繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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「大丈夫? お爺ちゃん……」

 自称スーパーお爺ちゃんっ子であるところのパティがシドの顔を覗き込みつつ問い掛ける。

 アリシアもよほど心配だったのか数歩分、シドの方へと歩みより様子を伺う。

「あぁ……」

 と、シドは細く短い声でパティに答えてから僅かに微笑んだ。

 そんな初めて見るシドの笑顔に俺の心の中では妙な親近感が突如として湧いた。

「大丈夫か? シド」

「はい……平気です。どうという事はありません」

 何となくいつもの感じでシドは喋り出した。あの食事法の反動がある程度落ち着き僅かではあるけれど余裕が出来た、という事なのだろう。

 とりあえずは一安心だな。

 しかし、先程シドがパティに向けたあの笑顔。あれは俺の予想を遥かに上回る出来事だ。まさかあのシドが微笑むなんて考えもしなかったからな。

 でもよく考えたらデューク達とはなんだかんだで、そこそこ長い付き合いなので赤の他人とは少し違う微妙な間柄になりつつあるのかもしれないな。

 苦楽を共にする仲間のような深い関係性ではないにせよ、ちょっとした知り合いなどよりはもっと距離感の近い関係性になりつつある。

 例えるならば友達、とか。

「…………」

 改めてデューク達の事を友達として考えると何だか胸がムズムズするような落ち着かない心持ちになった。

 だが、普段から面倒も迷惑も掛けられっ放しではあるがその反面、クオリティーの高いボケで楽しませてもらっているのもまた事実なのだ。

 友達とは意図的に作るものではなく、気が付いたら自然と出来ているものだといつか誰かが言っていた気がするけれど、やっぱりそうなのだろうか?

 様々な想いに突き動かされるように俺はシドにある提案をする事にした。

「シド、どこか横になれるところを探して休んでた方がいいよ。なんなら俺がおぶってあげようか?」

「…………」

「遠慮とかしなくていいからさ! 俺達もう……友ーーーー」

「はぁ……。話しかけるでないメッシーよ。私が無視しているのが分からんか。それに今、私は満腹なのでお前になど用はない」

「えっ?」

「それと、メッシーよ。お前があの日私の事を使と呼んだ事、私は今もまだ許してはいないからな。しかも更に回数を重ねおって、今、私がお前に手を下さぬ理由は単なる私の気まぐれだという事を忘れるな」

「って、まだあの日の事怒ってんのぉぉぉ⁉︎」

 いったい何日前の話をしてんだよ。あれは確か……そうだ、初対面の時だ。初めてシドに会った時にそのあまりに模範的な魔法使いらしい格好をしたシドを見て、俺が見たままの感想として『ジョブは……魔法使いかな?』と、言ってしまって怒らせたんだったな。

 ウィザードハット被って黒マント羽織ってりゃ誰でも魔法使いに見えるっての!

《黒魔法使い》としか呼ばれたくないだなんて変なこだわり、俺は知らないっての。

 どんだけくだらない理由で根に持ってんだ。こいつは……。

「いい加減しつこすぎるし、それとついに尻尾を掴んだぞ、シド! お前が俺の事をメッシーと呼ぶのは俺の事を《定期的にご飯を奢ってくれる人》と認識しているんじゃないかと睨んでいたが、さっきのお前の発言でそれがはっきりとした! お前はさっき『今は満腹なので貴様などに用は無い』と言ったな⁉︎ つまりはそういう事だろう⁉︎ 観念して認めろ。そして俺に謝罪するんだ!」

「だったら何だと言うんじゃ……くだらん」

 なんとまあ、太々しい態度。

 食事を奢ってもらっておいて、人をメッシー扱いするだなんて何て失礼な奴なんだ。

 恩知らずにも程がある。

「行くぞ、シド」

「はい。デューク様」

 デュークの呼び掛けに対してシドはよろよろと立ち上がり、デュークの後を追う。

 そんな二人の背中を見ながら、ほんの一瞬でもシドの事を友達と認識してしまった自分にすごく腹が立ったし、落胆した。

 そりゃあ、嫌われるような事を言ったのは事実だが、しかしそれは故意ではなく知らなかっただけなのである。しかもちゃんと謝ったのだからあそこまで毛嫌いされる理由はないと思うのだが……。

 それとも本質的に、本格的に俺の事が嫌いなのだろうか?

「ふぅ……」

 まあ、時が経てばいつか必ずわだかまりは解消されて、シドとも普通に仲良く出来る未来はやってくるだろう。と、今は安易に考えておく事にする。



 
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