繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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 山賊達が去り、静まり返った中で少女は一人佇む。 

 俺はパティと顔を見合わせ勇気を振り絞り茂みから出る。仕方のない事だが足が震える。

「あ……あのーーーー」

 声を掛けようとして瞬時に身体が凍りつく。

 なんと、山賊達の残していった金品を手に取る少女の姿がそこにはあった。

 俺はまたしても、ゆっくりと茂みの中へ消えようと試みた。

 が、

 鞭がまるで空飛ぶ蛇のように宙を舞い俺の首にぐるぐると巻きつき少女の方へと引き寄せられた。

 何とか力ずくで茂みの中へと隠れようとするが、そうすればするほどに俺の首は容赦なく締め上げられていく。

「ば……ばでぃ……くぅ……ん……」

「…………」

 反応がない。どうやらパティ君は持ち前の素早さを遺憾なく発揮して逃げ出したようだ。

 俺は覚悟を決めて少女の方へと振り返り、少女のかぶるフードの闇に隠れた顔を伺いつつ誤解なのか何なのかを解く。

「たす……げに、きた……よ」

 俺の必死の思いがどうやら通じたようで首に巻きついた鞭は解け、どうにか助かったらしい。

 助けに来て、逆に助けられてしまった。しかもかなり珍しいパターンで。

 少女は、顔を覗き込もうとする俺の視線から逃げるようにフードを深々とかぶり直し顔をそむける。そしてうつむいたまま、

「あの……ありがとう……ございます……」

 微かなか細い声。さきほどあんなにも激しい怒号をあげていた人物から放たれる声だとは、とてもではないが思えない。

「あ、いや……助けに来たんだけど結局、何もしていないから気にしないで……本当」

「そうだ、首。さっきはごめんなさい。山賊が仕返しに来たんだと思って……つい、必殺技を……」

「ああ……そう……そうだよね。よしよし……危なかった。危うく一撃必殺になるところだったよ」

 ガサッと、俺が登場した辺りの茂みが僅かに揺れた。

 パティめ、ときめきワードにつられて戻ってきやがったな。

 しかし本当に危なかった。ぎりっぎり奇跡的に俺の命は助かったらしい。まさかいきなり必殺技を放ってくるとは……何というか、首の骨が引っこ抜けそうな感じだった。

 私の美貌であなたを骨抜きにしてあげる! 必殺ーーーー首の骨抜き刑リリース・ネック! とか言ったりして。

 頭の中ではかなり綺麗な感じに脚色されてはいるが、実際に食らうととんでもなくグロい感じになるんだろうな……首から骨が飛び出してそのまま引きずり出されーーーーやめておこう。晩御飯はこれからなのだ。

 とにかく、

「まあ。君も、首も無事みたいだし良かったよ。じゃあ、俺はこれで……」

「あ……待ってください! 何かお詫びを。そうだ、うちに来てください。すぐそこなんです」

 そう言って顔を上げた少女の口元がフードの闇からわずかに覗く。薄く線の細い少女にしては大人びた唇だ。

 少し、見蕩れる。

 少女だとばかり思っていたけれど、以外と俺と同じくらいの年齢なのかもしれない。イメージで言うと、お嬢様とかお姫様と言った方がしっくりくる。

「いや、本当。お詫びとかいいからっ! 怪我もしてないし」

 俺の言葉を背にして少女は盗賊達の残していった荷物を物色する。

「あ、あの……」

「少し待って下さいね。せっかくモンスターやっつけたんなら、必要な物貰わないと損ですよね」

「ああ……うん……」

 どうやら今はドロップアイテムの回収中のようだ。

 見ようによっては、

 本っ当に意地悪な見方をすれば、ただ落し物を漁っているように見えなくはないのだが……。

 しかしよく考えてみると、盗賊は金品強奪のために集団で襲いかかってくる恐ろしい連中だし、俺のような男ならともかくこの少女からすれば盗賊もモンスターと同じくらいに危険で怖い存在なのだろうし、今回の結果とは逆に少女の持つ金品が奪われていた未来だって当然あるのだし、奪うか奪われるのかという至ってシンプルな弱肉強食的自然のルールの中で見事勝利したこの少女は危険に身を投じたその対価を受け取る資格は十分にあるのだ。

 だから、これは多分正しい行動なのだ。

 正しくて。真っ当なのだ。

 そう、信じよう。

「お待たせしました。それでは行きましょう」

 少女は目ぼしい金品を奪ーーーー獲得して、俺に会釈してから歩き出す。

 そこで警戒のレベルを下げたのかパティが茂みの中から立ち上がり、こちらに向かって走り寄る。

 その時、またしても空飛ぶ蛇が宙を舞った。

 しなやかに、鮮やかに舞った鞭はパティの顔の横すれすれを伸びていった。

 パティは突然の出来事に走る体勢のまま硬直してしまっている。

 少女は鞭を器用に操り手元に戻すと、先端に巻きついた小袋を取り外し自身のバックへと押し込んだ。

 ジャラリッ、と確かな重量を持った音が鳴った。

「ーーーー君は?」

 少女は小首を傾げてパティに問う。

「…………」

 俺は見兼ねてパティに歩み寄り、肩を叩いて、

「あはは……この子はパティ。安心して俺の仲間だよ」



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