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第2章
109 ニコニコ秋風《後編》
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[ち、違うっっ!! BLじゃない!!! そうじゃなくて、ただ、そいつのコミュ力が高いだけだよ。そいつ、他人のことをよく観察してるタイプで、昔からずっと、誰にでも好かれる人気者で……。あと、俺がどんなにやらかしても、大したことないっていうふうに笑ってくれるんだよ。逆に揶揄ってきて、わざとみたいな感じで俺を怒らせてきて、さりげなく落ち込んだ空気を消し去ってくれるっていうか……]
{ええー……。気遣いの塊じゃん、その人}
[そうなんだよ! 俺、友達のそういうのに慣れてるからか、無意識に比べちゃうんだ。その、さっき言った気になってる女の子と食事した時、俺失敗しちゃったこともあって。超スベッた空気が流れてさ……。その時つい、『あいつならこんな時、軽く笑い飛ばしてくれたのに……』って思っちゃって……]
{へー……? 失敗って。なにを失敗したん?}
[んーと……女の子が椅子に座る前に、持参したハンカチを敷いちゃった。良かれと思って。どうやら、ダメだったっぽい]
{え……。それは、外の椅子?}
[ちがう。お店の個室の椅子]
{じゃあおかしいな!? 公園のベンチとかに女性が座る前に汚れちゃわないようにハンカチを敷くのとかはわかるよ?? でも、室内のお店ではそんなこと絶対にしないよ!? どういう行動!??}
[いや、まじでそうだよな……。俺、分かってなくって。空気が冷えた後におかしいことしたって気づいて。あぁ……めっちゃ居た堪れなかった…………]
{ポンコツかよ!! ウェーブくん!!!}
[はい……。そうです、ポンコツです……。なのに、帰り際さ、次の約束向こうから誘ってくれたんだよ。まじわかんねぇ……。何でかしんないけど、気に入ってもらえた? みたいで。結果的に、デート大成功だったんだ。俺のやらかしを超えるほど、お土産のマカロンと食事したレストランのポイントが高かったのか……。謎だ……]
{えー!? 誘ってもらえたの!?}
[そう]
{良かったじゃん!!}
[うん。俺ももちろん、すっごく嬉しかった! その時は。だけど後からじわじわ、次もこんなに緊張すんのかな? 生きた心地しないんだよな……気を張るのしんどすぎる……とか思いはじめちゃって……]
{ウェーブくん、それはわがまますぎるよ……}
[だよな……!? わがままだよな……。俺も自分で自分にそう思う……]
{……あのさ……彼女が欲しいって言うんなら、ある程度の緊張感も疲れもとにかく我慢するしかないよ? まず、その子の対応や会話をお友達と比較するのはやめたら。その女の子に失礼だし、かわいそうだよ、ウェーブくん。目の前にいる人間を見ないと……}
[う、うん……。そうだな…………]
{あとは、今の子がもしダメだったら、今度は気を遣わないで自分が自然体でいられるような女子を探すとかがいんじゃない? その方がウェーブくん的に楽しく恋愛ができるんじゃないかなぁ}
[な、なるほど……]
「自分が自然体でいられるような女の子……、か……」
果たして、いるのだろうか。というか、いるとして、その子は俺みたいな男のことを選んでくれるんだろうか?
「いや──ないな……っ!?」
かりんちゃんがたまたま、アオのファンだと言ってくれる酔狂な人物だっただけで。大半の女の子は、俺なんて好かないのだから。あり得ない。
(はぁ……。現実は厳しいな……)
でも、話を聞いてもらえて、結構スッキリした。
オクラ沼さんは、忖度なしにズバッと意見をくれて本当ありがたい。
俺はスマホをタップし、オクラ沼さんへのお礼の気持ちを打ち込んだ。
[ありがとな、オクラ沼さん。こんな話聞いてくれて、色々アドバイスをくれて]
{いえいえ。もういいの?}
[おう。めっちゃ助かった!!]
