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最終話 グレーな聖女の備忘録
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「いやー! やっぱり我が家が一番だわ!」
「結局、国外追放は家族揃っての散歩みたいになってしまったな」
「本当にこれで良かったのかしら? 何も解決していない気がするんだけど……」
「したじゃん! 俺達ホーリーズ家の疑惑が解けて、聖女様の力は本物だって証明出来たじゃん!」
「そう? 母さんはそうは思わない。結局は何千年も昔に起こった事と同じ事が今回起きただけじゃない?」
「ふむ……。今回の悪天候が言い伝えの『悪魔の怒り』だとして、セシリアは王都に戻る事でそれを見事に鎮めてみせた。完璧じゃないか! どこに不満があるんだアグネス?」
「だから……今までもずっとそうだったけれど、聖女らしい事なにもやってないじゃない? あの子」
「えっ? 姉貴あの時、祈ってなかった? こうやって、両手組んで……そんで街の中歩いてなかったっけ?」
「あぁ……そうだな……言われてみれば確かにそうだ! 父さんもしっかりとこの目で見た! セシリアはあの時、街のみんなを引き連れて祈っていたな! あまりに神々しくて、さすがの父さんも話しかけるのに躊躇したんだ! そうだ、そうだ!」
「ーーーージロウ抱っこしてたのにどうやって祈るのよ……」
「「えっ……?」」
「普通に考えて祈りにくいでしょう……」
「いや……姉貴はああ見えて結構、器用な所があるし……ねぇ? 父さん」
「おぉっ! こうやって曲がった両肘のところにジロウを乗っけてだな……」
「はぁっ……。また馬鹿言ってる」
「あれ? 姉貴は? 姉貴はどこいった?」
「そうだ、セシリア本人に直接聞いてみれば良い!」
「ーーあ、居た。姉貴? 何やってんの?」
「ん? 今回の事を忘れないように記録してるんだけど、思うようにペンが進まなくて……」
「どれどれ……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドーバ歴二〇二〇年七月十五日。
ホーリーズ家は王家より国外追放を言い渡される事になった。私達は素直にそれに従い王都を出ると、途端に王都が邪悪な暗い雲に覆われ酷い悪天候に見舞われた。
けれど、私達ホーリーズ家が再び王都に戻るとそれまで王都を襲っていた悪天候はまるで嘘のように消え去り、見事な青空が顔を覗かせた。
何か特別な事をした訳でもないのに、奇跡のような事が本当に目の前で起こってしまったのだ。
王都で暮らす人々は皆、口々に聖女聖女と持て囃し私達ホーリーズ家は奇跡の聖女の末裔として再び王都で暮らす事になった。
だから
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「だから? 続きは?」
「うん……そこでペンが止まっちゃうのよ」
「ふむふむ。そういう事か。特別何かをやった訳じゃないから、今後どうするべきか書けない訳だな?」
「結局そこなのよね……お婆さんも、そのまたお婆さんも何がどうなっているのか理解していないから記録が残っていないのよ……」
「もっとこう……家に代々伝わるクリスタルを天に掲げるとびっくりするような奇跡が起きる! みたいにはっきりとした行動と結果があれば分かりやすいんだけどねー!」
「あっ! 固い家族の絆、なんてのはどうだ?」
「はぁっ……。絆でどうやって奇跡を起こすのよ……。結局、不確かなままじゃない」
「じゃあ……白猫のジロウが実は神の使いで、ものすごい力を持ってるとか?」
「ほっ⁉︎ おっほほー!」
「そのジロウを飼い慣らしている父さんは稀代のドラゴンバスターって事になるなっ!」
「ジロウの世話してるのほとんどセシリアじゃない……」
「あー! もう分かんないっ! いくら考えても全っ然分かんない! もうこれでいいわ!」
「お? 結局、何て書いた訳?」
「どれどれ、父さんに見せてごらん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
王都で暮らす人々は皆、口々に聖女聖女と持て囃し私達ホーリーズ家は奇跡の聖女の末裔として再び王都で暮らす事になった。
だから、すごく大変な事になるからもう二度と王都の外には出ないように!
