幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第2章

108 一堂に会するグルチャメンバー《後編》

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 完全に味を占めてしまった自分が怖い。

 手まで震えてきた。

 (い、いやいや、冷静になれ……?)

 頑張って首を横に振るけど、残念ながら、視線がチャンネル登録者数から離れてくれない。

 体は正直だ。

 アドレナリンが溢れ出ているのか、目もギンギンする。

 (だ、だって、こんな数字、初めて見たし……)

 こんな数字を見たら……BL営業はこの辺でやめとこうなんて考え、一切なくなってしまう。

 もうアキアオオタクは増えて、床さんたちも喜んでくれたのだから、これで終わりにしたっていいのに。

 (……でも、なんで終わりにする必要があるんだよ?)

 別に。卑怯でもなんでもないし。これからも続けることに、罪悪感なんていだく意味ない。

 だって俺は、女の子たちの需要に応えているだけだ。需要と供給が完全にマッチしているんだから。

 てか、BL営業ってこんなに素晴らしいのに、なんで俺以外のメンバーはやらないんだろう?

 こんな利しかないこと、どんどんやっていくべきだろ。

 ただ男同士でちょこーっと絡むだけで、好感度をこんなに稼げるんだぞ? 最高じゃないか。

 むしろ、やらないのが損。

 俺は合ってる。

 (探し当てたこの金脈……どんどん掘るべきだろ…………)


「……──ッ!!」

 危ないギャンブラーみたいになっている自分の思考に驚き、俺はハッと瞬きをした。

 手元のスマホを見れば、グループチャットのみんなの楽しそうな文字が流れている。
 これがただの腐媚びBL営業だとも知らず、『アキアオは本当にあったんだ!』ってみんな幸せそうにしている。

「…………」

 急に頭が冷めた俺は、唇を噛んでタブレットの電源を落とした。

 (……チャンネル登録者数、今日はもう見るのやめとこ……)

 なんだかすごい、良くない欲にのみこまれそうになってしまった。

 (チャットの方に集中するか……)

 俺はふうと息を吐き、再びスマホの画面を見た。

 {床:こんな話をしてたら私、なんだかようやく現実(……?)を受け止められてきた気がします}

 {オクラ沼:同じく。これが、現実か}

 {しゅがー:現実みたい……}

「お……」

 さっきまで夢だかパラレルワールドだか言ってた床さんたちだけど。今になってようやく現実感が湧いてきたらしい。

 その流れに、Blauさんが飛びつくように返答している。

 {Blau:やっと正気になったかオタク共^^ じゃあさっそく、ここから五時間、アオきゅんの新ビジュについて語り合うぞ^^* まず最初の一時間でかわゆなおでこが見えるみじか~な前髪について^^ そして次の一時間で圧倒的天使なコーディネートについて・その次の一時間で尊きお方が尊きスクイーズを持っていることの破壊力について・その後の一時間であの写真のきゃわな笑顔に至るまでの考察・最後の一時間でわしらのアオきゅんが垢抜けてしまったことの一抹の寂しさについてな;;長めの前髪もわしはすこすこのすこ;;;;}

 {オクラ沼:それもういーわ!! 通話で散々聞いたじゃん!!}

 {しゅがー:そーだよー! それよりさ、わたしはアキくんのレアすぎる表情とセンター分けのヘアメについて話したい~~っ♡๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐かっこよすぎるし、あのお顔初めて見たし、まじメロついた๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐もう恋通り越して愛๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐というか最初は声で好きになったわたしだけどやっぱりアキくんのビジュが大天才なのは看過できないよだって普段でも日本一美なのにも関わらず今日の写真に至ってはビジュを磨きに磨き上げてきてるのが理解っちゃうし本気出すとこんなに突き抜けちゃうんだ!!!??っていう畏怖さえあるのそれにねアキくんの歴代私服まとめてくれてる情報垢さんによると今日の服は今までどの配信でも出たことのないやつでおろしたてなのではっていう発見があり、}

 {オクラ沼:それももういい!! 通話でしたじゃん三回くらい!! いい加減もう、アオの話、アキの話単独じゃなくて、『アキアオの話』しようよ、ここはアキアオのグループチャットです……!!}

