ズボラ飯とお嬢と私

さくま

文字の大きさ
2 / 20

第2話 焼肉のタレ炒飯とお嬢と私

しおりを挟む


 重たい体を引きずりながら帰路に着く。夕方といえど、太陽はまだまだ街と私を照り続ける。湿った空気がまとわりついて気持ち悪い。注意力が散漫で途中、信号を一つ無視したような気もするが、確かめようとも思わなかった。
 ああ、今日は何も食べずに寝てしまおうか。愛しの布団を思いながら玄関の扉を開ける。

「あら、しおりさん!おかえりなさい」

 …先日から居候しているこの子の存在を忘れていた。名前は宝城まい子、小学生だ。どうやらどこぞのお嬢様らしいが、詳しいことはいまだに分からない。彼女は私のお気に入りの座椅子を占有し、何やら難しそうな図鑑を眺めていた。

「なんだか浮かない顔をされていますわね。どうされましたの?」
「ああ、大人にはね、色々あんのよ」

 適当にはぐらかすと、そうですか、と相槌を打ちながらまい子の視線は図鑑に戻る。私はベッドに腰をかけ、SNSを眺める。しかし、画面の中には友人の結婚報告、3人の死者が出た痛ましい事故のニュース、おすすめスイーツビュッフェの情報、人気アイドルのスキャンダルなど情報が溢れ、その波に思わずばたりと倒れ込んでしまった。
 ただ、目を閉じて眠ってしまおうにもぐるぐると漠然とした不安が襲うばかりだ。
 むくりと起き上がり呟く。

「ご飯つくろ…」


○材料
・ネギの白いところ(みじん切りのパックでも可)
・豚肉(100グラムくらい。無くても可)
・炊いた米(1~1.5合)
・ごま油(大さじ2)
・ニンニクチューブ(お好み。親指くらい。)
・焼肉のタレ(お好み。米が茶色になるまで)
・香味ペースト(お好み。15センチくらい)

○作り方
 まず、ネギをみじん切りにする。パックの小ネギでもいいんだけど今回は怨念を込めて細かく。
 フライパンにごま油を入れて、中火で熱する。熱くなる前にニンニクを入れる。
 そのフライパンにみじん切りしたネギを入れる。

「肉、余ってたよな…」

 冷蔵庫に余っていた豚肉を思い出したのでちぎって入れる。肉が白っぽくなるまで炒める。
 米を投入して炒めながら混ぜる。
 焼肉のたれと香味ペーストをいれ、混ぜながら炒める。
 盛り付けたら完成!


「お嬢、ご飯できたよ」
「まあ美味しそう!これはなんというお料理です?」

 正直、名前も何もない。

「うーんと、焼肉のタレ炒飯」

 二人は焼肉のタレ炒飯をぱくりと口に入れる。すると、タレの甘い香りとたっぷり入れたニンニクの香りが押し寄せる。

「これは初めて食べる味です!美味しいですわ!」

 お嬢様にも気に入られたのであれば万々歳だ。ネギも刻んだし、多分野菜も摂れている。
 ほっと落ち着いたところで思わず愚痴がこぼれる。

「お嬢はいいよね~?まだ子供だもん、年下に怒られるなんてことないでしょ?あのね、大人になると、年下だけど先輩とか、年下だけど自分よりデキる奴と山ほど出会わないといけなくなるんだよ」
「それは大変そうですわね~」
「今日もバイト先の年下の先輩に怒られちゃってさ、情けないよ。そんなの誰に習ったんですか!?とか言われて。あ~あ、早く億万長者になってバイトなんてさっさと辞めちゃいたいよ!」

 どん、と肘をつくとまい子と目があう。改めて、子供相手にこんな愚痴を聞かせていることを後ろめたく思った。

「ごめん…」
「いいえ、構いませんわ。でも、年齢を気にされるのであれば、年下からの声も真摯に受け止め、改善することが年長者の務めだとは思いますわね」

 先ほどの後悔が帳消しになるほどのコメントだ。この子、本当に小学生か?
 まい子はなんでもない顔で、またスプーンを口に運んだ。

「まあ、不器用なりに頑張ってらっしゃるのは想像できますけれどね」

 私もまたスプーンを進め、お嬢様はどんなアイスクリームなら気にいるだろうかと思いながら焼肉のタレ炒飯を噛みしめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

馬小屋の令嬢

satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。 髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。 ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

処理中です...