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第1章
53 冗談《後編》
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俺以外の人間関係はあってもなくてもどうでもいいって言った?
いや……そんな、まさか。若い頃からずっと友達の多い秋風が、配信者になっても色んな人とコラボして芸能界でも広い交友関係を築いている秋風が。そんな意味のわからないことを言うはずがない。
「悪い。全然何言ってるか聞こえなくて、なんか聞き間違えた……」
『あ。ごめん。声が小さかったかも。波青以外に壊れて困る人間関係なんて俺には一つもないから、もし何かが壊れたとしても、波青が気に病む必要はないよってことを伝えたくて……』
「…………」
(……聞き間違いじゃなかった!!)
なら、なんだ? 冗談か? ……うん、冗談に決まってる。
だって、本気で言ってるとは思えない。もしも本気だったら怖すぎるだろ。
俺だって秋風の事を友達として特別に思ってはいるけど、だからって秋風以外は要らないということでは絶対にない。家族やリスナーや夕陽さんたちのことも勿論大事で、誰一人欠かせない存在だ。
誰か一人以外要らないまでいくとその思考はさすがに極端すぎるというか…………。
そもそも、こんなにごちゃまぜで長いこと活動してきて、みんなと心の底から笑いあって仲良くしているのに、それが本気で壊れても良いと思っているのだとしたら……ちょっとおかしい。ゾッとする。
俺の秋風はそんな変なことを考える人間じゃない。秋風は、みんなに優しくて、常にみんなのことを考えていて、空気が読めて、怖いの真逆の人間なんだから──。
(うんうん。そうだ。絶対冗談なのに黙ったら良くないよな。秋風がスベったようになっちゃうから。ここはちゃんと笑ってあげないと……)
スベることの辛さに関しては俺が一番知っている。俺は秋風がスベらないよう、大きく声を張り上げてリアクションをとってあげた。
「なはははは……! 面白い、面白い!!」
『…………え?』
「ちょーウケる! ナイスジョーク!」
『あ……』
俺の反応に秋風はハッとした呟きを漏らし、それから上擦った明るい声で言った。
『……良かった。笑ってもらえて』
「いやー!! 面白いけど、急にそれ、こぇーから!! 意味不明なこと言ってみるドッキリやめてくんね!? どうかしてるわこいつって、心配になるからさ……!」
『…………ははは。そうだよね。本気だったら引くよ。そんなわけない』
「ほんとな。本気じゃなくてよかったわ! すげー変な気分になったぁ~~~……!!」
『……ごめん……。怖がらせちゃって』
「? いや、そんなマジに謝るなよ。冗談ならそれで良いんだから」
『……』
「まあ、それはそれとして。お前、人に冷たくするのとか苦手だろ? 俺のせいで、苦手なことまでして無理する必要ないんだぞ」
『……うん。ありがとう』
「あとさ、モモはお前の配信者デビューの時に色々協力してくれた恩人でもあるだろ? 今まで通り大事にした方が良いと思う」
『……本当、そうだよね。そうだよな……』
「……?」
なんだか声色に元気がないようだ。眠いのだろうか。
俺は首を傾げながら時計を見た。
(あ……)
結構遅い時間だ。秋風は忙しいのに、急に電話をして悪いことをしてしまったかもしれない。
「! じゃあ、そういうことだから、そろそろ切るか。長時間通話付き合わせてごめんな」
『俺のほうこそ、ごめん。なんか俺……一人で暴走しちゃったみたい。波青が泣いたのがすごくショックだったから……』
「ちょっ……泣いたのはもう忘れろよ! もう良いから!!」
『……うん』
秋風は苦笑すると、静かな声でつぶやいた。
『桃星にも悪いことをしたよね。急に拒否って、俺どうかしてた。早く謝らないと』
「そうだな。謝ったほうがいいぞ」
『うん……。俺、反省したよ。ごめんね。元通り桃星とちゃんと仲良くするし、もう波青の許可なく勝手にこんなことをしないようにするから』
「え? 何で俺の許可がいんの? お前の行動に俺は関係ないだろ」
『! あ……そ、そうだよね……』
「いちいち俺なんかの顔色伺わないで、お前はお前のしたいように生きろよ。俺のせいでモモに冷たくするとか、ほんとやめろよな」
『……うん』
「気を使わせちゃった俺が悪いんだけどさ……こないだ泣いたのはマジで俺がガキすぎただけだから! これ以上気にしないでくれ」
『……うん……』
『気にしないようにする』、と秋風は機械のようにぼんやりと答えた。あまりに眠過ぎて感情すら無くなってきたのだろうか。
早く通話から解放してあげなければ。
「ん! それじゃ解決ということで! おやすみ……──あっ、そうだ! 再来週お前のミュージカルの公演始まるよな! 初日みんなで見に行く予定だから、リハとか頑張れよ!」
『ありがとう。みんなが観に来てくれるのを楽しみにしているね』
「おう!! じゃあな~っ!」
ピッ。
(よーし、無事に問題解決だ……!!)
