幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第3章

129 モモとアオ《後編》

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「しゅーかはねぇ……。みんなのこと好きだけど、誰のことも好きじゃないんだと思う」
「……??」

 『好きだけど、好きじゃない』……?

 (なんだ……? なぞなぞ??)

 難しい。

「……なにその顔」

 俺の渋い顔に笑って、桃星は説明してくれた。

「簡単に言うと……すごく平等なんだよ。誰にも肩入れしてないからこその、博愛主義なんじゃないかな。高校の時も今とそう変わらない。本当、みんなに優しかったよ」
「あ……! それは、小中の時もそうだった!!」
「でしょっ? とくに……アオと僕みたいな人間はさ。身内にしか優しくないタイプじゃん。でもしゅーかは違くて、全員を気にかけてるよね? どんな人にだって、態度を変えずに」
「うんっっ」
「……それは、すごく良いことなんだと思うけどさ……」

 俺が大きく頷くと、桃星は長いまつ毛を伏せて言った。

「しゅーか自身が、どんどんすり減っていくような気がしない……? 僕の考えすぎかな。あんぱんのヒーローが、自分の顔をちぎって渡すのみたいな感じ……。しゅーかは、いつだって人に分け与えてるから」

 桃星が眉を寄せ、目を閉じた。

「だから……しゅーかがみんなのことを考えている分、僕がしゅーかのことを大事にしたかったんだよ。しゅーかはいつだって自分を蔑ろにするんだもん。自分のことより、人のこと……、僕と、初めて会った時だってそうだったよ」
「! 初めて会った時……?」

 俺は、瞬きして続きを待つ。

 桃星は昔を思い出すような顔で語ってくれた。

「そう。初めて会った時。しゅーかが僕のことを痴漢から助けてくれて、これから毎朝一緒に登校しようって、そう提案してくれたんだ」
「……! そ、そうなのか……」
「うん。しかも、同じ学校とはいえ、入学してすぐだったから、初対面で話したこともなかったのに。親切すぎるでしょ? さすがに、最初は怪しいと思ったし、警戒したよ。なんで? また、僕の顔とか実家のお金とかSNSのバズ狙い系の子かな? と思ったよ。でも、一緒にいるようになってすぐに分かった。しゅーかはみんなにそうなんだって。みんなに優しくて……人気者になりたいのかと思えば、そうじゃないの。むしろ、優しくした人に好かれると困った顔をする。見返りなんて、ちっとも求めてない」
「……」
「それに、僕のことを特別扱いしたりしない。僕って、こんなに可愛いのに。不思議だよねぇ。しゅーかは、他の奴とは違うんだ。いくら僕がベタベタしても、ちっとも意識しないからね。僕のことを普通の男友達として接してくれた。僕は……しゅーかの、そういうところが好きだな」

 桃星は微笑み、俺に視線を向けてきた。

「僕を人間として尊重してくれるから、僕もしゅーかを人間として尊重する。そういう関係が居心地よくて……」
「……!」

 (……人間として、尊重…………)

 俺は、果たしてできていただろうか。桃星に対して、そんなふうに接せられていただろうか。

「……っ」

 自分が恥ずかしくて目を逸らしたくなったけど、なんとか耐え、俺は桃星を見返した。

「……それから、僕がしゅーかを追いかけて、常に隣にいるようになったんだ」
「……うん……」
「しゅーかは何も、言わなかった。みんなと仲良いのに、ずっと一緒にいるのは僕くらいだったかも……。僕は、すっごく鼻が高かったよ。この学校の中で唯一僕だけが、しゅーかに気に入られたんだって思った。ふふ」

 苦笑した桃星は、小さな手で薄い掛け布団を掴んだ。どこか弱々しい仕草だった。

「けど……実際のところ、多分違ったんだね。僕だけが隣にいられたのは、自信を持ってズカズカしゅーかの側に寄れるのが、僕くらいだけだったからかな? 普通の子は、おじけづくから。しゅーかの隣にいると、何もかもを比べられちゃうもんね」
「…………」

 心当たりがありすぎる。確かに、桃星なら容姿もスキルも秋風と大体釣り合っているから、比較されてもダメージがないだろう。
 対して俺みたいなモブは、秋風のそばにいるだけで劣等感が刺激されて辛いのだ。

「……そういや番犬も、僕のことを羨ましがってたっけなぁ……」

 ふと、桃星がよく分からないことを口にした。

「ば、番犬……?」
「ん? あー……。えーと……、あ、そうだ。本田……? って奴。小中一緒だったらしいから、アオも知ってるんじゃない?」
「あ……っ!! 知ってる!!」
「ね。その番犬が、高校の時に言ってたよ。しゅーかが誰かを隣に置くのは僕が初めてだって。小中の頃同情して構ってあげてた奴は一人いたけど……って。もしかしたらそれがアオのことだったのかな?」
「……!!」

 (同情……)

 ──『あいつはお前に、同情してたんだよ。可哀想なやつを放っておけない、面倒見の良いところがあるから』

 高校二年生の時、秋風の学校に行ったことを思い出してしまった。校門にへばりついていた完全不審者の俺の肩を掴んだのが、本田だ。

 ──『お前の面倒を見る必要がなくなって、今は楽しそうだ。これ以上あいつに迷惑をかけるな』

「……っ」
「? どうしたの? アオ」
「……俺、一回……秋風とモモの高校に行ったんだ。実は」
「え……?」
「そしたら、その……本田に、色々言われて。最終的にここには来るなって言って、追い返されちゃって……」
「! へえ……? そうだったんだ?」

 桃星は元々大きい瞳をさらに大きくし、びっくりしている。しかしすぐに納得したように肩をすくめた。

「まあ……気にしなくて良いよ。あいつ、どうせ、アオのことも羨ましく思っていたんでしょ」
「? 羨ましい……?」
「その他大勢の一人じゃなくて、しゅーかに特別扱いされてる……ように見える僕や、アオのことが羨ましかったんじゃない?」
「な、なるほど……?」

 俺が桃星に対して思っていたのと同じようなことを、本田も俺に思っていたということだろうか。

「はーあ。しゅーかってほんっっと、罪な男だよね」

 桃星はまたため息をつき、疲れたように呟いた。

「番犬といい、信者みたいなのが多すぎてさぁ~~」
「えっっっ……お前が言うか!?」
「はぁ……??」

 思わずツッコんでしまったから、ギロッと鋭い視線が飛んできた。

「っっい、いや……その……信者って言うなら、モモが一番信者なんじゃ……」
「うっさい!!」
「っっひぇ……ッ」
「……」

 桃星は口を尖らせ、拗ねた顔で俺に反論した。

「だって……仕方ないじゃん……」
「な、なにが……?」
「だから~、しゅーかって、なーんでも受け止めてくれるし、聞いてくれるし、好みも意見も何もかもこっちに合わせてくれるでしょー? 気遣いも凄くて、こっちがなんにも言わなくても、目線だけで察してくれるもん。今何飲みたい気分とかちょっと疲れてるとか全部声に出して言わなくても気づいてくれるでしょ?」
「!! う、うん……! 気づいてくれる……!」

 俺だけじゃなかったんだ。やっぱり。

「ね。ああいうのやられるとさ、あれ、僕たち阿吽の呼吸!? 相性かなり良いのかな?? 僕は、しゅーかにとって唯一無二の存在……!? とかすっごい勝手に思っちゃうよねっ。でも、しゅーかと関わる全員がこれ思ってるんだろうね……!」

 可笑しそうに吹き出した桃星が、シーツをパタパタと叩く。

「ふっ……全員が思うってことは……、……ただの勘違いだよね……」

 桃星が急にトーンダウンし、ごろんと寝返りを打ってうつ伏せになってしまった。

「しゅーかにとっては、呼吸と同じ……、当たり前の振る舞いなのに。相手側が何か特別な意味をみいだそうとするのは……滑稽すぎる」

 桃星は完全に枕に顔を埋めてしまい、俺に話しているのか、枕に話しているのか分からない。

 誰かに話しているというよりも、独り言に近いのかもしれない。

「……依存性のある甘やかし方してくるくせに、いつも俯瞰的で、絶対自分の心の一定距離には入らせないとこもなぁ。罪だよ、ほんと。何を考えているのか、本心がいまいち掴めない……。そういうミステリアスなところも、もっと知りたいっていつもどうしようもなくなったし……」
「……も……モモ…………」
「…………まあ、何を考えているのか教えてもらった結果? まさかの、アオに恋してたっていう驚きのオチだったんだけどねっ!??」
「っ!! ご、ごめん……! 秋風の輝かしいイメージを俺が暴落させて……」

 俺が謝ったら、桃星は枕からそっと顔を上げた。

「はぁ……? 謝んないでよ。別に、良いんだよ。僕は。色々ショックではあったけど、本当はそれ以上にホッとしたし、すごく嬉しかったりもするんだから」

 (え……!? 嬉しい……??)

 何が嬉しいんだろう。俺は首を傾げ、「なんで?」と聞いた。
 桃星は枕に視線を落とし、ぽつぽつと言った。

「あのね……。しゅーかには……たぶん、無いんだと思ってたんだ。行きたいところも、見たい景色も、立ちたい舞台も、浴びたい脚光も、買いたい物も、何ひとつ……。人に与えてばかりの、無欲な人だから」
「あ…………」
「……でも……しゅーかにも、あったんだね。欲しいものが。僕は、嬉しいよ。良かったって、心の底から……そう思う」

 (秋風の、欲しいもの……)

 それが、俺だって言うのだろうか。

 (本当に……?)

 俺は、そんな価値のあるものに思えない。秋風はどうして、こんな俺を好きになってくれたんだろう。

「……」

 考え込んでいたら、桃星がちょいちょいと手招きしてきた。

「……ねぇ、こっちに来て。アオ」
「……、!! う、うん……」

 俺は腰を浮かし、桃星が伏せているベッドの端に恐る恐る座った。

 すると、桃星が俺の手に自分の手を重ね、こっちを見上げてきた。

「僕はね──」
「……!!」

 急な人肌に思わずびっくりして手を引きそうになってしまったけど、桃星の真剣な表情を見て止めた。

 桃星はとても硬い声色で、俺の目を見つめて、言った。

「僕は……しゅーかが望むものならなんでもあげたいと思うんだ」
「……っ!!」

 桃星の手に力が入っている気がして、俺は唾を飲み込んだ。

 その先の言葉が、容易に想像できる……。

「……」

 けれど──桃星は俺の考えとは全く逆の言葉を口にした。

「でも……アオに、しゅーかの為に犠牲になれ、付き合え、恋人になってあげろとは僕は言えないよ」
「……え……」

 てっきり、そう言われると思っていた俺は間抜けに口を半開きにさせたまま瞬きした。

「僕はしゅーかのことが大事だけど……。恋愛っていうのは、両方の気持ちが尊重されるべきだから。僕がしゅーかの為に無理矢理、アオの気持ちをどうこう後押しするのは良くないと思う」

 意外なことを言った桃星が、更に予想外の言葉を続けた。

「それに、しゅーか自身も望んでないんだよ。アオと結ばれることは」
「え……?」
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