セシリア・ホーリーズ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「王都から出るなって、それじゃ今までと同じじゃん……」
「うるさいわね! これでいいのよ、もう!」
完
「結局、国外追放は家族揃っての散歩みたいになってしまったな」
「本当にこれで良かったのかしら? 何も解決していない気がするんだけど……」
「したじゃん! 俺達ホーリーズ家の疑惑が解けて、聖女様の力は本物だって証明出来たじゃん!」
「そう? 母さんはそうは思わない。結局は何千年も昔に起こった事と同じ事が今回起きただけじゃない?」
「ふむ……。今回の悪天候が言い伝えの『悪魔の怒り』だとして、セシリアは王都に戻る事でそれを見事に鎮めてみせた。完璧じゃないか! どこに不満があるんだアグネス?」
「だから……今までもずっとそうだったけれど、聖女らしい事なにもやってないじゃない? あの子」
「えっ? 姉貴あの時、祈ってなかった? こうやって、両手組んで……そんで街の中歩いてなかったっけ?」
「あぁ……そうだな……言われてみれば確かにそうだ! 父さんもしっかりとこの目で見た! セシリアはあの時、街のみんなを引き連れて祈っていたな! あまりに神々しくて、さすがの父さんも話しかけるのに躊躇したんだ! そうだ、そうだ!」
「ーーーージロウ抱っこしてたのにどうやって祈るのよ……」
「「えっ……?」」
「普通に考えて祈りにくいでしょう……」
「いや……姉貴はああ見えて結構、器用な所があるし……ねぇ? 父さん」
「おぉっ! こうやって曲がった両肘のところにジロウを乗っけてだな……」
「はぁっ……。また馬鹿言ってる」
「あれ? 姉貴は? 姉貴はどこいった?」
「そうだ、セシリア本人に直接聞いてみれば良い!」
「ーーあ、居た。姉貴? 何やってんの?」
「ん? 今回の事を忘れないように記録してるんだけど、思うようにペンが進まなくて……」
「どれどれ……」
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ドーバ歴二〇二〇年七月十五日。
ホーリーズ家は王家より国外追放を言い渡される事になった。私達は素直にそれに従い王都を出ると、途端に王都が邪悪な暗い雲に覆われ酷い悪天候に見舞われた。
けれど、私達ホーリーズ家が再び王都に戻るとそれまで王都を襲っていた悪天候はまるで嘘のように消え去り、見事な青空が顔を覗かせた。
何か特別な事をした訳でもないのに、奇跡のような事が本当に目の前で起こってしまったのだ。
王都で暮らす人々は皆、口々に聖女聖女と持て囃し私達ホーリーズ家は奇跡の聖女の末裔として再び王都で暮らす事になった。
だから
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「だから? 続きは?」
「うん……そこでペンが止まっちゃうのよ」
「ふむふむ。そういう事か。特別何かをやった訳じゃないから、今後どうするべきか書けない訳だな?」
「結局そこなのよね……お婆さんも、そのまたお婆さんも何がどうなっているのか理解していないから記録が残っていないのよ……」
「もっとこう……家に代々伝わるクリスタルを天に掲げるとびっくりするような奇跡が起きる! みたいにはっきりとした行動と結果があれば分かりやすいんだけどねー!」
「あっ! 固い家族の絆、なんてのはどうだ?」
「はぁっ……。絆でどうやって奇跡を起こすのよ……。結局、不確かなままじゃない」
「じゃあ……白猫のジロウが実は神の使いで、ものすごい力を持ってるとか?」
「ほっ⁉︎ おっほほー!」
「そのジロウを飼い慣らしている父さんは稀代のドラゴンバスターって事になるなっ!」
「ジロウの世話してるのほとんどセシリアじゃない……」
「あー! もう分かんないっ! いくら考えても全っ然分かんない! もうこれでいいわ!」
「お? 結局、何て書いた訳?」
「どれどれ、父さんに見せてごらん」
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王都で暮らす人々は皆、口々に聖女聖女と持て囃し私達ホーリーズ家は奇跡の聖女の末裔として再び王都で暮らす事になった。
だから、すごく大変な事になるからもう二度と王都の外には出ないように!
セシリア・ホーリーズ
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「王都から出るなって、それじゃ今までと同じじゃん……」
「うるさいわね! これでいいのよ、もう!」
完
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