幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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最終章

176 恋人とクリスマス

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 ちらっと窓の向こうを見下ろせば、イルミネーションの光で街がキラキラ装飾されている。

 今日は一段と夜景が綺麗だ。

 なんといったって今日は、クリスマス。

 例年家族としか過ごさなかった俺だが──今年のクリスマスは一味違う!

 家族とのクリスマスパーティーは二十四日のイブに済ませ、二十五日の今日はなんと……、『恋人』の家に泊まりにきているのだ。

 (く、クリスマスを恋人と過ごすとは……!!!)

 そんなリア充みたいなイベントが自分の人生に起こるとは思わなかった。

 (やっほーーーい!!!!)

 超絶嬉しい。この世の春だ。
 冬だけど。

「ふんふんふーん」

 俺は白い松ぼっくりをツリーの枝に取り付けながら、機嫌良く鼻歌を歌った。

「……なんの歌?」

 隣で雪の結晶を飾っていた秋風が、微笑んで聞いてくる。

「! 分かるだろ!? 簡単だぞっ」
「えっと……、……分かった。波青が今即興で作ってくれた、オリジナルソングだ」
「ちげーよッ!! 全国民知ってるあわてんぼうのサンタのやつだよ!」
「なるほど……。ごめん、波青の歌があまりにも上手過ぎて分からなかったかもしれない」
「嫌味やめろ!!」

 まったく。誰が音痴だ。

 しかし、めでたい日だから多少の揶揄いは許してあげることにする。
 恋人同士の楽しいクリスマスに怒っていたらもったいないからな。

「よーし、こんなもんか……!」

 一緒に買った大きなクリスマスツリーは、装飾のおかげでホワイトゴールドに輝いている。

 松ぼっくりと雪の結晶の他にも、艶々のボールやベル、トナカイに靴下に赤のギフトボックス……。色んな種類のオーナメントをつけた。

 ツリーを組み立てたり、電飾を巻いたりとかの難しいことは全部秋風がやってくれたけど、オーナメントの飾り付けは一緒にやれたから良かった。

 あとはてっぺんに星を飾るだけだ。

「最後の星はお前がつけて良いぞ! あっ、て、手が届かないからじゃないな……!! 決して違う! これはあくまで、一番楽しいところを譲ってあげる、俺の優しさだからな!」
「そっか。ありがとう。波青は本当に優しいね」
「……」

 (……。本当は背伸びしないと届かなそうだからだけどな……!)

 秋風は騙されやすくて心配だ。なんでも信じるから、今も俺の言葉に乗せられて嬉しそうに星を取り付けている。
 昔、エイプリルフールに俺が『身長五センチも伸びてた!』って冗談を言った時も、秋風の奴、ガチで信じてたしな…………。

「……お前さ。チョロすぎってよく言われるだろ??」
「え、俺が……? 特に言われたことはないけど……」
「ふーん……?」
「あ、できたよ。これで完成かな」
「おぉ……!!」

 秋風がてっぺんに星をつけてくれて、無事クリスマスツリーが完成した。

 実家ではこんなに幅をとる大きなツリーなんて買わないから、めちゃくちゃ新鮮だ。

「すごい! きれー!!!」
「……」

 拍手しまくる俺を、秋風がじっと見てきている。いや、せっかく作ったんだからツリーを見ろ。無言でこっちを見るな。

「なんだよ!?」
「え?」
「今何考えてた? お前、いつもすぐ黙りこくるから意味深だぞ……」
「! あ……ごめん。笑った顔がかわいいなぁって……つい見惚れちゃってた」
「……っ……お前に聞いた俺が間違いだったわ……」

 よくもまあ、そんな恥ずかしい言葉を照れもせず言えるものだ。
 同じ台詞を俺が言ったら、女の子たちに『なにそれコント?』『ダサっ』って笑われるに違いないのに。イケメンはやっぱりずるい。

「そんなことより、ツリーの感想はないのかよ!」
「ツリーは……、えっと、俺の誕生日に部屋を綺麗に飾りつけてくれた時も思ったんだけど……波青は飾り付けのセンスがすごくあるよね」
「……!!」

 (だから、俺に関わることじゃなくて……!!)

「もう……! お前な!」
「うん……?」
「うん? じゃない! てか、俺のセンスっていうか、二人でやったろ? これは俺たちの、はじめての共同作業の成果というわけだ!」
「……! 『はじめての共同作業』……、……」

 オウム返しに呟いた秋風が、恥ずかしそうに視線を逸らした。

 (いや……今、照れる要素あった!?)

 いまいち謎な奴だ……。かわいいけど。

「今度はなんだよ?」
「……!」

 俺が問えば、秋風はハッとした顔をし首を横に振った。

「う、ううん。なんでもない……。じゃあ、そろそろご飯にしようか」
「……? おう」

 なんだか誤魔化された気がするけど、まあいいかと俺はディナーの準備を始めた。


 *


「超美味かったなー!!」
「そうだね。波青と一緒だから百倍美味しかったよ」
「はいはい……」

 今日は秋風が予約してくれていたクリスマスオードブルとチキン、それから俺が手土産に買ってきたショートケーキを一緒に食べた。

 最初は一緒に作ろうかとも話していたけど、秋風の帰りは今日も遅くて時間がないし、俺は昨日実家のパーティーが大変だったしで、クリスマスくらいお互い自炊を休もうかということになった。
 確かに、二日連続パーティー用の料理をするのはキツイから正直助かった。
 いつも節約と栄養を考えて自炊してしまうけど、たまには買ったものも良いなと思う。

「さて! 腹もいっぱいになったことだし、皿洗ってテーブルも片付けたし、次はお待ちかねのプレゼント交換だな!!」
「! うん……プレゼント交換、だね」

 噛み締めるように俺の言葉を繰り返して、俯き加減に微笑む秋風……。
 かわいすぎて危うくふらつくところだったが、ぐっとこらえた。

「っ……じゃ、じゃあ、俺、持ってくるわ……!」
「うん、俺も」

 用意しているプレゼントを自室から急いで持ってくると、同じく持ってきたであろう秋風と廊下で鉢合わせた。

「お……! お前の、なんかでかいな。なんだろ!?」
「まだ内緒だよ」
「くーー!!」

 秋風が両手に抱えているギフトバッグの方が、俺の用意したプレゼントよりずっと大きい。
 中身はお互い完全にサプライズにしているから知らないし……気になって仕方ない。

「やばい! ワクワクしてきた……!」
「ふふ。波青から開ける?」
「うん!」

 リビングのソファに横並びに座り、まず俺からプレゼントを受け取った。

「どうぞ。メリークリスマス、波青」
「ありがと! ……お! ちゃんと、クリスマス仕様のやつだ! さすが秋風!!」

 受け取ってみれば、ギフトバッグにはサンタさんやツリーの柄がついていてウキウキした。
 普通のラッピングよりテンションが上がる。こういうのはやっぱ、雰囲気が大事だ。

「なんだろ、なんだろ!」

 興奮しながら赤のリボンをほどいていく。

 すると、水色と青の中間のような色のマフラーが入っていた。

 触ってみれば、ふわっと温かい毛糸の感触が手に心地良い。

「あったけー! マフラーだ……! 俺、ちょうど欲しかったんだよ!! 秋風、よく分かったな!?」

 今年の夏の衣替えの時、ずっと使っていたマフラーがボロボロになっているのに気づいて処分したのだ。

 それから、冬になったら新しいのを買おうと思ってたけど、なんだかんだ勿体無い根性が出てしまって、『まだ良いか……。耐えられない寒さじゃないし……。うん、来年の冬に買うか』と、どんどん先延ばしにしてしまっていたのだった。

「波青が外出する時、首元が寒そうで気になったから……」
「心配してくれてたのか? ありがとう……! しかも、すごい綺麗な色だ! アオのメンカラだから?」
「……ううん。これは……海で揺れる、波の色。波は、波青の色だからだよ」
「……!! そ、そうか…………」

 青は子供の時から俺の好きな色だ。自分の名前に入っているから。

 なのに……アオのメンカラになってからは、俺じゃなくてアオにそのイメージが付き纏っている気がして、あまり好きではなくなってしまった。

 ありとあらゆる些細な場面で青を選ぶ。サインを書くときのペン、担当するグッズ、編集で付ける字幕、配信に映り込んでしまいそうなマウス、キーボード、ゲーミングチェア、全部、『アオのメンカラ』だから……。俺は『アオ』だから……。それぞれのイメージを定着させて、視聴者に覚えてもらいやすいように。

 (──でも……、そうだ……)

 青はネットで活動する『アオ』じゃなくて、二十五年間生きてきた水無瀬波青──『俺』の名前の色なのだ。

 そんな当たり前のことを久しぶりに思い出せた気がして、思わず笑みがこぼれてしまった。

「……ありがとな、秋風」
「……!! う、うん……。……波青に喜んでもらえて……よかった……」
「へへ」

 秋風も笑ってくれて、ほわほわ平和な空気が漂った。

 今日は寒い日なのに心まであったかくなる感じがする。

 秋風が穏やかで優しいからか、一緒に居ると毎日すごい癒されて……本当ありがたいなって思う。

「あ……、そういや、これはどこで買ってくれたんだ? お前、お店に買いに行ける時間あったのか? 忙しいのにさ」

 ネット注文かなと予想しながら聞いてみると、秋風はごにょごにょ気まずそうに答えた。

「えっと……。一応……、手作り、だよ。……ごめんね。市販のものよりクオリティは低いかも……」
「え!? て、手作りって……お前が!?!」
「……うん……」
「いつのまに!!??」
「毎日寝る前に、編んでいたよ」
「!???」

 買いに行くどころか、手編みだなんて……そんな時間のかかることをやっていたとは。

「なんで……──」

 言いかけて、気づいた。

 そういえば昔……同級生が彼女に手編みマフラーをもらっているのを見て、俺、『いいなー。俺もいつか、そんなことしてくれる子と付き合いたいな~。俺の為に時間使って編んでくれるとか、そんなんないだろうけど!!』とか言ってた気がする……。

「……!!! 秋風~~~!!!」
「えっ!?!」

 俺の夢のためを思ってやってくれたんだ。

 そう思ったらたまらなくなり、抱きついてしまった。

「な、波青……!?」
「念願叶った!! 俺、恋人に手作りのプレゼント貰うの、夢だったんだ!」
「っっそ、そっか……、あの、」
「まじで嬉しい……!! ありがとう! しかも全然、クオリティ低くなんてないぞ!?」
「ほ、ほんと……? それなら良かった、けど……っ」

 秋風が目をぎゅっとつむって石みたいになってしまっている。

「……!」

 俺は急速に我にかえり、近すぎた距離感を反省した。

「あ……。ごめんな。テンション上がって、つい……」
「……ううん…………」

 俺が離れると、秋風がホッと体の硬直を解くのが分かった。

「……」

 なんか寂しいけど、秋風はうぶだから仕方ない。学生の時女子とお試し交際はしていたけど、本当に付き合ったことは一度もないらしいし。

 慣れていないんだろう、まだ。

 (てか、慣れようがないよな。俺ら、ハグなんてたまにしかしないもんな……)

 そのたまにの時だって、毎回俺がお願いしてからで──……。

 (…………ん? あれ……。……ま、待てよ……。そういえば付き合ってから、秋風から自分の意思でハグされたこと、俺あったっけ……?)

 ──……ない。

 (ないぞ……!?!)

「……!!!!」

 重大なことに気がついてしまった。

 十一月に告白して恋人になった日から、ほぼ一ヶ月が経ったが。

 その間何回かしたハグも……キスも……、思い返せばすべて俺が誘ってからのものだ。

 (えぇぇぇ……!!!?)

 まずいのか、まさか。

 これ……恋人として、やばい状況なのか。

「……から……我慢……」
「…………」
「……波青?」
「──ん!? え!? な、なんか言った?!」

 思わず一人で考え込んでしまっていたら、秋風が何事かを話していた。

「……大丈夫?」
「大丈夫! ごめん! ぼうっとしてただけだ……!」
「そう……?」
「まじで大丈夫! で、なんか言ってたのか?」
「あ……うん。あのね。本当は俺、他にももっと波青にあげたいものがあったんだ。だけど、こないだ困らせてしまったから、今回は我慢したよ……って」
「!! う……」

 秋風の言ってる『こないだ』とは、十中八九先々週のことだろう。

 先々週──十二月十一日。俺の二十五歳の誕生日があった。秋風に追いついて、また同い年になれた日だ。

 その日、なんで俺が困ることになったかといえば、山ほどのプレゼントを貰ってしまったからだ。

 服やらアクセサリーやら。
 バリエーションがえぐすぎた……。

 部屋が埋まりそうになるくらいに敷き詰められたプレゼントの山。

 人生で初めてあんなに一気に貰って、開封作業は楽しかったんだけど、次第に『こんなに良いのか……?』って気後れしてきて……。

 それに、秋風から貰った服を着てごちゃまぜの集まりに顔を出した時『なお急にどうしたの!?』と桃星にめちゃくちゃ驚かれてしまった。

 俺の着ている服が、どれもハイブラで一着数十万するやつだったかららしい。いや、知らなかった。知らないで着てしまった。秋風は善意なのだろうけど、俺からしたらとんだ罠だ……。
 そんな高い服気軽に洗濯できないし、ご飯中もシミを飛ばせないし、気を遣う。

 だから『今後はあんまりお金をかけないプレゼントにしてほしい』、『数も一個で』とお願いしたのだ。

「あー……、うん……。今回は秋風が買うのを我慢してくれて助かったぞ。やっぱ、多すぎると有り難みが薄れちゃうかもしれないし……今日みたいに一個だと、特別感があって良いよな」
「特別感か……、なるほど。波青はそうした方が、嬉しいと思ってくれるんだね」

 秋風は真剣に頷き、俺の言葉を飲み込もうとしている。
 人間の情緒を学習するロボットみたいになってるけど大丈夫か。

「でも……ごめん。実は、今日波青にあげたいもの、一つじゃないんだよね……。もう一つだけなら……いっぱいじゃないなら、良い? 試作で作ったものなんだけど……」
「えっ? 試作って……練習したってことか?」
「うん……」
「俺のためにわざわざ練習してくれたんだな!? え……めちゃくちゃ欲しい!」

 高価なものをたくさん買われると困ってしまうが、秋風の手作りならいくらでも欲しい。
 俺が貰わないと秋風は後でなんの躊躇いもなく捨てそうで、もったいなくもあるし……。

「マフラーの下に入ってるから、貰ってくれると嬉しい……」
「お……! まじか!」

 やけに大きいギフトバッグだと思ったら、マフラーの他にも入っていたらしい。

 マフラーを取り出して中を見てみれば、たしかにもう一つプレゼントが入っていた。

 (これは……)

「帽子だ!! すげー!!」

 頭頂部にボンボンがついた真っ白のニット帽が出てきた。なんていう模様だろう……三つ編みみたいな網目になっていてめちゃくちゃ上手だ。

 (いや……でも、これが試作……? 試作……とは……??)

 一瞬宇宙が広がりかけてしまったが、そんなことよりと気を取り直して、俺はニット帽を装着した。

 こんな素敵なものを貰ったんだから、さっそく使わせてもらおう。

「おおー! ぴったりだ! 良い感じ! 頭があったけぇ」
「……」
「おわっっ」

 突然ほっぺに手を添えられてびっくりした。

 瞬きして見上げれば、秋風が緩んだ瞳でこっちをじっと見つめてきていた。

「すごく似合うよ、波青」
「!! お、おう…………」

 (心臓に悪い……)

 秋風の微笑みは好きだけど、……やっぱ苦手だ。甘ったるくて、どうしたら良いのかわからなくて、柄にもなくソワソワしてしまう。

「マフラーも巻いてみて良い?」
「おう! 頼んだ」
「ありがとう」

 すごい丁寧かつ繊細な手つきで、秋風が俺の首にマフラーを巻き始める。

 その一挙一動に、間近に見える長いまつ毛が伏せられている表情に。いちいち見惚れてしまい、俺は身動きが取れなくなってしまった。

「できた」
「っ……お! ありが──」
「すごくかわいい」
「……!!!」

 極め付けにまた微笑まれてしまい、体温がぐんと急上昇してしまった。

「わっ、わはははは……!!」

 とりあえず笑って誤魔化し、秋風の背中をバンバン叩いてやり過ごした。

 気を抜くと引き摺り込まれそうになるから、良くない。

 こういう桃色の空気、苦手だ。

 美形同士ならドラマみたいで良いけど……、片方俺だと思うと冷静に俯瞰で見てキツくなってしまう。

「じゃ、じゃあ……次は俺だな!?」

 話を変えようと俺は、自分が持ってきたプレゼントの箱を持ち上げて秋風に渡した。

「はい! 俺からは、靴っ! 前に遊んだ時お前がくれただろ? だから、お返ししたくって……!」

 家に泊めてもらうようになって秋風の靴のサイズは見放題だったから助かった。でかくてびっくりしたぞ。

 (今日は靴だけど、付き合って一周年とかには動画とかもプレゼントしよっかな……! むふふふ……)

「!! ありがとう……! わぁ……すごくかっこいいね」
「そうだろそうだろ!」

 本当は先のとんがった革靴を選んだのだが。双子に止められてしまったから、無難にスニーカーに変更した。

 秋風が喜んでくれたし、やっぱこれにして良かった。

「本当にありがとう。大事にするね」
「ん!? 大事にっていっても、収納に入れたままはダメだぞ! ちゃんと使ってくれよっ」
「うん。もちろん、毎日履くね。あ、でも、毎日履いたらすぐに悪くなっちゃうだろうから……、大事な日だけにする」
「なら、俺とのデートの時に履いてくれ!」
「っ……! う、うん……。『デート』の時に…………」

 (……かわいい……)

 照れた姿にときめいていたら、ふと口を押さえて秋風がつぶやいた。

「クリスマスって……こんなに素敵な日なんだね」
「……! な! 楽しいよな!」

 全力で同意だ。

 いつもは家族とだけ過ごすけど、こうやって、恋人と過ごすクリスマス……。なんて素晴らしいのだろう。

「俺……プライベートでクリスマスパーティーをやれたの人生で初めてだな」
「え……!? まじ?」
「うん……。一昨年かな。プライベートじゃないけど、ごちゃまぜで撮影用にみんなでクリスマスパーティをやったことはあるよね。それくらいかな」

 (あぁ……!)

 イベントものの動画を毎年出すのは大変だから、みんなの都合がついた時にだけやるのがごちゃまぜの方針だ。一昨年がそれだった。

 しかし、プライベートが初めてだとは……。

 (……そっか。俺は家族とやってたけど、秋風はないのか……)

 もしかしたら秋風は、サンタさんに来てもらったこともないのかもしれない。

 俺は母さんや婆ちゃんが生きている頃はサンタさんをやってもらっていたし、双子には俺がやっていた。

 でも秋風は──、秋風の為にサンタさんになってくれる人は、今までいなかったのだろう。

 (……俺、しまった……)

 どうしてその考えに至らなかったのか。だいたい、今日のプレゼントも、手渡しするんじゃなくて……

「こっそり枕元に置けばよかった……。……!! や! じゃ、じゃなくて、サンタさん! サンタさんが今日の夜、良い子の秋風の元に来るかもな!?!」

 思わず考えが声に漏れてしまい、俺は慌てて訂正した。

 靴とは別に急いでプレゼントを用意しよう。もう夜だし買ったりするのは間に合わないから、俺の持ってるもので……。

 (なんか秋風にあげられるものあったっけ……!?)

 やばい。思いつかない。俺のペンケースに入ってるボールペンとかで良いかな。いや自分が使ってるお古をあげるって逆に失礼か。どうしよう。

 (と、とりあえず秋風が眠った後、なにかをこっそり置かねば……!!)

「……ふふ。波青、俺子供じゃないよ。サンタさんも存在しないよ」

 しかし、焦る俺を見た秋風が苦笑して断ってきた。

 (ちょ……マジレスするな……!)

