ズボラ飯とお嬢と私

さくま

文字の大きさ
上 下
5 / 16

第5話 キャベツパスタとお嬢と私

しおりを挟む
 私がまい子と暮らし始めてから変わったこと。暮らしにバイオリンの音色が加わった。
 持たせてもらっているであろう、最新のスマートフォンからその音色は聞こえてくる。同じ空間にいる私に気を遣ってなのか、そもそも持っていないだけなのか、イヤホンの類はしていない。
 時間や状況は弁えているし、まあ、優雅な感じもするので、ここ最近は私も一緒になって聴いてみている。

「お嬢はさ、バイオリンが好きなの?」

 音楽に委ねるように、とろんと閉じていた瞳が開く。

「しおりさん、バイオリンがお分かりで?」

 大人を舐めるなよとゲンコツでも食らわせてやろうかと思ったが、話を聞くとこの曲の奏者はまい子の父親の友人だそうだ。とは言ってもただの友人ではなく、世界を飛び回り演奏を続ける大物のバイオリニストで、日本にいる期間は年間を通してもかなり少ないという。名前を聞いてもピンと来なかった。

「ま、まあ名前くらいは聞いたことあるかな。私もそれなりにクラシックとか聴くし」

 本当ですか?とでも言いたげにジロリと睨むまい子の視線を遮るように昼食の準備を始めた。


◯材料(2人前)
・パスタ(150~200g)
・キャベツ(拳くらいの大きさ)
・チューブニンニク(親指くらいの大きさ)
・オリーブオイル(大さじ2)
・塩胡椒(お好み)
・塩(パスタを茹でる用)

◯作り方
お湯をたっぷり沸かす。その間にキャベツを一口サイズに切る。
お湯に塩をたっぷり入れて、パスタを表示より短めの時間で茹でる。この時に茹で汁をお玉二杯くらい取っておく。
パスタが茹で上がったら、ザルに移す。

フライパンにオリーブオイルとニンニクを入れ、弱目の中火で香りがするまで熱する。
キャベツを入れてしんなりするまで炒める。
キャベツがしんなりしたら、茹で汁を入れて手早く混ぜる。
パスタ、塩胡椒を入れてよく混ぜ合わせる。
お皿に盛って完成!


「バイオリン聴きながらパスタ食べるとさ、おしゃれな味に感じない?」
「しおりさんはいつも面白い発想をされますわよね」

 馬鹿にされているのか肯定されているのか分からなかったが、味がいいことは確かだ。

 まい子が画面をなぞると曲が切り替わった。それは彼女が気に入ってよく聴く曲で、自分も自然とメロディを覚えてきた。
 便利な世の中になったな、と思う。生まれた頃から携帯電話はあったが、自分のものを自分で操作するなど子供の頃はあり得なかった。まい子くらいの小学生や、ベビーカーの赤ちゃんが画面をタッチしているといまだに少し驚く。
 誰でも、どの世界にもアクセスできる時が来たのだ。自分で自分を年寄り扱いしたいわけではないが、時代は変わったなとこの間の友人との話を思い出しながらまた一口、パスタを口に含んだ。

 弦が、ポンと弾かれる音がした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,064pt お気に入り:182

冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,520pt お気に入り:179

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:6,390pt お気に入り:16

『畑から始める無限進化 〜最弱農家の異世界成り上がり〜』

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,443pt お気に入り:247

処理中です...