幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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最終章

185 練習二日目 ※

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「じゃあ、おやす……──えっ!?」
「どけーーー!!」

 次の日。

 俺は自分の寝室に引っ込もうとする秋風をダッシュで追い越していた。

「!? なにやって……」

 慌てて追いかけてきた秋風が、寝室の扉の前に立ち尽くし、きょとんとした。

「…………寝室閉鎖のお知らせ……?」

 そう。俺は先手を打ち、秋風の寝室の扉にマスキングテープで張り紙を貼ってやったのだ。

 ────────────────────

 ~寝室閉鎖のお知らせ~

 本日も水無瀬波青氏の部屋で練習を行うため、
 蓮見秋風氏の寝室はしばらくの間閉鎖させていただきます。

 練習が終了次第、再びご利用いただけます。

 ご不便をおかけしますが、ご理解とご協力をお願いいたします。

 ────────────────────

「……」
「うわっ、秋風の寝室閉鎖だって! 大変だなぁ~!」
「なにその白々しい演技……」
「だって、張り紙が貼られてるんだから仕方ないだろ!」
「波青がわざわざ作ったの……?」

 秋風に聞かれ、俺はドヤ顔で頷いた。

「そうだ! お前が寝室に逃亡するなんていうことは俺にはお見通しだからな! 先手必勝に限る!!」
「……。そうだ。剥がしちゃおう。そうすれば効力はなくなるし──」
「あーーー!! だめぇーーーー!!!」

 無慈悲にも張り紙を剥がそうとする秋風を見た俺は、手を伸ばして絶叫した。

 すると、秋風がぴたりと止まった。

「……」
「……」

 かと思えば、またこちらをチラ見しながら張り紙に手をかけた。

「やめてーーー!!!」
「……っ」

 何が面白いのか、声を出さずに爆笑している。なんてヤツだ。

 (こ、こいつ……俺で遊んでやがるな……!? 最悪だ……!!)

「お前……勝手に剥がしたら、絶交だからな……! 絶対に許さないからな……」
「絶交は嫌だ。ごめんなさい」

 俺が凄んだら、ようやく張り紙に手をかける遊びをやめてくれた。助かった。

「そうだろ、そうだろ。絶交が嫌ならば、今からバトルフィールドに来るように! 三分以内だ! 俺は宿命の地で待つ!!」
「バトルフィールド……? 宿命の地……?」
「しーっっ……!」

 俺は察しの悪い秋風に向けて、特別に小声で説明してあげた。

「……俺の部屋のことだぞ! 雰囲気が無くなるから、ぼかしてるんだ……!」
「……」
「では、さらばだっヒーローよ! 俺は先に行く。せいぜい首を洗って来い! 正々堂々、迎え撃ってやる! なーっはっはっは……!!!」

 俺はそう宣言し、バサっとマントを翻す自分を想像しながらカッコよく秋風に背中を向けた。

 (よーし、上手く行ったぞ……!)

 毎回俺が手を引っ張って連れて行くのは無理矢理感が出て嫌だからな。

 今回は秋風が自分の足で俺の部屋に来てくれるように、男のロマンを揺さぶる雰囲気を出してみた。前に見たバトルアニメのようなシチュエーションで。

 こうすれば秋風もワクワクして、自ずと俺の部屋に足を運びたくなることだろう。

 我ながら作戦が賢すぎてやばい。

「……」

 (……でも、なかなか追いかけて来ないな……?)

 廊下を走りながら一瞬振り返ってみれば、棒立ちの秋風が何やらぼそっと呟いていた。

「……決闘でもしてるつもりなのかな。ほんと無邪気だよね。人の気も知らないで…………」
「……?」

 よく聞こえなかったから、俺は無視して自分の部屋に駆け込んだ。


 *


 自室で待つこと数分。

「……波青、入るよ」

 やっと秋風がやって来た。

「おお! 来たか!!」

 歯でも磨いていたのかも。準備は万全じゃないと困るしな。

 俺はといえば、しっかり準備万端でベッドに座って待ち構えていたところだ。

「さぁ、来い!」
「いや、あのさ……」

 俺はバッと両手を広げたけど、秋風は俺の胸に飛び込んでくることもベッドに座ることもなく。

 ただ、俺の足元に跪いて見上げてきた。

「今日もするつもりなの? 練習……」
「え!?」

 (今日もって……)

