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エピソード・オブ・少年
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窓から中を覗いてみると多くの子供達が様々な木製の武器を手に取り稽古に励んでいる。
表向きは剣術道場と名乗ってはいるが、取り扱う武器は槍や長斧など多岐にわたるようである。中でもやはり剣が一番人気なのか、ざっと見た限りでは30人中20人程度が木刀を手にしている。
自然と自身の左腰を触る。左手は空を掴んで寂しげだ。
道場内、壁には模造品なのか数多くの武器が綺麗に並べられている。あれだけ子供がいるのだ、さすがに本物の武器ではなかろう。
また、妙に艶のある床板の上には大きな樽がいくつか置いてあって、子供達が使用している木刀類が乱雑に詰め込まれている。
ここで学んでいる子供達が将来、この街を守るタイクーン城お抱えの護衛騎士団に入団して街の平和を守るんだろうな。
そう考えると、もしかしたらこの剣術道場の師範達は以前、護衛騎士団として活躍していたこの子達の大先輩になるのかもしれない。年齢的に団員を引退して、次の時代を任せられる子供達を育成している、とか。
ありそうな話である。
と、少年パティを発見する。
真剣な表情で稽古に取り組んでいる。いくつか汗の雫が垂れ煌めいている。
どうやら稽古試合中らしく木製の棒、おそらく長槍を模したものを手にした相手と立ち合っている。相手は少し年上か、パティより一回り体が大きい。パティは肩で息をしているものの落ち着いている。やはり道場内で、見知った人間が相手ならば試合という形式でも、稽古という安心感、意識が前面にあるため取り乱さないようだ。しかしあの子の心の中にある、試合、勝負、決闘に対する許容範囲がある域値を超えた時に恐怖に支配され自身が崩壊する。
木槍の相手が動いた。長いリーチを生かした突きをパティに向かって放つ。パティは突きを背にして避け、上体をかがめて槍の柄を潜りながら相手の脛に軽く一撃加え、上体を起こしながらくるりと身体を回転させ回転の勢いを利用して的確に相手の首に剣を添えた。
「勝負あり!」
審判役の子供が叫ぶ。
木槍の子供は首筋に触れるパティの木刀を目だけ動かして確認し、力なく木槍の先端を床に落とした。右手を上げてパティに何か喋りかけ、硬直状態を解いて二人とも元の位置へ戻り、丁寧に一礼を済ませた。
道場の隅へと歩いていく二人は笑顔でじゃれついている。先程、試合が行われた場所では別の子供達がお辞儀をして試合を始めている。
道場内から視線を切って、壁を背にして地面に座り込む。
「どうしたもんかね……」
見上げた太陽はすでに落ち始めており、夜の気配はまだ薄いが着々と準備は進んでいるらしかった。
答えは未だに出ないまま、俺はパティを立ち直らせるための方法を探してぶらりと剣術道場を後にした。
きっとどこかに良い方法があるはずだと信じて歩き出す。俺は流れに乗って三番街と二番街を繋ぐ橋まで足を伸ばしていた。
二番街。見た目はほぼほぼ三番街と変わらない。丸い円の中を多くの人達が歩いている。流れのリズムが少し違う、なんて事もない。ただ一つ言える事といえば、三番街が商業地中心の街であるのに対して、二番街は商業地と住宅地がおおよそ半々だと言うことくらい。一番街はそのほとんどが住宅地で商業地は生活に最低限必要なお店が数件あると言った具合である。中心のタイクーン城に近付くほど住宅地が多くなっているのは住民の安全性を考慮しての事かもしれない。
二番街の流れに乗って、街並みを見て回る。途中、住宅の二階から子供が手を振っているのに気付き手を振り返した。はたして俺に向けて振ってくれていたのか。
しばらく歩くと怪しい雰囲気が漂うお店を発見した。
古びた真っ黒な布で作られたテントで、上から訳の分からない小動物の干物や植物や動物の骨などが吊るされていて、魔法陣が描かれた羊皮紙が風でなびいている。また、店先には魔法使いが使う杖などがいくつか置いてあった。
瞬間、俺の脳裏に浮かぶ村長の顔。
白い歯むき出しの笑顔で右手の親指をぐいと立てている。
「あ……村長の装備品」
おバカな二人が湖で溺れたり、宿屋詐欺にあったりと、本当に色々な出来事があったせいでこの街に来た理由をすっかり忘れていた。
「怪しさ全開だが、ちょっと見てみよう」
黒魔法使いとかって、結構こういう禍々しいところが本質って感じだしな。
逆に白魔法使いは神聖なイメージが強い。
だから、黒魔法使い専用のお店ともなればこのような雰囲気が普通なのだろう。といっても、村長はあくまで物理攻撃を主体とする戦士枠だから禍々しさとかは全く必要ないのだが……。
吊るされた気持ちの悪い物達を避けてテント内へと入っていく。まるで魔界にでも通じているんじゃなかろうかというほどに、奥に行くほど闇が濃く支配している。