俺は心地よい達成感に包まれながら電話を切った。
自分のせいだと分かった時は驚いたけど、しっかりリカバリーはできたし。
これで桃星も床さんたちもアキモモ推しのリスナーもみんながみんなハッピーになれる! ……俺もやればできるじゃないか。
「へへへへ」
うむうむとドヤりながら俺はベッドに横になった。
電気を消していざ眠ろう……としたけど、なぜか胸の中がざわざわして、目を開けた。
なんだろう、この不安感。
「…………?」
(うーん。それにしても……)
── 『波青以外の人間関係は、あってもなくてもどうでもいい』
(…………あいつも面白くない冗談を言うんだなあ)
意外だ。いつも気の利いたこととユーモアに溢れたことしか言わないのに。
「……」
(……変なの)
もっと秋風のことを考えていたかったけど、抗えない睡魔に飲み込まれて。
まあいいかと、俺はそのまま眠ってしまった。
いや……そんな、まさか。若い頃からずっと友達の多い秋風が、配信者になっても色んな人とコラボして芸能界でも広い交友関係を築いている秋風が。そんな意味のわからないことを言うはずがない。
「悪い。全然何言ってるか聞こえなくて、なんか聞き間違えた……」
『あ。ごめん。声が小さかったかも。波青以外に壊れて困る人間関係なんて俺には一つもないから、もし何かが壊れたとしても、波青が気に病む必要はないよってことを伝えたくて……』
「…………」
(……聞き間違いじゃなかった!!)
なら、なんだ? 冗談か? ……うん、冗談に決まってる。
だって、本気で言ってるとは思えない。もしも本気だったら怖すぎるだろ。
俺だって秋風の事を友達として特別に思ってはいるけど、だからって秋風以外は要らないということでは絶対にない。家族やリスナーや夕陽さんたちのことも勿論大事で、誰一人欠かせない存在だ。
誰か一人以外要らないまでいくとその思考はさすがに極端すぎるというか…………。
そもそも、こんなにごちゃまぜで長いこと活動してきて、みんなと心の底から笑いあって仲良くしているのに、それが本気で壊れても良いと思っているのだとしたら……ちょっとおかしい。ゾッとする。
俺の秋風はそんな変なことを考える人間じゃない。秋風は、みんなに優しくて、常にみんなのことを考えていて、空気が読めて、怖いの真逆の人間なんだから──。
(うんうん。そうだ。絶対冗談なのに黙ったら良くないよな。秋風がスベったようになっちゃうから。ここはちゃんと笑ってあげないと……)
スベることの辛さに関しては俺が一番知っている。俺は秋風がスベらないよう、大きく声を張り上げてリアクションをとってあげた。
「なはははは……! 面白い、面白い!!」
『…………え?』
「ちょーウケる! ナイスジョーク!」
『あ……』
俺の反応に秋風はハッとした呟きを漏らし、それから上擦った明るい声で言った。
『……良かった。笑ってもらえて』
「いやー!! 面白いけど、急にそれ、こぇーから!! 意味不明なこと言ってみるドッキリやめてくんね!? どうかしてるわこいつって、心配になるからさ……!」
『…………ははは。そうだよね。本気だったら引くよ。そんなわけない』
「ほんとな。本気じゃなくてよかったわ! すげー変な気分になったぁ~~~……!!」
『……ごめん……。怖がらせちゃって』
