幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第2章

【閑話】私の推し/フユ③

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「ふー。めちゃくちゃ遊んだね~~!!」
「ねー! 夢みたいな一日だったぁ……!!!」

 十八時三十分。私たちは当選した前方エリアのベンチに腰掛け、一息ついていた。

 残るは、ごちゃまぜの単独ステージのみだ。これが主食だから、まさに待ってましたという感じ。

「遊園地に百回行ったレベルで楽しい! 今日は、私の人生でトップスリーに入る最高の日だよっっ!!」

 雫ちゃんはすっかり興奮し、ふんふんと鼻息が荒くなっている。清楚な見た目なのにギャップが面白い。

「本当、楽しかったね。雫、一緒に来てくれてありがとう!」
「こちらこそ……!」
「えへへ」
「ふふふふ」

 顔を見合わせてニコニコしていたら、ふと私の隣に二人連れが腰かけた。

「……!」

 (わ! すごい綺麗な髪色……)

 アキとそっくりのカラーを入れている、綺麗に巻かれたロングヘアの女の子。アキリスだろうか……?

 どこの美容院か教えて欲しいレベルで綺麗だ。

 (……ん?)

 ふと、その子の持っているバッグが視界に入ってきて、私は顔を歪めた。アキとアオの缶バッジだらけだったから。

 (え……この子アキアオ推し?? うわ、最悪……)

 あんな絶滅危惧種の少数民族と、たまたま隣の席になるなんて……。

 (……ないわー……)

 今日はとことんついてないな。低い確率を引きすぎてる。

 ガッカリしていたら、ロングの女の子が「あっ、わたしの席のが真ん中に近いよ! 沼っち、席交換する~!?」と隣の女の子の服を引っ張った。

「いや、いい」

 淡白に答えた女の子は、ハイトーンのショートカットだ。ブルーのインナーを入れている。

 (え? この色合い……まさか、こっちもアキアオ推し?? てか、待って。『沼』って……)

 頭の中に、アキアオ絵師で有名な『沼』っていうアカウントのことが浮かんできた。

 あの絵師さん……個人的に好きじゃない。

 界隈で一番絵が上手いのに、なぜかアキアオとかいう人気ないケミを描いている人。だから、画力の割にフォロワー少ないんだよ。

 せめてアキ単体絵だけあげてればもっといいねもらえるだろうに、なんでわざわざ隣にアオを描くの? バカなのかな。

 しかも、健全なケミ推しってことにしてるけど、ポストから滲み出てる腐女子臭が全っ然隠せてないし。
 アキアオアキアオうるさすぎて、あの人絶対腐女子でしょって思う。

 (多分、鍵垢持ってるんだろうなー。名前は表のと別にして、同志にしか見つからないようにして……)

 まあ、私も腐女子だからそこは良いんだけど。

 とにかく、目立ってるアキアオ推しってだけでムカつくから、私の仲間内でもあの人はすごい嫌われている。

 (『こいつキモイから引用してビビらせとくw』って、この前仲間の誰かが嫌がらせしてたっけ……)

 鍵垢からの引用を嫌がる人は多い。私、裏で何か言われてるのかな……? と心配になるからだ。

 沼という絵師さんもそうみたいで、『誰? 鍵で引用してくるの。怖……』と呟いているのを見かけたことがある。

 あと、仲間の誰かが毒マロも送りまくっていた。
 それにも沼さんは嫌がるポストしてたけど、嫌ならマシマロ自体辞めれば良いのにな……って思う。

 変な絵師さんだ。

 (でも、『沼』なんてよくあるHNだし、この隣の人たちとは別人かな……?)