{そっか? それなら良かったけど、私は好き勝手言っただけだし、合ってるかわかんないからあんま信じないでね! あくまで、参考程度にだよ}
[うん。分かった]
{しっかし、やばいねー。拗らせ二十代前半男性(※童貞)。あまりにもネタの宝庫すぎる}
[ネタにすんなよ!!?]
{どうかな……?}
[どうかなじゃない!! てか、カッコ童貞って注釈つけんのやめて!!]
{まあまあ。またなにかあったら報告してねーウェーブくん!}
(まあまあじゃないんだが……!!)
今の話を、オクラ沼さんの描くアキアオ漫画のアオのセリフにでも活用されたりしたらたまったもんじゃない。
だってそれ、俺だし……。
「……はぁ……」
(……まー、いいか……?)
聞いてもらった側だし、文句は言えまい。多少のことは飲み込むとしよう。しかたない。
[じゃあ、俺そろそろ昼休憩おしまいにするな。オクラ沼さん、ほんとにありがとうございました]
{うい。明日のしゅごフェス……ウェーブくんはお友達と回るって言ってたっけ? お互いごちゃまぜ満喫しよーね。熱中症には気をつけて。んじゃ、ばいばーい}
「おう! バイバーイ!!」
口に出してから、声で返してることに気づいて。
俺はハッとし、慌てて文字でも書き込んだ。
[おう! バイバイ! そっちも体調気をつけてなー! また明日!!]
そうして、作業に戻り。
キリのいいところまで終えると、俺は早めにごちゃハウスを後にした。
家に帰宅し、双子と夜ご飯を食べて。
それから、明日のことを考えながらすやすやと眠りについた。
*
──翌朝。
ついに、しゅごフェス当日がやってきた。
「おはようございまーす」
マネージャーさんが車を出してくれて、みんなを拾っている。俺が最後らしく、車に乗り込んだらメンバー全員が揃っていた。
運転席にマネージャー、助手席に夕陽さん、二列目のシートに珀斗で、三列目のシートに秋風と桃星。
(げ……。俺、珀斗の隣かよ……)
空いているのはそこだけなので仕方がない。
「……」
「……」
だけど、珀斗はヘッドフォンをつけて無言でゲームをしていて、周りの音は何も聴こえていないようだ。
(これなら、いつもの嫌味を言われないですむな……はぁ、良かった……)
若干ホッとしながら、俺はそーっと珀斗の隣に腰掛けた。
「なおちゃん、おっはよ~! 調子はどう?」
夕陽さんがミラー越しにこっちを見て、話しかけてくれる。
俺は親指を立てて答えた。
「超バッチリです!」
「おぉーいいねいいね! 今日すごい気温高いから、水分補給はしっかりね~」
「はいっ!」
「オープニングのダンスはどう? 仕上がった!?」
「完璧……とまではいかないけど、覚えられました! 秋風が教えてくれたのもあって!」
「おっ、しゅーちゃんがコーチなら確実だねっ! 良かった良かった!」
「そうなんです! 秋風、ほんとありがとな……!」
後ろのシートを振り返ってお礼を言ったら、桃星と一つのスマホで動画を見ていた秋風が顔を上げた。イヤホンを片方ずつつけて、なんだよ。お前ら高校生カップルか……?
「ん? なになに」
俺たちの話を聞いてなかったようだ。
「ダンス教えてくれてありがとうって言った!」
「あぁ……。全然いいよ~。波青はとても頑張ってたし、きっと間違えずにできるはずだよ。本番はリラックスして楽しもうね」
「おう! 運動音痴な俺には楽しむ余裕なんてないけどな! なははは……!」
「大丈夫大丈夫! 波青なら絶対できるよー」
ニッコリ笑った秋風は、そう言った後すぐさま視線をスマホに戻した。
「……?」
(あれ……)
なんか返事が軽……というか、表面だけをなぞっているような。いつもなら、もっと……。
……ん? もっと…………なんだろ? 分からない。分からないけど、なんか変。
「……」
俺が自分でも謎な違和感に首を傾げていたら、桃星に何か面白いことを言われたのか、秋風が声をあげて笑った。
「あははっ……! やばい、それ」
「ねっ! このゲーム、前にコラボでやった時も僕、トゲに刺されてばかりで全然前に進めなくてさぁ……!」
「苦戦してる姿、目に浮かぶな~。桃星の悲鳴聴くためだけに一緒にやりたくなっちゃう」
「ちょっとー!! なんでそうやってすぐいじめるの!」
「ごめんごめん、嘘だよ」
「もー! やるなら、姫プしてねぜったいっ」
「任せて。俺、ゴールまでニンジン運ぶ係やるよ」
「それ、僕のこと置いてってんじゃん!!」
「あはは……っ」
(おお……?)
いつになく……盛り上がっているな。
いつも大人しめな秋風が、はしゃいで見える。フェスだからテンション上がっているのだろうか。
「ん……!?」
助手席に座っている夕陽さんもそう思ったのか、ミラー越しに楽しそうに言った。
「しゅーちゃん、今日はなんだかご機嫌だね!? というか、最近ずっとかな?」
「たしかに! 僕も思ってた~~」
いつも以上にニコニコしている秋風を見て、桃星も嬉しそうに同意している。
「えっそうですか?」
「何か良いことでもあったの? しゅーちゃん」
「? どうだろう……。うーん。……あっ! もしかしたら、ごちゃまぜで活動できて幸せだな~って気持ちがついつい外に溢れてるのかもしれないです。俺、本当にここに居られて嬉しいので。みんなと過ごせているこの一瞬一瞬、毎秒毎秒がかけがえのない宝物なんです」
「しゅ、しゅーちゃん……!!」
「しゅーか……!!!」
「……」
秋風のクサい言葉に夕陽さんと桃星が目をうるうるにさせて感動している中、珀斗は相変わらず恐ろしいほどの無表情でゲームをしている。興味なさすぎだろ、俺らに。
「……」
(てか……こいつ、やっぱ変じゃね……?)
秋風の褒め言葉がいちいち大袈裟で嘘臭いのはいつものことだけど。それにしても、こんなに台詞じみていただろうか……?
今は配信中でもないのに。なんか、アキがここにいるような変な感じがする。
「よーし! しゅーちゃんにこんなに嬉しいことを言ってもらっちゃったんだ。今日はお兄さん、いつも以上に頑張っちゃうぞー! 俺もごちゃまぜがだーいすき!!」
「ユウ兄~、張り切りすぎてぎっくり腰やらないでね?」
「ちょ……っ! 老人扱いやめてくれせいちゃん!!」
「でも、夕陽くんはこれから頑張らなくても、もうすでに大活躍してますよね」
「え!? 俺、なんか活躍したかな……!?」
「はい。外見てください。すごく綺麗な晴天。絶好のフェス日和だなぁ……。この晴れやかな空は、夕陽くんが晴れ男なおかげだよね」
「あ……! たしかに~! そういえば、ユウ兄のおかげで大事なイベントの日はいっつも晴れるね~!」
「ね。雨降ったことないもん。これがリーダー力かな。やっぱり、リーダは違うよ」
「こ、こらーー? そんなおだてても何も出ないよ!? ……えっと、とりあえず百万百万……」
「あはは。出てるじゃないですか~」
「ユウ兄チョロッ!」
「だってしゅーちゃんがかわいいから……!!」
「えっっ僕は!!?」
「ん!? もちろん、せいちゃんも史上最強にかわいい!! 当たり前すぎる話だよ!!」
「……『も』じゃないでしょ……っっ! まったくユウ兄はーーーっ! ま、僕のしゅーか♡がかわいいのは分かるけどねっっっ」
「あ、しゅーちゃんはせいちゃんのだったのか……!?」
「ふふ。そうみたいです。面白いね」
そんな三人のやり取りをぼけっと聞いていた俺は、もう一度ちらっと秋風を振り返ってみた。
「……」
──笑顔が、顔に張り付いている。
顔が笑ってるんじゃなくて、笑顔が先……みたいな。
「……?」
なんだろう。
何かに似ている。
この、張り付いた笑顔。
(……! あ……)
あれだ──
ピエロ。
泣いても苦しんでも笑みの形のまま崩れない、ピエロの仮面みたいだ。
まるで、秋風がどこかに行ってしまったような……。
(……──って、考えすぎか。俺。妄想キモッッ!)