 当たり前だ。毎日やらないと、進む気がしない。

 一刻も早く昨日の失敗──やだやだ言ってこの寒空の下秋風を追い出してしまった超失態──を挽回しなければ……。

「何を言ってんだ! 当然、毎日やるんだぞ! そのための合宿! そのための週五お泊まりなんだからなっ!!」
「……合宿と言っても、お休みはあっても良いと思うけど」
「え……」
「今日はやめておこう? 昨日の波青、相当びっくりしていたみたいだし……。なにか焦っているように見えるよ」

 秋風は跪いたまま俺の両手をそっと取り、目を見て聞いてきた。

「…………」

 この目の合わせ方、まるで保育園の先生と園児の気分だ。
 『なおくん、きのうはびっくりしたね! あせらなくていいからね。きょうはおやすみしようか!』……みたいな。

 (~~~っっふざけるな!!)

「やめない!!」

 俺はぶんぶんと首を振り、秋風の提案を却下した。

「今日はもっと先に進むんだ! お前、同い年なのに俺を子供扱いするなよ!!?」
「え? い、いや、子供扱いなんて……」
「してるだろ! もーっ! 今に見てろよ!!」

 俺は言い訳している秋風の手を振り払うと、ヤツの脇の下に両手を入れた。

「っぐ、ぐぬぬ……」

 秋風の体を持ち上げてベッドに押し倒そうと思ったのだが、全然ぴくりともしない。

「……何をしてるの?」
「重いぃ……ッ!」
「俺を持ち上げたいの……? 俺はぬいぐるみじゃないから無理だよ」
「……っ」

 俺もぬいぐるみじゃないんだが。なのに俺は、子供の頃よく秋風にひょいっと持ち上げられていた。

 いつも秋風は簡単にしていたから、俺にだってできると思ったのに。体格の差があるから逆は厳しいのか。

 (くそ……)

 持ち上げられないのなら、どうにか自主的にベッドに座ってくれるように仕向けなくてはならない。

 俺はじーっと秋風を観察しながら、次の一手を考えた。

「……」
「……?」

 (……うん。決まった! ここは、罠を仕掛けるか。そのためには、多少のプライドは捨てないとな……)

 俺は唇を噛んで恥をこらえ、小さく頼みこんだ。

「と……隣に来て…………」

 くそ、こんな甘えたような声を出すなんて屈辱すぎる。

 恥ずかしさに悶えたくなっていたのも束の間、瞬きした俺はギョッとした。

「……!!?」

 お願いした次の瞬間には、秋風がしゅばっと俺の隣に座っていたのだ。

 (!? え……、ん……!? ん!?! こいつ、いつのまに……!?)

 俺はさっきまで秋風が跪いていた位置と、隣にいる秋風を三度見した。

 (な、なんだ今の……、忍術!?)

 目にも止まらない速さとはこのことか。立ち上がり、座るまでのモーションが絶対にあったはずなのに。全くもって見えなかった。コイツ忍びか何かかよ。

 (ま……まあいい! とにかく、……罠にかかったな……! バカめ!!)

 たった一言お願いされただけでまんまとベッドに座ってしまうとは。やはり秋風はチョロい。チョロすぎる。

 フィールドに上げてしまいさえすれば、こっちのものだ。

「ふっふっふ……!」
「……!?」

 俺は秋風の肩を掴み、ぐっと後ろに押し込んだ。

 持ち上げることはできずとも、俺もれっきとした成人男性。

 全体重をかければ、押し倒すことはなんとか可能だった。

「ふう……ふう……」

 息を整えながら、俺は秋風の上にまたがりマウントを取った。

「ッな、なに──」

 覆い被さって、秋風の唇に自分の唇をくっつける。

 秋風は言いかけていた言葉も失い、大きく目を見開いた。

「……!!」

 開いた隙間に、舌を差し入れる。

 長いキス……秋風の真似だ。

 昨日、一昨日とされて、さすがにもう分かった。完全なる習得。

 (……いや……習得、できてるのか……?)

