まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

文字の大きさ
26 / 42
第2章 子から幸せを…

第26話 家族のキャッチボール

しおりを挟む
「えっと、どこやったかな」
「何探してるの?」

次の日になると旦那は帰ってきてから、旦那は自室にある収納ボックスをガサガサと漁っていた。

「いや、ボールとグローブだよ。グローブちょうど3個あったんだよね」
「そんなにグローブって持っておくもんなの?」
「俺の場合はメインで使うやつで1個、予備で1個、親父が昔使ってたグローブで1個って感じ」
「お父さんもやってたんだ」

そう話していると、箱からグローブを天高く持ち上げた。どうやら発見したようだ。

「やっと見つけた。捨ててなくて良かった」

グローブ3つとボールを床に置き、バッグにしまった。

「今度の休みの日に野球しに行こうよ」

すぐに行くわけでもないのに、いそいそと準備し始めた。相当楽しみなんだろう。


その週の休日、昼頃に旦那がグローブとボールを持って進吾に話しかけた。その姿はまるで野球少年だった。

「進吾ー、野球しようぜ」
「はーい」

どこか聞き覚えのあるセリフを旦那が口にしたが、2人ともスルーして準備を始める。曇った空、寒すぎず、暑すぎない過ごしやすい温度の昼間。旦那はバッグを肩にかけ、私たちの先頭を切って公園へ歩いていった。


「パパってやきゅうやってたんだー」
「そーだぞー。昔はもっと上手かったんだけどね。今はもう歳で無理だね」
「あれ、そんな上手かったっけ?」
「守備は自信あったよ。打撃は散々だったけど…」

会話をしながら2人でキャッチボールをしていた。一方私は動画を回す準備をしていた。正直私は運動が得意ではない。そのため、ボールがカメラに当たって壊さないか不安だ。

「ハシビロコウに似てるのによく動く位置にいたんだね」

滅多に動かないハシビロコウと守備で右往左往と駆け巡る旦那を考えると、対照的で似ているイメージがない。共通点は普段の雰囲気なのかもしれない。

「どこが似てるんだよー」
「いつもあんまうごかないとこ」
「いやどういうことだ?」
「よし私も参戦するぞー」

三角形を描くようにカメラから少し離れた横に私、カメラの反対方向に旦那と進吾がいるような形だ。グローブを手にはめた。旦那からゆるっとしたボールが投げられ、しっかりとキャッチした。誰かとキャッチボールをするなんて高校の体育以来で、懐かしい昔の思い出が頭をよぎる。

「私、野球苦手だったな。ボール怖くて全然捕れなかったし」
「ぼくもたかいボールはむり」
「まあボール速いし硬いからね。落ちてきたやつとか結構痛かったし」

恐らく旦那はそのことに配慮して、速度はゆっくりにしていて安心して捕りにいけるようにしていた。また、捕りやすい位置に投げてくれるため、ミスも少なく済んだ。流石は元野球部の実力なんだと分かる。これには進吾も旦那を褒めていた。

「パパうまーい」
「でしょー。昔は投球のコントロールも上手いって言われてたなー」

そう言ってカメラ側にいる私に向かってボールを投げた。その時話すのに夢中になっていたのか、投げる方向が少しズレてしまった。

「あっ」

3人とも声を合わせてその場に固まった。旦那の見事なコントロール力で、カメラと三脚の間に命中し、カメラごと倒してしまった。確認してみるとどこにも異常がなく、ホッと安心した。褒められた途端にミスをするのはとても旦那らしかった。視線を旦那の方にやると、固まって微動だにしない様子についつい笑ってしまう。これ以降"ボールのコントロールが上手い"と言うことはなくなったのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

ループ25 ~ 何度も繰り返す25歳、その理由を知る時、主人公は…… ~

藤堂慎人
ライト文芸
主人公新藤肇は何度目かの25歳の誕生日を迎えた。毎回少しだけ違う世界で目覚めるが、今回は前の世界で意中の人だった美由紀と新婚1年目の朝に目覚めた。 戸惑う肇だったが、この世界での情報を集め、徐々に慣れていく。 お互いの両親の問題は前の世界でもあったが、今回は良い方向で解決した。 仕事も順調で、苦労は感じつつも充実した日々を送っている。 しかし、これまでの流れではその暮らしも1年で終わってしまう。今までで最も良い世界だからこそ、次の世界にループすることを恐れている。 そんな時、肇は重大な出来事に遭遇する。

花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】

naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。 舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。 結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。 失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。 やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。 男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。 これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。 静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。 全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。

処理中です...