俺は自分の突飛な思考に呆れ、ぶんぶんと首を横に振った。
考えすぎは、俺のよくない癖である。
{ええー……。気遣いの塊じゃん、その人}
[そうなんだよ! 俺、友達のそういうのに慣れてるからか、無意識に比べちゃうんだ。その、さっき言った気になってる女の子と食事した時、俺失敗しちゃったこともあって。超スベッた空気が流れてさ……。その時つい、『あいつならこんな時、軽く笑い飛ばしてくれたのに……』って思っちゃって……]
{へー……? 失敗って。なにを失敗したん?}
[んーと……女の子が椅子に座る前に、持参したハンカチを敷いちゃった。良かれと思って。どうやら、ダメだったっぽい]
{え……。それは、外の椅子?}
[ちがう。お店の個室の椅子]
{じゃあおかしいな!? 公園のベンチとかに女性が座る前に汚れちゃわないようにハンカチを敷くのとかはわかるよ?? でも、室内のお店ではそんなこと絶対にしないよ!? どういう行動!??}
[いや、まじでそうだよな……。俺、分かってなくって。空気が冷えた後におかしいことしたって気づいて。あぁ……めっちゃ居た堪れなかった…………]
{ポンコツかよ!! ウェーブくん!!!}
[はい……。そうです、ポンコツです……。なのに、帰り際さ、次の約束向こうから誘ってくれたんだよ。まじわかんねぇ……。何でかしんないけど、気に入ってもらえた? みたいで。結果的に、デート大成功だったんだ。俺のやらかしを超えるほど、お土産のマカロンと食事したレストランのポイントが高かったのか……。謎だ……]
{えー!? 誘ってもらえたの!?}
[そう]
{良かったじゃん!!}
[うん。俺ももちろん、すっごく嬉しかった! その時は。だけど後からじわじわ、次もこんなに緊張すんのかな? 生きた心地しないんだよな……気を張るのしんどすぎる……とか思いはじめちゃって……]
{ウェーブくん、それはわがまますぎるよ……}
[だよな……!? わがままだよな……。俺も自分で自分にそう思う……]
{……あのさ……彼女が欲しいって言うんなら、ある程度の緊張感も疲れもとにかく我慢するしかないよ? まず、その子の対応や会話をお友達と比較するのはやめたら。その女の子に失礼だし、かわいそうだよ、ウェーブくん。目の前にいる人間を見ないと……}
[う、うん……。そうだな…………]
{あとは、今の子がもしダメだったら、今度は気を遣わないで自分が自然体でいられるような女子を探すとかがいんじゃない? その方がウェーブくん的に楽しく恋愛ができるんじゃないかなぁ}
[な、なるほど……]
「自分が自然体でいられるような女の子……、か……」
果たして、いるのだろうか。というか、いるとして、その子は俺みたいな男のことを選んでくれるんだろうか?
「いや──ないな……っ!?」
かりんちゃんがたまたま、アオのファンだと言ってくれる酔狂な人物だっただけで。大半の女の子は、俺なんて好かないのだから。あり得ない。
(はぁ……。現実は厳しいな……)
でも、話を聞いてもらえて、結構スッキリした。
オクラ沼さんは、忖度なしにズバッと意見をくれて本当ありがたい。
俺はスマホをタップし、オクラ沼さんへのお礼の気持ちを打ち込んだ。
[ありがとな、オクラ沼さん。こんな話聞いてくれて、色々アドバイスをくれて]
{いえいえ。もういいの?}
[おう。めっちゃ助かった!!]
{そっか? それなら良かったけど、私は好き勝手言っただけだし、合ってるかわかんないからあんま信じないでね! あくまで、参考程度にだよ}
[うん。分かった]
{しっかし、やばいねー。拗らせ二十代前半男性(※童貞)。あまりにもネタの宝庫すぎる}
[ネタにすんなよ!!?]
{どうかな……?}
[どうかなじゃない!! てか、カッコ童貞って注釈つけんのやめて!!]
