幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第1章

54 遭遇×4《前編》

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 秋風のミュージカル公演初日がやってきた。

 東京公演十日間、大阪公演四日間というスケジュールの舞台だ。

 ごちゃまぜメンバー全員招待されているので、夕陽さんが車で全員を拾い劇場まで連れて行ってくれることになっている。

 俺は諸々の支度を終え、夕陽さんの連絡を待つ間いつものようにグループチャットを開いてみた。

「おぉ……!」

 グループチャットのみんなはこないだまでの騒ぎが嘘のように平和に話していた。

 {床:みなさん! 先週の配信も今週の配信も昨日あがったティックトッカも、全部いつも通りの仲良しなアキモモでしたね!! 良かったです……!!}

 {しゅがー:ねーーーーっっ!!!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐アキモモ復活だぁぁぁああ!!(๑>◡<๑)}

 {オクラ沼:だね。清々しいほどに元通りのイチャつきだったわ。まじなんだったんだよ…………あんなに界隈ざわついたのにさ……}

 {床:ほんとですよね。一体なんだったんでしょうか? こないだまでの二人の空気は……}

 {しゅがー:うーん、わかんない~~๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐仲直りしたのかなぁ? それとも、最初からアキモモ事変なんて全部わたしたちの勘違い!?笑 アキくんが誰かと喧嘩なんてするはずないもんね!!? でもほんとにほんとに良かったよう!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐わたし真面目に怖かったもんっっっ泣泣}

 {床:勘違いの線も確かにありますね。ただ単純に二人とも多忙で疲れていて絡みが少なかっただけのことを、早とちりしたオタクが騒ぎすぎたのかもです。解散だなんだ想像してしまい杞憂すぎました……。何はともあれひと安心ですっ!!}

 {しゅがー:うんうんっっ。ホッとしたぁ~~っ!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {オクラ沼:まあまた地雷が活性化するのは萎えるけど、毒マロ一旦落ち着いたからそれは助かるよ}

 {しゅがー:良かったねぇ沼っち!! 供給が元通りになってアキモモの民も負の感情が落ち着いたのかな~。満たされてる時は人に毒マロなんて送る気持ちにならないもんっ(๑>◡<๑)}

 {床:そうですね! 今アキモモ界隈は、ハッピーなムードですよ! モモくんが違う男と仲良くしてることに嫉妬したアキくんが拗ねてちょっとだけ冷たくしてた説の妄想で盛り上がっています。たしかに、すれ違い期間を挟んでの蜜月は素晴らしいですよね。ピリついた空気が消えてくれたおかげで、私もようやく落ち着いて息ができるようになりました……!}

 {オクラ沼:ずっと仲良しだったからこそ今回の喧嘩疑惑も良いスパイスになって逆に妄想が捗るってことか……。なるほどねー。私含め、オタクって本当チョロい生き物だね}

 {しゅがー:まぁしばらく八つ当たりされることなさそうで安心だよね!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {オクラ沼:うん。まじで助かった……}

 {床:そういえば、Blauさんはもう出勤してしまいましたか?}
 
 {Blau:おる^^}

 {オクラ沼:いた}

 {Blau:興味なさすぎてノーコメントすまんの}

 {オクラ沼:だよねー}

 {Blau:そもそも勝手に騒いで勝手に収まっただけの話なのよなーー^^ アオきゅんに火の粉かからなければわしはどうでもえーケド^^*}

 {オクラ沼:う……。まあ、確かに……今回ばかりは沈黙してたBlauが正しいかもね。いや、こんなすぐ解決するとは思わないじゃん。心配して大騒ぎしすぎちゃったわ}

 {床:そうですね汗 反省します。私もごちゃまぜや推しのことを信用して冷静に見守るべきでした。Blauさんはごちゃまぜへの信頼が厚い、ファンの鑑です……!! さすがです!!}

 {しゅがー:ゆ、床ちゃん……!? 目をキラキラさせちゃだめーーー!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐Blauちゃんはごちゃまぜを信頼していたわけじゃないの!! ただアオが関わってこない話題だから興味なかっただけなのっっ!!}

 {オクラ沼:そーだよ。アオが誰かと険悪な空気になったらそれこそBlauがどうせ一番暴れるんだから。ギャーギャーギャーギャー絶対うるさいよこの人}

 {Blau:なぬ?^^}

「ははは……」

 (良かった。平和になったみたいだな)

 ごちゃ腐界隈のパニックも収まり、床さんやしゅがーは安心しているし、オクラ沼さんのところへ来る悪口もなくなったようだ。
 こないだ秋風と電話して本当によかった。おかげで万事解決だ。

 {しゅがー:てかさ、やばいよ!! どーーーしよ!!?๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐全然メイクが終わらないぃぃっっ๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐やばいやばいやばいっっ……!!}

 {オクラ沼:え、大丈夫じゃない? まだ家出るまで時間全然あるじゃん}

 {しゅがー:大丈夫じゃないのっ! アキくんと同じ空間で息吸えるんだから今日はフル装備じゃなきゃだめなの~~~~!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐なのに今日に限って化粧ノリ悪めなわたしの肌さいあくっっ!! 昨日興奮で眠れなくて目の下の隈もーー!!泣泣๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {オクラ沼:ほう。乙女だねー、しゅがーは。でもそう言われると私まで緊張してきたかも……}

