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最終章
184 子供なのかな…… ※
しおりを挟む「秋風……! 秋風! しっかりしろ!!」
俺は秋風に乗っかったまま、がくがくと肩を揺さぶった。
(えええぇ……どうしたんだ!?)
秋風は両手で顔を隠したまま、動かない。完全にベッドとお友達になってしまっている。
(なんだ……? 体調悪くなったか……いや、待てよ。耳がめちゃくちゃ赤いな)
ということは、体調不良じゃなくて、照れたんだな。
なるほど。屈したか。この俺の誘惑に。
(いやお前……、だったら顔隠しても意味ないだろ。お前、赤くなるの耳だけなんだから!)
頭隠して尻隠さずならぬ、顔隠して耳隠さずになっちゃってるぞ。
「…………大丈夫か?」
「だいじょうぶじゃない……」
「……ま、まじか……。でも、起きてくれないと困るんだが。せっかく頑張って捻出した俺の練習時間が刻一刻と減っている……」
「……!! ご、ごめん……そうだよね。今日の練習のために、波青がお皿洗いを一人でやってくれたのに」
「いやそれは良いんだけど……」
俺の催促に負け、秋風がよろよろと起き上がってくる。
「なぁ、そんなことより、どーだった!? 俺のゆーわく! 効果バツグンか!?」
俺は秋風の太ももの上でワクワクとインタビューした。
「……『ゆーわく』は……、もう勘弁して……。無意識でも破壊力が強いのに。意図的にやられたらもう、もうお手上げ……」
本当に参った様子だ。かわいいヤツ。
「ふーん……。秋風って、弱いんだな! 俺の方が強い! お前のこと、コテンパンにできるぞ!」
「……」
「降参しましたって言え!」
「……降参だよ」
「おぉ……! 俺の勝ち!!」
「そうだね。俺の負けだし、俺は弱いよ。だから波青のその寛大な心でどうか手加減をして。これ以上は本当に無理」
「! あっ、手加減か……」
そこまで言うなら……、仕方ない。
「分かった! じゃあ……弱い秋風には、特別に選ばせてやるよ! 体に触るのと体に触られるの、秋風的にはどっちが楽なんだ!? 今日の練習メニューは、『恋人らしい触れ合い』にするからな!」
「…………」
「なんだ、嫌なのか?」
「念のため聞くけど、その二択以外は?」
「ない!!」
「……ないか…………」
顔を押さえた秋風は、粘り強く聞いてきた。
「俺の脚の上から退いてくれたりは……?」
「しない!!」
諦めが悪いな、秋風は。
「もう諦めろ! どっちを選ぶ!?」
「……波青に触られたら、理性保てる自信ないや」
「そうなんか。なら、触る方やる?」
聞いたら、秋風は自分の手を見つめて申し訳なさそうに言った。
「俺の手、冷たいから……。こんな手で波青の肌に触れたらびっくりさせちゃうかも……」
「あ……」
たしかにそうだ。
「あっ! じゃあ、こうすれば平気じゃね!?」
俺は秋風の右手を両手で包み込み、自分の頬に当ててあっためてやった。人間ホッカイロだ。
「どーだ? これですぐあったかく──」
「っっ~~~……」
「……? 秋風?」
「……」
「秋風~~」
「……」
秋風が目をつむって静かになってしまった。これ以上俺と喋りたくないらしい。
(なんだよ……)
そうこうしているうちに、俺の手の中の秋風の手が熱を取り戻してきた。
俺の体温、すげぇ。自分で言うのもなんだが、強すぎる。
「よーしあったまってきた! 準備は万端だ! 練習再開だな!」
「……」
「……無視するなよ! もう! で、服はどーする? 脱いだ方がいいか?」
「絶対に脱がないで」
無視してたくせに、服の質問には目を開けて低い声で答えてきた。
ほんとなんなんだこいつ。
「あ、はい……。まあ、見たら萎えるかもだしな」
「そうじゃなくて……。波青の裸を見たら俺、理性を保てる自信がないから」
(またそれかよ……)
理性ってなんだ。保てなかったら何が困るんだよ。
(よく分かんないけど……俺も率先して見せたいわけじゃないから助かるな)
俺の正月明けの情けない体を見られずに済んでよかった。
いつまでも見せないわけにはいかないし、きっと練習が進んだら裸にはなると思うけど。
秋風に見せる日までに筋トレを頑張るしかない。
「おけ! 今日のところは着たままだな! やるぞやるぞやるぞ~!!」
「……されたら嫌なことはある?」
覚悟を決めたのか、秋風から質問してきてくれた。
「え、特に……。あっ、思い切りつねるのはなしな! 痛いから!」
「そんなことしないよ」
「わかんねーだろ。長年の俺への恨みをここで晴らそうとしてるかもしれないしさ……」
「俺をなんだと思ってるの」
「それと、舐めるのは……なんかびっくりしてやばいから、一旦今日だけ、無しにしてくれたら助かる……かも!?」
