9 / 264
第1章
9 四人の腐女子
しおりを挟む【床@オクラ大好きがあなたの申請を承認し、あなた達はフレンドになりました】
「きっ……──」
俺は電車の中で、思わず出そうになった悲鳴を押しころした。
「……っ」
(危なかった……)
周りの目が怖い。まずいさすがに。
俺は意味もなくキョロキョロ周りを見渡した後、もう一度スマホの画面を見て、心の中でだけ絶叫した。
(キターーーー!!)
*
(俺の回答が受け入れて貰えたんだ! やった! やったぞ……!)
思ったより嬉しくて興奮が止まらない。
俺は爆速で家に帰り、帰宅してきた父さんと双子と夕飯を共にして、急いでシャワーを浴びた。その間、頭の中はフレンド申請が受理されたことでいっぱいである。
全てのやらなければいけないことを終わらせてから、ようやく自分の部屋に一人になった。
「やっとだ……! よし!」
後は寝るだけ。思う存分ネットができる。
俺はさっそくベッドに横になり、スマホを見た。
さっきのシステムからではなく、今度は『床@オクラ大好き』さんから直接メッセージが届いていた。
{はじめまして。床と申します。ウェーブさん、フレンド申請ありがとうございます。このサイトはあくまで同志さんと繋がる為のものでして、アキアオの妄想本体についてはこちらのSNSのアカウントの方に載せております。お手数ですが下記のアカウントに再度フォローリクエストをしてください}
『ウェーブ』というのは、質問回答の際にユーザー名を記入するところがあったので本名から適当に取って入力したやつだ。
実際に俺の名前として呼ばれるなら、もっとちゃんと考えたら良かった……。
(てか、二重だったんだな。かなり厳重だ)
俺は言われた通り、教えてもらった床さんのアカウントを開いてみた。
(おお……結構凄いフォロワー数)
ごちゃまぜリスナーでアキ×アオ推しの腐女子の人って、こんなにいたんだ……。
驚いている間に、新たなメッセージが来た。
{なお、フォローする際は、必ず鍵垢で、公式関係者のアカウントをブロックしてからでお願いします。また、公式に関係のあるアイコンの使用はお控えください。以上のことを満たしていないアカウントからのフォロリクは、申し訳ありませんがお断りいたします}
(ふむふむ……)
鍵垢っていうのは、フォロワー以外には中身を見られない、非公開アカウントのことだな。
公式関係者をブロックするというのは、関係者に万が一にも見られないようにする為だろう。
俺は言う通りそれ用の鍵垢を新たに作成し、自分含めた公式関係者をブロックしてから、床さんの鍵垢をフォローさせてもらった。
間違っても、アオとしてのアカウントでフォローしないように気をつけた。もしそんなことしたら、速攻で終わる。俺の人生が……。
「──お……!!」
フォローがすぐに返ってきたので、床さんと俺は晴れて相互フォロー状態になった。
DMで妄想小説の見方を色々教えてもらい、さっそく覗いてみる。
「……」
床さんの小説を読みながら、俺は口を手で押さえた。
「こ、……これは──……」
読み終えた時には、ベットで大の字になる二十四歳成人男性が完成してしまっていた。
「…………」
(……良い…………)
え……イイんだけど。
すげーいい……。
なにこれ。
え。
どうしよ。
やばい。
え……。
──正直、油断していた。
俺はBLにときめかない。
最初に見つけた妄想小説のアキとアオのイチャイチャ系を読んで、なんとも言えない気持ちになったし、またそう思うだろうなって。
でも違った。
床さんの妄想小説は……なんというか。湿度がちっともなくカラッとしていた。
それでいて、あたたかく、感動を誘い、俺の胸を震わせた。何より良かったのは、
(小説の中のアキが、『アオしか俺の親友はいないよ』って言った……ッッ)
そこだった。
本物はそんなことを言うわけがないし、リアルではないんだけれども、俺としてはすごく求めていた言葉をもらえた気分になった。
それに、最初に出会った小説とは違い、抱擁や甘い言葉を使うシーンは皆無で。
ただ俺と秋風が遊んで、ひたすら友情を深めているだけ。男の俺が読んでも、全然気まずくない。俺にとってとことん素晴らしすぎる妄想小説だった。
(まあ、秋風と俺が二人きりで遊んだのなんて……現実は中学生の時が最後だけどな。アハハハ……)
現実を思うと遠い目になるものの、今はそんなことはどうでもいい。
俺はこの喜びをどうにか伝えようと、床さんにDMを返した。
[改めて、フレンド申請の許可、フォロリクの許可、両方ありがとうございます! さっそく床さんのアキアオ妄想を一つ読んできました。アキが『アオしか俺の親友はいないよ』って言うところと、アオがかっこいいって周りに褒められてるところが特にめっちゃ良かったです! あと、えっと、色々! 俺、語彙力ないから、上手く言えないんですけど、とにかく感動しました。男からしても面白い作品です! あ、俺は男で……腐男子です]
本当は腐男子ではないのだけど。怪しまれたら困るし……一応腐男子ということにしておいた。
{ウェーブさん、読んでくださりこちらこそありがとうございます! 男性の方なんですね。男性のフォロワーさんは、初めてです。ちょっとびっくりです。アキアオ、良いですよね。面白いと思っていただけたのなら良かったです! 一緒に楽しくアキアオに萌えていきましょうね}
(返信はやっ)
会話して貰えることに嬉しくなった俺は、小説を読んでいて少しだけ引っかかったことを聞いてみた。
[床さん。一つ気になったのが、アキは辛い食べ物が苦手なのに、作中の飲み会シーンではキムチ鍋を食べる描写がありました。なぜでしょうか?]
{あ……! たしかにっ! そうですね。それは私のミスです。すみません。辛いもの苦手って、アキくん何かの配信で言ってましたね……。私、アキくん最推しなのにうっかり忘れてました。質問の回答でも思ったんですけど、ウェーブさんは本当にごちゃまぜに詳しいんですね。あの質問全問正解する人って全然いないので、そこも驚いてました。凄い強火のごちゃリスさん来てくれたなーって思って}
「……!」
正解できる人全然いないのか。もしかして、一個くらいわざと間違えたほうが良かったのかもしれない……。
俺は慌てて、誤魔化す文章を打った。
[詳しいのは、配信初期から見ているからです! ただの、超古参のリスナーです]
{そうなんですね。すごいです。週一の定期配信はともかく、突発配信でアーカイブ無しとかだと、追い切れないんですよね。動画は見てるんですが……。あと個人チャンネルの方も膨大すぎて全メンバーのものは見切れなくて}
[俺はアーカイブ無しも全部見てますよ。全員の個チャンの内容も把握してます。暇人なんです]
{おお。本当に、超強火ですね! もしよかったら、これからも私のアキアオに変なところがあったら指摘してくれませんか?}
[え……。俺なんかで良かったら、はい。大丈夫ですよ!]
そんな感じで、俺は床さんの小説を添削する係になってしまった。係と言っても、床さんも熱意あるファンだから、情報漏れはさほど見つからなかった。
床さんとするDMは楽しかった。
思えばこんなふうにファンと交流したことは今までになかったかもしれない。
強火腐男子──違うけど──は珍しいのか、床さんは俺を重宝してくれた。
すぐに敬語じゃなくて良いと言ってくれて、俺たちは色んな話をした。
[床さんはアキ推しなんだよな? アオのことも好きなの?]
{私はアキくんが好きですから、アキくんが好きなアオくんのことも好きですよ。ただただアキくんに幸せになってほしいんです}
[お、おお……]
アキ信者なのがちょっとあれだけど……。
[床さん、変なところとか直したほうがいいところって訳じゃないんだけどさ、この回だけアオのセリフめっちゃキュルキュルじゃね……? 本物こんなかわいくないだろ! このアキも、アオの頭撫でたりしてるけど、本物はしないよな。現実の話すると、モモには頭ポンポンするところ見たこと何度もあるけど、アオにはないしさ……]
{うーん……そうですよね。現実のことを思ったら、微妙ですよね。分かってます、これは所詮嘘でしかなくて、ただの私の妄想なんだって……。でもそれでもいいんです! 自己満ですよ。だってアキアオを考えている時間は、私、とても幸せですから!}
俺がついつい失礼なことを言ってしまっても、怒らず真面目に返してくれる、すごく良い人だ。
{ところで、ウェーブさんはどうやってアキアオ界隈を見つけたんですか?}
[あ、それは。アキとアオの名前とスタンプで検索したら普通に出てきたんだ。その一つ以外は全然みつからなかったけど……]
{普通に出てきた!? なんというお名前の方ですか? 鍵をかけてもらえるよう注意をしなければ}
[注意?]
