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エピソード・オブ・お嬢ちゃん
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明らかな怒気を孕んだぶっとい声が俺達の会話に参加する。
散々無視され続けたけれど、俺達の会話と言ってしまって良かっただろうか?
「ーーーーっお父さん⁉︎」
「ーーーーったく、ひでぇ目に遭ったぜ。反抗期が終わるどころか、どんっどん加速してんじゃねぇか畜生め。喧嘩に武器を使うなとは言わねえが狭い部屋の中で鞭振り回されたんじゃ逃げ場ねぇじゃねぇか畜生め。本っ当、どんどんあいつに似てきやがって少しは女らしくしやがれってんだコラ。つーか、どうすんだこれ。俺はどうやってこの樽から抜け出しゃいいんだよ、足だけ出ててもよぉ……ほっ……よっ……ダメだ畜生。出られる気がしねぇ」
低くぶっとい声の主は独り言なのか何なのかを口にして、足をもぞもぞと動かしている。
「ねえ、お姉ちゃん。ずっと気になってたんだけれど、あれは?」
そう言ってパティは部屋の隅にある観葉植物の陰に隠された大樽を指差して言う。
大樽からは成人男性のものと思しき太くしっかりとした両の足が天に向かって伸びていて時折、艶めかしく動いている。
「私のお父さんよ。しばらく目を覚まさないようにしたつもりだったんだけど……ちょっと浅かったかしら」
「ずいぶん変わったお父さんなんだね」
「パティ。君が本気でそのセリフを言っていると信じているからこそ言うけれど、あれがお父さんの通常じゃないからな。いつもはあんな事してないからな? 恐らくだけど」
そしてアリシアときたら、ごく自然な流れでとんでもなく恐ろしい事をさらっと言ってたな。
二人掛かりでボケ……というか、陽気な事を言われたらさすがに歴戦のツッコミ師であるところの俺でも対応が間に合わない。
これで村長まで加わってしまったら、ボケが飽和状態になってしまうぞ。しかもこの場合、幸いにというか最悪な事に今やお友達パーティという謎のカテゴリーに君臨しつつあるデューク達もいる事だし、俺の周辺はツッコミの順番待ち状態になってしまいそうだ。考えただけでも恐ろしい……。
勇者からお笑い芸人に転職しようかな……本気で。道化師の上位クラスになるのかな? お笑い芸人って……。《道化の悟り》とか特殊なアイテムが必要なのだろうか?
勇者が嫌なら、転職すればいい。だなんて、この物語の根底を揺るがす事態になってきたので無理矢理に軌道修正する。
俺はパティに軽く突っ込んでから、アリシアのお父さんを助けに向かうため立ち上がる。
ふと、視線を下におとすとテーブルの隅にはじろうが両の前足だけでテーブルにぶら下がっていて『に……にゃあ……』と震える小さな声で鳴いている。
どういう経緯を経てそうなったのかは知らないけれど、そんな光景を見ていると何かしらの事件に巻き込まれて崖の上から落とされそうになっている人を見ているような気になってしまい、ついつい助けてあげたくなってしまう。
じろうの両脇を抱えて床にそっと降ろしてやる。すると、
「しゃー!」
と、かなりご立腹のご様子で俺に対し威嚇をしたのち、粗めの鼻息をふんっと一つ漏らして低姿勢の構えからジャンプして再び両の前足だけでテーブルにぶら下がり『にゃ……にゃあ……』と、小さく震える声で鳴くのだった。
「…………」
まあ、思う事は色々あるけれど何かしらのネコネコチャレンジ(あるいはじろうの職業である《がーでぃあん》としての仕事とか)が行われているのだろうと自分の中で納得をして、アリシアのお父さん救出へ向かう。
俺は大樽の中を覗き込み、大樽が作り出した闇の中にあるであろうお父さんの顔を覗き見ながら緊張の面持ちで語りかける。
「えっと……はじめまして。僕はタケルといいます。よろしくお願いします」
大樽の中で逆さまになってる大の大人に向かって自己紹介するのは、いくら100回目の勇者人生といえど初めての事である。
「若えな……そして男の声だ。だがアリーにダチなんている訳ねぇし……と、するとなるとバチ当たりにも最近この森を騒がせてる族か? 族の連中が事もあろうに俺の可愛い可愛い愛娘のアリーに手ぇ出しやがって、俺が言いつけてるフードを無理矢理にひっぺがして、さらけ出されたアリーの奇跡的な造形美を見ちまって一気に惚れ込んで、色んな手順すっ飛ばして俺の所に結婚の報告に来やがったんだな! だったらぶっ殺す! お父さんカチンときちゃったからぶっ殺す! おいテメエ! 誰がお前みたいな豚の骨にうちのアリーをくれてやるかってんだ! かかってこいよオラ! こちとらお前みたいな奴が来た時のイメトレはもう済んでんだよ。100回やったんだよ! 俺を倒さねえ限り、アリーは絶対にお前みたいなヘナチョコロン毛野郎にはやらねぇからな!」
そう語って、お父さんは大樽を前後左右にガタンガタンと揺らす。
「はぁ……」
またも大波乱の予感しかしない展開なのであった。
散々無視され続けたけれど、俺達の会話と言ってしまって良かっただろうか?
「ーーーーっお父さん⁉︎」
「ーーーーったく、ひでぇ目に遭ったぜ。反抗期が終わるどころか、どんっどん加速してんじゃねぇか畜生め。喧嘩に武器を使うなとは言わねえが狭い部屋の中で鞭振り回されたんじゃ逃げ場ねぇじゃねぇか畜生め。本っ当、どんどんあいつに似てきやがって少しは女らしくしやがれってんだコラ。つーか、どうすんだこれ。俺はどうやってこの樽から抜け出しゃいいんだよ、足だけ出ててもよぉ……ほっ……よっ……ダメだ畜生。出られる気がしねぇ」
低くぶっとい声の主は独り言なのか何なのかを口にして、足をもぞもぞと動かしている。
「ねえ、お姉ちゃん。ずっと気になってたんだけれど、あれは?」
そう言ってパティは部屋の隅にある観葉植物の陰に隠された大樽を指差して言う。
大樽からは成人男性のものと思しき太くしっかりとした両の足が天に向かって伸びていて時折、艶めかしく動いている。
「私のお父さんよ。しばらく目を覚まさないようにしたつもりだったんだけど……ちょっと浅かったかしら」
「ずいぶん変わったお父さんなんだね」
「パティ。君が本気でそのセリフを言っていると信じているからこそ言うけれど、あれがお父さんの通常じゃないからな。いつもはあんな事してないからな? 恐らくだけど」
そしてアリシアときたら、ごく自然な流れでとんでもなく恐ろしい事をさらっと言ってたな。
二人掛かりでボケ……というか、陽気な事を言われたらさすがに歴戦のツッコミ師であるところの俺でも対応が間に合わない。
これで村長まで加わってしまったら、ボケが飽和状態になってしまうぞ。しかもこの場合、幸いにというか最悪な事に今やお友達パーティという謎のカテゴリーに君臨しつつあるデューク達もいる事だし、俺の周辺はツッコミの順番待ち状態になってしまいそうだ。考えただけでも恐ろしい……。
勇者からお笑い芸人に転職しようかな……本気で。道化師の上位クラスになるのかな? お笑い芸人って……。《道化の悟り》とか特殊なアイテムが必要なのだろうか?
勇者が嫌なら、転職すればいい。だなんて、この物語の根底を揺るがす事態になってきたので無理矢理に軌道修正する。
俺はパティに軽く突っ込んでから、アリシアのお父さんを助けに向かうため立ち上がる。
ふと、視線を下におとすとテーブルの隅にはじろうが両の前足だけでテーブルにぶら下がっていて『に……にゃあ……』と震える小さな声で鳴いている。
どういう経緯を経てそうなったのかは知らないけれど、そんな光景を見ていると何かしらの事件に巻き込まれて崖の上から落とされそうになっている人を見ているような気になってしまい、ついつい助けてあげたくなってしまう。
じろうの両脇を抱えて床にそっと降ろしてやる。すると、
「しゃー!」
と、かなりご立腹のご様子で俺に対し威嚇をしたのち、粗めの鼻息をふんっと一つ漏らして低姿勢の構えからジャンプして再び両の前足だけでテーブルにぶら下がり『にゃ……にゃあ……』と、小さく震える声で鳴くのだった。
「…………」
まあ、思う事は色々あるけれど何かしらのネコネコチャレンジ(あるいはじろうの職業である《がーでぃあん》としての仕事とか)が行われているのだろうと自分の中で納得をして、アリシアのお父さん救出へ向かう。
俺は大樽の中を覗き込み、大樽が作り出した闇の中にあるであろうお父さんの顔を覗き見ながら緊張の面持ちで語りかける。
「えっと……はじめまして。僕はタケルといいます。よろしくお願いします」
大樽の中で逆さまになってる大の大人に向かって自己紹介するのは、いくら100回目の勇者人生といえど初めての事である。
「若えな……そして男の声だ。だがアリーにダチなんている訳ねぇし……と、するとなるとバチ当たりにも最近この森を騒がせてる族か? 族の連中が事もあろうに俺の可愛い可愛い愛娘のアリーに手ぇ出しやがって、俺が言いつけてるフードを無理矢理にひっぺがして、さらけ出されたアリーの奇跡的な造形美を見ちまって一気に惚れ込んで、色んな手順すっ飛ばして俺の所に結婚の報告に来やがったんだな! だったらぶっ殺す! お父さんカチンときちゃったからぶっ殺す! おいテメエ! 誰がお前みたいな豚の骨にうちのアリーをくれてやるかってんだ! かかってこいよオラ! こちとらお前みたいな奴が来た時のイメトレはもう済んでんだよ。100回やったんだよ! 俺を倒さねえ限り、アリーは絶対にお前みたいなヘナチョコロン毛野郎にはやらねぇからな!」
そう語って、お父さんは大樽を前後左右にガタンガタンと揺らす。
「はぁ……」
またも大波乱の予感しかしない展開なのであった。
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