辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第3章 帝都へ

ギルドへの報告

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 ルズベリー村の近くにあるバーウェアの街。
ここはセンツベリー領の中でも大きめの街らしく、街道や家が規則正しく建てられていた。
私たちは入り口近くにあるギルドのギルド長室のソファーに座っていた。
アンナさんは宿を取ってくる、とのことで別行動である。

「俺がこの街のギルド長をしている、アラスターだ。疲れていた所だろうに、ヴァージルが悪かった」

 ヴァージル?初めて聞いた名前に疑問を持つ。
思いっきり顔に出ていたのだろう、アラスターさんは副ギルド長の顔を見る。

「ヴァージル、お前自分の名前すら紹介してないのか?」
「‥‥忘れていました」
「お前‥‥副ギルド長だろう?何やってんだ」
「すみません」

 ヴァージルさん=副ギルド長らしい。
そう言えば、副ギルド長だと知ったのも、長老様のお話からだった。

「まぁいい。まずは礼だ。今回は、ルズベリーを助けてくれて、助かった。恩に着る」

 いきなり頭を下げられて驚く。

「足止めのためにヴァージルを送ったが、20は厳しいと思っていた。あとは村の被害も承知の上だった」

 確かに私たちがいなければ、村人は狙われていたかもしれない。

「けどお前たち紅玉が助けてくれたから、あの村は守られた。本当に感謝しても仕切れない」

 私より数倍大きいアラスターさんが、ずっと下を向いて礼を言っている。
少し、少し顔は怖かったけれども、人思いのいい人なんだろうな、と思った。

「また謝礼はする。で、疲れているところ申し訳ないが、状況を教えてくれ」

 とアラスターさんからお願いされたので、私は収納魔法から色々と出しつつ、ロランが説明してくれることになったのだった。


「ふむ、魔物を引き寄せる禁忌魔法だと‥‥」

 水晶玉を手に考え事をするアラスターさん。

「ギルド長、本当にそんな魔法があるんですか?」
「ああ、あるぞ。しかし、お嬢‥‥セリーと言ったか。よく知っていたな」
「以前耳に入れたことがありまして」
「そうか」

 正確に言うと、お兄様からその話を聞いたことがあっただけだ。

「まあ、この球は‥‥お嬢が持っていてもらえないか?そして渡して欲しい」

 ん?私に?この場合水晶玉はギルド扱いになるのではないだろうか。

「普通はギルドで預かるのだが‥‥ある人から申し出があってな」
「ある人‥‥ですか?」
「ああ。その前にヴァージル」
「は、はい!」
「これ以降の話は、迂闊にペラペラ喋るなよ?喋りそうならでてけ」
「だ、大丈夫です」

 そして私とロランに一枚づつ手紙が渡された。
裏を見ると‥‥お兄様の名前である。

「お兄様の手紙ですか‥‥?」
「そうだ‥‥辺境伯のご令嬢セリーヌ様」

 どうやら私の素性を知っているようだ。まあ、ローブくらいでしか隠してないし、見たらわかるだろう。
隣に立っているヴァージルさんは、顎が外れているのかと言うくらい大口を開けている。

「お兄様をご存知で?」
「ああ、アドが15歳の時にこの街を救ってくれてな」

 街を救う‥‥お兄様は何をされたのだろうか?

「だから今回は借りを返す形で申し入れを飲んだんだ。帝都にいるアドにその水晶玉を渡して欲しい。それに、紅玉のことはシャルモンの街のギルド長からも聞いている。2人の実力なら問題ないだろう」
「ですが‥‥セリーさんは女性、護衛はロランさんしかいません‥‥危険ではないでしょうか?」

 そう答えたのはヴァージルさんだ。非常に慌てているようにも見える。

「戯れ言を。2人はお前の数倍強い。それにセリーヌ様とロランは冒険者だ。ご令嬢と護衛ではない」

 アラスターさんは一蹴する。そんなことはないと思うのだけれど‥‥

「兎に角、これは俺と帝都のギルド長とアドで話したことだ。お前の意見は通らん」

 ‥‥お兄様?帝都のギルド長とも仲が良いとは‥‥何をされたのでしょうか‥‥
悔しそうに俯くヴァージルさん。まあ自分の意見が通らなければ、悲しいよね。


ーーちなみに、ヴァージルは自分が紅玉に付いて行く流れに持って行きたかったのだが、セリーヌはそのことを知らない。
アラスターは、その思いを見抜いたため、切り捨てたように話しているのだ。


 ヴァージルさんが沈黙した後。

「ちなみにアドの手紙はここで読んでくれないか?」

  とアラスターさんに言われ、私たちは手紙を読む。
読み終わったら、しまっておいてくれ、と言われたので球と共に収納魔法に入れておく。
お兄様の手紙には、前の手紙の感想と、お兄様の近況報告が書かれていた。

「水晶玉はアドに渡す。これはギルドの依頼になる。依頼完了の報告は帝都のギルドで行えるようにしてある」
「分かった」
「あと、お嬢のランクを上げようと思っている。ワイバーンを10体倒した冒険者がD級なんて可笑しいからな。それは報酬が決まったら一緒に登録する‥‥そうだな。明日の昼過ぎに来てくれ」
「ありがとうございます」

 依頼と昇級の話を受け、私たちは部屋を出て、アンナさんの待つ宿屋に向かっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 静まったギルド長の部屋で、ヴァージルがアラスターに食いかかっている。

「ギルド長!あれで良かったのですか!?アド様の依頼は危険が付きまとうものです!なぜ2人にお願いしたのですか!誰か付けるなり、対策を取る必要があったのではありませんか!?」

 机を叩きつけるヴァージルを横目で一瞥するアラスター。

「あれで問題ない」
「しかし、セリーさんはご令嬢ですよ?!そんな力があるとは思いませんが」
「そうか、ヴァージルは知らないのか」
「なにがです?!」
「モンテーニュ辺境伯の子息や令嬢は、幼い頃から魔の森で魔物退治をしていることを、だ」

 ヴァージルはアラスターの返答に、言葉が出なかった。

「冒険者として今を過ごしているのなら、彼女はおそらく昔から魔の森で経験を積んでいるだろう。戦闘を見たことはないが、ワイバーンを倒すくらいだ。A級、もしくはS級の力があっても不思議ではない」
「そ、そんな‥‥」
「それと、隣にいた男。あいつは昔アドとパーティーを組んでいた男だ。流転のロラン、今は紅玉のロランだが。アドの信頼を得ているような男にお前が叶うはずがない」

 返事がない。ヴァージルはただの屍のようになっている。

「それにだ。お前はそう言うが、それは本当にを思って言っているのか?やましい気持ちはないのか?」

 アラスターの言葉が棘のようにヴァージルの胸に刺さっている。

「お前は俺が見ても優秀だ。だが今回は抜けが多かった。そしてロランのあの表情を見れば、お前は何を考えているのかが想像がつく」

 ため息を一つ付く。ヴァージルが反論した時のロランの目には、少なからず敵意があった。
それにお嬢は容姿端麗な女性だ。考えればすぐに色恋沙汰だろう、と予想がつく。

「お前はここの副ギルド長に何故なったんだ?思い出してみろ。あの3年前の魔物襲撃があったから、じゃなかったのか?」
「‥‥すみませんでした」
「分かったのなら、それでいい」

 真っ直ぐなのはいいが、どうも前が見えなくなる時がある。
そこが治れば、彼は文句なしの次の後継者になるだろう。
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