18 / 20
第18話 レタスのピリ辛レンジ蒸しとお嬢と私
しおりを挟む
「私って、お母さんみたい?」
アルバイトから帰ってきた私はリュックを肩から下ろしながら問いかけた。返事はない。しかし、独り言を放ったつもりもない。この真剣な問いを華麗に無視してみせたのは、同居人であるお嬢様小学生の宝城まい子だ。ちんまりと座って宿題の最中の彼女は「あなたの無駄話に付き合う気は無い」とでも言いたげに、算数ドリルからわざと目を離さない。
そっちがその気ならそれで結構。そもそも小学生なんかにこの気持ちがわかるわけないんだ。
わざとらしくむくれながらまい子を睨みつけると、視線を感じたのか鉛筆を置いてこちらを睨み返してきた。
「あの、あなたをお母様のようだと思ったことは一度もありません。何か?」
20代も半ばになると、守られるよりも守る側、頼るよりも頼られる側、そんな場面が増えてくる。職場でも年下や後輩が増えてきて、柄にもなくアドバイスなんかもするようになった。学生時代からビビられるよりも舐められる方がマシ。誰かにとってのお姉さんであることは、なんだか少し、居心地が悪かった。
今日も大学生の女の子に適度な仕事のサボり方をレクチャーしていたのだが、その時に放たれた一言がこびりついてはなれないのだ。
「夏目さんって、お母さんみたいで好きです!」
もちろん彼女に悪気はない。それはわかっているが、ついにお姉さんどころか母親と呼ばれる日が来たか・・・。
きっと彼女なりに「包容力がある」とか「世話を焼いてくれる」みたいなイメージを「お母さんに」例えてくれたのだろう。
しかし私は「なんか疲れている」とか「おばさん」とか連想してしまった。
「その方に悪意はないのはわかっているのでしょう?親しみとリスペクトを込めた軽口に対して勝手にそのような解釈をしてはその方が気の毒です。胸を張って素直に受け取りなさいな」
小学生の口から飛び出たとは思えない真っ当な回答に思わずお腹の虫がぐぅと答えた。
⚪︎材料(一人前)
・レタス(4分の1)
・めんつゆ(大さじ2)
・ニンニクチューブ(小さじ1)
・コチュジャン(お好み。今回は大さじ1)
⚪︎作り方
耐熱容器にレタスをちぎって入れる。
めんつゆ、ニンニクチューブ、コチュジャンも加える。
ラップをかけてレンジで500W2分。
よく和えたら完成!
レンジから上がったものをぐるぐる混ぜながらまい子に聞く。
「ねえ、お嬢のお母さんってどんな人なの?」
「私のお母様?そうですね・・・。私の憧れの人とでも言いましょうか。白い肌と黒くて長い髪のコントラストがとても美しくて、ぴっと伸びた背筋が格好よくて、いつも笑顔で家族や周りを照らしている方です。いつもお忙しい方でしたけど、二人になれた時は優しく頭を撫でてくださるんです」
ウットリとした眼差しでそう答えた。なるほど確かにそんな女性と万年ボサボサの私は似ても似つかないわけだ。
「ま、アンタのお母さんはレタスをレンチンなんてしないわな…」
この間買った鱈と昨日の味噌汁で夕飯にするか…と頭をボリボリ掻きながら作戦を立てる。
余った左手を小さな手が引っ張ってくる。
「でも、あなたに感謝していないわけではありませんわ。そこは勘違いなさらないで?」
手の方向に目をやると、彼女はパチンとウインクを決めてみせた。
この子の母親はきっと恐ろしい女だ。そう思った。
アルバイトから帰ってきた私はリュックを肩から下ろしながら問いかけた。返事はない。しかし、独り言を放ったつもりもない。この真剣な問いを華麗に無視してみせたのは、同居人であるお嬢様小学生の宝城まい子だ。ちんまりと座って宿題の最中の彼女は「あなたの無駄話に付き合う気は無い」とでも言いたげに、算数ドリルからわざと目を離さない。
そっちがその気ならそれで結構。そもそも小学生なんかにこの気持ちがわかるわけないんだ。
わざとらしくむくれながらまい子を睨みつけると、視線を感じたのか鉛筆を置いてこちらを睨み返してきた。
「あの、あなたをお母様のようだと思ったことは一度もありません。何か?」
20代も半ばになると、守られるよりも守る側、頼るよりも頼られる側、そんな場面が増えてくる。職場でも年下や後輩が増えてきて、柄にもなくアドバイスなんかもするようになった。学生時代からビビられるよりも舐められる方がマシ。誰かにとってのお姉さんであることは、なんだか少し、居心地が悪かった。
今日も大学生の女の子に適度な仕事のサボり方をレクチャーしていたのだが、その時に放たれた一言がこびりついてはなれないのだ。
「夏目さんって、お母さんみたいで好きです!」
もちろん彼女に悪気はない。それはわかっているが、ついにお姉さんどころか母親と呼ばれる日が来たか・・・。
きっと彼女なりに「包容力がある」とか「世話を焼いてくれる」みたいなイメージを「お母さんに」例えてくれたのだろう。
しかし私は「なんか疲れている」とか「おばさん」とか連想してしまった。
「その方に悪意はないのはわかっているのでしょう?親しみとリスペクトを込めた軽口に対して勝手にそのような解釈をしてはその方が気の毒です。胸を張って素直に受け取りなさいな」
小学生の口から飛び出たとは思えない真っ当な回答に思わずお腹の虫がぐぅと答えた。
⚪︎材料(一人前)
・レタス(4分の1)
・めんつゆ(大さじ2)
・ニンニクチューブ(小さじ1)
・コチュジャン(お好み。今回は大さじ1)
⚪︎作り方
耐熱容器にレタスをちぎって入れる。
めんつゆ、ニンニクチューブ、コチュジャンも加える。
ラップをかけてレンジで500W2分。
よく和えたら完成!
レンジから上がったものをぐるぐる混ぜながらまい子に聞く。
「ねえ、お嬢のお母さんってどんな人なの?」
「私のお母様?そうですね・・・。私の憧れの人とでも言いましょうか。白い肌と黒くて長い髪のコントラストがとても美しくて、ぴっと伸びた背筋が格好よくて、いつも笑顔で家族や周りを照らしている方です。いつもお忙しい方でしたけど、二人になれた時は優しく頭を撫でてくださるんです」
ウットリとした眼差しでそう答えた。なるほど確かにそんな女性と万年ボサボサの私は似ても似つかないわけだ。
「ま、アンタのお母さんはレタスをレンチンなんてしないわな…」
この間買った鱈と昨日の味噌汁で夕飯にするか…と頭をボリボリ掻きながら作戦を立てる。
余った左手を小さな手が引っ張ってくる。
「でも、あなたに感謝していないわけではありませんわ。そこは勘違いなさらないで?」
手の方向に目をやると、彼女はパチンとウインクを決めてみせた。
この子の母親はきっと恐ろしい女だ。そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
馬小屋の令嬢
satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。
髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。
ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる