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6章 王子の調査
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もう夕刻となってしまったが、ディデアの港から船に乗り、そのままボナールへと入国する。
ランバラルドから直接入国するより、ディデアを経由した方が審査が甘い。
一応、行商人ライとしての旅券は発行しているが、余計ないざこざは無い方がいい。
護衛がいないので短剣を身につけているが、入国時に見咎められることはなかった。
他国のことだからいいけど…甘過ぎる。
鞄の底も細工して小さい刃物を仕込んであったのに、改められることもなく拍子抜けだ。
港のトイレで短剣をすぐに取り出せるように腰へ移し、上から服を被せてカモフラージュする。
そのまま宿屋へと向かった。
宿屋に併設されている食堂で簡単な食事を取る。
所持金がギリギリしかないので、あまり贅沢はできない。
食べ終わって席を立とうとした時に、隣のテーブルで話す内容が気になり、再度腰を落ち着ける。
隣は、旅の行商人のようだ、
「いやあ、ボナールも敗戦しちまってからは、やっぱり景気が悪いなあ」
「この1ヶ月半、雨が降らないのも原因らしいぜ。卸先の店主に聞いたが、このまま雨が降らないと作物が大打撃らしい」
「ボナールは安定して穀物が育つ国だったのになぁ。ここ数十年は干ばつもなく飢饉もなかっけどなぁ」
「戦争には負けるし、踏んだり蹴ったりだな。当分の間はボナール以外と取り引きするようにするよ」
「そうだな。明日の船で帰ろう」
干ばつか…。
そういえば、契約した葡萄園はどうしただろうか。
明日、訪ねて行ってみよう。
今度こそ、店主に金を払い、オレはあてがわれた部屋へと戻って行った。
翌朝、オレは契約した葡萄園へと足を運んだ。
「お兄さん、いらっしゃい。久しぶりね」
オレが前と同じように葡萄園を覗き込んでいると、アンナがオレを見つけて声をかけてきた。
「おう。久しぶりだな。どうだ、元気か?オレの葡萄も元気か?」
「もぉっ、まだ卸してないからわたしの葡萄よ!でも元気!うちの葡萄は大丈夫よ」
「やあ、いらっしゃい」
アンナの声を聞きつけて、親父さんも葡萄園から出てきた。
「この前は契約をありがとうございました。今日は、どうしたんですか?」
「いや、最近、日照りが続いていると聞いたので気になってな。葡萄やほかの作物は大丈夫か?」
親父さんはまたワイナリーの中の試飲コーナーのテーブルへと誘ってくれた。
テーブルにつくと、以前と同じようにアンナが葡萄とコップ半分のワインを出してくれる。
「相変わらずうまいな」
「そうでしょ!うちの葡萄は平気なのよ」
「うちのって、他では違うのか?」
「それは…」
アンナが決まり悪そうに俯くと、親父さんがアンナに奥へ行くように言った。
「すみません。ご心配をかけるような言い方をして」
「いや、かまわんが…。どうかしたのか?」
「だんなが言ったように、もう1カ月以上、雨が降らないんです。ただ、うちは大丈夫というのには訳がありまして…」
「訳とはなんだ?」
「ランバラルドとの国境から、ずっと流れている川があるんですが、何故かそこの近くの作物は雨が降らなくてもしおれないんです。うちも近くとは言い難いですが、なんとか川の恩恵を受けられたようで、葡萄も実ったままです。そんな奇跡がいつまで続くか。あとは、うちより離れたところの作物が万が一枯れてしまったら、うちだけ無事だとどんなことになるか…」
「…そうか…」
川に何かあるのか聞いたが、親父さんはもちろん、誰もわかる者はいないらしい。
「雨が降ることを祈っているよ。でも、時期的にも、東から雨雲が移ってくる頃だろ?きっと、もうすぐ降るさ」
そうしてオレは、2房の葡萄を土産に買い、葡萄園を後にした。
王都にも行ってみたが、以前と生活はそんなに変わっていないように見受けられる。
ただ、やはり税金は上がったようだな。
町の人々が不満を漏らしていた。
一度、フレッドを使いにやって、何に金を使っているのか聞き出すべきだな。
今回は馬を連れてきていないので、乗り合い馬車で数日かけて国境まで行く。
森を越えればランバラルドという森の手前で、ランバラルドの関所を通らねばならない。
だが、ランバラルドで発行した旅券を持っているオレは、簡単に森まで行ける。
ボナールと森の間にランバラルドの関所があり、山を迂回して森を抜けたところにもランバラルドの関所を設けている。二つの関所を抜けないとランバラルドには来られない。
ボナールからの移民希望者は、どちらかの関所ではねられて、ランバラルドへ入国ができないということだろう。
一般人に混じって関所を抜ける。
特に問題があるようには思えない。
審査も適切だった。
さあ、早く国に帰って今後を相談しよう。