{はい。現実世界の人をネタに妄想するという行為は、本来許されることではないんです。自分でやっといてなんですが、タブーな趣味です……。どうしてもやりたいのなら、自分はいけないことをしているのだという自覚を持ちながら、ご本人様や一般のファンの方の目には絶対に入らないよう隠れて仲間同士だけで共有することがマナーです。一般人に見つかってしまえばとんでもないことになりますから}
「……」
やっぱり、俺が最初に見つけたような簡単に検索に引っかかるやつは良くなかったんだな。マナー的に。
(一般人どころか、『本人』にもう見つかっちゃってるんだよな……、言えないけど……)
多少心苦しく思いながらも、床さんとやり取りを続けること数日。
俺は、突然違うアプリに招待された。
{ウェーブさん、私のお友達を紹介しても良いでしょうか?}
[お友達……?]
{どの人もアキアオの妄想小説を書いたり、イラストや漫画を描いたりしてる人たちです。本当は文や絵を創作しないROM専の方はグループチャットにはお誘いしないようにしているんですが、ウェーブさんはどうしてもみなさんに紹介したくて……}
そんなふうに言われると弱い。床さん、この短期間で相当俺のことを気に入ってくれたようだ。
[じゃあ、ぜひお願いします! 俺も他のアキアオオタクさんと関わってみたいし]
そして紹介してもらったアプリのリンクを踏むと、グループチャットができるところに飛んだ。
そこでは発言の前に各自の名前がつくようになっているみたいだ。
床さんが俺の名前を紹介したら、三人の人がチャットで反応をくれた。
{しゅがー:はじめまして! ウェーブくん! なんて呼べば良い!? Wくんでいいかな!? 床ちゃんから話は聞いてるよ~! わたしはしゅがーっていいます!笑 仲良くしてね~~(๑>◡<๑)}
{オクラ沼:ウェーブさん、どうもこんにちは。アキアオはマイナーなんで、新しい仲間はすごく嬉しいです。しかもかなり熱心なリスナーさんだって言うから期待してます}
{Blau:アオきゅんぺろぺろっ^^ *キミもアオきゅんについて語りに来たの!? ねぇねぇキミはどんなアオきゅんが好き~!? こないだの女装企画ヤバヤバのヤバだったよぬ?! しょーじきアオきゅんがいっちゃんカワなのわかり~~???^^^^}
「…………!!??」
こっっわ……最後の人。やばいテンションの人一人いるんだが。え!? アオきゅんぺろぺろ……?
ところどころ日本語も変だし、やばい。やばいとしか言えない。
(ま、回れ右してぇーー……!!!)
243
あなたにおすすめの小説
【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる
ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。
そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。
「一緒にコラボ配信、しない?」
顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。
これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。
※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。
正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜
ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。
毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。
……の、はずだった。
「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」
「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」
……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。
どんなマスクをかぶっても。
どんな戦場でも。
俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。
――なんでわかんの?
バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの?
――――――――――――――――――
執着溺愛系ヒーロー × モブ
ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。
百合豚、男子校に入る。
揺
BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。
母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは――
男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。
この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。
それでも眞辺は決意する。
生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。
立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。
さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。
百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
ブラコンネガティブ弟とポジティブ(?)兄
むすめっすめ
BL
「だーかーらっ!皆お前に魅力があるから周りにいるんだろーがっ!」
兄、四宮陽太はブサイク
「でも!それって本当の僕じゃないし!やっぱみんなこんな僕みたら引いちゃうよねぇ〜
!?」
で弟、四宮日向はイケメン
「やっぱり受け入れてくれるのは兄さんしかいないよぉー!!」
弟は涙目になりながら俺に抱きついてくる。
「いや、泣きたいの俺だから!!」
弟はドのつくブラコンネガティブ野郎だ。
ーーーーーーーーーー
兄弟のコンプレックスの話。
今後どうなるか分からないので一応Rつけてます。
1話そんな生々しく無いですが流血表現ありです(※)
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる