辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第2章 冒険者編 ~シャルモンの街~

禁忌魔法が使われています

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 朝、早く目覚めた私は魔法の確認をする。
ロランの部屋も、私の部屋も問題ないようだ。ホッと心を撫で下ろす。
顔を洗い、髪を整え支度をしているとノックの音が聞こえた。

「セリー、ロランだ。起きてるか?」

 返事をしてドアを開ける。
するとロランが深刻そうな顔をして私を見ていた。

「ロラン、何かありましたか?」

 立っているのもあれなので、部屋に招く。まあ、メンバーだからいいでしょう。
防音魔法もきちんと掛けてあるので、むしろ入ってもらった方がありがたい。

「追跡魔法が先ほど消えた」
「消えた‥‥?」
「理由は分からない。ワイルドボアに気づかれたとは思えないが」

 考えられる可能性は‥‥

「ワイルドボアが何らかの原因で居なくなった可能性はあるな」
「あとは、追跡魔法に気づかれた可能性ですね」

 その言葉にロランが唾を飲む。

「確かにその可能性もあるが‥‥気づかれることなんてあるのか?」
「知能の高い魔人ならありえます。それに、禁忌魔法を使いこなせるのは、魔人級の実力者かと」
「そうか‥‥」

 可能性の話であるが、楽観視できないのは事実だ。

「可能性の一つにすぎませんが、油断はしない方が宜しいかと」
「その通りだな」

 ロランが落ち着いたところで、追跡魔法が消えた場所を確認する。

「魔の森の手前になるな。まだ浅瀬と言っても問題ないところだ」
「ここでしたら、走れば数時間で行くことができますね」
「そうだな」

 二人で様子を見に行くことに決め、今後の予定を立て始めたのだった。


 予定を立てた後に、私たちは村長さんの宅に向かっていた。
森の様子を確認したいという旨を伝えて許可をもらうためだ。
 二人で歩いていると、前から見たことがある顔の男の子がやってくる。
「もしかして‥‥?」と彼を見たのと同時に男の子はいきなり走り出し、私にぶつかって走り去っていった。

 急にぶつかったため少しよろけたが、ロランが私を支えてくれた。

「大丈夫か?セリー」

 大丈夫、と言おうと男の子が当たった腰のあたりに触れる。
すると腰にあるべき物が無くなっている。

「‥‥ありません。おじ様から頂いた扇が、ありません」
「何だと?!」

 宿屋を出るときには、扇を腰に刺しているところをロランも確認している。
ということは、ここに来るまでに落としたか‥‥

「兎に角、さっきぶつかった奴を見つけ出そう。誰だか覚えているか?」
「はい‥‥村長さんのお宅で私たちを見ていたケヴィンくんです」
「あいつか、了解。探してくる」

 私も、と言おうとしたが、ロランはすでに走り始めていた。
そのとき、後ろから声がかけられる。

「お嬢さんは‥‥ロランさんの相棒さんでしたか。どうしてここにお一人で?」

 声をかけてくれたのは村長さんだった。
ここにロランはいない。私がしっかり話さないといけない。

「あの‥‥私の扇がなくなりまして‥‥」

 ケヴィンくんのせいにするのは、違う気がする。そう思うと何を話せば良いかわからない。

「何と、扇をですか?!」
「はい‥‥お恥ずかしながら‥‥」
「ふむ。分かりました。なら私が宿に声をかけておきましょう。セリーさんは村の中や小屋を覗いてみて下さい」

 その言葉に驚いた私が、村長さんを見上げる。

「ですが‥‥」
「良いんですよ。念には念を入れておきましょう」

 どうしよう、とオロオロしている私に村長さんが笑顔で話しかけてくれる。

「大丈夫ですよ。貴方方はこの村を助けてくれています。少しくらい此方に任せてくださいな」

 その言葉で私は村長さんにお礼を伝え、ロランの後を追い始めた。


 走りながら探索魔法を使う。すると村の外、昨日私たちが見張りをしていた小屋に2つの反応があった。
それ以外の反応は村の外にない事を確認し、急いで小屋に向かう。

 小屋に着くと、ロランがケヴィンくんの首根っこを捕まえて、話しかけているところだった。

「ロラン」
「セリー、遅かったな」

 私は村長さんに話をした事を伝える。

「ああ、だからか。後でお礼に行こうか」

 私は頷くと、ロランの横に座っているケヴィンくんを見る。
目は虚ろで焦点が合っていない。口は半開きで、普通であればこのような状態にならないはずだ。
ちらっとロランを見ると、肩をすくめた。

「さっきからこの調子でな‥‥どうしたらいいかお手上げだったんだ」

 これはロランに何とかできるものではない。

「ロラン、この子は精神支配の魔法にかかっています」
「何だって!?」

 精神操作魔法は、対象相手に命令をすればその通りに動かせる。
精神支配魔法は、いわゆる刷り込みみたいなものだ。

「どう刷り込みしたか分かりませんが、大方武器を盗むようにとでも言ったのかもしれません」
「治せるのか‥‥?」

 私は首を縦にふる。

「おじ様から頂いたグローブを使えば問題ないと思います」
「おっさんも良い物くれたな」
「何か今度お礼をお持ちしたいです」
「そうしよう」

 返事をしてくれたロランと目を合わせて、私はケヴィンくんの前に身体を向ける。
そして後遺症を与えないようにするため、詠唱を唱え始める。

状態異常回復リカバリー

 精神異常は脳への影響が強い。だから魔法陣をケヴィンくんの額の辺りに展開する。
そしておじ様から頂いたグローブの宝石部分に魔力を込める。
 すると予想通り、自身の魔力が増幅されたように感じ取れた。

 白い光が頭を包んだーーが、すぐに消えてなくなる。
ケヴィンくんの顔からは先ほどの表情はなく、目にも生気が宿った。

「あれ‥‥ここは?お兄ちゃん達、誰?」
「ん、覚えてないのか?」

 精神支配された時の記憶が残っていないようだ。残っていなくてよかった。

「うん」
「そうか。俺はロラン、冒険者だ」
「お兄ちゃん冒険者だったんだ‥‥あれ、僕なんで手に扇を持ってるの?」

 手に持っていた私の扇も今気づいたらしい。

「ああ、それはお姉ちゃんが落とした扇だ。小屋の中で君が見つけてくれていたらしくて、持っててくれたんだよ」
「ありがとうございます、ケヴィンくん」
「どういたしまして!綺麗なお姉ちゃん!」

 扇を受け取り、ケヴィンくんと一緒に村に向かう。
すると門の奥から村長さんが走ってくるのが見えた。

「あ、セリーさん。はぁはぁ‥‥扇はありましたか?」
「はい、見つかりました‥‥村長さん、ご迷惑をお掛け致しました‥‥」

 私は扇を見せて、頭を下げる。

「いえいえ、良いですよ!気になさらないでください」
「ケヴィンくんが見つけてくれまして、どうも小屋に落ちていたみたいです」
「なんと、ケヴィンが!?ロランさん、それは本当ですか?」
「はい」

 村長に撫でられているケヴィンくんは嬉しそうだ。
このようにケヴィンくんみたいになっている人がいるかもしれないから、今は話すことはできない。
多分ロランも同じ気持ちだろう。

 私たちは作戦を変更し、先に村人を見て回ることにしたのだった。
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