 {しゅがー:ふえーーん๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐怒られたー!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐沼っちのけちぃーー!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {床:しゅがーさん、推し語りは後で私と二人きりでいっぱいしましょう?}

 {しゅがー:えーーー!? やった~~(๑>◡<๑)床ちゃん、優しいっ! うれしーー!!♡♡}

 {オクラ沼:あーもー……。床さん、そうやって甘やかすんだから……}

 {床:いえ、私もアキくんベタ褒めしたいので、自分のために誘っただけです! でも、ここではアキアオの話をしましょう!}

 {しゅがー:分かった~(๑>◡<๑)}

 {床:アキアオといえば、まず、とにもかくにも二人で遊ぶほど仲良かったんだっていう驚きですよね。ほんとにほんとにそれしかないです}

 {オクラ沼:ね!!! それすぎる!!!}

 {床:『プラベ情報出ないのは付き合ってるからだ』ってずっと必死に自分に言い聞かせてましたけど、『やっぱりプラベで遊ぶほど仲良くないだけなのかも……』と周りに流されて不安になってしまう日もたくさんありました泣 それがまさか、こんなことになるとは……}

 {オクラ沼:ほんとにね。私のマイナーオタク人生にこんな日が訪れるなんて想像もしていなかったよ。推しカプの自撮りツーショ見られるとか。ご褒美すぎる。いくらなんでも腐女子に都合良すぎん?? 神様って本当にいたんだぁって感じ……}

 (ま、まあ……都合いいのは、俺がオクラ沼さんたちの為にやってるところがあるからだろうな……)

 でも、神様がプレゼントした偶然と思ってくれているようで助かった。

 {しゅがー:さっきWくんも言ってくれたけど、これでもう、プラベゼロカプってバカにされないで済むよね๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {オクラ沼:だね! ただ、アンチからはさっそく『動画撮影のために集まっただけで絶対プラベじゃないでしょ』とかケチつけられてるけど……。ごちゃまぜの動画なら投稿前に写真は載せないと思うから、あれは完全プライベートだと私は思うな}

 {しゅがー:わたしもそう思うよ~!! アキくんは匂わせとかするタイプじゃないから(๑>◡<๑)}

 [ウェーブ:同意。まず、ゲーセン系の動画はいつもアキとハクの二人で撮ってるから急にメンバー変えたりしない。アキとアオなら動画用ではないだろうな。今後、アキとアオのゲーセン動画がごちゃまぜ垢から出なければ、プラベ確定だぞ]

 一応助け舟を出してみたら、{オクラ沼:おっ、ウェーブくんもそう思う!? だよねー!!!}と喜んでもらえた。画面越しでも、オクラ沼さんのキラキラした目が浮かんできて微笑ましい。

 {床:何かの目的があってたまたまアキアオ二人で集まったのか、配信で話さないだけで普段からよく遊んでたのかはわからないですが……。少なくとも、アキアオがリスナーの想像よりずっとずっと仲良しだったってことは発覚しましたね!!!}

 (いや、仲良し……、? かは、正直微妙だけど……)

 {オクラ沼:うんうんうんっ!! そう!! リスナーが気づけなかっただけで、アキアオには深い絆があるの!! なんたって、『幼馴染』だよ!? 幼馴染なんだからね!! 関係性薄いくせに無理やり顔カプにしてるだのなんだの、二度と言われたくないわ!!}

 オクラ沼さん、『幼馴染』って属性に全幅の信頼を寄せすぎだろ。幼馴染に対するプレッシャーがえぐい。そんな、世の中仲良い幼馴染だらけじゃないんだから。

 しかも俺たちの場合、高校から疎遠だったわけだし……。

 (あんまり仲良しを期待されたら正直やばい……)

 {オクラ沼:あっ! 普段からよく遊んでたなら、今後もちょくちょく写真出てくるのかな……!?}

 (いやいやいやいや!!!)

 違う違う。今回が例外だっただけだ。現に、次の遊びは断られてしまった。

 やっぱり、みんなが期待しちゃわないように前もって言っておかないと。

 [ウェーブ:もし仲良しだとしても、もうなかなか遊んだりはしないと思うけどな!? アキは忙しいし頻繁に遊ぶことなんてないと思う!]