 オタクって、よく沼だ沼だ言ってるから。

 それに、隣の子たちは私よりも若そう。

 あの絵師の沼って人は、いつものポストからしてもう少し年齢上そうだから多分違うな。

「……? どうしたの、冬実ちゃん?」
「! あっううん! なんでもない……! もうすぐステージ始まるね! 楽しみだねっっ」
「うん~!!」

 考え込んでいたら、心配されてしまった。

 ……いけないいけない。

 (すぐ、SNSのこと考えちゃうな……せっかくのオフイベなのに)

 私は首を横に振って、気を取り戻した。


 *


「──こんばんはー!! 盛り上がってますかーー!!」
「はじめまして! ごちゃっとまぜるでーすっ」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……!」

 ついに、ごちゃまぜがステージに現れた。

「……っっっ~~~!!!」

 (ちっっっかぁ……!!!!!!!)

 ここ、神席すぎる。こんな近くで見たことないよ私。
 今までのオフイベだって天井席だったし、今日のオープニングも、コラボステージも、後ろの方でモニターを眺めるので精一杯だったから。

 (やばい!! 肉眼で見えるー!!! どうしよ!!? モモたんがすぐそこに……っっ)

 双眼鏡も必要ないほどの近さだ。さすが前方エリア。

 (今日来て良かったぁ……!!!)

 もはやもう泣けてきた。前方エリアを当ててくれた、運の神様に大感謝。

 (み、みんな、オーラ凄すぎるっ!! 顔小さっっっ! 頭身どうなってんの!!??)

 ……アオだけは一般人体型すぎてめちゃくちゃ浮いてるけど──近くで生で見たらアオも実はかっこいいのかなとか期待したけど全然そんなことはなかったわ……──萎えるからあんま視界に入れないようにしよ……。

「!!!??♡☆♢@$%&!!??!!!!」
「zxcvb!!!!!!!」
「うsdghjkl!?!?!?おおおおぉぉ!!!」
「!!!!qwer@&%$#!!!!」

 周りの人たちも声にならない悲鳴をあげている。分かる。分かるよ、その気持ち。

「ユウユウユウユウユウーーーー!!」
「アギィーーーーー!!!!」
「ハク様ァァアアアアア!!!!」

 私も周りに負けないように、思い切り「モモたぁぁぁぁぁぁんっっっ!!」って叫んだ。

「……こんばんは。この素晴らしい夜空の下、こうしてみなさんと共にひとときを過ごせることに、心から幸せを感じています。足を運んでくださったすべての方々に、深く感謝申し上げます」

 アキがMCをしている。

 本当……アキは、ビジュも声もワイチューバーとは思えなすぎる。

 近くで見たらより一層、美形だ。

「『今日』という特別な夜は、もう二度と訪れることはありません。だからこそ、僕たちのことを長年応援してくださっている方も、今日初めて知ってくださった方も……今夜はみんなで一緒に、一生忘れられない瞬間を作り上げられたらと思います」
「……」

 (さ……さすが、『他担狩りのアキ』……)

 思わず、モモたんをガン見するのをやめて、アキに目を奪われてしまった。

 アキは他担狩りがやばいってSNSで恐れられている。

 ユウくんを推してても、ハク様を推してても、モモたんを推してても。
 どのリスナーも、現場に行ったら最終的にアキ推しになって帰ってるって噂は本当だったんだ……。

 鳥肌が立つほど、すごい吸引力がある。

 この人は、舞台に立つために、脚光を浴びるために生まれてきた人間なんだな……って思い知らされる美麗さだ。

 思わず、視線が吸い寄せられる。どうしようもなく見てしまう。

 (まっ、まあ、私はモモたん一筋だけどね……!)

 私はドキドキしながら、無理やりアキから視線を引き剥がした。

 モモたんを見ると、相変わらず可愛い。背も小さいし、何より顔が女子よりも可愛くって、奇跡の二十四歳だ。

 (ッッッかわいい~~!! 尊ーー!!! やっぱり私には、モモたんだけだ……!!)

