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完結後 番外編 元人質姫と忘れんぼ王の結婚式
7. 最終回 そして伴侶となった
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厳かに式が始まる。
ボナールの大神殿。
ステンドグラスから光が溢れて、虹のように見える。
扉から一直線につながる赤い絨毯の上を、白いドレスに身を包み、ブーケではなく王笏だけを持ち、シャーロットは祭壇へと進む。
王笏には、真ん中の宝石が埋められている部分に突起があり、そこにシャーロットが王位継承してから祈りを捧げた指輪と、この結婚の為に用意された七色の宝石が埋め込まれた指輪の二つが掛けられている。
祭壇へ進む絨毯の両サイドには、式に出席している少数の貴族と来賓が長椅子に座り、静かにその様子を見守っていた。
パイプオルガンからの音が止むのと、シャーロットが祭壇に到着するのはほぼ同時だった。
シャーロットは神官長の前に跪き、頭を垂れる。
祭壇の端から神官がふたり、神官長に近付く。
ふたりの手には、神木の枝と聖水の入った水瓶があった。
神官長は、青葉のついた神木の枝を手にし、シャーロットの頭上に翳す。
「あなたのこれからの人生が、幸せ溢れたものになりますように」
そのまま、一振りして、神官の手に戻した。
シャーロットが立ち上がると、再びパイプオルガンの音がして、扉からライリーが現れた。
一歩一歩、ゆっくりと祭壇へと歩いてくる。
シャーロットは白いタキシード姿のライリーを見て、涙が出そうになる。
ああ、ライリー陛下。お姿を見るのは久しぶり。
結婚が決まってから、ランバラルドと国を統一するために、色々な話し合いが国内であったり、ライリー陛下も同盟国との会議もあってお忙しそうになさっていてお会いする時間もありませんでしたわ。
でも、今日からはずっと一緒にいられるのね。
良かった……嬉しい。
一方、ライリーも祭壇で待つシャーロットを見て胸が一杯になっていた。
シャーロット、綺麗だ。
白いドレスがフワフワしていて天使の羽のようで。
長かった……。
一時は他人の妻だと誤解をして諦めなければならないと思っていたけど、こうしてシャーロットを正妃として結婚することができて、本当に良かった。
辛い思いもさせてしまった。
ボナールで女王として、立派にやって来たシャーロットを、オレはこれから全力を尽くして護ろう。
オレにできるすべてで、シャーロットを幸せにしよう。
そして、ライリーも祭壇まで来ると、神官長の前に跪く。
シャーロットもそれに合わせて再度跪いた。
神官長は、ライリーの頭上に神木の枝を翳す。
「シャーロット陛下を見つけてくださってありがとうございます」
神官長はライリーに小さく囁く。
次に、枝を聖水に浸し、今度は2人の頭上で三度大きく枝を振るった。
細かい水飛沫が上がり、大神殿のステンドグラスから差し込む太陽の光に反射して、虹色が2人の頭上を覆った。
「神の祝福が得られました。これでお2人はご夫婦となられたのです。お互いを思い遣り、苦しいことも、幸せなことも、分かち合い、夫婦の絆を忘れないでいてください」
神官長の言葉が終わると、シャーロットとライリーは立ち上がる。
ライリーはシャーロットの王笏に掛けられた七色の宝石が埋め込まれた指輪を取り、シャーロットの左手薬指にそっと挿し入れた。
シャーロットも祈りを込めた指輪を王笏から外し、王笏は神官長に預けて、ライリーの左手を取った。
「ライリー陛下。大好きです」
心から想いが溢れ出て、予定になくシャーロットが言葉を紡ぎ、ライリーの薬指に指輪をはめた。
ライリーの心に、シャーロットの想いが染み込んで来る。
シャーロットはライリーを窺うように、おずおずとライリーの顔を見上げた。
ライリーはそんなシャーロットを見つめる。
絶対に、シャーロットを幸せにする。
シャーロットが大事にしているボナールも、守ってみせる……!
