幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第4章

151 秋風の家

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「玄関を入って右に行くと、『波青の部屋』だよ」

 秋風がそう言葉にしながら、実際に右に進んで教えてくれる。
 俺はギョッとして秋風に聞いた。

「えっっっ!? 俺の部屋あんの……!?」
「うん。俺一人で住んでいるから、全く使っていない部屋があって……、そこを三ヶ月の間は波青の部屋ということにさせてもらおうと思うんだ。波青さえ良ければだけど……」
「えええ~……! まじかぁ!? それはめちゃくちゃありがたい……っ」

 俺は陰の者だし、誰かの家にお泊まりして『プライベート空間がゼロ!』というのは正直かなりキツい。秋風に限らずだけど、家族以外の人とずっと一緒にいるときっと落ち着かないと思う。

 だから個人の部屋を与えてくれるというのはとても助かる。変な緊張しないで済みそうだと、俺はホッと胸を撫で下ろした。

「──ここだよ。波青。好きに使ってね」

 秋風に着いていくと、右奥の部屋のドアを開けてくれた。

「!! おおお……!!? こ、ここが、『俺の部屋』……!!」

 開かれたドアの先には、高級ホテルの一室のように綺麗な空間が広がっていた。

 使っていない部屋ということだから当たり前だろうけど、人の空気を全く感じないし、ピカピカしている。

 中央に低めのベッド、壁際にカウンターテーブルと椅子。
 バルコニーのある窓際には……繭? の形のものが吊り下げられていた。

「ん……!? なんだあれっ!!」

 物珍しいものを目にした俺は、思わずその変な物体に駆け寄った。

 繭のような、雫のような、卵のような……。愛らしいフォルムに編み込まれたゆりかごが、スタンド式の支柱にぶら下がっている。

 座面には、厚手のクッションとブランケットがふんわり乗せられている。
 もしかしてこれは、人が乗る用のものだろうか。秋風はペットは飼っていないし、ペットの遊び場やおもちゃというわけではなさそうだ。

「なぁ、これって人間が乗っていいやつ?」
「うん、そうだよ。ハンギングチェアって言うんだけど……。波青、ぼんやりしたり、お昼寝したりするのが好きだよね。これがあったらちょっとでもゆっくりしてもらえるかなと思って、一応置いてみたんだ」
「えっ! てことはこれ、俺のなのか……!?」

 ワクワクして聞けば、秋風が笑いながら頷いてくれた。

「うん。波青のだよ。良かったら乗ってみて」
「えーっ!! やったーー!!!」

 俺は感激し、すぐさまぴょんと飛び乗った。

 かごは俺の体重を危なげなく受け止めてくれた。そして、ゆらゆらとブランコのように揺らしてみても、壊れたりしない。見た目に反して頑丈そうだ。

「めっちゃ楽しい!! ハンモックみたいで気持ちぇ~~~」

 けらけら上機嫌に笑っていた俺だが、途中で『ん?』と我に返った。

 ……あれ、ちょっと待てよ。さっき秋風に、『波青ってぼんやりするのが好きだよね』とか不名誉なことを言われていたような……。

「……」

 (別に俺は……ぼんやりしたくてしてるわけじゃない! なんだその水無瀬波青の趣味=ぼんやりみたいな言い方はっ!! ふざけるなっ!! ……まあ、ゴロゴロするのは確かに好きだけどさ…………)

「ねぇ波青」
「ん?」
「こうして揺られながら、ゆっくり本や漫画を読んで過ごせば心地良いかもしれないね」
「……! たしかに~! それ良いな! 最高じゃんー!!」

 秋風がそばに寄ってニッコリ微笑んできた瞬間、俺の中のいじけた気持ちなんて一瞬で霧散してしまった。

 こいつ……強い。

 ……というか、俺がちょろい……。

「もしも飽きたりしたら、撤去してもらって全然大丈夫だよ。波青の好きなものを置いて、好きなようにこの部屋を使ってね」
「!! えっ……。そ、そんな俺の好きにしていいのか……?」
「うん。なんでもして平気だよ。突然知らないところで寝泊まりするの、すごくストレスが溜まるだろうから。せめて自分の部屋にいるときだけは、波青に少しでもリラックスしてもらえたら嬉しいな」
「……!! 秋風……」

 (ぐう……っなんて良い奴なんだ…………)

 俺がいつもと違う環境で疲れたり息苦しく思うだろうことを、秋風は分かってくれているのかもしれない。

「あ。そうだ……あと、あそこのカウンターテーブルにノートPCを置けるから、何か持ち帰りの作業があったらそこでしても良いと思うし、もしくは俺の配信部屋を使ってもらっても大丈夫だよ」
「! おぉー!! 秋風の配信部屋!? 見たい見たい!」
「あとで見せるね」

