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エピソード・オブ・お嬢ちゃん
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「ほら、もうすぐ大鎌持って出てくるよ。『お前達の血をよこしな! これで魔神様復活じゃわいー!』とか言って襲いかかってくるよ」
「何でアリシアがおばあさんになってるんだよ。だいたい今はともかく、本人目の前にしてよく魔女だなんて言えたな。鞭で叩かれるとすっごい痛いんだぞ?」
「そうなの……? あんなのペチンッてなるだけじゃないの?」
「使い手によりけりだが、空気が弾けたような爆発音がーーーーッパァン! って鳴ってな、皮膚に当たると皮と肉が裂けて筋肉がむき出しになる。当然、血が噴き出してあまりの激痛にその場を転げ回る事になると思う。肉体的ダメージとしては剣で切られたりするよりは全然マシなんだけど、痛すぎて痛みに耐えかねた人体がこれ以上の痛みを受けるくらいならと、自ら死を選ぶ事もあるらしい……」
「うそっ⁉︎ 本当にっ⁉︎」
「ああ。残りHP100なのに自分の意に反して強制的に戦闘不能だ」
「……謝ってこようかな……」
「だからパティ君の修行は今日、ここで終わりなんだな……って内心思ってた。ご両親にどう報告しようかと考えてた」
「ぼっ……僕、謝ってくる!」
「ここで待っていろと言われたのに? 勝手に中に入ってまた怒らせるんだ?」
「あ……じゃあ……じゃあいったいどうすれば……」
「アリシアが出てきたらすぐに誠心誠意、神様がドン引きするくらいに全力で謝ってその結果により……だろうね」
などと話していると、アリシアの家から怒号が響いた。
「ダメだダメだ! 何考えてんだ! ここは俺ん家だぞ⁉︎ 何で他人を入れなきゃなんねえんだ⁉︎ 食事の支度は済んだのか⁉︎ 済んだんなら自分の部屋に戻って掃除でもしてろ!」
「助けてもらったお礼をするだけじゃない! 何でお父さんはいつも私から人を遠ざけようとするの⁉︎ 何で私を閉じ込めようとするの⁉︎ 私だって街のみんなみたいに普通に生きたい!」
「ガキが生意気言ってんじゃねえ! お前は黙ってこの森で生きていきゃいいんだよ! 次、勝手に街に行きやがったらただじゃおかねえぞ! ふん縛って部屋から出られねえようにしてやっからな!」
ーーーーッパァン!
「てめっ! 親に手をあげる気か⁉︎ よぉし、上等だやってやるよ。だが鞭は卑怯だぞ! 鞭は置いてーーーーぐぉう! ってえなコラァ! かかってーーーーっ痛い! いたたたたた! 痛いっ! アリィ、てめえっ! 痛、分かった分かった! 分かったから! 痛ぁぁぁぁ…………」
断末魔の叫びようなものは森の奥へと吸い込まれ、辺りは次第に静かになっていった。
「ア……アニーキ……」
「パ……パティくぅーん……」
「なんかとてもヤバそうだよ。謝る前に結果が出ているような気がするよ……」
「出ているようなというより、出たね。これはもう答えは出たよ。完全にアカン奴だよ、これ」
すると、大樹の大口からひょいとアリシアがこちらを覗きながら、
「お待たせしました。すっかり片付きましたから、どうぞ」
「「お父さん片付けられてるぅぅぅ!」」
やばいよこれ。どうすんだよこれ。完全にお父さん片付けられちゃってるよ。なにこれ、謝れば許してくれるの?
俺とパティはあまりの恐怖でその場から動く事が出来ずに、ただただ震えながら立ち尽くす。
「タケルさん、パティ君! 何やってるのー?」
「「何、殺ってるのー? は、あなたでしょう! アリシア姉さん!」」
「遠慮なんてしなくていいですから!」
と、アリシアがそう言った直後。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
パティの恐らく人生で初めてであろう全力の謝罪である。90度に折りたたまれた腰のラインがとても綺麗だ。
ちらりと、横目でアリシアの様子を伺う。
するとアリシアのいる方向から空を俊敏に翔ける蛇が飛んで来ているのが見えた。
さようなら、パティ君。ご両親には上手く伝えておくよ。と、心の中で呟いて俺は全力疾走の体勢に入った。
が、
空を自由自在に飛び回る蛇は、その自由自在さを遺憾なく発揮しあろうことか俺の首に巻きついていた。
左手で首に巻きついた鞭を触り、
「え……うそ……こっちじゃ……」
横目でパティの方を見る。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
俺に向かって恐らく人生二度目の全力謝罪である。やはり腰のラインが綺麗だ。
ごめんなさい、じゃねえんだよ。身代わり的な奴のつもりだろうか?
と、
鞭がビンッと張って、アリシアの方角へと身体が引き寄せられる。
「早く、早く!」
フードの奥からアリシアの口角の上がった口元が覗く。
ちょ……この子……力、強い……普通に引きずられる……というか、鞭ってこうやって人をいざなう為に使う物だったっけ?
「くっ……」
俺はこの緊急事態に覚悟を決めて逃亡よりも別の行動をとることにする。
俺の右サイド、105度くらいの角度に上がり始めたパティの頭部を見て一気に近寄り、抱きしめてみせた。
「うわぁ!」
「にゃー!」
驚く少年と子猫をよそに俺は全力で抱きしめて二人の逃亡を阻止する。
「パ……パティくーん! これも修行のうちだよ。覚悟しなさーい」
「やめてよっ! ちょっと……離してよアニキが悪いんだろ!」
今回に限り悪いのは100%君だよ……。
「しゅっしゅっしゅっしゅっ!」
暴れるパティを抑えつけ、右目にじろうのぶらっでぃーくろうを受けながらも自身の足でアリシアの方へと歩み寄る。
「どうぞどうぞ」
招かれ、大樹の中に入っていく。
事情を知らない誰かが見たら、鞭で首を繋がれた奴隷が嫌がる幼い少年を無理矢理に大樹の中へ連れ込んでいるように見えるのだろうが……大丈夫だろうか?
一応背後を振り返ってみても、そこには鬱蒼と生い茂る木々が怪しく立ち並んでいるだけでどこにも人影はなかった。
風が多くの葉を揺らし、どこか遠くで枝が弾けた。
様々な音も、多くの人影も森の奥へ奥へと吸い込まれていく。
ここは帰らずの森。
怪しく、魅力に満ちた恐怖の森。
「何でアリシアがおばあさんになってるんだよ。だいたい今はともかく、本人目の前にしてよく魔女だなんて言えたな。鞭で叩かれるとすっごい痛いんだぞ?」
「そうなの……? あんなのペチンッてなるだけじゃないの?」
「使い手によりけりだが、空気が弾けたような爆発音がーーーーッパァン! って鳴ってな、皮膚に当たると皮と肉が裂けて筋肉がむき出しになる。当然、血が噴き出してあまりの激痛にその場を転げ回る事になると思う。肉体的ダメージとしては剣で切られたりするよりは全然マシなんだけど、痛すぎて痛みに耐えかねた人体がこれ以上の痛みを受けるくらいならと、自ら死を選ぶ事もあるらしい……」
「うそっ⁉︎ 本当にっ⁉︎」
「ああ。残りHP100なのに自分の意に反して強制的に戦闘不能だ」
「……謝ってこようかな……」
「だからパティ君の修行は今日、ここで終わりなんだな……って内心思ってた。ご両親にどう報告しようかと考えてた」
「ぼっ……僕、謝ってくる!」
「ここで待っていろと言われたのに? 勝手に中に入ってまた怒らせるんだ?」
「あ……じゃあ……じゃあいったいどうすれば……」
「アリシアが出てきたらすぐに誠心誠意、神様がドン引きするくらいに全力で謝ってその結果により……だろうね」
などと話していると、アリシアの家から怒号が響いた。
「ダメだダメだ! 何考えてんだ! ここは俺ん家だぞ⁉︎ 何で他人を入れなきゃなんねえんだ⁉︎ 食事の支度は済んだのか⁉︎ 済んだんなら自分の部屋に戻って掃除でもしてろ!」
「助けてもらったお礼をするだけじゃない! 何でお父さんはいつも私から人を遠ざけようとするの⁉︎ 何で私を閉じ込めようとするの⁉︎ 私だって街のみんなみたいに普通に生きたい!」
「ガキが生意気言ってんじゃねえ! お前は黙ってこの森で生きていきゃいいんだよ! 次、勝手に街に行きやがったらただじゃおかねえぞ! ふん縛って部屋から出られねえようにしてやっからな!」
ーーーーッパァン!
「てめっ! 親に手をあげる気か⁉︎ よぉし、上等だやってやるよ。だが鞭は卑怯だぞ! 鞭は置いてーーーーぐぉう! ってえなコラァ! かかってーーーーっ痛い! いたたたたた! 痛いっ! アリィ、てめえっ! 痛、分かった分かった! 分かったから! 痛ぁぁぁぁ…………」
断末魔の叫びようなものは森の奥へと吸い込まれ、辺りは次第に静かになっていった。
「ア……アニーキ……」
「パ……パティくぅーん……」
「なんかとてもヤバそうだよ。謝る前に結果が出ているような気がするよ……」
「出ているようなというより、出たね。これはもう答えは出たよ。完全にアカン奴だよ、これ」
すると、大樹の大口からひょいとアリシアがこちらを覗きながら、
「お待たせしました。すっかり片付きましたから、どうぞ」
「「お父さん片付けられてるぅぅぅ!」」
やばいよこれ。どうすんだよこれ。完全にお父さん片付けられちゃってるよ。なにこれ、謝れば許してくれるの?
俺とパティはあまりの恐怖でその場から動く事が出来ずに、ただただ震えながら立ち尽くす。
「タケルさん、パティ君! 何やってるのー?」
「「何、殺ってるのー? は、あなたでしょう! アリシア姉さん!」」
「遠慮なんてしなくていいですから!」
と、アリシアがそう言った直後。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
パティの恐らく人生で初めてであろう全力の謝罪である。90度に折りたたまれた腰のラインがとても綺麗だ。
ちらりと、横目でアリシアの様子を伺う。
するとアリシアのいる方向から空を俊敏に翔ける蛇が飛んで来ているのが見えた。
さようなら、パティ君。ご両親には上手く伝えておくよ。と、心の中で呟いて俺は全力疾走の体勢に入った。
が、
空を自由自在に飛び回る蛇は、その自由自在さを遺憾なく発揮しあろうことか俺の首に巻きついていた。
左手で首に巻きついた鞭を触り、
「え……うそ……こっちじゃ……」
横目でパティの方を見る。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁい!」
俺に向かって恐らく人生二度目の全力謝罪である。やはり腰のラインが綺麗だ。
ごめんなさい、じゃねえんだよ。身代わり的な奴のつもりだろうか?
と、
鞭がビンッと張って、アリシアの方角へと身体が引き寄せられる。
「早く、早く!」
フードの奥からアリシアの口角の上がった口元が覗く。
ちょ……この子……力、強い……普通に引きずられる……というか、鞭ってこうやって人をいざなう為に使う物だったっけ?
「くっ……」
俺はこの緊急事態に覚悟を決めて逃亡よりも別の行動をとることにする。
俺の右サイド、105度くらいの角度に上がり始めたパティの頭部を見て一気に近寄り、抱きしめてみせた。
「うわぁ!」
「にゃー!」
驚く少年と子猫をよそに俺は全力で抱きしめて二人の逃亡を阻止する。
「パ……パティくーん! これも修行のうちだよ。覚悟しなさーい」
「やめてよっ! ちょっと……離してよアニキが悪いんだろ!」
今回に限り悪いのは100%君だよ……。
「しゅっしゅっしゅっしゅっ!」
暴れるパティを抑えつけ、右目にじろうのぶらっでぃーくろうを受けながらも自身の足でアリシアの方へと歩み寄る。
「どうぞどうぞ」
招かれ、大樹の中に入っていく。
事情を知らない誰かが見たら、鞭で首を繋がれた奴隷が嫌がる幼い少年を無理矢理に大樹の中へ連れ込んでいるように見えるのだろうが……大丈夫だろうか?
一応背後を振り返ってみても、そこには鬱蒼と生い茂る木々が怪しく立ち並んでいるだけでどこにも人影はなかった。
風が多くの葉を揺らし、どこか遠くで枝が弾けた。
様々な音も、多くの人影も森の奥へ奥へと吸い込まれていく。
ここは帰らずの森。
怪しく、魅力に満ちた恐怖の森。
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