繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・村長

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 村長の蘇生からしばらくして。

 日が落ち始め辺りが朱色に染まる頃、美しい夕焼けの空には何匹ものスライムが舞い上がる。

「ーーーーはぁ……はぁ……村長、そろそろ引き上げようか?」

「むお? おお。もうこんな時間か。ホッホッホッ! スライム退治に夢中になりすぎて時が経つのを忘れてしまっていたようじゃ」

「だね。村長があまりにもスライム退治に集中するから、俺も何となく感化されてスライムサッカーやりまくっちまったじゃん。好感度落ちたらどうしてくれんだよ」

「ホッホッホッ! そうは言ってもタケル殿のスライムを蹴る時の顔ときたら……何かこう……水を得た魚のように活き活きとしておったぞ? ワシはあの顔を見て『負けられん!』と思って一心不乱にスライムを叩いたんじゃ」

「う……そっ、そんな事は無い筈だが……(蹴った時のモチモチ、むにゅむにゅ感は確かに大好きだけど)とにかく、どれだけレベルが上がったか一旦ステータスを確認してみよう」

「じゃな」

「ステーターーーーース!」

「試しにステータス。じゃ」

 あ、だからそれ『試し』はいらないんだって。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 勇猛いさみたける

 Lv 20
 HP 143/143
 MP 34/34
 力  59
 守り 34
 早さ 36
 魔力 15
 職業 100回目の勇者
 装備 大樹の木刀
    旅人の服
    旅人の靴
 お金 2609G
 状態 普通

 
 村長そんちょう

 Lv 16
 HP 57/57
 MP 358/358
 力  13
 守り 15
 早さ 9
 魔力 297
 職業 望まぬ村長
 装備 長老の杖
    守りのクリスタル
    身避けの服
    身避けの靴
    身避けのバンダナ
 状態 腰痛(弱)

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ホッホッホッ! また随分とMPと魔力の値が成長したもんじゃわい。ホッホッホッ!」

「す……凄いな村長! MPと魔力の上昇が異常だぜこりゃ……」

 もしかしたら村長は、天才魔導士なのかもしれないと本気で実感させられた。50年前の村長(村長なのか?)に是非とも会ってみたかったが、さすがにそれは無理だろう。

 年甲斐もなく自分の成長を喜び満面の笑みでその場を跳ね回る村長は、まるで少年のように無邪気で可愛いらしかった。そんな村長を微笑ましく見つめながら俺は村長の手を引いてガネーシャ村へと帰ることにした。

 日がもうほとんど沈みかけ、薄闇が辺りに広がって夜の気配が漂ってきた頃、ガネーシャ村の出入り口付近にてパウロさんと再会した。

「ん? トムか、何をやってるんだこんなところで」

「おお、パウロ。なに。単なるモンスター退治じゃよ」

「モンスター退治? お前が?」

「そうじゃ。こちらのタケル殿に協力してもらってのう」

「こんばんは、パウロさん」

 俺はパウロさんにぺこりと頭を下げて挨拶を済ませた。

「あんたは昼間の勇者様……」

 パウロさんは怪訝な表情を浮かべて俺と村長を交互に見ながら、

「いったいどういう事だ? 何がどうなっておるんじゃ?」

「俺の余計なおせっかいで、村長に協力しているんです」

「協力……モンスター退治……」

 少し考えたのちやっと全てが一本に繋がったようでパウロさんは口を開いた。

「トム……お前まさか、ジーナの敵討ちでもするつもりか?」

「あ……いや……まあ」

「やめておけ! ワシらみたいな老いぼれがどう足掻いたところでモンスターになど勝てるわけがない! もし仮に勝てたとしても、それはただの自己満足であって間違ってもジーナは帰ってこんのじゃ! あの時、ジーナがお前など選ばなければ死ぬこともなかっただろうにな!」

パウロさんは鬼気迫る様子で村長をまくし立てる。

「…………」

 村長はうつむき言葉を失っている。

「パウロさん、少し落ち着いて下さい」

「ーーーーはぁ。コホッ……」

 久しぶりに出したであろう大声にパウロさんはむせかえっている。

 しばらくして落ち着きを取り戻したパウロさんは俺に一言『すまん、取り乱した』と口にした。

「…………」

 沈黙が続く中、ふと気が付くと遊びからの帰りなのか小さな男の子が走ってきてよほど急いでいたのかパウロさんと村長の間で豪快に転んでしまった。

 村長はすぐにしゃがんで、砂まみれになった服をポンポンと叩いて男の子の小さな頭を撫でながら、

「おお、よしよし。大丈夫かい? お前さんはキールのところのエリク君じゃな。怪我はないか?」

「……うん。大丈夫。遅くなっちゃったから急いでたんだ、そしたら足がもつれちゃった」

「そうかい、そうかい。そうじゃ、エリク君ももうじきお兄ちゃんになるんじゃもんな。弟か妹か、まだ分からんがたくさん可愛がってあげるんじゃよ?」

「うん!」

「さあ、今度は足元に気を付けて帰りなさい」

「さようなら!」

 手を振りながら走っていく子供の背中を村長は右手の親指をぐいと立てて見送った。







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