 アキは、見たらまずい。熱狂的なリアコになって引き返せなくなる未来しか見えないし、推したくなすぎる。

 (アキのことは視界に入れないようにして……)

 私はアキに狩られないよう気をつけながら、ぶんぶんとモモたんに手を振った。

 しかし……。

「え、や、えっっっぐはっっ……!!」
「沼っちしっかり……!! てか、なにっ? 今の……! へ!? わたしたち宛て!? あ、アオ、こっちの方見てるよね!?!」
「目合ってない? まじ。え? や、んえ? 今、まさか、確定ファンサ……??? は? クッッソかわ。何あの謎ポーズは……!!? やり切った感のドヤ顔もなに!?! はぁっ!?」
「どして? え、ちょ、まさか、アキアオコーデのおかげでわたしたち目立ってるとか……!?」
「やばいやばいやばいむりそれだめっちゃ見られてる!! 推しがこっち見てる!!! 見てるじゃんッッッッ~~~!!!!」
「やぁーーーー!!!!」

 (──と、隣、うるせーーー……!!!)

 小声でキャッキャしてるのが耳に入ってきて全然集中できない。

 やっぱアキアオオタクって最悪……。

 アオにファンサされたくらいでそんな盛り上がれるとか、どういう思考回路なんだろ。あまりにも頭お花畑っていうか、幸せすぎるでしょ。

 だってあれ、一般人だよ?? 目をかっぴらいてよく見なよ。

 華もオーラも何もないし、その辺の垢抜けないオタク男じゃん。
 他の四人と比べて全くスターじゃない。誰でも付き合えるよ? 多分。
 あんなのに沸ける意味がわからない。はぁ。

「……」

 どうも隣が気になってイライラしていたら、ユウくんとハク様のコーナーも終わって、全員の褒め言葉バトルが始まっていた。

「──モモの良いところは、多才なところかな。とても芸術センスに溢れていて、尊敬するよ」
「えーー!!! アキー!! ありがとう~~!!!」

 (!! かっかわいいぃ……!!)

 かわいい。かわいい。アキに褒められて喜ぶモモたん、さすがに可愛いがすぎるよ……。

 ニヤニヤが止まらない。何なの? この、毎回ある二人のイチャつきは。

「……おチビの美点は、過剰な自信」

 ハク様も、いつものツンデレ発揮してるけど、そういう塩なところもたまらない。

 生で浴びる毒舌、最高。

「はいはいっ! ユウ兄審判! これ、今のクソガキのはダメだよね!? 褒めるていでディスるのはズルだよね!?」
「うんズルです! お兄さん的に、認められませんっっ!!!」
「チッ……なんでだよ。身に余る自尊心があるのは良いことだろ」
「こっこいつ……!!」
「真面目にやれ!」

 ハク様に怒ってぷんすかしてるモモたんの可愛さったらない。笑うモモたんも、怒るモモたんも、なんて尊いの……。

「モモたんの良いところはもちろん、超絶可愛いとこだよっっ!」
「わーー!! ユウ兄、ありがと~っ!」

 (かーーーっ!! 今度はユウモモがぁ……!!!)

 最高。モモたん、ごちゃまぜの姫すぎる。

 オタサーの姫ならぬごちゃサーの姫だよもう。

 アキモモもハクモモもユウモモも美味しすぎる。

 モモたんを囲む三人のイケメンたち……ああ、ありがとうございます…………。合掌。

「そうだーー!!」
「モモちゃん、かわいいよーー!!」
「世界一可愛いっ!!」
「ひゃーー!! 天使!!?」

 周りのごちゃリスたちも超絶大興奮している。

 くう……この、推しがみんなに愛されてる空気感たまらん!!
 アオカスと違って、モモたんは可愛いし性格もいいから、リスナーみんなで愛してる感じで一体感があって現場がすっっごく楽しい。

「そしたら、次はアオたんをみんなで褒める番だね! 隣のアッキーから!」
「あ、はい……。お願いします」

 ニヤニヤしている最中、モモたんが褒められるターンが終了してしまった。

 (えっっ!! もう終わり……? アオカス褒める時間とか誰も望んでないのに。飛ばそーよ…………)

 その分他のメンバーの時間にしたら良いのに。はぁ。

「……、そうだなぁ……。優しいところ……かな?」
「アオくんへの褒め言葉、募集しまーす」

 アオの良いところなんて思いつかなくてアキが困っているし、ハク様も思いつかなくて客席に投げた。

 やっぱ、そうだよね。
 モモたんと違ってアオカスは、メンバーからも煙たがられてる。本当要らない存在だなー、こいつ……。

「挙動不審なとこー!」
「すぐどもる!!」
「村人F顔!!」
「ふつーの人間なところ! 親近感!!」

 ハク様の質問に答えて、続々と客席からアオへの煽りが聞こえてくる。

 (ぷっ……このノリ、やば……!)