 秋風の言葉に俺はまたワクワクしながら、次に目に留まったベッドを指差した。

「あっ! これは!? このベッド……! これも俺が使って良いのか?」
「あ、うん。ぜひ使って。波青が泊まりに来てくれるって聞いてから揃えたものだから、新品だよ。俺も使ってないし安心してね」
「!! えええぇ……! なんか、何から何まで悪いな……!? 俺のためにわざわざベッドまで用意してくれるなんて……」

 家具ってかなり大きな買い物だ。たった三ヶ月……しかも土日だけしか泊まらない俺なんかのために、秋風に買わせてしまったと思うとすごく申し訳ない。

「ううん、全然だよ。波青が来てくれているんだから当然だし、本当に気にしないで。ベッドは寝室にしかないから、いずれにせよお客さんが来た時のために必要だったんだよ」
「そ、そうか……」

 確かによく考えれば、安易に泊まろうと思ったものの、寝室にしかベッドがないのなら俺の寝る場所は非常に困る。
 恋人だったら寝室で一緒に寝るだろうけど……。秋風とはまだ本当の恋人じゃない。今の関係性ではちょっと微妙だ。

 だから秋風が事前に俺の部屋とベッドを用意してくれたのは本当にありがたい。

「あ……でも、ベッドがないんなら、今までのお客さんはどうしてたんだ?」

 不思議に思って聞いたら、秋風が「ここに誰かが泊まったことはないよ」と言った。

「え……」

 意外だ。秋風は交友関係が広いイメージだから、誰かしらをぽんぽん泊めているかと思っていた。

「あまり好きじゃないんだ。自分の家に、人が入って来るの」
「!! えっ……! まじか。じゃあ、ごめんな。毎週土日泊めてってお願いしたの。嫌だったか?」

 実は嫌だったのに、俺の圧がすごいから断りにくかったのかもしれない。酷いことをしてしまった。

「ううん、」

 俺は慌てたが、秋風は微笑んでさらっと否定してきた。

「波青が来てくれるのは、本当に嬉しいよ。波青は俺にとって……特別な存在だから」
「……──!!」
「他の人は家に入れないけど、好きな人だけは……波青だけは例外」
「……っあ……っ、えっ、う、うん。そ、そうかぁ…………」

 俺は率直な言葉に面食らってしまい、キョドキョドと目をさまよわせた。

 (ッ……慣れね~~っ……!)

 特別とか好きだとか。話し合いの時から何度も言われてはいるのに、いまだにいちいち恥ずかしくなってしまう。
 しかも、声も顔面も無駄にキラキラしまくってる奴が言うもんだから、破壊力が……。いや、無駄と言うのは失礼だけども。

「っ……じゃ、じゃあ! 次のとこも案内してくれるか!?」

 俺は照れを誤魔化すように急いでハンギングチェアから飛び降り、秋風に背を向けた。

「そうだね。次に行こうか」

 秋風も廊下に出て、ドアを開けながら説明を続けてくれた。

「波青の部屋を出たら正面に洗面室とバスルームがあるよ。お手洗いは洗面室の隣の、この扉」
「ほー」

 とりあえず洗面室に入って物珍しく見渡してみた。……広い。広すぎる。
 俺的には顔を洗ったり服を脱いだりするだけなのにこんなスペース要らないだろと思うけど、金持ちハウスは庶民と感覚が違うんだろうな。

 洗面カウンターの黒い石が艶々と光っていて、一滴の水すら飛ばすのが躊躇われる感じだ。

「ここに波青の歯ブラシを置いて平気だよ」

 秋風が壁に備え付けられた横長のミラーキャビネットを軽く押し、扉を開けている。

「あとスキンケア用品もここに全部入ってるから、なんでも好きに使ってもらって大丈夫」
「! お、おう。分かった」

 俺は返事をしつつチラッと秋風の顔を見やった。

 (……ふむ……同じ人間とは思えないこの美肌を生み出してるアイテムを、今日から俺も使っていいんだな。むふふふふ……これで、俺も数日後にはイケメンに……)

 俺も海乃莉に言われて一応化粧水とやらは使ってはいるけど、効果があるんだかないんだか正直よく分からない。
 もしかしたら大容量の安いのを買っているから、変化がないのかも。
 
 『もしかして、秋風のオススメのスキンケアを使えば俺だって劇的進化を遂げられるのではないか……?』なんてバカな夢を抱きつつ、次いでバスルームも見学させてもらった。

「波青、このボタンを押すとマイクロバブルが出てくるよ。乳白色の濁り湯みたいになる」

 秋風がバスルームに入りながら、俺に浴槽の使い方を教えてくれている。

「ま……?」

 なんて?

「それで、こっちのボタンにはマッサージ機能があって──」
「……お、おぉ……」

 浴槽にマッサージ機能とは。

 何を言ってるんだ、秋風さん。
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