85 / 255
9章 一筋の光は
4
しおりを挟む
お父さんは、ルーク様がお買いになったものを次の日にはディヴイス家に運んでくれた。
別棟の方に持ち込んでもらって、ルーク様がチェストなど包まれていないものの実物を確認して、お姉様宛の手紙をつけて、送っていた。
もちろん、わたしがこっそりと追加したハンカチは、衛生用品であるから包装は解かれないので、ルーク様にバレていない。いぇい!
そして、最近ルーク様とお顔を合わせる機会が増えて、わたしは嬉しい。
やっぱり、専属になったからだろうな。
ルーク様のお部屋にお花を飾る。
お庭には少しずつお花が咲き出して、昔のお庭を思い出させる。
気のせいか、ルーク様のお顔にも、少しずつ笑顔が見られるようになった。……気がする。
今日も花瓶も磨いて、ベッドシーツを交換している時に、ルーク様がご帰宅された。
平日の真昼間にお戻りになられるなんて、珍しいことだ。
部屋で仕事をしているわたしを見ると、ルーク様は顔を歪ませた。
「ニーナ、途中なのはわかっているが、このままでいいから出て行ってくれないか」
「えっ、」
突然言われて、わたしが固まってしまうと、ルーク様はわたしを見て、辛そうに目を細めると、もう一度、今度は小さな声で言った。
「……出ていってくれ」
「は、はいっ!」
ルーク様の様子に、わたしはびっくりして替えたシーツを抱えて慌てて出て行った。
シーツをぎゅっと抱きしめて、トボトボと廊下を歩く。
何があったんだろう。
そのまま、シーツを洗うために、別棟の裏口から洗濯場に行き、ゴシゴシとシーツを洗った。
わたしは無力だ。
ルーク様に何かあっても、何もしてあげられることがない。
光の魔法で、心の痛みも取り除ければいいのに。
シーツを干した後、わたしはルーク様のお部屋の近くに戻って、お部屋の前の廊下の掃除をすることにした。
中の様子が気になるけれど、わたしがルーク様に背いて部屋の中に入ることはできない。
窓を磨いていたり、廊下を掃除したりして、ある程度時間が経った頃、ルーク様のお部屋からベルの音がした。
そっと、ドアを開ける。
「ルーク様、お呼びでしょうか」
頭を下げて言うと、ルーク様が机の前の椅子から立ち上がった。
「さっきはすまない。八つ当たりをした」
すぐ側までやってきて、わたしの頭を撫でてくれる。
「何か、あったんですか?」
ルーク様は手を引っ込めて、疲れた顔で微笑んだ。
「ん、まあな」
「大丈夫ですか……?」
今度は、優しそうな笑顔をわたしに向けてくれた。
「大丈夫だ。ちょっとイラついただけなんだ。
ところで、そのせいで昼を食べ逃した。もし良ければ、作ってきてもらえないか?」
「もちろんです。あ、でもわたしが作れるもののんて、軽食くらいしかないので、料理長に言って何か作ってもらってきましょうか?」
時間はもう夕方と言っていいほど遅い。
昼を食べ逃してしまったのなら、相当お腹が空いているはずだ。
「いや、ニーナが作るものがいい。ホットケーキを焼いてもらえないか?」
「ホットケーキ……」
いやもう、そのくらいでいいんなら、いくらでも焼くけれども!
わたしは急いで別棟の厨房に行った。
本館の方は今頃夕食の準備で大変だろうけど、別棟は本館から運ばれた料理を温めたりする簡単なことしかしないから、今は人がいない。
急いで作らないと、本館での作業が終わったら、こちらにも調理の人が来てしまう。
棚から小麦粉を出して、分量を計る。
わたしが作るホットケーキのレシピは、前世のレシピだ。
一応、ミラー子爵家の料理長に教わったから、美味しいはず。
でも、少し多めに焼いて味見をしてみると、やっぱりこの間ルーク様に連れて行ってもらったカフェのホットケーキの方が美味しかった。
うーん。
わかってはいても、やっぱりくやしい。
プロと張り合うなって話だけど。
焼き立てのホットケーキをワゴンに乗せて、紅茶とミルクとはちみつと共に、ルーク様のお部屋に持って行った。
「ルーク様、お待たせしました」
わたしがルーク様のお部屋のテーブルにホットケーキと紅茶を並べると、強張っていたルーク様の頬が少し緩む。
長椅子に腰掛け、ホットケーキを一口食べると、ルーク様は一息ついた。
「ああ、食べるものが美味いと感じられるってことは、オレは生きてるんだなと思うよ」
美味しいという言葉とルーク様の顔は合っていなくって、ルーク様は泣きそうな顔でわたしに笑いかけていた。
ルーク様に何があったのか、その顔を見たわたしには、聞くことができなかった。
別棟の方に持ち込んでもらって、ルーク様がチェストなど包まれていないものの実物を確認して、お姉様宛の手紙をつけて、送っていた。
もちろん、わたしがこっそりと追加したハンカチは、衛生用品であるから包装は解かれないので、ルーク様にバレていない。いぇい!