 面白すぎて、笑えてくる。全部その通りだし。

 私もみんなにノって、叫んでみた。

「特になしー!!!!」

 結構大きい私の声は響いて、お客さんたちをより一層爆笑させた。

 (うっわ! ウケちゃった……! ちょっとセンスありすぎた!?)

「……! ふ、冬実ちゃん……?」
「え?」

 隣から、震える声が聞こえてきて、私はパッと横を向いた。

 雫ちゃんが、目を見開いてドン引きしたように私を見つめていた。

「!! あ…………」

 (……え? いや。なに? え? 私、ネタに乗っただけだし……。え……? 私なんか悪いっけ……??)

 ぐるぐると超速で思考が回転する。とにかく言い訳しようと、私は「今のは、そういうノリで……」と呟いた。

「あと陰の者オーラ!!!」
「ノンデリ!!」
「夏フェスが最強に似合わないとこ!!」

 私を加勢するみたいに、どんどんとヤジが聞こえてくる。

「ほ……ほら! ねっ!? 今の時間は、こういうノリなの! みんな言ってるじゃん……!?」

 私だけじゃない。別に私は、おかしくない。

「……。あ、うん…………」

 雫ちゃんは苦笑いをし、私からそっと視線を逸らした。

「……?」

 どうしたんだろう。大袈裟だな。

 (……あー。この子、真面目だからなぁ……?)

 まああとでちゃんと説明しとくか、と思いながら私もステージに目を戻した。

「……」

 ステージでは、客席からの声に耐えられなかったのか、アオが縮こまっているところだった。

 ……いやいや、なにその反応。

 (白けるわ~……)

 そこは、ガツンとキレ芸見せるとこでしょ。

 いつもみたいにバカでかい叫び声で、客席に向かって『何だそれ!! 失礼なっ!!』とか言ってツッコめば、アオでもひと笑い取れたのに。

 せっかくのリスナーからの美味しいパスを無駄にして……バカみたい。
 可愛い子がウジウジするなら分かるけど、モブ顔がそうやって悲劇のヒロインぶってもおもんないって。

 アオって、相変わらず空気読めないしほんとプロ意識のかけらもなくて呆れる……。

 (他のメンバーも呆れてるよね……)

 そう思いながら視線を巡らしたら、アキが動き出していた。

「……!」

 固まっているアオの肩でも叩いて正気に戻してあげるんだろうか。

 それとも、黙り込むなって言ってアオを注意するとか?

 うんうん、どっちでもいい。ナイス。さすがアキ、やっぱり空気の読める──


「うちのメンバーを、いじめないでね」


 そう言ってアキが、アオを守るみたいに前に立った。


「…………はぇ??」


 私は、思わず気の抜けた声を出してしまった。



 (…………え???)


 なになに。

 はっっ???

 え、なにしてんの? どうした……?

 まるで、姫を守るナイトみたい。

 絵本の一ページみたいに、綺麗なワンシーン。

 だけど……後ろで守ってもらってるのは、モモたんでも、お姫様でも何でもない、ただの村人Fのアオカス……。

 私は目の前の光景を全然飲み込めなくて、あんぐりと口を開けていた。

 (…………い、いや……姫はモモたんだから…………)

 おかしい。こんなの。

 アキがアオカスなんかを庇うなんて。アキはモモたんの彼氏じゃん。そんなことしてないで、モモたんの側にいればいいのに。は?? まじ、どういうこと??