心新たに誓ったその瞬間、ライリーの薬指にはめられた指輪が輝きを増した。
それは、着席していた招待客にもわかるほど鮮やかに、神々しいまでの美しさを放った。
「こ、これは……!」
式を取り仕切っていた神官長も驚きを露わにする。
指輪は本来、王たる者が愛する者を見つけた時に、薄っすらと虹色になり、その伴侶となった者が、伴侶しての自覚と王を心から愛し、支えることができるのに比例して、徐々に鮮やかな虹色に変化をするはずだったのだ。
実際に、神官長は20年ほど前のコルビー陛下の結婚式にも立ち合ったが、その時は薄っすらとした虹色をした指輪は、式の間中そのままの色だった。
「ほっほっほ。シャーロット陛下、あなたは本当に良い伴侶に巡り会えたようですな」
神官長は2人に笑みを向け、次に長椅子に座る出席者に向けて、宣言をする。
「神の祝福を受け、虹の祝福も受けて今、ここに新たなる夫婦が誕生いたしました。2人はどんなことがあっても手を取り合い、困難も乗り越えて行くでしょう。国王陛下夫妻と、この国は今後、見たこともないような幸せな未来を迎えると、わたしは予言します」
かつて、前王の結婚式でも、その他の貴族の結婚式でも、神官長や神官が未来の幸せを予言したことなどなかった。
目の前で繰り広げられた奇跡と、神官長の言葉に、そこにいる全ての人々が歓声を上げるのだった。
結婚式が終わると、城のバルコニーに2人は立ち、国民に手を振って見せた。
即位の時のようなパレードは行わなかったものの、白いドレスとそろいのタキシードを着た女王と王を見て、民衆は湧き上がった。
もちろん、城の空には大きな虹がかかっている。
町では祭りが開催されるらしい。
夜は、式に出席した高位貴族と他国の身分の高い出席者だけで簡単なパーティーが開かれた。
何故か酒に酔ったギルバートとジルベールが、娘をライリーに取られた父親のように号泣し、他の来賓に引かれていたが、他の人々はみんな祝杯を上げ、幸せな空気でパーティーは締められたのだった。
その夜、ライリーはシャーロットの部屋の前に緊張した面持ちで立っていた。
今日から2人は夫婦であり、寝室は一緒に使うこととなっている。
入浴を済ませ、これからシャーロットに会えると思うと、はやる心と緊張で心臓が早鐘を鳴らす。
コンコン。
やっとの思いでノックをすると、鈴を転がすような声で、中からシャーロットが返事をした。
ドアを開けて中に入ると、すでに明かりを落とした室内にシャーロットは居た。
大きな天蓋付きのベッドの側の、テーブルセットに座り、テーブルの上をぼんやりと眺めているところだった。
その姿にライリーは困惑する。
なんだ?
シャーロットの姿は……。
シャーロットが着ていたのは、綿の肌触りの良さそうな寝衣だった。
シャーロットはいつも、寝相の悪いシャーロットが風邪をひかないようにと、ジュディが用意した寝衣を使用している。
袖は手首のところでゴムで留められ、胸は編み上げ紐で首元まで絞まっているものだ。
ライリーは心の中でため息をつく。
おおーい、ジュディ。
普通、初夜ってもっと脱がせやすい寝衣を着せるものじゃないのかよ。
オレが読んだ巷で流行っている恋愛小説では、初夜って侍女がこういうことに気を配って、旦那をその気にさせるあれやこれやを仕込んでおくもんだったぞ。
しかし、ライリーは待ちに待った結婚式を終えた今、それくらいのことではへこたれなかった。
優しくベッドに誘い、その流れでなんとかしようとシャーロットの近くに歩み寄った。
「シャーロット、今日はお疲れ様。やっと、本当の夫婦になれたね。オレの奥さんを早く抱きしめさせてくれる?」
シャーロットはライリーに満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
「私も、早くライリー陛下にぎゅってして欲しかったんです」
そしてそのまま、ライリーにぎゅっと抱きついた。
かわいい……。
ライリーは、シャーロットへの愛しさが溢れ出し、優しく壊れないように、でも逃がさないようにぎゅっとシャーロットを抱きしめた。
ライリーはなんの気無しにシャーロットの肩越しにテーブルの上を見ると、そこには何故かティースプーンが一つポツンと置いてあった。
「……シャーロット、テーブルの上のスプーンは何? お茶を飲んでいたわけじゃないよね?」
ティーセットはテーブルの上になく、置いてあるのはティースプーン一つのみだ。
シャーロットはパッとライリーから離れて、恥ずかしそうにテーブルを見た。
「実は、ジルベール陛下が結婚のお祝いに銀のスプーンを贈ってくださると言っていて。私、とても楽しみにしているのですが、どうやったらスプーンを飲み込めるか考えていたのです」
「は? スプーンを飲み込む?」
ライリーには何のことだかわかりません。
スプーンを飲み込むとは、一体どういうことか。
「ライリー陛下はご存知ですか? 産まれてくる赤ちゃんが銀のスプーンをくわえて産まれて来ると、幸せになれるというお話があるそうなんです。ギルバート様もご存知でしたから、きっとライリー陛下もご存知ですよね。ライリー陛下、どうやったらスプーンを飲み込めるか、おわかりになりますか?」
ライリーも銀のスプーンの話は知っていた。
だが、それは言い伝えであり、実際に銀のスプーンを赤ん坊がくわえて産まれてくるわけがない。
「あのね、シャーロット。お母さんが銀のスプーンを飲み込んでも、赤ちゃんのところには届かないんだよ」
「えっ、では、どのようにしたらいただいたスプーンを赤ちゃんに届けられるのですか?」
シャーロットは不安げにライリーを見上げる。
「うーん。産まれてきてすぐに赤ちゃんに持たせてあげたらいいんじゃないかな。スプーンは食べ物じゃないから、お母さんが飲み込んじゃったら、体にあんまり良くないかもしれないし、それだと、赤ちゃんは困るだろう?」
「そ、そうですわね。私ったら、なんて勘違いを……」
頬を赤く染めて恥じらうシャーロットを、ライリーは再びぎゅっと抱きしめた。
「じゃ、奥さん。オレたちの赤ちゃんのためにも、早くベッドに行こう?」
ライリーがシャーロットの耳元で囁く。
シャーロットはライリーの腕の中で、ぴくんと身を震わせた。
「……はい」
ライリーは真っ赤になったシャーロットがかわいくてかわいくて。
肩を支えて膝に腕を通し、横抱きにしてベッドへと向かった。
ベッドにシャーロットを下ろし、シャーロットに覆い被さる。
潤んだ瞳で上目遣いにライリーを見るその姿に、ライリーは我慢も限界に来ていた。
「ライリー陛下、あの、大好きです」
「オレもシャーロットを愛してる」
ライリーがシャーロットにキスをしようとする。
シャーロットは幸せそうに笑みを浮かべた。
「ふふ。こんなに幸せなんですもの。コウノトリさんもすぐに赤ちゃんを連れてやってきてくれますわね」
あと少しで、シャーロットの唇を塞ぐ予定だったライリーの唇が止まる。
「え?」
「コウノトリさんですわ。ライリー陛下もご存知でしょう? 仲のいい夫婦にはコウノトリさんが赤ちゃんを運んで来てくれますのよ。コウノトリさんがお母さんのお腹にキスをすると、運んできた赤ちゃんがお母さんのお腹に宿るんです。コウノトリさん、今夜いらっしゃるかしら?」
ライリーはどう答えたらいいかわからず、シャーロットに覆い被さったままの状態で、固まった。
それに気付いたシャーロットは、ライリーを見つめる。
「あらあら。お父さんになる人がお風邪をひいたら大変ですわ。こんなに胸元を開けて。しっかりボタンを閉めますわね」
そう言ってシャーロットはライリーの寝衣の胸のボタンを一つ一つ閉めていった。
それはもう首元まで全部。
「ライリー陛下、おやすみなさいませ」
シャーロットはひょいとライリーの首に腕を巻き付け、自分の首をひょいと上げて固まったままのライリーの頬にキスを贈った。
そしてそのまま、ぽすんと枕に頭を下ろし、昼間の疲れもあってか、すぐに安らかな寝息を立て始めた。
え、なに、ちょっと待って。
え、ほんとに? これ、現実?
ライリーは自分の腕の中で安らかに寝ている据え膳を見つめてがっくりと項垂れた。
ジュディ~!!
ボナールの性教育はどうなってるんだよ~!!
だが、ライリーは思い直す。
社交界にもあまり出ず、ほとんどの時間を塔の上で過ごしたと聞いた。
まともに他人と関わりを持ったのは、ランバラルドに来てからだと言う。
同じ年頃の友達から色恋ごとを聞くこともなく側妃となり、自国ボナールに帰ってからは国王としてやってきたのだ。
きっと、シャーロットには施されていないのだろう。性教育……。
それでも、ジュディくらいは気を利かせてくれたって良さそうなものなのに。
何も知らないお姫様に、あーんなことや、こーんなことをしたら、どうなるのだろうか。
まさか、嫌われたりはしないだろうか。
ライリーは隣で安心し切って眠っているシャーロットを見つめた。
今夜はこのまま眠るとして、明日からオレはどうやって夜を過ごせばいいんだろう……。
ライリーは隣に眠るシャーロットの頬にキスを贈り、幸せを噛みしめて、しくしくと咽び泣いた。
☆☆☆~fin~☆☆☆
これを読んで王族の後継者問題を心配してくださっているみなさま。
大丈夫です。
ライリーはちゃんとシャーロットとの間にかわいい赤ちゃんを授かります。
そこに至るまでのライリーの苦労話はあるのでしょうけれどww
*8/31に続編とまでは言いませんが、シャーロット達のその後のお話を公開しています。
タイトル「人魚姫と隠れんぼ王子」です。
こちらでは、シャーロットとライリーの赤ちゃんが生まれる…かどうかはまだわかりません(^^;;
きちんとした続編ではないので、人質姫の登場キャラクターで、出てこない人もいます。
もし、ご興味あれば、読んでいただけたら嬉しいです。
番外編、思ったより時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。
また、リクエストの声があったフレッドifルートを公開しています。
そちらも別の枠で公開しますので、検索しないと読めないかもですが、興味がありましたらぜひご覧ください。
ボナールの大神殿。
ステンドグラスから光が溢れて、虹のように見える。
扉から一直線につながる赤い絨毯の上を、白いドレスに身を包み、ブーケではなく王笏だけを持ち、シャーロットは祭壇へと進む。
王笏には、真ん中の宝石が埋められている部分に突起があり、そこにシャーロットが王位継承してから祈りを捧げた指輪と、この結婚の為に用意された七色の宝石が埋め込まれた指輪の二つが掛けられている。
祭壇へ進む絨毯の両サイドには、式に出席している少数の貴族と来賓が長椅子に座り、静かにその様子を見守っていた。
パイプオルガンからの音が止むのと、シャーロットが祭壇に到着するのはほぼ同時だった。
シャーロットは神官長の前に跪き、頭を垂れる。
祭壇の端から神官がふたり、神官長に近付く。
ふたりの手には、神木の枝と聖水の入った水瓶があった。
神官長は、青葉のついた神木の枝を手にし、シャーロットの頭上に翳す。
「あなたのこれからの人生が、幸せ溢れたものになりますように」
そのまま、一振りして、神官の手に戻した。
シャーロットが立ち上がると、再びパイプオルガンの音がして、扉からライリーが現れた。
一歩一歩、ゆっくりと祭壇へと歩いてくる。
シャーロットは白いタキシード姿のライリーを見て、涙が出そうになる。
ああ、ライリー陛下。お姿を見るのは久しぶり。
結婚が決まってから、ランバラルドと国を統一するために、色々な話し合いが国内であったり、ライリー陛下も同盟国との会議もあってお忙しそうになさっていてお会いする時間もありませんでしたわ。
でも、今日からはずっと一緒にいられるのね。
良かった……嬉しい。
一方、ライリーも祭壇で待つシャーロットを見て胸が一杯になっていた。
シャーロット、綺麗だ。
白いドレスがフワフワしていて天使の羽のようで。
長かった……。
一時は他人の妻だと誤解をして諦めなければならないと思っていたけど、こうしてシャーロットを正妃として結婚することができて、本当に良かった。
辛い思いもさせてしまった。
ボナールで女王として、立派にやって来たシャーロットを、オレはこれから全力を尽くして護ろう。
オレにできるすべてで、シャーロットを幸せにしよう。
そして、ライリーも祭壇まで来ると、神官長の前に跪く。
シャーロットもそれに合わせて再度跪いた。
神官長は、ライリーの頭上に神木の枝を翳す。
「シャーロット陛下を見つけてくださってありがとうございます」
神官長はライリーに小さく囁く。
次に、枝を聖水に浸し、今度は2人の頭上で三度大きく枝を振るった。
細かい水飛沫が上がり、大神殿のステンドグラスから差し込む太陽の光に反射して、虹色が2人の頭上を覆った。
「神の祝福が得られました。これでお2人はご夫婦となられたのです。お互いを思い遣り、苦しいことも、幸せなことも、分かち合い、夫婦の絆を忘れないでいてください」
神官長の言葉が終わると、シャーロットとライリーは立ち上がる。
ライリーはシャーロットの王笏に掛けられた七色の宝石が埋め込まれた指輪を取り、シャーロットの左手薬指にそっと挿し入れた。
シャーロットも祈りを込めた指輪を王笏から外し、王笏は神官長に預けて、ライリーの左手を取った。
「ライリー陛下。大好きです」
心から想いが溢れ出て、予定になくシャーロットが言葉を紡ぎ、ライリーの薬指に指輪をはめた。
ライリーの心に、シャーロットの想いが染み込んで来る。
シャーロットはライリーを窺うように、おずおずとライリーの顔を見上げた。
ライリーはそんなシャーロットを見つめる。
絶対に、シャーロットを幸せにする。
シャーロットが大事にしているボナールも、守ってみせる……!
心新たに誓ったその瞬間、ライリーの薬指にはめられた指輪が輝きを増した。
それは、着席していた招待客にもわかるほど鮮やかに、神々しいまでの美しさを放った。
「こ、これは……!」
式を取り仕切っていた神官長も驚きを露わにする。
指輪は本来、王たる者が愛する者を見つけた時に、薄っすらと虹色になり、その伴侶となった者が、伴侶しての自覚と王を心から愛し、支えることができるのに比例して、徐々に鮮やかな虹色に変化をするはずだったのだ。
実際に、神官長は20年ほど前のコルビー陛下の結婚式にも立ち合ったが、その時は薄っすらとした虹色をした指輪は、式の間中そのままの色だった。
「ほっほっほ。シャーロット陛下、あなたは本当に良い伴侶に巡り会えたようですな」
神官長は2人に笑みを向け、次に長椅子に座る出席者に向けて、宣言をする。
「神の祝福を受け、虹の祝福も受けて今、ここに新たなる夫婦が誕生いたしました。2人はどんなことがあっても手を取り合い、困難も乗り越えて行くでしょう。国王陛下夫妻と、この国は今後、見たこともないような幸せな未来を迎えると、わたしは予言します」
かつて、前王の結婚式でも、その他の貴族の結婚式でも、神官長や神官が未来の幸せを予言したことなどなかった。
目の前で繰り広げられた奇跡と、神官長の言葉に、そこにいる全ての人々が歓声を上げるのだった。
結婚式が終わると、城のバルコニーに2人は立ち、国民に手を振って見せた。
即位の時のようなパレードは行わなかったものの、白いドレスとそろいのタキシードを着た女王と王を見て、民衆は湧き上がった。
もちろん、城の空には大きな虹がかかっている。
町では祭りが開催されるらしい。
夜は、式に出席した高位貴族と他国の身分の高い出席者だけで簡単なパーティーが開かれた。
何故か酒に酔ったギルバートとジルベールが、娘をライリーに取られた父親のように号泣し、他の来賓に引かれていたが、他の人々はみんな祝杯を上げ、幸せな空気でパーティーは締められたのだった。
その夜、ライリーはシャーロットの部屋の前に緊張した面持ちで立っていた。
今日から2人は夫婦であり、寝室は一緒に使うこととなっている。
入浴を済ませ、これからシャーロットに会えると思うと、はやる心と緊張で心臓が早鐘を鳴らす。
コンコン。
やっとの思いでノックをすると、鈴を転がすような声で、中からシャーロットが返事をした。
ドアを開けて中に入ると、すでに明かりを落とした室内にシャーロットは居た。
大きな天蓋付きのベッドの側の、テーブルセットに座り、テーブルの上をぼんやりと眺めているところだった。
その姿にライリーは困惑する。
なんだ?