行程のほとんどを終え、ランバラルドの城へ帰ろうとしたオレに問題が降りかかったのは、この後すぐのことだった。
ランバラルドから直接入国するより、ディデアを経由した方が審査が甘い。
一応、行商人ライとしての旅券は発行しているが、余計ないざこざは無い方がいい。
護衛がいないので短剣を身につけているが、入国時に見咎められることはなかった。
他国のことだからいいけど…甘過ぎる。
鞄の底も細工して小さい刃物を仕込んであったのに、改められることもなく拍子抜けだ。
港のトイレで短剣をすぐに取り出せるように腰へ移し、上から服を被せてカモフラージュする。
そのまま宿屋へと向かった。
宿屋に併設されている食堂で簡単な食事を取る。
所持金がギリギリしかないので、あまり贅沢はできない。
食べ終わって席を立とうとした時に、隣のテーブルで話す内容が気になり、再度腰を落ち着ける。
隣は、旅の行商人のようだ、
「いやあ、ボナールも敗戦しちまってからは、やっぱり景気が悪いなあ」
「この1ヶ月半、雨が降らないのも原因らしいぜ。卸先の店主に聞いたが、このまま雨が降らないと作物が大打撃らしい」
「ボナールは安定して穀物が育つ国だったのになぁ。ここ数十年は干ばつもなく飢饉もなかっけどなぁ」
「戦争には負けるし、踏んだり蹴ったりだな。当分の間はボナール以外と取り引きするようにするよ」
「そうだな。明日の船で帰ろう」
干ばつか…。
そういえば、契約した葡萄園はどうしただろうか。
明日、訪ねて行ってみよう。
今度こそ、店主に金を払い、オレはあてがわれた部屋へと戻って行った。
翌朝、オレは契約した葡萄園へと足を運んだ。
「お兄さん、いらっしゃい。久しぶりね」
オレが前と同じように葡萄園を覗き込んでいると、アンナがオレを見つけて声をかけてきた。
「おう。久しぶりだな。どうだ、元気か?オレの葡萄も元気か?」
「もぉっ、まだ卸してないからわたしの葡萄よ!でも元気!うちの葡萄は大丈夫よ」
「やあ、いらっしゃい」
アンナの声を聞きつけて、親父さんも葡萄園から出てきた。
「この前は契約をありがとうございました。今日は、どうしたんですか?」
「いや、最近、日照りが続いていると聞いたので気になってな。葡萄やほかの作物は大丈夫か?」
親父さんはまたワイナリーの中の試飲コーナーのテーブルへと誘ってくれた。
テーブルにつくと、以前と同じようにアンナが葡萄とコップ半分のワインを出してくれる。
「相変わらずうまいな」
「そうでしょ!うちの葡萄は平気なのよ」
「うちのって、他では違うのか?」
「それは…」
アンナが決まり悪そうに俯くと、親父さんがアンナに奥へ行くように言った。
「すみません。ご心配をかけるような言い方をして」
「いや、かまわんが…。どうかしたのか?」
「だんなが言ったように、もう1カ月以上、雨が降らないんです。ただ、うちは大丈夫というのには訳がありまして…」
「訳とはなんだ?」
「ランバラルドとの国境から、ずっと流れている川があるんですが、何故かそこの近くの作物は雨が降らなくてもしおれないんです。うちも近くとは言い難いですが、なんとか川の恩恵を受けられたようで、葡萄も実ったままです。そんな奇跡がいつまで続くか。あとは、うちより離れたところの作物が万が一枯れてしまったら、うちだけ無事だとどんなことになるか…」
「…そうか…」
川に何かあるのか聞いたが、親父さんはもちろん、誰もわかる者はいないらしい。
「雨が降ることを祈っているよ。でも、時期的にも、東から雨雲が移ってくる頃だろ?きっと、もうすぐ降るさ」
そうしてオレは、2房の葡萄を土産に買い、葡萄園を後にした。
王都にも行ってみたが、以前と生活はそんなに変わっていないように見受けられる。
ただ、やはり税金は上がったようだな。
町の人々が不満を漏らしていた。
一度、フレッドを使いにやって、何に金を使っているのか聞き出すべきだな。
今回は馬を連れてきていないので、乗り合い馬車で数日かけて国境まで行く。
森を越えればランバラルドという森の手前で、ランバラルドの関所を通らねばならない。
だが、ランバラルドで発行した旅券を持っているオレは、簡単に森まで行ける。
ボナールと森の間にランバラルドの関所があり、山を迂回して森を抜けたところにもランバラルドの関所を設けている。二つの関所を抜けないとランバラルドには来られない。
ボナールからの移民希望者は、どちらかの関所ではねられて、ランバラルドへ入国ができないということだろう。
一般人に混じって関所を抜ける。
特に問題があるようには思えない。
審査も適切だった。
さあ、早く国に帰って今後を相談しよう。
行程のほとんどを終え、ランバラルドの城へ帰ろうとしたオレに問題が降りかかったのは、この後すぐのことだった。
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