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エピソード・オブ・お嬢ちゃん
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「俺がまだ小っせぇー頃は世の中の全てに対して興味津々でな、親の言う事なんてろくに聞きもせずに外を走り回っては悪さばっかりやっててな、そんな自由奔放な俺の行いを遂に見兼ねた両親にこの帰らずの森に連れてこられたんだ」
「帰らずの……森? この森はベネツィの森じゃないの?」
「色々な呼び方はあるが、ベネツィの町では帰らずの森ってのが一般的なんだよ。帰らずの森って名前はベネツィの町に昔っから言い伝えられている物語から取られた名前だな。この森には呪いがかけられていて一歩でも踏み込むと二度と帰られない迷いの森だとか、森には魔女が住んでて見つかっちまうと魔女に食われるとか、森に呪われて木に姿を変えられちまうだとか、他にもいくつか話はあるが細かいところは違えど話の大筋は大体同じような内容だ。森に入ると、何かが原因で、帰られなくなるーーーーってな。だから、帰らずの森ってんだ」
「そんなお話、私は知らない……」
「森から出る事を禁じ、他人との関わりを持たせなかったからな。お前は町の人間達と比べて圧倒的に情報量が少ない。まあ、俺の目を盗んでちょくちょく町に出かけていたようだが……。その事については今はいい。つまり、人々から恐れられる恐怖の森に悪ガキだった俺は連れてこられたんだ。俺ももちろん森に関する話は知っていたし、俺のダチが本気で怖がってたのも知っていた。だが、夜も随分と更けた森の入り口で俺が見たのは月明かりに照らされて闇の中で幻想的に浮かび上がった森の木々達だった。青白くぼんやりと光っていて、風が枝葉を揺らしていてまるで子守唄を歌っているように思えて、ここが噂に聞く恐怖の森だなんて信じられなかった。俺の耳元では両親が必至に何かを語りかけていたが、全く耳に入らなかった。呼吸するのも忘れてただただ森の美しさに、妖しさに魅了されていた。すると森のずっと奥の方、月明かりさえも届かない深い森の闇に漂う一筋の光を見つけたんだ。金色に輝くその光は強くなったり、弱くなったりしながらフラフラと不規則に飛びながら森の奥へ奥へと向かっているようだった。俺はとっさにその光を追いかけなきゃいけねぇって思ってな、その光を頼りに全力で森の奥へ奥へと走って行ったんだ」
「謎の光……。光を放つ虫ならいるって前に本で読んだことはあるけれど……この森では一度も見た事はないわ」
「俺も見たのはあれが最初で最後だ。虫なのかモンスターなのか、はたまた森の妖精か。本当、なんだったんだろうな……」
「その……その光を追ってどうなったの? その先には何があったの?」
「いや。何もねぇ……」
「何も?」
「ああ。何もねぇ。さっきの光はどこかに姿を消しちまって辺り一面真っ暗闇。ぎりぎり見えるとしたら、月明かりが枝葉の隙間を縫って照らすぼんやりと光る木々ぐらいで他には何もなかった。真っ暗な森の中で、気付けば俺は一人ぼっちだった。さすがに焦った。まんまと森にやられちまったと思ったよ、両親を呼んでも返事は帰って来ねぇし、訳の分からねえ鳴き声がいくつも俺を取り囲んでいてよ、さすがに俺もビビったぜ。このまま魔女に食われるか、森の一部にされちまうのかと思ってよ。その場に座り込んで両膝抱えて震えているとよ、声を掛けられたんだ。両親の声じゃねぇから、魔女だと思った。ああ、食われる。俺はもう死ぬんだなって覚悟を決めた。だからどうせ死ぬんなら最後に魔女の顔を見てやろうと思ってよ、勇気を振り絞って顔を上げて声のする方を見てやったんだよ」
「…………」
「どんな恐ろしい顔した魔女なのかと思ったらよ。なんて事はねぇ。俺と同い年ぐらいの女の子が立ってたんだよ」
「帰らずの……森? この森はベネツィの森じゃないの?」
「色々な呼び方はあるが、ベネツィの町では帰らずの森ってのが一般的なんだよ。帰らずの森って名前はベネツィの町に昔っから言い伝えられている物語から取られた名前だな。この森には呪いがかけられていて一歩でも踏み込むと二度と帰られない迷いの森だとか、森には魔女が住んでて見つかっちまうと魔女に食われるとか、森に呪われて木に姿を変えられちまうだとか、他にもいくつか話はあるが細かいところは違えど話の大筋は大体同じような内容だ。森に入ると、何かが原因で、帰られなくなるーーーーってな。だから、帰らずの森ってんだ」
「そんなお話、私は知らない……」
「森から出る事を禁じ、他人との関わりを持たせなかったからな。お前は町の人間達と比べて圧倒的に情報量が少ない。まあ、俺の目を盗んでちょくちょく町に出かけていたようだが……。その事については今はいい。つまり、人々から恐れられる恐怖の森に悪ガキだった俺は連れてこられたんだ。俺ももちろん森に関する話は知っていたし、俺のダチが本気で怖がってたのも知っていた。だが、夜も随分と更けた森の入り口で俺が見たのは月明かりに照らされて闇の中で幻想的に浮かび上がった森の木々達だった。青白くぼんやりと光っていて、風が枝葉を揺らしていてまるで子守唄を歌っているように思えて、ここが噂に聞く恐怖の森だなんて信じられなかった。俺の耳元では両親が必至に何かを語りかけていたが、全く耳に入らなかった。呼吸するのも忘れてただただ森の美しさに、妖しさに魅了されていた。すると森のずっと奥の方、月明かりさえも届かない深い森の闇に漂う一筋の光を見つけたんだ。金色に輝くその光は強くなったり、弱くなったりしながらフラフラと不規則に飛びながら森の奥へ奥へと向かっているようだった。俺はとっさにその光を追いかけなきゃいけねぇって思ってな、その光を頼りに全力で森の奥へ奥へと走って行ったんだ」
「謎の光……。光を放つ虫ならいるって前に本で読んだことはあるけれど……この森では一度も見た事はないわ」
「俺も見たのはあれが最初で最後だ。虫なのかモンスターなのか、はたまた森の妖精か。本当、なんだったんだろうな……」
「その……その光を追ってどうなったの? その先には何があったの?」
「いや。何もねぇ……」
「何も?」
「ああ。何もねぇ。さっきの光はどこかに姿を消しちまって辺り一面真っ暗闇。ぎりぎり見えるとしたら、月明かりが枝葉の隙間を縫って照らすぼんやりと光る木々ぐらいで他には何もなかった。真っ暗な森の中で、気付けば俺は一人ぼっちだった。さすがに焦った。まんまと森にやられちまったと思ったよ、両親を呼んでも返事は帰って来ねぇし、訳の分からねえ鳴き声がいくつも俺を取り囲んでいてよ、さすがに俺もビビったぜ。このまま魔女に食われるか、森の一部にされちまうのかと思ってよ。その場に座り込んで両膝抱えて震えているとよ、声を掛けられたんだ。両親の声じゃねぇから、魔女だと思った。ああ、食われる。俺はもう死ぬんだなって覚悟を決めた。だからどうせ死ぬんなら最後に魔女の顔を見てやろうと思ってよ、勇気を振り絞って顔を上げて声のする方を見てやったんだよ」
「…………」
「どんな恐ろしい顔した魔女なのかと思ったらよ。なんて事はねぇ。俺と同い年ぐらいの女の子が立ってたんだよ」
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