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第1章
42 ビビリ王決定戦③
しおりを挟む「はぁ……はぁ、はぁ…………」
酷い。二度とやらない。主人公がお化けでしたオチはあまりにも酷すぎる。
ゲーム画面ぎっしりに文字化けした字が浮かんできた瞬間、俺のメンタルは限界を迎え、思わずダッシュでリビングの隅に逃げていた。
今は壁にへばりついてハァハァと肩を上下させている。
完全に呼吸がフルマラソンを終えた後の人のそれだ。だって、あんなの……あんなのズルだろ!!!
「まー、お約束って感じだねぇ。途中から分かりやすかったわ」
「うん。夜の学校を全然怯えずに探検してる時点で変だし結構オチはバレバレだったね」
(いや……)
だから、珀斗と秋風……。
お前らは、いますぐ人間の心を取り戻せ。珀斗はあくびしてるし、秋風は全く動じず微笑んでるし。意味がわからない。こわい。こいつらがこわい。
ユウさんなんて、パソコンを置いてるテーブルの下に潜り込んで貝みたいになってるぞ。桃星もカーペットに大の字に倒れている。この二人のリアクションの良さを、秋風たちも見習って欲しい……。
「とりあえず、クリアできて良かった! ごちゃリスのみんな、楽しかったね? 今日も見てくれてありがとう」
のほほんとした秋風の言葉に、俺は心の中で『楽しくねーわ……!!!』とツッコんだ。
「つーか、これってトゥルエンドー? バッドエンドも見たいから今から二周目やんね?」
「「ッッやらねーよ!!!!」」
珀斗のまさかの発言に、夕陽さんと桃星が同時に起き上がった。仲良いな。
「誰がやるか……! おバカ!」
「このっこの!! 調子に乗んなクソガキめっ!!」
珀斗は二人に寄ってたかってグーで殴られボコボコにされている。しかし、子ウサギと大型犬が飼い主にじゃれているようにしか見えない。
俺はそんな微笑ましい光景を尻目に、静かにソファに戻った。
配信時間も押してきてるし、そろそろカメラに向かって締めの挨拶をしなければ。
「じゃあ……クリアしたところで、そろそろ終わります。栄えあるビビリ王は、えーと……、モモで」
「なんでっ!? えっ、これアオが決めるの!?」
俺の言葉を聞いた途端、桃星が心外と言わんばかりに叫んでソファに飛び乗ってきた。
「いや、だって、どうみてもモモが一番ビビってたし……」
「えええっ」
「俺もモモたんでいいと思う! モモたんがビビリ王に決定!!」
「ユウにいまで……! そんなぁ……っ」
「いやアンタもどっこいだろ」
「ダブル受賞ってことでいいんじゃない?」
「……」
夕陽さんは華麗に逃げようとしたが、珀斗と秋風にツッコミを入れられ、結局逃げられなかった。
「あはは……や、やっぱ王は一人じゃないと。ここはモモたんで──」
「ユウくん、モモ、おめでとう」
「おめ~~」
「……あ、はい…………」
『二人ともおめでとう!笑』『おつごちゃ!!』『おつごちゃ~』『ユウモモ可愛かったよ~!』『配信ありがとう!』『ごちゃまぜバイバイ! また来週♡』『ユウさんとモモたんのwikiに初代ビビリ王って追加しておくw』『おつー!』『二人の罰ゲーム待ってます!!』『ユウモモの情けない悲鳴tskr』『お疲れ様!』『またホラゲやってください! 次はハク様が怖がりそうなやつで!!』『モモてゃの涙可愛かった』『おつごちゃー!』『またね!』『アキくん楽しかったよ~~!』『超面白かった! アーカイブいっぱいみます!!』『おつごちゃっ』
「おつごちゃ! またねー!」
「ばいばーい」
二人がビビリ王ということで決まり、今週の配信は終了となった。
(良かった……! 不名誉なビビリ王、免れたぞ……!!)