 {床:あ! たしかにそうですね……! まず、アキくんにオフがないですもんね}

 {しゅがー:だねー๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐でも、一回見られただけで嬉しいしいっか!!(๑>◡<๑)}

 {Blau:アオきゅん親衛隊とは、いつでも心穏やかに、静かに供給を待つ者^^ 供給のクレクレや強欲は愚か者の極み^^}

 {オクラ沼:う……。悔しいけど、これに関してはBlauの言う通りか。ちょっとあまりの供給量に頭パーンってなって欲深くなってたな私……。反省}

 {床:いや、強欲になっても仕方ないですよ! こんなに嬉しいことが起きたら、またないかな? ってついつい期待しちゃいますもん……!!}  

 {オクラ沼:ありがとう床さん……。てか、妄言ついでに、もう一個いい? 何度見ても意味わかんないんだけど、例のアレのインステのキャプションさ、『アオと。』ってなに!? その先はいくらでもそちらで妄想してどうぞってこと!!? 公式からの許可!!??}

 違う!!!

 {しゅがー:あ! わたしもそれ思ってたーー!! アオと……なに!!? 多くは語らないアキくんにめためた振り回されてる!!๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {Blau:意味深よなー^^}

 {床:キャプションからしてこちらを昇天させにきてますよね……。昇天と言えば私今、ようやく耐性がついてきたので例のアレをスマホの待ち受けにしてみたんですけどさっそくアキアオと目が合って召されてます……}

 {オクラ沼:待ってまんま同じことしてるw}

 (ま、待ち受けに……!? あれをか……?)

 恥ずかしすぎる。誰かの待ち受けにされるなら、スタンプで俺の顔隠して投稿して貰えば良かった。
 床さんがスマホ開くたび、顔面偏差値の格差がやばい写真出るとか……。嫌だ。

 {Blau:つか、例の写真……、ジワジワくるな……^^ꐦ}

 [ウェーブ:え? Blauさん、なにが?]

 楽しいムードで急に怒りマークが見えたので、俺は首を傾げた。

 {Blau:今の今までアオきゅんにしか目がいってなかった、不覚。改めて見てみれば、どうだ。こいつ、距離が近いな。わしのアオきゅんのお体に、近すぎる^^ ꐦ 許せない。許していいわけがない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない}

「こわ……!?!」

 {しゅがー:『こいつ』……?? こいつって、え? 誰のこと? まさか、アキくんのことじゃないよね……????( -᷅ ·̫ -᷄ )}

 {Blau:アキの野郎のことに決まってるがな}

 {しゅがー:は??}

 (や、やばい! なんか泥沼が……!!)

 [ウェーブ:いや、Blauさんも、このグループチャットにいるってことは一応アキアオ推しなんだろ!? なんで二人の距離が近いことにキレてるんだよ! しかも写真を撮るために近いだけだし……!!]

 {Blau:はん、アキアオ推し? 笑わせるな^^ わしは、アオきゅんを愛でているだけだ。アオきゅんを愛でるには、棒が欲しいが、アオきゅんの周りには棒たり得る存在が少ない。なので渋々、妄想の中の棒としてあの男を拝借している。妄想とリアルでは話がまったく別だ^^ꐦ あんな小物がリアルでプライベートのアオきゅんに近づこうなど笑止千万^^^^^^^^^^^^}

 (棒って何……??)

 {オクラ沼:はぁ? ないわーーその発言。攻めを受けの都合の良い棒扱いするオタク、私大っっっ嫌いなんだけど……}

 {床:わ、わーー……! ちょ、Blauさん、それ以上はやめましょう。オクラ沼さんの地雷を盛大に踏んでしまっていますよ……!!!}

 {Blau:知らん^^ ぬまの地雷の上でタップダンスしてやるぜい^^^^}

「…………」

 (やっべぇー……! この協調性の無さでよくグルチャ追い出されてないなBlauさん……。……いや、俺も人のこと言えないか……あ…………)

 {Blau:ふん。まあいい^^ ꐦ}

 {オクラ沼:なにもよくないんだが}

 {Blau:わしが言いたいのは、とにかく、アキの野郎は身の程を弁えろということだっ!!^^ ꐦ}

 {オクラ沼:身の程を弁えるべきなのはあんただよ!! アキの野郎って何様!?}

 {しゅがー:そーだそーだ๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐アキくんに対するBlauちゃんの失礼な発言、絶対ぜーったいに許さないからっ……!!}

「け、喧嘩……!?」

 俺は慌ててスマホをタップし、仲介に入った。

 女の子同士で揉め事なんてやめてほしい。俺の胃が痛い。

 [ウェーブ:ちょっと待てみんな、落ち着けよ! 供給来た日に何を喧嘩してんだ!? そんなことしてたら、みんなの徳が減るぞ……!? 徳が減ってもいいの!?]