{まあまあ。またなにかあったら報告してねーウェーブくん!}
(まあまあじゃないんだが……!!)
今の話を、オクラ沼さんの描くアキアオ漫画のアオのセリフにでも活用されたりしたらたまったもんじゃない。
だってそれ、俺だし……。
「……はぁ……」
(……まー、いいか……?)
聞いてもらった側だし、文句は言えまい。多少のことは飲み込むとしよう。しかたない。
[じゃあ、俺そろそろ昼休憩おしまいにするな。オクラ沼さん、ほんとにありがとうございました]
{うい。明日のしゅごフェス……ウェーブくんはお友達と回るって言ってたっけ? お互いごちゃまぜ満喫しよーね。熱中症には気をつけて。んじゃ、ばいばーい}
「おう! バイバーイ!!」
口に出してから、声で返してることに気づいて。
俺はハッとし、慌てて文字でも書き込んだ。
[おう! バイバイ! そっちも体調気をつけてなー! また明日!!]
そうして、作業に戻り。
キリのいいところまで終えると、俺は早めにごちゃハウスを後にした。
家に帰宅し、双子と夜ご飯を食べて。
それから、明日のことを考えながらすやすやと眠りについた。
*
──翌朝。
ついに、しゅごフェス当日がやってきた。
「おはようございまーす」
マネージャーさんが車を出してくれて、みんなを拾っている。俺が最後らしく、車に乗り込んだらメンバー全員が揃っていた。
運転席にマネージャー、助手席に夕陽さん、二列目のシートに珀斗で、三列目のシートに秋風と桃星。
(げ……。俺、珀斗の隣かよ……)
空いているのはそこだけなので仕方がない。
「……」
「……」
だけど、珀斗はヘッドフォンをつけて無言でゲームをしていて、周りの音は何も聴こえていないようだ。
(これなら、いつもの嫌味を言われないですむな……はぁ、良かった……)
若干ホッとしながら、俺はそーっと珀斗の隣に腰掛けた。
「なおちゃん、おっはよ~! 調子はどう?」
夕陽さんがミラー越しにこっちを見て、話しかけてくれる。
俺は親指を立てて答えた。
「超バッチリです!」
「おぉーいいねいいね! 今日すごい気温高いから、水分補給はしっかりね~」
「はいっ!」
「オープニングのダンスはどう? 仕上がった!?」
「完璧……とまではいかないけど、覚えられました! 秋風が教えてくれたのもあって!」
「おっ、しゅーちゃんがコーチなら確実だねっ! 良かった良かった!」
「そうなんです! 秋風、ほんとありがとな……!」
後ろのシートを振り返ってお礼を言ったら、桃星と一つのスマホで動画を見ていた秋風が顔を上げた。イヤホンを片方ずつつけて、なんだよ。お前ら高校生カップルか……?
「ん? なになに」
俺たちの話を聞いてなかったようだ。
「ダンス教えてくれてありがとうって言った!」
「あぁ……。全然いいよ~。波青はとても頑張ってたし、きっと間違えずにできるはずだよ。本番はリラックスして楽しもうね」
「おう! 運動音痴な俺には楽しむ余裕なんてないけどな! なははは……!」
「大丈夫大丈夫! 波青なら絶対できるよー」
ニッコリ笑った秋風は、そう言った後すぐさま視線をスマホに戻した。
「……?」
(あれ……)
なんか返事が軽……というか、表面だけをなぞっているような。いつもなら、もっと……。
……ん? もっと…………なんだろ? 分からない。分からないけど、なんか変。
「……」
俺が自分でも謎な違和感に首を傾げていたら、桃星に何か面白いことを言われたのか、秋風が声をあげて笑った。
「あははっ……! やばい、それ」
「ねっ! このゲーム、前にコラボでやった時も僕、トゲに刺されてばかりで全然前に進めなくてさぁ……!」
「苦戦してる姿、目に浮かぶな~。桃星の悲鳴聴くためだけに一緒にやりたくなっちゃう」
「ちょっとー!! なんでそうやってすぐいじめるの!」
「ごめんごめん、嘘だよ」
「もー! やるなら、姫プしてねぜったいっ」
「任せて。俺、ゴールまでニンジン運ぶ係やるよ」
「それ、僕のこと置いてってんじゃん!!」
「あはは……っ」
(おお……?)
