人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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完結後 番外編 元人質姫と忘れんぼ王の結婚式

3. おじいちゃん戦争勃発

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「まあ、ジルベール陛下も到着されたのね。でもこちらはギルバート様にご用意したお部屋なので、ジルベール陛下にはご用意している別のお部屋に行っていただいて」
シャーロットが侍従に言うと、30代半ばであろう侍従が渋い顔をした。
「申し訳ありません。すでにこちらに向かっており、本当に間も無くこちらに」

侍従がそこまで言ったところで、派手に部屋のドアが開いた。

「シャーロット、出迎えがないではないか。私を誰だと思っている!」
背の高い、黒髪でしっかりした顔立ちの男がズカズカと室内に入ってくる。
言わずと知れたジルベール陛下である。

シャーロットは心の中でため息をつき、立ち上がってジルベールに挨拶をする。
「ジルベール陛下、遠いところをお越しいただきありがとうございます。私はてっきりジルベール陛下はランバラルドでの披露宴にいらっしゃるものとばかり思っておりましたわ」
ここ数年のやり取りで、シャーロットはジルベールを恐れることなく話せるようになっていた。

「可愛いわたしのシャーロットの結婚式に出席せず、披露宴だけなどと寂しいことを言うな」
ジルベールはシャーロットの元に足を進め、シャーロットにハグをする。

ギルバートはそれをちらりと横目で見て、紅茶を一口飲み下してから、立ち上がった。
「ジルベール陛下、はじめまして。わたしはギルバート・フォンテールと申します。今日は結婚式にご出席のため、遠いところをおいでくださったようで、ありがとうございます」

それを聞いてジルベールは片眉をピクリとさせて、シャーロットから体を離す。
「フォンテールと言えば、ランバラルドの前王の弟だな。その息子か? では、シャーロットとは兄妹でもなんでもないではないか」
「ええ。血の繋がりはありませんが、シャーロットがランバラルドに来た数年前から、妹のように可愛がっております」

シャーロットを挟み、バチっと見えない火花が散る。

「あのー、どうでもいいことですが、私はジルベール陛下のものでもなければ、ギルバート様の妹でもありませんよー」
こそっとシャーロットが言うが、ふたりの耳には届かない。

冷たい目線が交差する中、ふたりは形式上握手を交わし、ジルベールがシャーロットのぴったり隣に腰を下ろす。
それを見てギルバートのこめかみにピキッと青筋が立つ。
「ジルベール陛下、シャーロットの隣に座るその距離は、嫁入り前の娘との距離ではない気がしますが?」
「何を言うかフォンテール殿。わたしとシャーロットの距離は、以前よりこの距離だ」

本当は、ジルベールはいつも節度を持った距離でシャーロットに接しているが、今日はギルバートに見せつけるように近くに座っている。
シャーロットは、ギルバートでさえこんなに不機嫌になるのだから、やきもち焼きのライリーがこの場にいないことにホッとしていた。
「ジルベール陛下、このお部屋はギルバート様にご用意したお部屋ですの。ジルベール陛下には別のお部屋をご用意しておりますので、そちらでお寛ぎになってはいかがですか?」
ホッとはしていたが、めんどくさいこの状況を打破すべく、ジルベールに提案するがジルベールは首を縦に振らなかった。
それはもちろん、シャーロットがこの部屋にいるからだ。

ギルバートはそれを見て、うっすら笑みを浮かべる。
「ジルベール陛下、ではどうぞこちらでお寛ぎください。シャーロットが自ら作った絶品のお菓子もありますし」
ジルベールはテーブルの上のお菓子に視線を移し、悔しそうに歯軋りする。
「シャーロットが作ったのか?」
シャーロットはジルベールの刺すような視線を受けて、じりじりとお尻を後退させる。
「え、ええ。私が作りました」
「何故わたしには作らん?」
「だって、ジルベール陛下が一番お好きなのはボナールの温泉饅頭ではありませんか。あれは私には作れませんわ」

ジルベールはふんっと鼻で息をする。
「まあ、よい。ところでシャーロット。お前がブレンドして帝国に送ってくれたハーブティだが、あれはよかったぞ。シャーロットの言うように、胃腸の不快感がなくなった。ブレンドしてくれたものだから効果も絶大というものだ」
「お気に召していただけてよかったですわ。私もミントティーとレモングラスのハーブティは愛飲しておりますの。ハーブティは持病がある時は注意が必要ですが、体調によって選んで飲むと、手軽に改善できますものね」
シャーロットはジルベールの意図に気付かず、ニコニコと自分でブレンドしたハーブティの効果を説明する。

ギルバートはシャーロットのドレスに目を移す。
「シャーロット、そういえばわたしが贈ったドレスは気に入ってもらえたか?」
急に話を振られ、一瞬戸惑ったが、シャーロットはすぐに返事をする。
「ギルバート様、ありがとうございます。とても気に入っておりますわ。ランバラルドで流行っているというドレスですもの。結婚したらあちらで着ようと思っています」

今度はジルベールがシャーロットに話をする。
「シャーロット、わたしが贈った銀細工も届いておるだろう。どうだ気に入ったか?」
「銀のペーパーウエイトのことですわね? もちろん、気に入っております。銀でできた可愛いリスが二匹ちょこんと乗っているペーパーウエイトは、執務室で愛用しておりますわ。疲れた時に見ると癒されますの」
「そうかそうか。では、今度は銀のスプーンを贈ってやろう。銀のスプーンをくわえて生まれた子どもは幸せになるという伝説がある。これから結婚するシャーロットへのわたしからの贈り物だ」
「まあ! 銀のスプーンですの? 嬉しいです」

ギルバートは浮かべた笑みを貼り付けたまま、口を開く。
「では、わたしもシャーロットに贈り物をしよう。子どもが産まれたらゆっくりと過ごせるように、ランバラルドの大きな別荘を建てよう。いつでもきて、ゆっくりと過ごすがよい」
「何を! では、帝国にも大きな別荘を建てるぞ。子どもが遊べるように、プールを作ってやる。帝国にはプールというものがあって子どもたちは夏場そこで水遊びをするのだ。どうだランバラルドにはプールという文化はないであろう」
負けじとジルベールが言うと、ギルバートは鼻で笑う。
「お言葉ですがジルベール陛下。シャーロットはランバラルドに嫁いでくるのです。赤子に長旅は酷というもの。ランバラルド国内の別荘でちょうど良いのです」
「では、長旅にならぬように、通る道に機関車の線路を通そう。ボナール城から港までと、帝国の港から城までの間全てを線路で繋ぐのだ。かなりな日数を短縮できる。まだ機関車は貴重なもので、帝国でも試験的に穀物栽培地から輸出用の港までしか通しておらぬが、この際構わん。全線シャーロットのために開通させるぞ」
「ジルベール陛下、残念ですがシャーロットは子どもはランバラルドで産みます。ボナール城から線路を引いても無意味ですし、かと言ってランバラルドに線路は引かせません」
「なんだとっ!」

シャーロットは延々と続く2人の言い合いを口をあんぐりと開けて見ていた。

何故? 何故なの?
どうしてか2人が孫を取り合う、父方の祖父と母方の祖父の戦いをしているように見えるわ。
私って孫ポジション? そして、ギルバート様とジルベール陛下はおじいちゃんポジション?

2人の争いは、ジュディが結婚式の打ち合わせでシャーロットを呼びに来るまで続けられるのであった……。
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