テントの奥に入った俺は、急に妙な安心感を覚えた。
表向きは剣術道場と名乗ってはいるが、取り扱う武器は槍や長斧など多岐にわたるようである。中でもやはり剣が一番人気なのか、ざっと見た限りでは30人中20人程度が木刀を手にしている。
自然と自身の左腰を触る。左手は空を掴んで寂しげだ。
道場内、壁には模造品なのか数多くの武器が綺麗に並べられている。あれだけ子供がいるのだ、さすがに本物の武器ではなかろう。
また、妙に艶のある床板の上には大きな樽がいくつか置いてあって、子供達が使用している木刀類が乱雑に詰め込まれている。
ここで学んでいる子供達が将来、この街を守るタイクーン城お抱えの護衛騎士団に入団して街の平和を守るんだろうな。
そう考えると、もしかしたらこの剣術道場の師範達は以前、護衛騎士団として活躍していたこの子達の大先輩になるのかもしれない。年齢的に団員を引退して、次の時代を任せられる子供達を育成している、とか。
ありそうな話である。
と、少年パティを発見する。
真剣な表情で稽古に取り組んでいる。いくつか汗の雫が垂れ煌めいている。
どうやら稽古試合中らしく木製の棒、おそらく長槍を模したものを手にした相手と立ち合っている。相手は少し年上か、パティより一回り体が大きい。パティは肩で息をしているものの落ち着いている。やはり道場内で、見知った人間が相手ならば試合という形式でも、稽古という安心感、意識が前面にあるため取り乱さないようだ。しかしあの子の心の中にある、試合、勝負、決闘に対する許容範囲がある域値を超えた時に恐怖に支配され自身が崩壊する。
木槍の相手が動いた。長いリーチを生かした突きをパティに向かって放つ。パティは突きを背にして避け、上体をかがめて槍の柄を潜りながら相手の脛に軽く一撃加え、上体を起こしながらくるりと身体を回転させ回転の勢いを利用して的確に相手の首に剣を添えた。
「勝負あり!」
審判役の子供が叫ぶ。
木槍の子供は首筋に触れるパティの木刀を目だけ動かして確認し、力なく木槍の先端を床に落とした。右手を上げてパティに何か喋りかけ、硬直状態を解いて二人とも元の位置へ戻り、丁寧に一礼を済ませた。
道場の隅へと歩いていく二人は笑顔でじゃれついている。先程、試合が行われた場所では別の子供達がお辞儀をして試合を始めている。
道場内から視線を切って、壁を背にして地面に座り込む。
「どうしたもんかね……」
見上げた太陽はすでに落ち始めており、夜の気配はまだ薄いが着々と準備は進んでいるらしかった。
答えは未だに出ないまま、俺はパティを立ち直らせるための方法を探してぶらりと剣術道場を後にした。
きっとどこかに良い方法があるはずだと信じて歩き出す。俺は流れに乗って三番街と二番街を繋ぐ橋まで足を伸ばしていた。
二番街。見た目はほぼほぼ三番街と変わらない。丸い円の中を多くの人達が歩いている。流れのリズムが少し違う、なんて事もない。ただ一つ言える事といえば、三番街が商業地中心の街であるのに対して、二番街は商業地と住宅地がおおよそ半々だと言うことくらい。一番街はそのほとんどが住宅地で商業地は生活に最低限必要なお店が数件あると言った具合である。中心のタイクーン城に近付くほど住宅地が多くなっているのは住民の安全性を考慮しての事かもしれない。
二番街の流れに乗って、街並みを見て回る。途中、住宅の二階から子供が手を振っているのに気付き手を振り返した。はたして俺に向けて振ってくれていたのか。
しばらく歩くと怪しい雰囲気が漂うお店を発見した。
古びた真っ黒な布で作られたテントで、上から訳の分からない小動物の干物や植物や動物の骨などが吊るされていて、魔法陣が描かれた羊皮紙が風でなびいている。また、店先には魔法使いが使う杖などがいくつか置いてあった。
瞬間、俺の脳裏に浮かぶ村長の顔。
白い歯むき出しの笑顔で右手の親指をぐいと立てている。
「あ……村長の装備品」
おバカな二人が湖で溺れたり、宿屋詐欺にあったりと、本当に色々な出来事があったせいでこの街に来た理由をすっかり忘れていた。
「怪しさ全開だが、ちょっと見てみよう」
黒魔法使いとかって、結構こういう禍々しいところが本質って感じだしな。
逆に白魔法使いは神聖なイメージが強い。
だから、黒魔法使い専用のお店ともなればこのような雰囲気が普通なのだろう。といっても、村長はあくまで物理攻撃を主体とする戦士枠だから禍々しさとかは全く必要ないのだが……。
吊るされた気持ちの悪い物達を避けてテント内へと入っていく。まるで魔界にでも通じているんじゃなかろうかというほどに、奥に行くほど闇が濃く支配している。
テントの奥に入った俺は、急に妙な安心感を覚えた。
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