「あ、そっか。二人は今日来るんだっけ……!」

 オクラ沼さんとしゅがーは初日の公演が当たったと言っていた。

 (お、俺とも同じ空間にいるってことか……)

 こっちもドキドキしてきた。
 まあ二人の顔知らないからどうせすれ違ったとしても分からないんだけど。

 {床:お二人とも、ぜひ楽しんできてくださいね~!}

 {オクラ沼:!!! あっ……!!}

 {しゅがー:あああああっっっ!!(꒪ꇴ꒪|||) ゆ、ゆゆゆ床ちゃん、ごめんっっ! わたし、パニくっててつい、アオった……! 床ちゃん行けないのに!! ごめんなさいぃ。゜( ゜இωஇ゜)゜。……!!!}

 そうだった。床さんは東京公演全落ちして大阪一日だけやっと当たったってこの前言っていた。東京在住らしいから遠征で大変だ。

 (いや、てか、空気読めない発言した時『アオった』って言うのやめて! 俺は動詞じゃないぞ……!!?)

 {床:え? いや、いいんですよ! 全然大丈夫です! お気を遣わせてしまってこちらこそすみません! 私も十日我慢すれば大阪で見られますから全く問題なしです! ……というのは見栄なんですけど泣泣 初日のアキくんを見られるのは、正直すごく羨ましいですよ……泣けてきます……泣泣 ううう……っっ}

 {しゅがー:ゆ、床ちゃぁーーーーん!!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐ ごめんねほんと!! 傷を抉っちゃった๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐れ、レポ! 絶対レポするから!! アキくんの表情、歌い方を一つ残らず見逃さず全部脳内カメラに焼き付ける!! そしてそれをあとでレポ絵にして床ちゃんに送るから!! 沼っちが!!!!}

 {オクラ沼:私が!!? や、床さんのためなら全然喜んでやるけども! 急に来たな!?}

 {しゅがー:わたしと沼っちが床ちゃんの眼になるの!! 現場に行けなくてもわたしたちは一心同体だよ……っ!!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {床:や、優しすぎる……!!泣 神ですか??泣 ありがとうございます……ありがとうございますありがとうございます……!!泣泣泣}

 (おおふ。やさしいせかいだ……)

 床さんは残念だけどしゅがーの気遣いのおかげでメンタル回復できたみたいでよかった。
 
 グループチャットを見ながら俺が胸を撫で下ろしていると、ちょうどメッセージアプリの通知が来た。

 【アオー。もうすぐ着くよ! あと三分くらい!】

 桃星からのメッセージだ。

 運転中の夕陽さんに代わり連絡をしてくれたのだろう。

 【了解!】

 俺はすぐ返事をし、荷物を持って家の前まで出た。

「ふわあぁ……」

 玄関前であくびをしていると、夕焼け色の車が一台やってきて、俺の家の前に止まった。

「なおちゃん~。おはよ~。乗って乗ってー!」
「あっ、おはようございます!! 車出してくださってありがとうございます」
「いえいえ。この人数で電車移動すると目立っちゃうしね」

 後部座席にはすでに珀斗と桃星が居る。俺は空いていた助手席に乗り込みながらお礼をした。

 苦笑する夕陽さんの言う通り、今日は秋風以外の四人全員が揃っているからいつもよりリスナーに気づかれる危険性は高いかもしれない。

「おはよ! 寝坊しなかったね~アオ」

 後ろから身を乗り出してきた桃星が明るく挨拶をしてくれる。フリルの襟のシャツに首元には艶々のリボンタイがあり、いつもよりフォーマルな服を着ているようだ。
 こうしてみると気位が高いどこかのお坊ちゃまに見える。いや、桃星は本当にリアルお坊ちゃまなのだけども。
 
「おはよう、モモ。ちゃんと起きたぞ」
「てか、観劇するってのにアオいつも通りすぎない? もっとオシャレしたら?」
「お……おしゃれ? とは……?」
「まったくー! せめてスニーカーじゃなくて革靴でしょ!!?」
「あー……たしかに……全然考えてなかった」
「別に他人の着るもんなんてなんでも良くね? 朝から高い声でキャンキャンうっせーよ」

 珀斗がスマホに目を落としたまま話に割って入ってきた。
 そう言いながら珀斗はいつものフードつきパーカーではない。なんだか大人な服を着ている。

 (こっこいつ、口悪いのにTPOを弁えられる人間だったのか……)

 なんだか現役大学生よりむしろ俺の方がお子様学生ファッションな気がしてきた。
 なんで俺まともな服用意しなかったんだろう。急に恥ずかしくなってきた……。

「はぁー!? 着るものがなんでも良いならアパレル業界はこんな盛り上がってないのっ!!」
「いいからチビは静かにして~~」
「あっお前! イヤホンつけるな! おい!」
「はいはい。喧嘩するなら二人ともお兄さんの車から降ろすからなー」

 夕陽さんが呆れたように言ってから、俺を見た。
 
「もう時間もないし、行くよー……って、あっ、なおちゃんシートベルト! 危ない!」
「! はっ! す、すみません……!」

 普段車なんて乗る機会がないから忘れていた。

 俺が慌ててシートベルトをつけると同時に、夕陽さんの車が発進した。

「よしオッケー。じゃあ、劇場に出発ー!!」
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