「……! うん。分かった。もうやらないよ。さっきはびっくりさせちゃって本当にごめんね」
「んーん……」
俺は緩く首を振った。
それから秋風の肩に手を置いて、バランスを取る。
待っていたら、秋風が目を伏せて呟いた。
「じゃあ……触れるね」
「うん」
「嫌だったら、嫌って言って教えてね、波青」
「だから、へーきだって……!」
本当心配性だ。
秋風は再三忠告した後、俺のパジャマの下にそっと手を入れてきた。
「……」
ちょっと緊張するけど、まあ、触られることくらいなんてことはない。
(ただのスキンシップだ。恋人なんだから当然誰しも──)
「!!! っ……!?」
ぞわっ……──。脇腹を直に触られた瞬間、痺れが走ったみたいに体が跳ねて、俺は口を押さえた。
くすぐったいに似た感じ。なんだこれ。
人の手で触られるって、こんなに変な感じなのか。
「あっ……! ちょ、ま……っ!」
俺は慌てて秋風の頭を抱えて止めてしまった。
「嫌……?」
「うっ、嫌じゃなっけど……」
「大丈夫?」
「うん……っ、ん、あ……!」
大丈夫と頷いた瞬間、止まっていた秋風の手がまた動き出した。
(なんだこれ……っっ)
大きい手が、俺の腰のくびれやらお腹やら胸板をなぞっていく。
ゾクゾクが止まらない。気持ち悪い方の悪感ではなくて、むしろ真逆の。体が熱くなるゾクゾクだ。
「おまっ、触り方、変っ……!」
秋風がやらしい触り方をするせいだ。
そう思ったけど、「普通に触れてるだけだよ」と返されてしまった。
「でも俺、な、なんか……んっっ……」
「……波青、肌が敏感なのかも……。もしかしたら」
「えっ……?」
「……」
一度俺の服から手を抜いた秋風は、目を見つめて聞いてきた。
「肌を人に直で触れられるの、初めて?」
「え……うん。初めて……」
「……、そっか。触られるのが苦手な人っているよね。体質で。今まで経験がなくて気づかなかったんじゃないかな」
「……!!!」
(そ、そんな…………)
もしや俺の体、クソ雑魚?
強いと思ったのに……。弱かったのか?
「じゃあ俺……秋風とえろいこと、できない……?」
「えっ──……!!」
不安になって呟いた瞬間、ゴホゴホと秋風が咳き込んでしまった。
「秋風……!?」
「ご、ごめん……。ちょっと待って」
「大丈夫か?」
「ッ、うん……。……そうだね。こういうことは、しない方がいいかも。敏感な体質だと、刺激が強すぎて波青が苦しいと思うから」
「……!!」
俺は絶望的な気持ちになって、秋風にしがみついた。
「そんなぁ……っ」
「……! 波青……」
秋風は困ったように首を傾げ、俺を安心させようとしてくれた。
「波青、気にしないで。なにも触れ合わなくたって、デートしたり、色々やることはあるよ。こういうことをしなくても、もっと仲良くなれるんだよ。いつも通りの日常でも波青に飽きずに楽しんでもらえるように、俺、頑張るね」
「……!!」
(そ、そういうことじゃないんだ……!!)
ありがとう。嬉しいけど。
デートは俺だってもっとしたいけど……でも、それとこれとはまったくもって違うんだ。
俺はくうっと歯噛みして、秋風に訴えかけた。
「いや、俺、苦しくないから……っ! 変な感じはするけど、慣れたらきっと大丈夫なはずだし……! 俺はまだまだいけるんだ!!」
「そんな、根性論みたいな……」
「お願い、秋風……!」
「……波青……」
「大丈夫になるまで、練習重ねたら良いじゃん! だから、練習付き合って。こんな体に付き合うの、めんどくさいかもしれないけど……」
「めんどくさいわけないよ」
真面目な声で否定してくれた。
俺はぱあっと気持ちが晴れた気分になり、顔を上げた。
「じゃあ、協力してくれるか……!?」
「…………うん。いくらでも協力する……」
「やった……!!」
落ち込んだ俺を励まそうとしてくれているんだろう。それだけだとしても、嬉しかった。
「……どうする? 波青。今日……もう少しだけ、頑張れそう?」
「うん、まだまだいける! 頑張る!」
「そっか。分かった。無理はしないでね」
そう言った秋風が俺の頬にキスをした後、もう一度手をパジャマの内側に忍ばせてきた。
「んっ……」
さっきよりもゆっくり触ってくれているのが分かる。
そうっと優しくなぞられてるだけだ。それなのに、体がビクビク跳ねる。本当、俺の体超絶雑魚だ……。
「大丈夫? 波青」
「はぁっ……はっ……、んんっ……」
お腹の下辺りを撫でてくる指先。へその穴の中まで入ってきた気がして、内腿が震えた。
(う~~~~っ……)
キツい。ゾワゾワが止まらない。下半身がどんどん熱くなってく。
(あ、あれ……俺……興奮してる……?)