 いまいち不安だ。

 正直、見よう見まねでやってみただけだし。これじゃただ、秋風の唇をぺろぺろ舐めてるだけかも。

 (……ぼ、ボロが出る前に……中断するか……)

 下手くそだと思われたら困る。

 俺は技巧のなさがバレないように、さっさと終わらせて、口を離した。

「な!? どうだっ!? 俺、大人だろ……!」

 ドキドキしすぎて、声が掠れてしまった。まずい。平常心だというアピールをしなければ。

「大人と書いて、水無瀬波青と読む!」

 俺は秋風の胸に手をついて、興奮気味に言った。

「俺、長いキスもできるし、もっともっとすごいことだって──」

 下から伸びて来た片手に口を塞がれてしまい、言葉が途切れてしまった。

「むがっ……! は、なにすんらよ……!」
「さすがにおいたが過ぎるよ」
「……!!」
「……波青は、俺を困らせる天才だね……」
「……!!! お、怒ってるのか…………?」

 普段温厚な奴が怒るのは怖い。

 思わずびくついてしまったが、秋風は「ううん」と首を横に振った。

「怒ってはいないけど……」

 肘をついて体を起こした秋風が、俺を真正面から見つめた。

「好きだから、困ってる」
「…………」

 せっかく頑張って押し倒したのに簡単に起き上がられてしまった。

 いや、そんなことより、『好き』って──。

「え、俺も好き……」

 俺も照れながら返した。好きと伝え合うのは、恋人同士の素敵な戯れだ。素晴らしい。

「…………っ」

 しかし秋風は、喜ぶどころか眉間に皺を寄せて、怖い顔になってしまった。

「……!? え……、わっ」

 かと思えば、ぎゅーっと体を抱きしめられて、何が何だか分からない。不機嫌なのかと思ったら熱烈なハグ。本当、こいつは何を考えているのか謎すぎる。

「しゅ、秋風……っ?」

 俺もぬいぐるみではないから、ぎゅうぎゅう思い切り抱き枕にされたら、ちょっと苦しい。

 なんとか顔を胸から離して声をかけたら、秋風は俺の肩に顔を埋めたまま小さく唸った。

「っ…………そういうとこだよ…………!」

 (……!? そ……『そういうとこだよ』!?!)

 マジで日本語を喋ってほしい。やばい。円滑なやり取りが不可能だ。

「あの……、ど、どうした?」

 聞くと、潰れそうなハグからやっと解放されて、秋風が俺の目を見つめてきた。

「……」

 間近で見る究極の美。相変わらず美形すぎて、ぽかんと見惚れてしまった。

「……」
「…………」

 (……ハッ!!! し、しまった……!)

 危うく、間抜けな顔で涎を垂らすところだった。

 見惚れている場合ではない。

 たぶん、たぶんきっとこれは、キスの流れだろう。相思相愛の恋人同士が見つめ合う、無言の時間。きっとそうだ。

 俺はなんとなくそういう空気を察知して、瞼をそっと閉じてみた。

「……!」

 すると、俺の唇に秋風の唇がわずかに触れた気配がした。

 (!! やっぱりだ……!!)

 今の俺の動き、かなり良かったんじゃないだろうか。すごく空気を読めていたぞ。

 もはやKYやノンデリなんていう不名誉な称号はつけられないはず。

 (空気の読める男、水無瀬波青……!!)

「ん……っ」

 そんなことを考えているうちにどんどんキスは深くなっていって、耳を塞いでしまいたくなるような音が響いた。

 俺は顔に熱が集まるのを感じながら、必死に秋風の舌に応えた。

「な、なぁ……俺、できてる……?」

 目を開けて聞いてみれば、秋風は優しい瞳で微笑んでくれた。

「うん」
「ほんと? 俺のキス、下手くそって思ってないか……?」
「ううん。すごく上手だよ」

 (!! 上手……!!?)

