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第2章
100 ふーもちアオくんと誘惑《中編》
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「それとも、自分たちでやるのは控えてリスナーさんに残してあげたほうがいいと思う……?」
「……」
俺はちょっと考えた後、もう一度ガラスの中のグッズを見て答えた。
「いや……、いんじゃね? 残ってるからまだあるわけだし……。欲しい人はもうすでに取ってるだろ。……でも、秋風こんなのいんの?」
「いる」
「え、まじ……?」
「うん。とりあえずやってみるよ」
そう言った秋風がさっそく百円を入れて、操作を始めた。
「おぉ……」
俺は横にずれて静かに見守った。
ゲームのBGMみたいにポップな音が鳴り始めて、三本爪の小さなアームが動き出す。
すると──アームがふーもちアオくんをがしっっと掴み、真上に持ち上げた。
「──おおお……!!」
UFOに攫われる人間みたいにふわふわと宙に浮かんでいくふーもちアオくん。
すごく難しそうなのに、こんな一発で掴めるなんて……。
「すげー!! 取れる!!!」
期待したのも束の間、アームが一番上に辿りついた瞬間、がくっと揺れて。
反動でふーもちアオくんが投げ出されてしまった。
「ああっ……!!」
ふーもちアオくん、真っ逆さまに落ちて、顔をうつ伏せにして倒れてしまっている。
さっきまでこっちに向かってドヤ顔していたのに。今では惨めに床ペロ状態だ。
「ッなんでだーー! せっかく掴んだのに……!!」
驚く俺と違い、秋風は冷静に次の百円を入れつつ教えてくれた。
「景品を掴むときのアームの力と、上がったときのアームの力では設定を変えられるから。持ち上げた後の力の方は弱めにしてるんじゃないかな?」
「そ、そんな……。じゃあ無理じゃん。掴んでもぽいって離されて、運べないんなら」
「はは。そんなことないよ。アームの力が弱くても、上手いことタグに引っ掛けられれば全然いけると思う。しかも今回は落ち方が良かったから。さっきよりは落とし口の方に近づいてくれているし……。これならね、次くらいで──」
そう言いながら、またアームを操作する秋風。
ピュンピュンピューーンという効果音と共に降りていく三本爪は、秋風の言葉通り本当にタグの下に滑り込んで、しっかりとふーもちアオくんを捕まえた。
今度は、てっぺんまで行って揺れても全く離さなかった。
危なげなく落とし口までふーもちアオくんを運んでいく。
「……!!!」
そして、落とし口の上でアームがぱかっと開かれて。
開かれた瞬間引っ掛かりがとれたのか──ふーもちアオくんが景品を取れるところに見事降ってきた。
「! やったー」
秋風が手を入れてその子を救い出し、俺に見せてきた。
「ほら、取れたよー」
「──はっっや……!!?」
ことの成り行きを呆然と見守っていた俺は、つい震え声になってしまった。
動画でも回しておけば良かったかもしれない。あまりにも鮮やかな流れすぎて、見ることで精一杯だった。
まさか、たった二百円でふーもちアオくん一体を取れてしまうとは……。
「秋風、うまくねっ!?」
「ふふ。クレーンゲームは企画で珀斗とよくやらされているから」
「あ! そっか……!」
「波青も挑戦してみたら?」
「え!? や、俺は……」
双子を連れてきた時自分はやらなかったから、実はやったことがない。子供の頃からやってみたかった。憧れはもちろんある。
(…………でも……)
クレーンゲームって空間認識能力がある人じゃないと難しいらしい。俺、方向音痴だから、空間認識能力なんて勿論あるわけない。俺には絶対できない……。
向いてないことに闇雲にお金を使うのはただの無駄だと思うし、運任せのギャンブルみたいで嫌だし、かなり抵抗感がある。
「……」
俺が沈黙して迷っていたら、何やら秋風が動き出し、勝手に百円を機械に突っ込んでいた。
「? お前、もう一回やるの?」
「ううん。これは波青の分」
「んえ……!?」
「一回だけやってみなよ。ね?」
「そ、そんなこと言われても──……」
「制限時間があるから、波青がやらないと百円が消えちゃうよー」
「……!!?」
(き、消え……っ!?)
慌てて近づいてみれば、本当だった。操作するところの画面に、秒数が動いている。カウントダウン機能なんてあるのか。
お金は大事だ。無駄にするわけにはいかない。一銭を笑う者は一銭に泣くと言うし、百円って普通に大金だ。
「……っ」
俺は慌てて、操作レバーを握った。
「こ、これを操作すればいいのか!?」
「うん。上下左右、どんなに動かしても大丈夫だよ」
一度離したら終わりというタイプじゃなく、制限時間内ならいくらでも動かせるタイプらしい。
(これなら、俺にもできるかも……)
俺はガラスの中をじーっと見て、アームの照準を二体目のふーもちアオくんの上に合わせた。
「……位置が決まったら、降下させる為にそこのボタンを押して。そのあと、掴みたいタイミングでもう一度ボタンを押すの」
「え? なん……計二回押すってこと?」
「そう。二回目を押さなかったら、勝手にアームが閉じるんだけど、そうするとツメがアクリルアイスに埋まって上手く掴めないから……」
「……──あ……」
秋風の言葉の途中で二回目のボタンを押した俺は、言ってくれた失敗例そのまんまになってしまった。
ふーもちアオくんを掴みたいのに、その下にじゃらじゃら敷かれているアクリルアイスとやら──お祭りの宝石すくいで見かける、プラスチックの宝石っぽいやつだ──にアームが刺さって、全然届かない。
結果、何も掴めないアームが、くるくると虚しく元の位置に戻っていく。
「惜しかったね……。位置は合っていたのに」
「……ええっと……今のは、俺のボタンを押すタイミングが遅かったってことか? もう少し早かったら、宝石のやつに邪魔されないで掴めた?」
「うん、そう。アームが完全に降りきったところでボタンを押していたから、邪魔されてしまった。アームが景品の半分くらいまでに来たら、もうボタンを押していいと思う」
「な、なるほど……。一回目は降下指示、二回目は掴むタイミングの指示、ちょっと早めに。だな。よしっ……!」
教えてもらったことをぶつぶつ呟きながら、なんとか物覚えの悪い頭に手順を吸収させた。
「もう一回やる?」
「うんっ。やる……!!」
秋風の言葉に、俺は大きく頷いた。
あんなに尻込みしていたのに、一回やったらもう、取れるまでやりたい気持ちが出てきた。クレーンゲーム、怖い……。
なんとも言えない悔しさというか。
この感覚、ソシャゲのガチャを引いているときの感じに似ている。俺は無課金勢だからガチャには課金しないが。
「いいね。いこういこう」
秋風が笑ってまた百円玉を入れようとする。
「……!」
俺はばっと横から手を差し込み、それを止めた。
「待て! 自分のお金でやるから!」
「あ……分かった。ごめん」
「……てかさ。お前、さっき現金持ち歩かないタイプだって言ってなかった!? なんで小銭あんの!」
「……ちょっとくらいは持ってるよ、さすがに」
「そういうこと……?」
よく分からないやつだなと思いながら、俺は自分の財布から百円を取り出して機械に入れた。
「よしっ! やったるぜ~!」
「頑張れ波青」
応援してくれる秋風の横で、意気揚々と操作レバーを動かす。
(うーん……、この辺か……?)
真横から見られればちょっとは距離感が分かるのに、隣の台とぴったり詰まっているせいでそれもできない。正面からなんとなく、距離感を測るしかない。
「ここだろたぶん! いけ~っ」
位置を決め終え、俺はばしっとボタンを押した。
しかし……俺の意気込みは空回り、アームは何もないところの上に降りてしまった。
「あ~~~っ……!! もうちょっと奥だった!!」
「惜しい。手前すぎたね」
「くそーー!」
悔しさにその場でジャンプしながら、新たに百円を入れた。
──三回目。
「ッッんなーー! もっと左……っ!!」
今度は右すぎて、またしても三本の爪は空気を掴んでしまった。
──四回目。
「早すぎた……!!」
せっかく位置が合っていたのに、興奮して掴むボタンを早く押しすぎてしまった。
ふーもちアオくんに届く前にアームが閉じてしまい、やっぱり何も掴めないまま上に戻っていく。
(……せ、せめて、さわらせてくれ…………)
ふーもちアオくんに、さわらせて。持ち上げるどころか、さわれもしないのは虚しすぎる。
──五回目。
「うわああああっっばか! 俺のバカぁ……!!」
「あはははっ!」
もう疲れてきて二体のふーもちアオくんを両方いっぺんに狙ってみようと思ったら。
アームは二体の間の空間に綺麗に入っていき、二人をべしっっっと左右に転がすだけで終わった。
二兎を追う者は一兎をも得ずとはこのことか。
「今の面白かった。逆にすごい」
「逆にすごい、じゃねーよ! あぁ、もう……無駄に五百円の支出がぁ~…………」
うなだれてへこんでいたら、秋風が心配そうに慰めてくれた。
「そんなに気になるの? 波青はかなり稼いでいるんだから、たまにはこのくらい遊んだっていいんじゃないかなと思うけど……」
「いや、もったいないだろ。お金は有限なんだぞ。それに、払った結果物を手にできれば良いけどさ、今のところ俺、何一つ成果なしじゃんか……!?」
このままだと、ただ五百円をドブに捨てただけの愚か者になってしまう。
「……うーん……成果とか、関係あるかな……? こういうものって、物にお金を払っているというより、体験にお金を払っているんだよ」
「たいけん??」
「うん。映画館では、映画を観るという体験にお金を払うよね。遊園地では、ジェットコースターや観覧車に乗るという体験にお金を払う。ゲームセンターもそれと同じことだよ」
「…………」
(…………たしかに……? そう言われてみればそうかも……)
秋風の言葉を聞いて、俺は再びアームを見てみた。
「……」
これをあーでもないこーでもないと操作して、取れるか取れないかのドキドキを味わってはしゃぐのは……確かに、すっごく楽しい。
しかも、一人じゃなく、隣に人がいて。一緒にがっかりしたり笑ったりしてくれるから、もっともっと楽しい。
この興奮は何日経ってもきっと忘れないだろう。
もはや、得られる物がなくても秋風の言う通り元は取れている気がする。
「うん……思い出はいくらお金をかけても買えないもんな」
「そうだよ。だから、中々ゲットできなくてもそんなに罪悪感を持たなくていいと思うんだ。お金が無駄になっているわけではないし」
「……そっかぁ……なるほどな。一理あるぞ」
納得して、なんだか肩の力が抜けた気がする。
これ以上お金を無駄にする前に早く取らなければという焦りがなくなったから、安心して集中できるような……。
「……」
俺はちょっと考えた後、もう一度ガラスの中のグッズを見て答えた。
「いや……、いんじゃね? 残ってるからまだあるわけだし……。欲しい人はもうすでに取ってるだろ。……でも、秋風こんなのいんの?」
「いる」
「え、まじ……?」
「うん。とりあえずやってみるよ」
そう言った秋風がさっそく百円を入れて、操作を始めた。
「おぉ……」
俺は横にずれて静かに見守った。
ゲームのBGMみたいにポップな音が鳴り始めて、三本爪の小さなアームが動き出す。
すると──アームがふーもちアオくんをがしっっと掴み、真上に持ち上げた。
「──おおお……!!」
UFOに攫われる人間みたいにふわふわと宙に浮かんでいくふーもちアオくん。
すごく難しそうなのに、こんな一発で掴めるなんて……。
「すげー!! 取れる!!!」
期待したのも束の間、アームが一番上に辿りついた瞬間、がくっと揺れて。
反動でふーもちアオくんが投げ出されてしまった。
「ああっ……!!」
ふーもちアオくん、真っ逆さまに落ちて、顔をうつ伏せにして倒れてしまっている。
さっきまでこっちに向かってドヤ顔していたのに。今では惨めに床ペロ状態だ。
「ッなんでだーー! せっかく掴んだのに……!!」
驚く俺と違い、秋風は冷静に次の百円を入れつつ教えてくれた。
「景品を掴むときのアームの力と、上がったときのアームの力では設定を変えられるから。持ち上げた後の力の方は弱めにしてるんじゃないかな?」
「そ、そんな……。じゃあ無理じゃん。掴んでもぽいって離されて、運べないんなら」
「はは。そんなことないよ。アームの力が弱くても、上手いことタグに引っ掛けられれば全然いけると思う。しかも今回は落ち方が良かったから。さっきよりは落とし口の方に近づいてくれているし……。これならね、次くらいで──」
