ズボラ飯とお嬢と私

さくま

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第18話 レタスのピリ辛レンジ蒸しとお嬢と私

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「私って、お母さんみたい?」

 アルバイトから帰ってきた私はリュックを肩から下ろしながら問いかけた。返事はない。しかし、独り言を放ったつもりもない。この真剣な問いを華麗に無視してみせたのは、同居人であるお嬢様小学生の宝城まい子だ。ちんまりと座って宿題の最中の彼女は「あなたの無駄話に付き合う気は無い」とでも言いたげに、算数ドリルからわざと目を離さない。
 そっちがその気ならそれで結構。そもそも小学生なんかにこの気持ちがわかるわけないんだ。
 わざとらしくむくれながらまい子を睨みつけると、視線を感じたのか鉛筆を置いてこちらを睨み返してきた。

「あの、あなたをお母様のようだと思ったことは一度もありません。何か?」

 20代も半ばになると、守られるよりも守る側、頼るよりも頼られる側、そんな場面が増えてくる。職場でも年下や後輩が増えてきて、柄にもなくアドバイスなんかもするようになった。学生時代からビビられるよりも舐められる方がマシ。誰かにとってのお姉さんであることは、なんだか少し、居心地が悪かった。
 今日も大学生の女の子に適度な仕事のサボり方をレクチャーしていたのだが、その時に放たれた一言がこびりついてはなれないのだ。

「夏目さんって、お母さんみたいで好きです!」

 もちろん彼女に悪気はない。それはわかっているが、ついにお姉さんどころか母親と呼ばれる日が来たか・・・。

 きっと彼女なりに「包容力がある」とか「世話を焼いてくれる」みたいなイメージを「お母さんに」例えてくれたのだろう。
 しかし私は「なんか疲れている」とか「おばさん」とか連想してしまった。

「その方に悪意はないのはわかっているのでしょう?親しみとリスペクトを込めた軽口に対して勝手にそのような解釈をしてはその方が気の毒です。胸を張って素直に受け取りなさいな」

 小学生の口から飛び出たとは思えない真っ当な回答に思わずお腹の虫がぐぅと答えた。

⚪︎材料(一人前)
・レタス(4分の1)
・めんつゆ(大さじ2)
・ニンニクチューブ(小さじ1)
・コチュジャン(お好み。今回は大さじ1)

⚪︎作り方
耐熱容器にレタスをちぎって入れる。
めんつゆ、ニンニクチューブ、コチュジャンも加える。
ラップをかけてレンジで500W2分。
よく和えたら完成!


 レンジから上がったものをぐるぐる混ぜながらまい子に聞く。

「ねえ、お嬢のお母さんってどんな人なの?」
「私のお母様?そうですね・・・。私の憧れの人とでも言いましょうか。白い肌と黒くて長い髪のコントラストがとても美しくて、ぴっと伸びた背筋が格好よくて、いつも笑顔で家族や周りを照らしている方です。いつもお忙しい方でしたけど、二人になれた時は優しく頭を撫でてくださるんです」

 ウットリとした眼差しでそう答えた。なるほど確かにそんな女性と万年ボサボサの私は似ても似つかないわけだ。

「ま、アンタのお母さんはレタスをレンチンなんてしないわな…」

 この間買った鱈と昨日の味噌汁で夕飯にするか…と頭をボリボリ掻きながら作戦を立てる。
 余った左手を小さな手が引っ張ってくる。

「でも、あなたに感謝していないわけではありませんわ。そこは勘違いなさらないで?」

 手の方向に目をやると、彼女はパチンとウインクを決めてみせた。
 この子の母親はきっと恐ろしい女だ。そう思った。
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