「それはそうだけども! 雰囲気だろ、こういうのは……! ……てかごめんマジで! 来年のクリスマスは、手渡し用のプレゼントと枕元に置くサプライズ用のプレゼントで分けるから! 楽しみにしててくれ……!」

 こうやって予告してしまった時点でサプライズではない気がするが。
 でも、秋風を喜ばせたい。初めてのこと、たくさん経験させてあげたい。来年が今から楽しみになるように。

「……来年…………」
「……? ……どうした?」
「そんな先も、俺は波青と一緒にいられるのかな」
「え……?」

 なんて言った。小さい声すぎて聞こえなかった。

「……ううん。なんでもない」
「……??」
「今日はクリスマスパーティーとプレゼント交換、すごく嬉しかったし楽しかった。波青、本当にありがとうね」
「!! お、おう! 俺も! 楽しかったぞ!」
「……うん」

 秋風はそう小さく笑ってから、首を傾げてきた。
  
「そろそろ寝る?」
「あ! うん。そうだなっ」

 秋風の帰宅が遅くて、ご飯自体も遅くなってしまったから、結構もう眠い時間だ。今日はゲームしたりしないで大人しく寝た方がいいかもしれない。

「波青、眠いよね」
「よく分かったな」
「分かるよ。じゃあ……おやすみなさい」
「ん! おやすみ~~…………」

 (──って、えぇ……!!?)

 まさか秋風、今日も俺と一緒に寝ないつもりなのか。

 秋風は俺があげたプレゼントを持つと、さっさと一人で寝室に行ってしまった。

 (っいやいやいや……!! いやいやいやいや……ッッ!!!)

「……まじかよ…………」

 俺は、イベントごとは大事にしたいタイプだ。

 特に今日は、一年に一回のメリークリスマス。

 クリスマスっていう特別な日くらい……一緒に寝られるかと思っていた。

「…………」

 そう。俺と秋風は、恋人なのにまだ一度も一緒のベッドで寝られていない。

 お泊まりの何が良いかって、楽しいデートの後、バイバイしなくて良いってところなのに。寂しさを味合わなくて良いってところなのに。

 なのに俺たちは、お泊まりしているのにも関わらず「じゃあ、おやすみ」「おやすみー……」っていつも別々の部屋に行く。

 せっかく泊まりに来ても、夜には絶対にお別れの寂しさを味わっているのだ。

 (……もうお試し交際じゃないのにな…………)

 お試しの時に個別で寝るのは分かるけど、本当の恋人になってもまだそうだとは……。

 秋風は俺とは違い、『恋人だとしても一緒に寝るのは避けたいタイプ』らしい。

 黒さんが前、酔っ払った秋風の言葉を教えてくれたけど、あれはたぶんかなり盛っていたんだろう。

 ──『「ベッドに行ったら……た、ただ、なおと、手を繋いで眠る……あとできたら、っ…………い、一回だけ、ハグも…………」とか、恥ずかしそうに言うわけよ』

 あり得ない。
 手を繋いで眠るなんて。

 だって実際は、『ごめんね。同じベッドはちょっと……』とか言ってずっとすげなく断られてしまっている。

 秋風は俺と寝たくないのだ。

 俺は、朝までずっと一緒にいたいタイプなのに……。

 ベッドの上でおしゃべりをして、瞼が落ちる寸前まで秋風のことを見ていたいのに。

 ある意味、欲求不満である。

 (寂しい……)

 もっと恋人に──秋風に、近づきたい。

「…………、……あ……!」

 一人で俯き考え込んでいた俺は、そうだ! と閃いた。

 (こっそり秋風の寝室に行けばいいんだ……!!)

 一人でぐっすり寝たい主義の秋風には悪いけど、一緒に寝たい派の俺がいつも我慢してるのだから、一日くらいは譲歩してもらいたい。恋人なんだし。今日はクリスマスという特別な日なんだし。

 (よーし……!)

 秘技。忍び込み作戦だ。

「くっくっくっ……」

 俺はそろりそろりと忍び足で廊下を歩き、秋風の寝室に向かった。
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