そう言いながら、またアームを操作する秋風。
ピュンピュンピューーンという効果音と共に降りていく三本爪は、秋風の言葉通り本当にタグの下に滑り込んで、しっかりとふーもちアオくんを捕まえた。
今度は、てっぺんまで行って揺れても全く離さなかった。
危なげなく落とし口までふーもちアオくんを運んでいく。
「……!!!」
そして、落とし口の上でアームがぱかっと開かれて。
開かれた瞬間引っ掛かりがとれたのか──ふーもちアオくんが景品を取れるところに見事降ってきた。
「! やったー」
秋風が手を入れてその子を救い出し、俺に見せてきた。
「ほら、取れたよー」
「──はっっや……!!?」
ことの成り行きを呆然と見守っていた俺は、つい震え声になってしまった。
動画でも回しておけば良かったかもしれない。あまりにも鮮やかな流れすぎて、見ることで精一杯だった。
まさか、たった二百円でふーもちアオくん一体を取れてしまうとは……。
「秋風、うまくねっ!?」
「ふふ。クレーンゲームは企画で珀斗とよくやらされているから」
「あ! そっか……!」
「波青も挑戦してみたら?」
「え!? や、俺は……」
双子を連れてきた時自分はやらなかったから、実はやったことがない。子供の頃からやってみたかった。憧れはもちろんある。
(…………でも……)
クレーンゲームって空間認識能力がある人じゃないと難しいらしい。俺、方向音痴だから、空間認識能力なんて勿論あるわけない。俺には絶対できない……。
向いてないことに闇雲にお金を使うのはただの無駄だと思うし、運任せのギャンブルみたいで嫌だし、かなり抵抗感がある。
「……」
俺が沈黙して迷っていたら、何やら秋風が動き出し、勝手に百円を機械に突っ込んでいた。
「? お前、もう一回やるの?」
「ううん。これは波青の分」
「んえ……!?」
「一回だけやってみなよ。ね?」
「そ、そんなこと言われても──……」
「制限時間があるから、波青がやらないと百円が消えちゃうよー」
「……!!?」
(き、消え……っ!?)
慌てて近づいてみれば、本当だった。操作するところの画面に、秒数が動いている。カウントダウン機能なんてあるのか。
お金は大事だ。無駄にするわけにはいかない。一銭を笑う者は一銭に泣くと言うし、百円って普通に大金だ。
「……っ」
俺は慌てて、操作レバーを握った。
「こ、これを操作すればいいのか!?」
「うん。上下左右、どんなに動かしても大丈夫だよ」
一度離したら終わりというタイプじゃなく、制限時間内ならいくらでも動かせるタイプらしい。
(これなら、俺にもできるかも……)
俺はガラスの中をじーっと見て、アームの照準を二体目のふーもちアオくんの上に合わせた。
「……位置が決まったら、降下させる為にそこのボタンを押して。そのあと、掴みたいタイミングでもう一度ボタンを押すの」
「え? なん……計二回押すってこと?」
「そう。二回目を押さなかったら、勝手にアームが閉じるんだけど、そうするとツメがアクリルアイスに埋まって上手く掴めないから……」
「……──あ……」
秋風の言葉の途中で二回目のボタンを押した俺は、言ってくれた失敗例そのまんまになってしまった。
ふーもちアオくんを掴みたいのに、その下にじゃらじゃら敷かれているアクリルアイスとやら──お祭りの宝石すくいで見かける、プラスチックの宝石っぽいやつだ──にアームが刺さって、全然届かない。
結果、何も掴めないアームが、くるくると虚しく元の位置に戻っていく。
「惜しかったね……。位置は合っていたのに」
「……ええっと……今のは、俺のボタンを押すタイミングが遅かったってことか? もう少し早かったら、宝石のやつに邪魔されないで掴めた?」
「うん、そう。アームが完全に降りきったところでボタンを押していたから、邪魔されてしまった。アームが景品の半分くらいまでに来たら、もうボタンを押していいと思う」
「な、なるほど……。一回目は降下指示、二回目は掴むタイミングの指示、ちょっと早めに。だな。よしっ……!」
教えてもらったことをぶつぶつ呟きながら、なんとか物覚えの悪い頭に手順を吸収させた。
「もう一回やる?」
「うんっ。やる……!!」
秋風の言葉に、俺は大きく頷いた。
あんなに尻込みしていたのに、一回やったらもう、取れるまでやりたい気持ちが出てきた。クレーンゲーム、怖い……。
なんとも言えない悔しさというか。
この感覚、ソシャゲのガチャを引いているときの感じに似ている。俺は無課金勢だからガチャには課金しないが。
「いいね。いこういこう」
秋風が笑ってまた百円玉を入れようとする。
「……!」
俺はばっと横から手を差し込み、それを止めた。
「待て! 自分のお金でやるから!」
「あ……分かった。ごめん」
「……てかさ。お前、さっき現金持ち歩かないタイプだって言ってなかった!? なんで小銭あんの!」
「……ちょっとくらいは持ってるよ、さすがに」
「そういうこと……?」
よく分からないやつだなと思いながら、俺は自分の財布から百円を取り出して機械に入れた。
「よしっ! やったるぜ~!」
「頑張れ波青」
応援してくれる秋風の横で、意気揚々と操作レバーを動かす。
(うーん……、この辺か……?)