 秋風に褒められた。

 俺、ちゃんと長いキスを習得できていたらしい。

 (も……、もっと褒められたい……! 秋風に褒められたい!!)

 俺はキスを繰り返しながら、秋風の背中や腰、太ももをさわさわと撫で回した。

「…………その手は何?」

 褒められると思ったけど、キスを中断して質問されてしまった。

「俺も秋風を気持ちよくしてるんだ!!」
「触らないで」

 ガーーーーーーーン。

「……!! ご、ごめん……! 違う。言い方が冷たかったかな。ごめんね」

 大ショックを受けていたら、俺の表情を見た秋風が血相を変えて慌て出した。

「本当にごめん……! もちろん、波青に触れてもらえるのはとても嬉しいんだけど……。昨日、俺に選ばせてくれるって言ったよね?」
「え……。……あ! う、うん……、そうだな!」

 ──『分かった! じゃあ……弱い秋風には、特別に選ばせてやるよ! 体に触るのと体に触られるの、秋風的にはどっちが楽なんだ!? 今日の練習メニューは、『恋人らしい触れ合い』にするからな!』

 確かにそう言った。

 まあ、それはあくまで昨夜の練習メニューの話であって、今夜の練習には適応されないつもりでいたんだけど……。

「あのね……。まずは、俺が波青に触れるから。波青がそれに慣れるまで、次の練習には移らない方がいいと思うんだ」
「……? えっと……」
「一個一個確実に、横着しないで行こうってことだよ」
「おぉ! 確実にだな……!?」
「うん。確実に、順番だね。まずは波青が触られる側の練習をして、それがもしクリアできたら、次は俺が触られる側で練習するから。同時にやったらわけがわからなくなるでしょう?」
「な、なるほど……! 秋風の言う通りだ!!」

 さすが、秋風は頭が良い。とても建設的な案だ。

 つまり、完璧に平等に、俺にもチャンスは巡ってくるということだろう。

 (俺の方の練習を終わらせれば、次は秋風のことを好きなだけ触り放題なんだよな……!?)

 練習だから、『触らないで』とはもう絶対に言われないはず。

 そうと決まれば、早く自分の方の練習をクリアしなければ。

「すぐ慣れるぞ! そしたら俺も、秋風のことを触る!!」
「……うん」

 なぜだかなんとも言えない顔で微笑まれてしまった。

 侮られているんだろうか。どうせ俺なんて慣れることはないって。そんなわけがないのに。

「よし! では、触ってみろ! 今日の俺は昨日の俺とは一味違うっ!」
「ほんとかな……」

 秋風は訝しんでいるが、本当に違う。

 なぜなら今日は、パジャマの下に薄手のヒートテックを着ているからだ。

「! あれ……。部屋寒かった? 暖房の温度上げよっか」

 俺のパジャマに手を入れた秋風がいつもと違うヒートテックに気づいたのか、心配そうに聞いてきた。

「いや! 大丈夫! ただ、今日はこの上から触ってもらおうと思って着てきたんだ! そうしたら俺もびっくりしないだろ!?」
「あ……分かった。そうだね」
「うんうん……!」

 俺も、昨日はいきなり素肌を攻撃されたから驚いただけだ。

 ヒートテック越しなら、きっと刺激も鈍くなるはず──。

「っ……ひっ……!?」

 (──いやあんま変わんねええ!!!)

 なぜだ。なぜなんだ俺の体…………。

 素肌を撫でられる感触とはまた別の刺激で、どっちにしろビクビクとアホみたいに体が跳ねてしまう。

 せっかくヒートテックを仕込んできた意味が全くなかった。

 (っ……てか……!)

「んっ、あぁ……ッ!!」

 (こっちのが、やばい……っ)

 ヒートテックの上からかりかりと胸の先を引っ掻かれて、腰が浮いてしまう。

 昨日直で触られた時より、いっそ気持ち良さが上かもしれない。まずい。

 ヒートテックなんて着てくるんじゃなかった。

「ぁっ……んぅ……!」

 かりかり、かりかり。優しい力で擦られて、気が狂いそうだ。

「っ……なぁ! なんでそこばっかやんの……!」
「え……」

 俺は慌てて秋風の腕を掴み、これ以上弄られるのを防いだ。とりあえず、胸への集中攻撃をやめてほしい。

「波青の顔がかわいいから……」
「!? 意味わからん!!」

 理由になってない。コイツ、脈絡というものを知らないのか?