変態かよ!! と自分にツッコみたくなったけど、他人ならともかく、恋人の手で触られて興奮するのは当たり前ではと思い直した。うん。俺は変態ではない。そうだそうだ。
(……でも……変態じゃなくても……勃ったらやだな……)
気まずい。勃ったら最後、間違いなく秋風にバレる。脚の上に座っているんだから当たり前だ。
なんでこんな体勢にしちゃったんだよ、俺。
「しゅ、秋風! 待って……!」
「どうしたの?」
「下の方は、ちょっと……、俺、上の方を触って欲しい……!」
「分かった。上の方にするね」
ホッ……。
(良かった……。多分、際どいとこを触られたせいだな……興奮したのは)
下腹部は股に近いから、刺激が強かっただけだ。
上の方なら安心なはず……。
そう安心したのも束の間、自分の声とは思えない高い声が口から飛び出してしまった。
「ひゃっ……!!?」
なんか今、一際強い刺激が走ったような。
「!?!?」
秋風の指が俺の胸の先っぽを掠めている。
ふにふにと、感触を確かめるようにこねてくる。
「あっ……あぁっ……っ!」
やばい。胸を触られたからってなんなんだ。女の子でもあるまいし。
なのに──。
「ひ、ん……ッ」
先っぽをつままれた瞬間また変な声が出てしまい、俺はバッと自分の口を押さえた。
「ごめんっ……! 俺、変……っっ」
「かわいい……」
「ッ……」
「ここ、気持ちいいの?」
「……!!! 違っ気持ちいいんじゃなっ……あぅっ……!」
言いかけた瞬間に引っ張られて、また変な声が漏れてしまった。
どうしよう。
「あっ……! ん、んぅっ……」
引っ張ったかと思えば、今度はすりすりと乳頭を刺激されている。
パジャマの内側で、俺の胸の先が固くなって立ち上がっているのが自分でも分かった。
「あ、あっ……ぁ……っっ!!」
右はあやすように撫でて、左は強めに押し込んでくる。強弱に翻弄されて、腰が震える。
秋風、いつのまに両手を入れたんだ。
気づかなかった。そんなことを考える余裕もないくらい、体が熱くなっていたから。
「あ、ひっ……」
(やばい……っっ)
胸を弄られれば弄られるほど、股の間がむずむずする。
早くしごきたい。胸じゃなくて、下を。一人になって、めちゃくちゃにこすりたい。
「やっ……! しゅうか……!! も、やだ……っそこ、やだ……!」
もどかしくて身をよじった俺に気がつき、秋風がハッと手を止めた。
「……!! ご、ごめん……!」
「……っあ……! ごめん、俺も…………」
「……波青の反応が可愛すぎて、夢中になっちゃってた……。ごめんなさい……」
「だ、だいじょぶ……、……」
「…………」
「…………」
「しゅうか。俺、あの……、ひ、一人で…………」
俺は秋風の脚の上から退いて、自分の下半身を見やった。
それだけで察してくれたのか、秋風が慌てて立ち上がった。
「っっ……そ……、外! 俺、外出てくるね! 落ち着いたら連絡してくれると嬉しいな」
「!! わ、分かった! ありがとな……!!!」
(助かった……)
秋風がいなくなった部屋で、俺はよろよろとベッドに倒れ込んだ。
これで一人でゆっくり抜ける。
空気を読んでくれてありがたい。
「…………」
(……いやいやいや!! じゃないだろ!??)
「なーーにやってんだ俺はああああああ!!!」
俺はボフッボフッと枕に頭を叩きつけ、大反省した。
「……っ」
色気がないどころか、何やってもやだやだ言うし、ちょっと触られたくらいで大声出して頓珍漢な反応するし、最悪だ。
こんなんじゃ、秋風に『え……? 俺が付き合ってるの、子供なのかな……』とか思われちゃう。
秋風に引かれて、見限られちゃう。
(……だめだ……。もっと、大人にならなくては……)
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