真横から見られればちょっとは距離感が分かるのに、隣の台とぴったり詰まっているせいでそれもできない。正面からなんとなく、距離感を測るしかない。
「ここだろたぶん! いけ~っ」
位置を決め終え、俺はばしっとボタンを押した。
しかし……俺の意気込みは空回り、アームは何もないところの上に降りてしまった。
「あ~~~っ……!! もうちょっと奥だった!!」
「惜しい。手前すぎたね」
「くそーー!」
悔しさにその場でジャンプしながら、新たに百円を入れた。
──三回目。
「ッッんなーー! もっと左……っ!!」
今度は右すぎて、またしても三本の爪は空気を掴んでしまった。
──四回目。
「早すぎた……!!」
せっかく位置が合っていたのに、興奮して掴むボタンを早く押しすぎてしまった。
ふーもちアオくんに届く前にアームが閉じてしまい、やっぱり何も掴めないまま上に戻っていく。
(……せ、せめて、さわらせてくれ…………)
ふーもちアオくんに、さわらせて。持ち上げるどころか、さわれもしないのは虚しすぎる。
──五回目。
「うわああああっっばか! 俺のバカぁ……!!」
「あはははっ!」
もう疲れてきて二体のふーもちアオくんを両方いっぺんに狙ってみようと思ったら。
アームは二体の間の空間に綺麗に入っていき、二人をべしっっっと左右に転がすだけで終わった。
二兎を追う者は一兎をも得ずとはこのことか。
「今の面白かった。逆にすごい」
「逆にすごい、じゃねーよ! あぁ、もう……無駄に五百円の支出がぁ~…………」
うなだれてへこんでいたら、秋風が心配そうに慰めてくれた。
「そんなに気になるの? 波青はかなり稼いでいるんだから、たまにはこのくらい遊んだっていいんじゃないかなと思うけど……」
「いや、もったいないだろ。お金は有限なんだぞ。それに、払った結果物を手にできれば良いけどさ、今のところ俺、何一つ成果なしじゃんか……!?」
このままだと、ただ五百円をドブに捨てただけの愚か者になってしまう。
「……うーん……成果とか、関係あるかな……? こういうものって、物にお金を払っているというより、体験にお金を払っているんだよ」
「たいけん??」
「うん。映画館では、映画を観るという体験にお金を払うよね。遊園地では、ジェットコースターや観覧車に乗るという体験にお金を払う。ゲームセンターもそれと同じことだよ」
「…………」
(…………たしかに……? そう言われてみればそうかも……)
秋風の言葉を聞いて、俺は再びアームを見てみた。
「……」
これをあーでもないこーでもないと操作して、取れるか取れないかのドキドキを味わってはしゃぐのは……確かに、すっごく楽しい。
しかも、一人じゃなく、隣に人がいて。一緒にがっかりしたり笑ったりしてくれるから、もっともっと楽しい。
この興奮は何日経ってもきっと忘れないだろう。
もはや、得られる物がなくても秋風の言う通り元は取れている気がする。
「うん……思い出はいくらお金をかけても買えないもんな」
「そうだよ。だから、中々ゲットできなくてもそんなに罪悪感を持たなくていいと思うんだ。お金が無駄になっているわけではないし」
「……そっかぁ……なるほどな。一理あるぞ」
納得して、なんだか肩の力が抜けた気がする。
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