「ダメだった……?」
「っ……ダメじゃない……! 練習だしな! で、でも、そこ弱いから、触るのは違うとこにしてほしいというか……」
「弱いところを鍛えるのが練習だと思うけど……」

 (正論言うなっっ!!)

「俺は強いところを鍛えるタイプなの! 分かるか!?」
「そっか……。でも、波青の体の部位で強いところなんてあるの?」
「おい! バカにするな! あるに決まってるだろ!!」
「具体的に言うとどこ?」
「え? え、えーと、……背中とか…………?」

 やばい。強いところなんて聞かれても、見つからない。

 だけど、消去法的に背中だろうか。

 お腹は昨日触られた時ゾクゾクしたし、胸は言わずもがな刺激が強いのが分かったし、首も舐められた時うわっっってなった。

 背中なら下腹部と反対のところにあるから、多分刺激が弱いはずだ。

「……そうなんだ」

 頷いた秋風が、俺の背中に手を回す。

 そうして、下から上にそっとなぞってきた。

「ひゃ……っっ」

 (あー!! 変な声出たーーッ……!! 最悪!)

「背中も弱いみたい」

 秋風にくすっと笑われてしまった。

「……っ!!」

 俺はたまらず、秋風の肩を掴み頭突きをくり出そうとしたが、手首を掴んで防がれてしまった。

「もーーー!!! 俺を笑ったな……っ!」
「だめだよ。練習中に暴れたら」

 そう言った秋風が機嫌良く唇を重ねてきて、黙るしかなかった。

「っ……」

 練習中くらいだ。こんなにキスしてくれるの。

 普段ないからありがたいというか……、今この時間を目一杯堪能しなければという気持ちになってしまうのは俺のせいじゃない。不可抗力だ。

「んんっ……」

 また、パジャマの下にするりと秋風の手が忍び込んできた。

 舌を吸われながら胸の先端を触られるの、たまらない。

 なんかすごい。

 頭が溶けちゃいそうだ。

 (きもちいい…………)

「んっ……ぅ……」

 だんだん、頭の中がぼうっとしてきて、股の間が熱くなってくる。

 顔が離れた隙に俯いて見てみれば、自分自身が勃ち上がっているのが分かった。

「……はぁ……はぁ……っ」

 (っ……! 俺……勃っちゃってる……)

 正直、昨日みたいにまた一人でしたいけど……。

 ──でも、ダメだ。

 毎回秋風を追い出していたら一生先に進めない。
『波青ってお子様なのかな』と秋風に思われてしまっているままだ。

「……ッ」

 (勇気を出せ、水無瀬波青……!!)

 俺は自分を鼓舞してから、思い切って股を若干広げて言った。

「しゅ、しゅうか、こっちも……」
「……!!!」

 見上げると、秋風の喉仏がごくんと上下するのが見えた。

「……いいの……?」
「う、うん…………」

 低い声で聞かれたから、俺は目を伏せて頷いた。

「あ、で、でもこのままで……! 脱ぐのははずいから……っ」

 (見られると、俺のちんこのサイズがお粗末なのが絶対バレるしな……!)

「このままだと下着が汚れちゃうかもしれないよ」
「だ、大丈夫! 洗うから……!」

 俺は秋風の手を掴み、強引に自分のパジャマのズボンの中へ誘導した。

「えっと、だから、こんなか、手、入れて……」
「っ……」
「ひあっ……!!」

 (うわ……!!?)

 急に生で竿部分を掴まれて、また変な声が出てしまった。

「……濡れてる…………」
「……ッッ」

 (んな、変な言い方……!!)