「!! そうそう……!! みんな、やめてねー! そういうノリは!! アオたんは、頑張り屋さんで、真面目で、かわいいとこが良いところだよ!!」

 ユウくんまで、アオに駆け寄ってきて頭を優しく撫でてあげている。

 え、なにそれ。

 アオがチヤホヤされてる。

 気持ち悪い。吐きそう。

 は? なにこれ? 現実?

 私の推しじゃなくて、アオカスが──。

 私は困惑して、ぎょろぎょろと視線を動かした。その瞬間──誰かと目が合った。


「……」
「────……!」



 ヒュッ……と、私は息を呑んだ。

 思わず後ずさって、ベンチにふくらはぎを思い切りぶつけた。

 痛いはずなのに、全然痛みが分かんなかった。


「…………」


 アキがこっちを見ている。

 目が……合ってる……?

 確実に……


 私 を 見 て る 。


「…………ッッッッ」


 ビリビリと肌が震える。

 今まで生きてきて、一度も浴びたことのない視線だ。

 まるで駅の階段に落ちてる誰かの吐瀉物を見下ろすかのような、温度のない視線。

 同じ人間を見る目じゃない。私は一瞬、自分が人間じゃなくて、ゴミになったのかって錯覚してしまった。



「~~ッ……はぁ……はぁっ……」

 私は思い切り顔を下げて、アキの視線から逃れた。

 爆発したみたいに跳ねる胸を掴んで、必死に呼吸を繰り返す。

「っ!? 冬実ちゃん……!?」

 隣の雫ちゃんが慌てて背中をさすってくれたけど、声が出なくて、答えることもできなかった。

 (な……なっ、な……なにいまの……? き、きのせい……???)

 私の罪悪感で、幻覚を見たのだろうか。

 そもそも、いつも温和に微笑んでいるアキがあんな顔をするわけない。ファンに対して、あんな冷たい目を向けるわけない。

 特になしって叫んだのだって、こんなに人がたくさんいるんだから、私の声だったって分かるわけないよ。

 そ、そうだ。気のせいだよ。

「…………」

 そう思うけど、心臓はバクバクしたままで、私は全然顔を上げられなかった。

「ね、アキくん、珍しく怒ってたね……!」

 ふと、私の後ろの人たちがアキのリスナーなのか、興奮したように話す声が背中から聞こえてきた。

「だね……! ああいう、メンバーをバカにしたイジリアキくんは許せないんだろうね」
「まじ、メンバー想いの聖人!! 私も不快だったから変な流れ断ち切ってくれて良かった~!」
「ほんとそれ! やっぱアキくん、推せるよね……!!」
「うんうん!! 人として素敵!! 大尊敬!!!」
「いや、あんたは顔が好きなんでしょ!?」
「いやいやいや、違いますよ、人間性がね……!」
「嘘つけ!! あんた、部屋中ポスターだらけじゃん!!!」
「ちょ、それはーーー!!!」

 アキリス達は、楽しそうに話している。

「……」

 (聖……人……???)

 私は漠然とした違和感を覚えた。

 アキのさっきのは……そんな顔だっただろうか?  とてもじゃないけど、そうは見えなかった。

 聖人なんていう綺麗なものじゃ絶対なくて──もっと、一瞬で首を絞められたみたいな。
 体を捻り潰されたみたいな、そういう圧のある、ドロドロした恐ろしい視線だった。

 (……。……周りがビビってないってことは、やっぱり私の気のせいだったのかな……)

 あの目を見ていれば、こんなふうにキャッキャと沸いていないだろう。

「……」

 うん……私の見間違いに違いない。目が合ったっていうのも、オタク特有の思い込みだ。
 実際、ステージにいるスターたちは、私たち一般人のことなんて全然見てないに決まってるんだから……。

「…………」
「冬実ちゃん、大丈夫……?」
「あっ、う、うん……! 大丈夫……!! ぼうっとしてた、ごめんね……!」
「そっか……」

 自分の勘違いだと分かってホッとした私は、ようやく顔を上げ、続きのステージを楽しむことにした。
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