シャーロットの姿は……。
シャーロットが着ていたのは、綿の肌触りの良さそうな寝衣だった。
シャーロットはいつも、寝相の悪いシャーロットが風邪をひかないようにと、ジュディが用意した寝衣を使用している。
袖は手首のところでゴムで留められ、胸は編み上げ紐で首元まで絞まっているものだ。
ライリーは心の中でため息をつく。
おおーい、ジュディ。
普通、初夜ってもっと脱がせやすい寝衣を着せるものじゃないのかよ。
オレが読んだ巷で流行っている恋愛小説では、初夜って侍女がこういうことに気を配って、旦那をその気にさせるあれやこれやを仕込んでおくもんだったぞ。
しかし、ライリーは待ちに待った結婚式を終えた今、それくらいのことではへこたれなかった。
優しくベッドに誘い、その流れでなんとかしようとシャーロットの近くに歩み寄った。
「シャーロット、今日はお疲れ様。やっと、本当の夫婦になれたね。オレの奥さんを早く抱きしめさせてくれる?」
シャーロットはライリーに満面の笑みを浮かべて立ち上がった。
「私も、早くライリー陛下にぎゅってして欲しかったんです」
そしてそのまま、ライリーにぎゅっと抱きついた。
かわいい……。
ライリーは、シャーロットへの愛しさが溢れ出し、優しく壊れないように、でも逃がさないようにぎゅっとシャーロットを抱きしめた。
ライリーはなんの気無しにシャーロットの肩越しにテーブルの上を見ると、そこには何故かティースプーンが一つポツンと置いてあった。
「……シャーロット、テーブルの上のスプーンは何? お茶を飲んでいたわけじゃないよね?」
ティーセットはテーブルの上になく、置いてあるのはティースプーン一つのみだ。
シャーロットはパッとライリーから離れて、恥ずかしそうにテーブルを見た。
「実は、ジルベール陛下が結婚のお祝いに銀のスプーンを贈ってくださると言っていて。私、とても楽しみにしているのですが、どうやったらスプーンを飲み込めるか考えていたのです」
「は? スプーンを飲み込む?」
ライリーには何のことだかわかりません。
スプーンを飲み込むとは、一体どういうことか。
「ライリー陛下はご存知ですか? 産まれてくる赤ちゃんが銀のスプーンをくわえて産まれて来ると、幸せになれるというお話があるそうなんです。ギルバート様もご存知でしたから、きっとライリー陛下もご存知ですよね。ライリー陛下、どうやったらスプーンを飲み込めるか、おわかりになりますか?」
ライリーも銀のスプーンの話は知っていた。
だが、それは言い伝えであり、実際に銀のスプーンを赤ん坊がくわえて産まれてくるわけがない。
「あのね、シャーロット。お母さんが銀のスプーンを飲み込んでも、赤ちゃんのところには届かないんだよ」
「えっ、では、どのようにしたらいただいたスプーンを赤ちゃんに届けられるのですか?」
シャーロットは不安げにライリーを見上げる。
「うーん。産まれてきてすぐに赤ちゃんに持たせてあげたらいいんじゃないかな。スプーンは食べ物じゃないから、お母さんが飲み込んじゃったら、体にあんまり良くないかもしれないし、それだと、赤ちゃんは困るだろう?」
「そ、そうですわね。私ったら、なんて勘違いを……」
頬を赤く染めて恥じらうシャーロットを、ライリーは再びぎゅっと抱きしめた。
「じゃ、奥さん。オレたちの赤ちゃんのためにも、早くベッドに行こう?」
ライリーがシャーロットの耳元で囁く。
シャーロットはライリーの腕の中で、ぴくんと身を震わせた。
「……はい」
ライリーは真っ赤になったシャーロットがかわいくてかわいくて。
肩を支えて膝に腕を通し、横抱きにしてベッドへと向かった。
ベッドにシャーロットを下ろし、シャーロットに覆い被さる。
潤んだ瞳で上目遣いにライリーを見るその姿に、ライリーは我慢も限界に来ていた。
「ライリー陛下、あの、大好きです」
「オレもシャーロットを愛してる」
ライリーがシャーロットにキスをしようとする。
シャーロットは幸せそうに笑みを浮かべた。
「ふふ。こんなに幸せなんですもの。コウノトリさんもすぐに赤ちゃんを連れてやってきてくれますわね」
あと少しで、シャーロットの唇を塞ぐ予定だったライリーの唇が止まる。
「え?」
「コウノトリさんですわ。ライリー陛下もご存知でしょう? 仲のいい夫婦にはコウノトリさんが赤ちゃんを運んで来てくれますのよ。コウノトリさんがお母さんのお腹にキスをすると、運んできた赤ちゃんがお母さんのお腹に宿るんです。コウノトリさん、今夜いらっしゃるかしら?」
ライリーはどう答えたらいいかわからず、シャーロットに覆い被さったままの状態で、固まった。
それに気付いたシャーロットは、ライリーを見つめる。
「あらあら。お父さんになる人がお風邪をひいたら大変ですわ。こんなに胸元を開けて。しっかりボタンを閉めますわね」
そう言ってシャーロットはライリーの寝衣の胸のボタンを一つ一つ閉めていった。
それはもう首元まで全部。
「ライリー陛下、おやすみなさいませ」
シャーロットはひょいとライリーの首に腕を巻き付け、自分の首をひょいと上げて固まったままのライリーの頬にキスを贈った。
そしてそのまま、ぽすんと枕に頭を下ろし、昼間の疲れもあってか、すぐに安らかな寝息を立て始めた。
え、なに、ちょっと待って。
え、ほんとに? これ、現実?
ライリーは自分の腕の中で安らかに寝ている据え膳を見つめてがっくりと項垂れた。
ジュディ~!!
ボナールの性教育はどうなってるんだよ~!!
だが、ライリーは思い直す。
社交界にもあまり出ず、ほとんどの時間を塔の上で過ごしたと聞いた。
まともに他人と関わりを持ったのは、ランバラルドに来てからだと言う。
同じ年頃の友達から色恋ごとを聞くこともなく側妃となり、自国ボナールに帰ってからは国王としてやってきたのだ。
きっと、シャーロットには施されていないのだろう。性教育……。
それでも、ジュディくらいは気を利かせてくれたって良さそうなものなのに。
何も知らないお姫様に、あーんなことや、こーんなことをしたら、どうなるのだろうか。
まさか、嫌われたりはしないだろうか。
ライリーは隣で安心し切って眠っているシャーロットを見つめた。
今夜はこのまま眠るとして、明日からオレはどうやって夜を過ごせばいいんだろう……。
ライリーは隣に眠るシャーロットの頬にキスを贈り、幸せを噛みしめて、しくしくと咽び泣いた。
☆☆☆~fin~☆☆☆
これを読んで王族の後継者問題を心配してくださっているみなさま。
大丈夫です。
ライリーはちゃんとシャーロットとの間にかわいい赤ちゃんを授かります。
そこに至るまでのライリーの苦労話はあるのでしょうけれどww
*8/31に続編とまでは言いませんが、シャーロット達のその後のお話を公開しています。
タイトル「人魚姫と隠れんぼ王子」です。
こちらでは、シャーロットとライリーの赤ちゃんが生まれる…かどうかはまだわかりません(^^;;
きちんとした続編ではないので、人質姫の登場キャラクターで、出てこない人もいます。
もし、ご興味あれば、読んでいただけたら嬉しいです。
番外編、思ったより時間がかかってしまって申し訳ありませんでした。
また、リクエストの声があったフレッドifルートを公開しています。
そちらも別の枠で公開しますので、検索しないと読めないかもですが、興味がありましたらぜひご覧ください。
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その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
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namiさま
コメントありがとうございます!
返信不要とのことでしたが、嬉しかったので返信してしまいました。すみません。
最後までお読みいただきありがとうございました!
誤字、改稿時には注意しますね。ご指摘ありがとうございます^_^
再アップ時には、自分でも納得できるようがんばります!
いえーい忘れん坊のライリー!麗しのシャーロットちゃんを手に入れられたんだから少しは苦労しなされ!
私としてはギルの方が…いや、何も言うまい…(ノ_<)
完結お疲れ様でした!!
しゃく様
感想ありがとうございます!
忘れん坊の彼がシャーロットと結ばれたのですから、がんばって幸せにして欲しいものです。
ギルは…残念ながら保護者ポジションでしたからね〜
お読みいただき、ありがとうございました😊
ifルートありがとうございま♪ヽ(´▽`)/
さっそく飛んでってお気に入り登録させてもらいました!
…4番目でしたf(^_^)
フレッド様がんばれー🎶
4番目! 早い登録ありがとうございます😊
あちらではフレッド様もがんばってくれる予定です。
パピエンをご期待ください♫