繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
111 / 135
ベネツィ大食い列伝

21

しおりを挟む
 時を遡ること、数分。

 カルロス陛下による突然の予選開始から約2分後。

 大食い大会会場である広場は大混乱の中にあったし、何が正しい行動で何が正しい判断なのかなんて分かっている人がいたとはとてもじゃないが思えない。

 視界前方からは揚げ物屋テキーラの従業員数名がトレーを持って急ぎ走ってきており、予選で食べるべき料理が運ばれてくるのを俺達は今か今かと待ち構えていた。そんな俺達の前に従業員が走り込んできて、テーブルの上に運んできたトレーを乗せるやいなや深々と頭を下げた。

「お待たせしましたぁぁぁ!」

「よぉぉぉっしゃー! 予選一位通過は貰っーーーーえっ? 何これ? この空のトレーをどうすればいいんだ? あれか⁉︎ 食べるものは自分で取りに行け的なあれか⁉︎ そうなのかね、君!」

「…………」

「聞けぇぇぇ!」

 俺の質問など全く耳に入っていない様子で揚げ物屋テキーラの従業員は慌てて走り去っていく。

 手元に届けられた空のトレーをじっと見つめて、俺は作戦を練る。

 こちら側もさる事ながら、あちら側つまりは料理を提供してくれるお店側も大混乱の中にある。この空のトレーはだからこその結果なのだ。

 つまりは、選手達に提供される料理がまだ出来上がっておらず、あれほどでかい特設キッチンといえども広場を埋め尽くすほど大勢の選手達が食べる分の揚げ物はそう簡単には出来上がらない。そしてカルロス陛下によって予選はもう開始されている。

 以上の事から、出来上がった料理をいち早く獲得して誰よりも先に食べ始め食べ終えなければいけない。さしずめ早食い大食い争奪戦といったところか。

 カルロス陛下の奇をてらったあの開会の挨拶一つで大食い大会の方向性がかなり大きく傾いてしまった。

 だが、それはよく考えるとチャンスとも言える。

 俺達のチームは少年パティと少女アリシアという大食いとはあまり縁の無い、どちらかと言えばこの大会には不向きなメンバー構成となっている。だから方向性が傾いた今の早食い大食い争奪戦という特殊な状況を逆に利用する事ができれば俺達のチームでも勝算は十分にある。

 もちろん、みんながその事に気付けば状況は一気に変わる。

 つまり、スピードが命だ。

 だから、ただでさえ混乱の中にある今の状況も、今後の展開を考えれば嵐の前の静けさ程度の事なのかもしれない。

 そう思い不意に視線を右に移すと妙に体格の良い中年のおじさん三人が特設キッチンの方へと小走りで走っていくのが見えた。

「あのおじさん達……何かやる気だな」

「何かって何さ? 具体的に何をやる気なのさ?」

「何だか三人共、顔付きが怖いです……。あんな顔付きでキッチンに向かっていったい何をするんでしょうか?」

「詳細は分からないけれど、おじさん達には何かしらの必勝法とも言える作戦があるようだ」

 みんなそれぞれの作戦を立て始めている。

 俺達も急がねば。

 作戦を大まかではあるが形あるものに仕上げてから、広場中央へと視線を投げる。そこには先ほど特設キッチンの方角へと向かった無駄に体格の良い怖い顔をしたおじさん達が凱旋将軍のように胸を張って、もはや若干仰け反り気味に肩で風をきって歩いていた。
 
 そんなおじさん連中の横を直径五十センチはあろうかという大皿を抱えた揚げ物屋テキーラの若い従業員数名が、見事なまでの軽いフットワークでこちらへと向かって駆け抜けてきた。

 従業員の左肩に大事そうに乗せられた、見るからに重そうなそんな大皿の上には遠目からでもはっきりとその存在感、重量感が、ありありと伝わってくる程大量の揚げ物がてんこ盛りになっており、例えるならば揚げ物だけで作られた強固なお城のように見えた。

 そんな見た目の揚げ物を一瞥し、二度見、三度見を華麗に決めてから若干乱された心のリズムを取り戻しつつ、すぐさまウチの機動力担当に指示を飛ばす。

「行きたまえ、パティーくーん! 今こそ君の出番だ!」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...