 {オクラ沼:徳…………??}

 {しゅがー:はっ……!!! 徳……!!!}

 {Blau:……おん……^^}

 {床:ほんとですよね!! 徳が減ったら困りますよ!!!}

 [ウェーブ:なっ!? そうだろ……!! うんうんうん!!]

 (な、なんとかなった……!!)

「ふう……」

 {オクラ沼:でも、口悪Blauと違って私は普段から徳積んでるんで!}

 と思いきや、口論はまだ終わってくれてなかった。なんでだよ!

 {Blau:なんだと? おぬしに、わしを超える徳があると言うのか?^^}

 {オクラ沼:あるね! なんていったってわたしとしゅがー、『しゅごフェスの前方』が当たったし!! Blauが外れてたらかわいそうだからと思って黙ってたけど、もう知らんよ!!}

 {しゅがー:ええ沼っち、言っちゃうの……!?๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {オクラ沼:だってBlauがムカつくんだもん!!!}

 (え……、オクラ沼さんとしゅがー、すごっ……!! あれが当たったんだ……!!?)

 前方とは、しゅごフェスのステージに一番近いベンチで見られる権利のことだ。
 しゅごフェスは基本自由に立ち見なんだけど、あそこのエリアだけは座って見ることになる。立たなくてもステージ上の推しを目視できる近距離の特等席だから。

 そんな特等席誰だって座りたいから、倍率がえぐい。

 フェスのチケットの抽選で当選してから更に、前方エリアの抽選がある。二回当選しなきゃいけないのだけど、後者の方はかなり狭き門だ。

 まさか、二人が当たってるとは……。

 (じゃあ、当日俺と目が合ったりするかもなのか……)

 演者とファンが余裕でお互いの顔が見えるくらい、前方エリアはステージとの距離が近い。

 なんか緊張するなそれ……と考えていたら、さらに驚きのチャットが続いた。

 {床:え……?? あの、実は、私も当たってるんです……、前方……。一生分の運使い果たしたかもって思って怖くなって誰にも言えてなかったんですが…………}

 {オクラ沼:え……っっ! ゆ、床さんも……!!? それはめでたい!!! みんなで一緒に至近距離で生アキアオ見られるじゃん!!!?}  

 {しゅがー:床ちゃんも~~!!!?? やったぁーー!!!♡♡♡(๑>◡<๑)}

 (えええええ!? 三人も……!?!)

 {Blau:ノ ちな、わしも当たっとるんだなこれが……^^* ぬま、仕返しのマウント失敗おつーー^^*}

 {オクラ沼:はっ!?}

 {しゅがー:!!?? Blauちゃんも……!??}

「えッッ!!??」

 {Blau:おい、なぜゆかの時のように喜ばない^^ わしの当選を^^}

 {オクラ沼:おま……マジで言ってる? え……こんなことある? ここの全員当選とか……。Blauはお金に物言わせたんじゃなくて……?}

 {Blau:そんなわけなかろ。わしかて己の手で応募し、しかと正規ルートで前方エリアに座る権利を手に入れたのだっ^^*}

 {しゅがー:ええー!!! ほ、ほんとに!? みんな、どういうこと?! 前方ってすっっっっごい倍率なのに!! もしかして、ここにいる人たち、超強運の集まり……!?๐·°(৹˃̵﹏˂̵৹)°·๐}

 {床:かもしれないです…………震}

 {オクラ沼:なにこれほんと……。。。アキアオパワーか……??}

 いや、そんなパワーはない。あり得ない。

 (どうなってんだ……?)

「え……え……、待てよ。じゃあ……」

 俺はオロオロしながら、頭の中で情報を整理した。

 ここのみんなが全員、前方エリアに当選したってことは。

 ということは、しゅごフェス当日は──

 (グループチャットのメンバー、全員顔が見える距離に集まるってことか……!?)
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