いつになく……盛り上がっているな。
いつも大人しめな秋風が、はしゃいで見える。フェスだからテンション上がっているのだろうか。
「ん……!?」
助手席に座っている夕陽さんもそう思ったのか、ミラー越しに楽しそうに言った。
「しゅーちゃん、今日はなんだかご機嫌だね!? というか、最近ずっとかな?」
「たしかに! 僕も思ってた~~」
いつも以上にニコニコしている秋風を見て、桃星も嬉しそうに同意している。
「えっそうですか?」
「何か良いことでもあったの? しゅーちゃん」
「? どうだろう……。うーん。……あっ! もしかしたら、ごちゃまぜで活動できて幸せだな~って気持ちがついつい外に溢れてるのかもしれないです。俺、本当にここに居られて嬉しいので。みんなと過ごせているこの一瞬一瞬、毎秒毎秒がかけがえのない宝物なんです」
「しゅ、しゅーちゃん……!!」
「しゅーか……!!!」
「……」
秋風のクサい言葉に夕陽さんと桃星が目をうるうるにさせて感動している中、珀斗は相変わらず恐ろしいほどの無表情でゲームをしている。興味なさすぎだろ、俺らに。
「……」
(てか……こいつ、やっぱ変じゃね……?)
秋風の褒め言葉がいちいち大袈裟で嘘臭いのはいつものことだけど。それにしても、こんなに台詞じみていただろうか……?
今は配信中でもないのに。なんか、アキがここにいるような変な感じがする。
「よーし! しゅーちゃんにこんなに嬉しいことを言ってもらっちゃったんだ。今日はお兄さん、いつも以上に頑張っちゃうぞー! 俺もごちゃまぜがだーいすき!!」
「ユウ兄~、張り切りすぎてぎっくり腰やらないでね?」
「ちょ……っ! 老人扱いやめてくれせいちゃん!!」
「でも、夕陽くんはこれから頑張らなくても、もうすでに大活躍してますよね」
「え!? 俺、なんか活躍したかな……!?」
「はい。外見てください。すごく綺麗な晴天。絶好のフェス日和だなぁ……。この晴れやかな空は、夕陽くんが晴れ男なおかげだよね」
「あ……! たしかに~! そういえば、ユウ兄のおかげで大事なイベントの日はいっつも晴れるね~!」
「ね。雨降ったことないもん。これがリーダー力かな。やっぱり、リーダは違うよ」
「こ、こらーー? そんなおだてても何も出ないよ!? ……えっと、とりあえず百万百万……」
「あはは。出てるじゃないですか~」
「ユウ兄チョロッ!」
「だってしゅーちゃんがかわいいから……!!」
「えっっ僕は!!?」
「ん!? もちろん、せいちゃんも史上最強にかわいい!! 当たり前すぎる話だよ!!」
「……『も』じゃないでしょ……っっ! まったくユウ兄はーーーっ! ま、僕のしゅーか♡がかわいいのは分かるけどねっっっ」
「あ、しゅーちゃんはせいちゃんのだったのか……!?」
「ふふ。そうみたいです。面白いね」
そんな三人のやり取りをぼけっと聞いていた俺は、もう一度ちらっと秋風を振り返ってみた。
「……」
──笑顔が、顔に張り付いている。
顔が笑ってるんじゃなくて、笑顔が先……みたいな。
「……?」
なんだろう。
何かに似ている。
この、張り付いた笑顔。
(……! あ……)
あれだ──
ピエロ。
泣いても苦しんでも笑みの形のまま崩れない、ピエロの仮面みたいだ。
まるで、秋風がどこかに行ってしまったような……。
(……──って、考えすぎか。俺。妄想キモッッ!)
俺は自分の突飛な思考に呆れ、ぶんぶんと首を横に振った。
考えすぎは、俺のよくない癖である。
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