながら可愛らしく鳴く。
「今回の件に関しては前々から家族会議で散々話してたんだから、今更驚くことじゃないでしょ! それよりもさっきの同意書! みんな気付かなかったの⁉︎」
「え?」
「何かあったか?」
「アゼル君……でしょう?」
「そうよ母さん! 彼よ! 彼が私を追放しようとしてるのよ⁉︎ これって私との婚約も破棄するって事でしょう⁉︎」
「ああ……その事か。それなら父さんだってすぐに気付いたさ」
「ーーーーだったら何か優しい言葉のひとつでも掛けてよ! 自分の娘が婚約破棄されたのよ⁉︎ 可哀想だなって思わないわけっ⁉︎」
「いやぁ……気持ちは分かるが……なあ?」
父さんは眉根を寄せながらそう言うと、助けを求めるように弟のセシルに視線を送った。
「それも全て含めて俺達は覚悟をしていた筈だろ?」
「そう……だけど……。そうだけど……少しくらい気遣ってくれてもいいじゃない……こう見えて私、けっこう傷付いちゃってるんだから……」
「アネキハナンテ、カワイソウナンダー!」
「ちくしょー! よくもだいじなまなむすめをー!」
「何よその全く感情のこもっていない喋り方は⁉︎」
「だって姉貴が少しだけ気遣えって言ったから……」
「ですー……」
「有るか無いか分からないくらいの気遣いならいらないわよっ! もうっ!」
「ほっ! ほっ! ほっ! ほっ! おっほほー!」
私と父さんとセシルの三人が騒いでいるの見て遊んでいると勘違いしたのか、ジロウが尻尾をピンと真っ直ぐに伸ばして興奮気味に鳴いた。
「アゼル君の事は辛いでしょうけど、セシルの言う通りそれも含めて覚悟をしていた筈でしょ? だったらもう考えるのはよしなさい。辛いだけよ」
「母さん……」
「ーーーーさて。じゃあ、さっそく準備に取りかからないとね!」
母さんは部屋の空気感を一変させるように、胸の前でパチンと手を打ってそう言った。
「必要最低限のものか……着替えは数着なら持ち出しても構わんだろうか?」
「それくらいなら良いんじゃね? 他人の着古したもん置いていかれたって、処分に手間がかかるだけだろうし」
「そうだよな。少し多めに貰っていくか。これから毎日洗濯できるとも限らんし。その他の生活必需品もバレない程度に貰っていこう」
「あっははは……これじゃ俺達、何だか屋敷に忍び込んだ盗賊みたいだね……」
「まぁ……俺達が賊か賊じゃないのかを証明する術がないからな。そもそも……」
「だね。白でも黒でもない際どい所をふらふらしながら歩き続けて来たのが、俺達ホーリーズ家なんだよね」
「改めて考えてみるとすごい事だぞ? よくもまあこの不安定な状況下でここまでやって来たもんだ。奇跡と言っても過言ではない」
「まさに聖女様の奇跡ってやつ⁉︎」
「あー! 奇跡ってそう言う事かっ!」
父さんとセシルはそんなバカげた事を口にしながらも着々と屋敷を出る準備を整えていく。
「ーーーーセシリア。ほらっ、ぼんやりしてないでアンタも早く準備なさい」
「あ、うん……」
私は母さんにバックを手渡され、うつむいたまま必要な物を詰め込んでいく。
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