「……っ……」

 でも、たしかに。少し触れられただけで、粘着音が聞こえてしまった。

 俺の我慢汁はたぶん、人よりもかなり多い方だ。

 AVの男優を見てても俺みたいにだらだら出る奴そんないない。変わってて、キモいだろうか。

「…………」

 自分でする時は音をそんなに気にしたことがなかった。
 双子が学校でいない時と、父さんがバイトでいない時を見計らってするから。

 (だけど……)

 秋風に指摘されて、初めて人と違う自分が気になってしまって、俺は目をぎゅっとつむった。

「ご、ごめ……」
「……? どうして謝るの……?」
「俺、変……」
「変じゃないよ。すごくかわいい」
「……!!?」

 (かわいいはフォローになってない……!!)

「波青はつま先から頭のてっぺんまで全部綺麗だし、全部かわいい……」
「えっ……?」
「安心して、力を抜いていてね」
「……ッッ」

 俺の我慢汁を潤滑剤に、秋風の手が上下にスムーズに動き出して、俺は息をつめた。

「っっ……あっ……! あぁ……ッ」

 (やべぇっ……)

 人に触ってもらうって、こんな感じなのか。

 知らなかった。

 自分でやるのと……全然違う。

 俺の手よりずっと硬くて大きい。

 秋風の骨ばった手に握られて、しごかれると、信じられないくらい気持ちいい。

 何より、自分でやってると、調節できるのに。

 イきそうになったら手の力を緩めたり、止めたりできるのに。

 人の手だと、調節できない。

 寸止めが効かない。強制的にイかされる。どうしよう。やばい。

「しゅうか、はやっ……やっ、も、イ……っ!!」

 (秋風に早漏って思われるっ……!!!)

「あぁぁっっ……!!」

 我慢したかったけど、すぐに限界が来て、腰がガクガクと跳ねてしまった。

 瞬間、目の前が真っ白に染まった。

「……っ……」

 (こ、こんなに早くイくなんて、俺……っさいあく……)

「…………」
「……はぁ、はぁ………、……?」

 (…………っ……なんで無言……?)

 秋風が達したばかりの俺の顔をじっと見つめてきている。見つめてきているというか、ガン見してきている。

 ……なんだろう。

 いつもみたいに笑ってかわいいねと言ってくるかと思いきや、全く笑ってない。すごい真顔……。

 (『波青、早漏すぎるんだけど』とか思って引いてるのか……?)

「あ、あの……、んっ……ッ!?」

 言いかけた時、性器を握っていない方の手で胸の先端をつままれてしまった。

 イったばっかなのに、なんで。

「あ、ゃ……! なっ……んんっ?!」

 (やばっ……また勃つ……!)

 胸を触られたら、すぐ熱を取り戻して、復活してしまった。俺のちんこのバカ。どんだけ飢えてるんだ。

 (どんだけさかるんだコイツって秋風に思われる……! やばい……っ!!)

 焦ったけど、秋風の手は全然止まってくれない。

「んッ……ッあ……ひぃ……!」

 秋風が無言で、また俺のを上下にさすってくる。

 くちゅくちゅと水っぽい音が立つたび、頭の中がエロい気分で侵食されてしまう。

 刺激が全部股の間に直結して、どんどん気持ちいいのが溜まっていく。

 そして、爆発してしまった。

「んああぁっ……!」

 二度目の精を吐き出した瞬間、疲れと心地よさが同時にどっと襲ってきた。

 達したばかりで敏感になっているところを無理やり擦られるの、やばい。自分では絶対しないのに。

「っっ……」

 正直……

 (人生でいちばんきもちよかった……ッ!?)

 自己処理の射精とは全然比べ物にならなかった。なんだこれ。

 (しゅ、しゅうかの手、ゴッドハンドなのか……??)

 俺はそんなアホなことを考えながら、疲労困憊すぎて、思わず秋風の胸にくてっともたれかかってしまった。

「……~~~ッッ……かわいい……。だめだ。かわいすぎる……」

 秋風が熱っぽい声でそう言い、俺のやわらかくなった性器を揉んできた。

「……!!?」

 もうできない。もう無理だぞ俺は。

「あっ……あ……! しゅうか……も、むり……むりぃっっ……」
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