そして、最近ルーク様とお顔を合わせる機会が増えて、わたしは嬉しい。
やっぱり、専属になったからだろうな。
ルーク様のお部屋にお花を飾る。
お庭には少しずつお花が咲き出して、昔のお庭を思い出させる。
気のせいか、ルーク様のお顔にも、少しずつ笑顔が見られるようになった。……気がする。
今日も花瓶も磨いて、ベッドシーツを交換している時に、ルーク様がご帰宅された。
平日の真昼間にお戻りになられるなんて、珍しいことだ。
部屋で仕事をしているわたしを見ると、ルーク様は顔を歪ませた。
「ニーナ、途中なのはわかっているが、このままでいいから出て行ってくれないか」
「えっ、」
突然言われて、わたしが固まってしまうと、ルーク様はわたしを見て、辛そうに目を細めると、もう一度、今度は小さな声で言った。
「……出ていってくれ」
「は、はいっ!」
ルーク様の様子に、わたしはびっくりして替えたシーツを抱えて慌てて出て行った。
シーツをぎゅっと抱きしめて、トボトボと廊下を歩く。
何があったんだろう。
そのまま、シーツを洗うために、別棟の裏口から洗濯場に行き、ゴシゴシとシーツを洗った。
わたしは無力だ。
ルーク様に何かあっても、何もしてあげられることがない。
光の魔法で、心の痛みも取り除ければいいのに。
シーツを干した後、わたしはルーク様のお部屋の近くに戻って、お部屋の前の廊下の掃除をすることにした。
中の様子が気になるけれど、わたしがルーク様に背いて部屋の中に入ることはできない。
窓を磨いていたり、廊下を掃除したりして、ある程度時間が経った頃、ルーク様のお部屋からベルの音がした。
そっと、ドアを開ける。
「ルーク様、お呼びでしょうか」
頭を下げて言うと、ルーク様が机の前の椅子から立ち上がった。
「さっきはすまない。八つ当たりをした」
すぐ側までやってきて、わたしの頭を撫でてくれる。
「何か、あったんですか?」
ルーク様は手を引っ込めて、疲れた顔で微笑んだ。
「ん、まあな」
「大丈夫ですか……?」
今度は、優しそうな笑顔をわたしに向けてくれた。
「大丈夫だ。ちょっとイラついただけなんだ。
ところで、そのせいで昼を食べ逃した。もし良ければ、作ってきてもらえないか?」
「もちろんです。あ、でもわたしが作れるもののんて、軽食くらいしかないので、料理長に言って何か作ってもらってきましょうか?」
時間はもう夕方と言っていいほど遅い。
昼を食べ逃してしまったのなら、相当お腹が空いているはずだ。
「いや、ニーナが作るものがいい。ホットケーキを焼いてもらえないか?」
「ホットケーキ……」
いやもう、そのくらいでいいんなら、いくらでも焼くけれども!
わたしは急いで別棟の厨房に行った。
本館の方は今頃夕食の準備で大変だろうけど、別棟は本館から運ばれた料理を温めたりする簡単なことしかしないから、今は人がいない。
急いで作らないと、本館での作業が終わったら、こちらにも調理の人が来てしまう。
棚から小麦粉を出して、分量を計る。
わたしが作るホットケーキのレシピは、前世のレシピだ。
一応、ミラー子爵家の料理長に教わったから、美味しいはず。
でも、少し多めに焼いて味見をしてみると、やっぱりこの間ルーク様に連れて行ってもらったカフェのホットケーキの方が美味しかった。
うーん。
わかってはいても、やっぱりくやしい。
プロと張り合うなって話だけど。
焼き立てのホットケーキをワゴンに乗せて、紅茶とミルクとはちみつと共に、ルーク様のお部屋に持って行った。
「ルーク様、お待たせしました」
わたしがルーク様のお部屋のテーブルにホットケーキと紅茶を並べると、強張っていたルーク様の頬が少し緩む。
長椅子に腰掛け、ホットケーキを一口食べると、ルーク様は一息ついた。
「ああ、食べるものが美味いと感じられるってことは、オレは生きてるんだなと思うよ」
美味しいという言葉とルーク様の顔は合っていなくって、ルーク様は泣きそうな顔でわたしに笑いかけていた。
ルーク様に何があったのか、その顔を見たわたしには、聞くことができなかった。
14
あなたにおすすめの小説
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる