まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…

ひらりくるり

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第2章 子から幸せを…

第27話 進吾'sクッキング

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9月の第1週の日曜日、夕飯に向けて、絶賛進吾と旦那でお料理中だ。今晩のメニューは進吾の好きなハンバーグにすることにした。ボウルにひき肉、みじん切りにした玉ねぎ、卵、塩を少々入れ、進吾に混ぜてもらうことにしたのだが……

「タマゴぼくがわってみたい」
「進吾いけるかー?不安だな」
「ぼくもできるし」

ということで進吾が卵を割ることになった。まず最初は私がお手本を見せる。コンコンと軽くヒビを入れ、割れ目に指を入れ、ゆっくりと開いた。

「こんな感じかな。慎重にやってね?」
「はーい」

進吾も同じくコンコンと軽く打ちつけ、真剣な面持ちで卵を見つめる。ゆっくりと左右に卵の殻を開いた。

「おー、進吾上手じゃん」

殻が多少入ると懸念していたが、どうやらその必要はなかったようだ。

「でしょー。やればできるんだもん」

手で具材を混ぜた後、3個に分け、各々お肉を叩いて空気を抜く。

「こんな感じ?」
「んーそれだとおにぎりになっちゃうかな」

進吾の手のひらにはまるっこいお肉が固められていた。

「平べったくて、楕円形になるようにするんだよ。こういう風にさ」
「なるほどー」

3つとも良い形になったところで、コンロに火をつけ、フライパンで蒸し焼きにする。お肉をひっくり返す担当も進吾がチャレンジしてみることになった。

「進吾はご飯作るの上手だね。もっと手間取るかと思ってたよ」
「ぼく、てんさいだから」

褒められて上機嫌な進吾だったが、旦那と良く似たせいか、その後はしっかりとハンバーグを1つ焦がしかけたことは言うまでもない。


「うわー!美味しそう!」
「熱いうちに食べましょうか」
「「「いただきまーす」」」

ハンバーグを一口食べてみる。

「うん、美味しいね!」
「上手くできたよなー」

噛んだ瞬間に熱々の肉汁が溢れてきて、ソースの味と絡まり、口全体でお肉の旨味を感じる。1口、また1口と口へ運んでいく。

「進吾食べるのはやいね?もう半分ぐらいまで食べたの?」
「ごはんつくってたらおなかすいたから」

あまりご飯を食べない進吾にとっては珍しく早いペースで食べ進めていた。病気の影響か、元々食欲不振で、食事自体あまりできなかったのだ。"お腹が空いた"という言葉も進吾から聞いたのは随分前のことだった。だからこそ、私はこう思った。

「今日は一緒に作って良かった」


夕飯を食べ終え、お風呂に入った後は、3人でゲームをすることにした。以前私が負けたカーレースのゲームだ。今回こそは勝ちたいと思い、再び挑むことにした。

「パパつよー」
「進吾には負けないぞ」

2人が1位と2位を行ったり来たりと争う最中、私は最下位でコース外に落ちながら進んでいた。

「この加速アイテム使うとすぐ落ちちゃうな」
「つかうタイミングがダメなんじゃない?」

進吾に教えてもらいながら、やること30分。コツが掴めてきたのか、2人のレースに追いつけるようにまでなってきた。だが、私が1位を取るのはまた20分後のお話だ……

1時間が経った頃、休憩として、何気なくテレビのチャンネルをニュースに切り替えた。テレビに写っていたのは月に関するものだった。

「来週の8日には皆既月食が起こるそうです。皆さんもお時間があれば見てみてはどうでしょうか?」

アナウンサーのセリフを後ろに、月食の仕組みについての映像が流れた。

「8日に皆既月食あるんだって。見てみたいねー」
「来週はイベントが多いな。皆既月食もあるし、三連休に旅行も行くしな」
「どこいくのー?」

進吾が聞いてきたので、テーブルにあった雑誌を広げて見せる。

「ここ!日光だよ!」
「きれー!金ピカだー!」
「来週の土曜日に行くから、しっかり準備しようね」
「うん!」

運動会があっただけでなく、家族旅行などやることがいっぱいの10月の上旬、ここまでは特に不安なこともなく日々を過ごしていた。
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