俺はカメラを切った後、一人こっそり胸を撫で下ろした。完璧だ。
(……ん? 待てよ。でも、そういえば今日、アキアオ的撮れ高はゼロだな…… )
よくよく考えれば何もなかった気がする。
しかも、俺と夕陽さんの絡み、秋風と桃星の絡みがそれぞれ多かった。
(……オクラ沼さん、大丈夫かな……)
固定廚のオクラ沼さんの嘆きがやばそうで心配になる。もう少し頑張れば良かったかも。
「……」
(……いや。今日はそれどころじゃない! BL営業とかやってる場合じゃない。そんなことより、今日は秋風にちゃんと、俺の気持ちを話さなきゃいけないんだから)
そっちに集中しなければ。俺はぶんぶん首を横に振って、気合を入れ直した。
*
配信が終わった後、企画動画──カタカナ禁止縛りでトーク、人狼ゲーム、ボードゲームの三本だ──をそれぞれ全員で撮影し、ようやく解散となった。
(いつ秋風に話しかけよ……)
もう帰り時間になってしまった。みんないるし、タイミングが掴めない。まずい。
「ふぅ、みんなおつかれ! 俺は今日、このままここに泊まってく予定だけど……みんなはどうする?」
夕陽さんが聞くと、珀斗は「家に帰んのめんどくせーから今日は泊まってく」と答えた。
「えー、じゃあ僕も泊まろうかな。明日は朝ゆっくりの予定だし」
「お! それならせいちゃん、俺と一緒に夜コラボ配信するか? ゲリラで!」
「いいねっ!! リスナーへのサプライズ~~」
「うんうん。それで、夕飯はピザでもとろっか!」
「わーい! お酒も開けよユウ兄ー!」
「いぇーい!」
「酒はほどほどにしろよ。アンタらよえーんだから」
「クソガキには言われたくない!!」
桃星も残るようだ。いいな。楽しそう。お泊まり会? パジャマパーティー? っていうの、少し憧れる。俺もいつか参加してみたい……。
でも、さすがに連日家を空けるのは不安だし、今日は俺は家に帰らなければ。
「しゅーかも泊まってかない? 僕ASMRのやり方実施で教えるよ~。こっちにも機材置いてるし!」
「あ、うん。そうだね。お願いしようかな」
(……やっぱ、桃星の誘いは断らないんだな。俺が泊まってこうって言ったら嫌がったのに)
「…………」
俺は後ろ暗い気持ちを抱えながら荷物を持った。
勇気を出して秋風に本音を伝えようと思ったけど……どうもタイミングが悪いようだ。
(……仕方ないか)
来週も配信で会うし。その時だっていい。何事も焦ると良くないから……今日は諦めよう。
「あの、俺は帰りますね。今日もありがとうございました。お疲れ様です」
「! おう、おつかれー、なおちゃん! ありがとねっ」
「アオおつー」
皆の声を背に玄関ドアを開けると、思ったより外は暗かった。すっかり日が沈んでしまっている。
しーんとした外廊下は、さっきまでやっていたゲームの学校の廊下の不気味さにそっくりだ。
「……」
ぶるっと背筋が震えた。今まで人に囲まれていたからか、急に一人になるといやに静かだ。
小学生の時に読んでトラウマになってしまった本のことをさっき久々に思い出したのも良くなかったかもしれない。
(……こえぇ…………)
ごちゃハウスから最寄り駅までの道は都心だから人通りが多いけど。
地元の駅に着いてからは最悪だ。駅から実家まで歩く道が薄暗いのだ。想像するだけでゾッとする。
(ま、まあ、音楽でも聴いてどうにか気持ちをまぎらわそう。……うん)
俺はリュックの横ポケットからイヤホンを取り出しながら外廊下に出て行った。
しかしその時、後ろから強く呼び止められた。
「波青!」
(……え……?)
秋風が、慌てて玄関まで駆け寄ってきていた。
「大丈夫?」
秋風は林間学校の肝試しの時と同じく、俺にそう聞いてきた。
「!! な、なにが……?」
「……一人で帰るの、怖くない?」
(…………は?)
子供じゃあるまいし、こいつは何を心配してるんだ。
俺は慌てていつも通り、「大丈夫に決まってんだろ!」と言おうとした。
でも、俺の口はぽかんと開いたまま動かなかった。
「……」
(……漫画の中の、『アオ』なら……)
オクラ沼さんの漫画の中の、アキに愛されていたアオなら、見栄なんてはらない。
桃星もそうだ。
きっと素直に、こう言うんだろう。
「……『こわい』」
って──。
(…………あれ?)
──俺、今口に出したか?
大きく目を見開く秋風の反応で、分かった。
思考がそのまま声に出てしまっていたことが。
「…………っ!!」
気がついた瞬間、どっと顔に熱がたまった。
慌てて踵を返そうとする。でも、腕を掴まれ、引き止められていた。
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