もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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4章 そして運命の歯車は回り出す

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東棟は理事長室のある建物になる。
外部からの高位貴族が来た時や、大事なお客様を迎えるのに使う応接室がある。
そこは、生徒であっても王族や公爵家のものならば、お金を払って使うことのできる部屋だ。
もちろん、警備は厳重で、わたしたち下位の貴族は入ることはできない。

どうしようかと思いつつ、入口の護衛騎士に声をかけると、事情を知っていたようで名乗っただけで中に入れてもらえた。

建物の中は、学園内とは思えず、立派なお屋敷だと言われても納得のできる作りだった。

豪華なシャンデリアに、赤い絨毯の敷かれたロビー。
侍女に案内されて昇る階段には絵が飾られており、ひとつひとつがとても高価なものとわかる。

二階の奥の部屋へ案内すると、侍女はお辞儀をして、戻って行った。
ドアをノックすると、ローゼリア様ではなく、モニカ様の声がした。

「どうぞ。お入りになって」
そっとドアを開けると、外の警備が厳重だからか、部屋の中には侍女も護衛もおらず、優雅にソファに腰掛けて紅茶を飲むローゼリア様と、その後ろに立つモニカ様だけがいた。

「失礼します」
わたしはおずおずと部屋の中に入った。

部屋は、かつて一度行ったことのあるお城の応接室のように、金で縁取りされているソファへと近付く。

ローゼリア様は、わたしを立たせたまま、ティーカップをテーブルに置いた。
「ルークを連れてくるように言ったはずよ。ルークはどうしたの」

わたしは怯えながら答える。
「ル、ルーク様は今日はご用があるとのことなので、わたしが内容をお伺いしてお伝えします」

ローゼリア様は目を細める。
「……そう」
そして立ち上がり、わたしの側へとやってきた。

迫り来る威圧感に、逃げ出したくなるけど、がんばってその場から動かなかった。
わたしの真前で止まり、わずかにわたしより高い目線からわたしを見下ろす。

「……モニカ」
ローゼリア様が右手を出し、モニカ様の名前を呼ぶと、モニカ様はその手にムチを渡した。

って、ムチ?

「ジーナ、手を出しなさい」
「え」
ローゼリア様は薄笑いを浮かべて、ムチを両手で持つ。
「手を、出しなさいと言っているのよ」

出したらそれで叩かれるじゃん!

それでも、わたしに拒否権はなく。
恐々と右手を差し出す。

ローゼリア様は振りかぶり、わたしの右手をムチで叩いた。
「痛っ」
わたしが顔を顰めたのを見ると、ニヤリと笑い、わたしの手に光の魔法をかけた。

スゥーっと右手のミミズ腫れが引いていく。
でも、わたしの手に違和感が残る。
じんじんして痛い。

光の魔法がかかっているのに、どうして……。

少し考えてその訳に思い至った。
おそらく、ローゼリア様は皮膚の表面にだけ光の魔法を掛けて治し、内面の打撲痕は治していないんだ。
ミミズ腫れが残れば、ムチで叩かれたのがわかるけど、皮膚に何も残らず、腫れるだけでは何が原因かわからない。

わたしが茫然と自分の手を見ていると、もう一度、ムチが振り下ろされ、また光魔法がかけられた。

「わたくしの言う事を聞かないからよ。今すぐ、ルークを呼んできなさい」
「い、いやです」
わたしの断りの声が聞こえると、ローゼリア様は表情を変えずに、再度ムチで叩き、光魔法で痕跡を消した。

じんじんと腕が熱を持っていき、痛みで涙が出そうになる。
躾と称してムチを振るう家があることは知っていたけど、我が子爵家ではムチなど家にも置いていない。
まったく初めて経験する痛みである。

「強情な……」
ローゼリア様が再度ムチを振り下ろし、パシッと音が鳴り響いた瞬間、いきなりドアが開いた。

「ジーナ!」
ドアからは、ルーク様が慌てた様子で部屋の中に入ってきた。

ローゼリア様はそれを見て、素早くまた光魔法をわたしにかける。

ルーク様は、ローゼリア様の手にあるムチを見ると、急いでわたしに駆け寄り、わたしを後ろに庇った。

「ごめん、ジーナ。ジーナの様子がおかしかったから、後をつけてきたんだけど、なかなか護衛に通してもらえなくて……」

ローゼリア様はムチをモニカ様に返して、代わりに扇子を受け取った。
その扇子を口元にあててルーク様に微笑む。
「入口の警備の者には、ジーナと連れのものを通すようにとしか言ってなかったからですわ。ルークを連れて来いというわたくしの言うことを聞かないジーナが悪いのではなくて?」

ルーク様はローゼリア様を睨みつけた。
「それで? オレになんの用だ。ローゼリア第二王女殿下」

ローゼリア様は、ルーク様に艶やかな笑顔をみせた。
「せっかく来たのだから、おかけになったら?」
「断る。用件を聞いて、一刻も早くここから離れたい」
きっぱりと言い切るルーク様に、ローゼリア様は大袈裟にため息をついた。

「いやだわ。これだから下々の者は」
そう言ってソファに座り直す。
「モニカ、お茶が冷めてしまったわ。新しいものを」
「はい。ローゼリア殿下」
モニカ様が、わたしに薄ら笑いを見せ、部屋から出て行った。

ルーク様は、イライラした様子で、ローゼリア様に視線を向ける。
「それで、さっさと用件を言ってもらえませんか?」

「せっかちな男ね」
ふぅ、と息を吐き、口元を扇子で隠した。

「ルーク、今ここでジーナとの婚約を破棄して、わたくしと婚約を結びなさい」


ローゼリア様が放ったその言葉は、とても愛の告白には思えず、まるで、奴隷に命令をくだす主人のようだった。
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