「? いや、そんなマジに謝るなよ。冗談ならそれで良いんだから」
『……』
「まあ、それはそれとして。お前、人に冷たくするのとか苦手だろ? 俺のせいで、苦手なことまでして無理する必要ないんだぞ」
『……うん。ありがとう』
「あとさ、モモはお前の配信者デビューの時に色々協力してくれた恩人でもあるだろ? 今まで通り大事にした方が良いと思う」
『……本当、そうだよね。そうだよな……』
「……?」
なんだか声色に元気がないようだ。眠いのだろうか。
俺は首を傾げながら時計を見た。
(あ……)
結構遅い時間だ。秋風は忙しいのに、急に電話をして悪いことをしてしまったかもしれない。
「! じゃあ、そういうことだから、そろそろ切るか。長時間通話付き合わせてごめんな」
『俺のほうこそ、ごめん。なんか俺……一人で暴走しちゃったみたい。波青が泣いたのがすごくショックだったから……』
「ちょっ……泣いたのはもう忘れろよ! もう良いから!!」
『……うん』
秋風は苦笑すると、静かな声でつぶやいた。
『桃星にも悪いことをしたよね。急に拒否って、俺どうかしてた。早く謝らないと』
「そうだな。謝ったほうがいいぞ」
『うん……。俺、反省したよ。ごめんね。元通り桃星とちゃんと仲良くするし、もう波青の許可なく勝手にこんなことをしないようにするから』
「え? 何で俺の許可がいんの? お前の行動に俺は関係ないだろ」
『! あ……そ、そうだよね……』
「いちいち俺なんかの顔色伺わないで、お前はお前のしたいように生きろよ。俺のせいでモモに冷たくするとか、ほんとやめろよな」
『……うん』
「気を使わせちゃった俺が悪いんだけどさ……こないだ泣いたのはマジで俺がガキすぎただけだから! これ以上気にしないでくれ」
『……うん……』
『気にしないようにする』、と秋風は機械のようにぼんやりと答えた。あまりに眠過ぎて感情すら無くなってきたのだろうか。
早く通話から解放してあげなければ。
「ん! それじゃ解決ということで! おやすみ……──あっ、そうだ! 再来週お前のミュージカルの公演始まるよな! 初日みんなで見に行く予定だから、リハとか頑張れよ!」
『ありがとう。みんなが観に来てくれるのを楽しみにしているね』
「おう!! じゃあな~っ!」
ピッ。
(よーし、無事に問題解決だ……!!)
俺は心地よい達成感に包まれながら電話を切った。
自分のせいだと分かった時は驚いたけど、しっかりリカバリーはできたし。
これで桃星も床さんたちもアキモモ推しのリスナーもみんながみんなハッピーになれる! ……俺もやればできるじゃないか。
「へへへへ」
うむうむとドヤりながら俺はベッドに横になった。
電気を消していざ眠ろう……としたけど、なぜか胸の中がざわざわして、目を開けた。
なんだろう、この不安感。
「…………?」
(うーん。それにしても……)
── 『波青以外の人間関係は、あってもなくてもどうでもいい』
(…………あいつも面白くない冗談を言うんだなあ)
意外だ。いつも気の利いたこととユーモアに溢れたことしか言わないのに。
「……」
(……変なの)
もっと秋風のことを考えていたかったけど、抗えない睡魔に飲み込まれて。
まあいいかと、俺はそのまま眠ってしまった。
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