幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第3章

130 桃星となお《前編》

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 桃星は暗い顔をしたまま、秋風のことを俺に説明してくれた。

「しゅーか……電話で聞いたとき、もう、完全に諦めてる様子だったから。二人の仲を取り持ってくれとは全く頼まれなかったよ。しゅーかは、アオみたいなノンケに自分が選ばれることはワンチャンもないと思ってるんじゃない? ただ、頼まれたのは……『自分が辞めた後、波青のことをお願い』って。アオに、優しくしてあげて欲しいって」
「……!!」

 (そ……そんなことを、頼んでたのか……?)

 秋風は俺とどうなりたいとか、特に願望はないのかもしれない。自分がいなくなる前提で、その後のことを、他の人に任せている。

 ならなんで……無理やりキスをしてこようとしたんだろう。

「アオは、しゅーかに告白されて……なんて答えたの? しゅーかはそれについてはなんにも言ってなかったんだ。付き合うことになったならそう教えてくれるだろうから、良い返事はもらえなかったんだろうなとは予想ついたけどね……」
「……俺は……」

 桃星に聞かれて、俺は一昨日秋風の家に行った時のことを思い出した。
 秋風に迫られて、自分が何をしたのかを。

 ──『や、やめろ……ッッ!!!!』

「っ……、その。びっくりして……逃げちゃったんだ。返事……みたいのはできてない。…………いや……、」

 違う。逃げただけじゃない。俺は──。

「秋風に、お前おかしいよって言っちゃった。俺……」
「……!!!」

 セックスとか、露骨な単語を出されて、無理やりキスされそうになって、わけがわからなくなってしまった。
 でも……このことを軽々しく人に話すのは秋風に申し訳ないから、詳しくは話さない方がいい。夕陽さんにも隠したし、桃星にも……。

「……ッしゅーか…………」

 俺の言葉を聞いた桃星が、顔を歪めて俺から手を離し、その手をベッドについた。

「……!!」

 桃星は、上半身を起こしたかと思えば、自分の額からベリッと思い切り冷却シートを剥がし、床に投げ捨ててしまった。

「しゅーかっ! きっと、傷ついてる……! 僕らがこうして話している間にも。しゅーかは傷ついてるままなんだ……」
「……!!」
「僕、謝らないと……今までのこと。しゅーかの側にいないとッ。こんな、寝込んでる場合じゃな──」

 動転した表情でそう言った桃星が、立ちあがろうとして──しかし寸前で膝がガクンと曲がり、ベッドに顔面から突っ伏してしまった。

「ぴぎゃあっ……!!」
「──おっ……おいおいおい!! 大丈夫か……!? 無理すんなモモっっ!!」
「……っ~~~……この、繊細で可憐な身体が憎い……。僕が可愛すぎるせいで…………」
「……? かわいいとか関係ないだろ。それよりお前、細すぎるんだよ。心配になる……」
「アオに言われたくないよ。この、引きこもり顔色悪もやしっ子ッ……!」
「うっっ……!」

 あまりに刺さる指摘にダメージを受けながらも、俺は桃星の体を支えて元の位置に戻した。

「お、俺、新しいのもらってくる……!」

 桃星をしっかり寝かせて布団をかけた後、執事さんに替えの冷却シートをもらいに行った。

 部屋を出てすぐのところで待機してくれていたので、スムーズに貰うことができた。

「──お待たせ! モモ、大丈夫か……!?」
「……! ありがと」
「いや……! 安静にな」
「……うん……」

 貰ってきた新しい冷却シートを桃星の額に貼り終え、俺は再び椅子の上に座った。

「……」

 静かになった部屋の中、俺は自分の頬を両側から勢いよく叩いた。
 ばしっと、乾いた音が鳴った。

「!? へっ……っ。ちょ、アオ、なにやって──」
「俺……っ俺も、秋風に会いに行かなきゃ」
「……!」
「謝りたいこと、聞きたいこと! たくさんある。なんて答えたら良いかは、まだ決まってないけど……。でも……だからって、このまま秋風を放置していいわけない」
「……うん」
「このまま、秋風との関係、終わりたくない……」
「…………」

 俺の顔を無言で見つめていた桃星が、静かに提案してきた。

「……なら……、一緒に会いに行く……?」
「え……?」

 桃星は、「さっきも言ったけど、返事に関してはアオの思うままに決めたら良いと思う」と続けて言った。

「しゅーかが僕に気持ちを教えてくれたのは……教えても僕は、アオの背中を無理矢理押したりなんかしないって、僕なら空気を読めるって、信頼をしてくれているんだと思うし……。僕はしゅーかの信頼に、応えたい。だから、アオの気持ちに口を挟んだり、余計なことはしないよ」
「……! う、うん……ありがとう」
「……でも……アオが、しゅーかから逃げ出した手前まだ勇気が出ないだとか、今二人きりになるのが気まずいとかって言うんなら。僕も、一緒に会いに行くことくらいはできるよ」
「……!!!」

 (そ、そっか……。確かに。今、秋風と二人きりになるのは……)

 ──『波青は弱いし、力で俺に勝てない。こんなところで二人きりになったら、どうなるか分かんないよね』

「…………」

 桃星の言うように、それはまだ気まずいし、正直怖い。

 また、ああいうことになったら力のない俺にはどうにもできない。そうなったら、冷静に話なんてできず、同じことの繰り返しだ。

 それに──。

 ──『……こういう目に遭いたくなかったら、もう俺には近づかない方が良いよ。家にも、二度と来ないで』

「……。俺……、実は、秋風に『二度と来ないで』って言われちゃってるんだ。多分一人で家に行っても、もう中にいれてくれないし、追い払われるだけだと思う……」

 かと言って、しばらくごちゃまぜは活動休止で配信もないのだから、家に行かなければ秋風と会える機会がない。
 家じゃなきゃお店に呼び出すかとも思うけど、秋風は有名人だから、こんなナイーブな話を外でして誰かに聞かれでもしたら、大問題だし……。どうしたら良いのだろう。

「そうなんだ……。まあ、僕もしゅーかに『ついてこないで』って言われたからアオと一緒だね。結局、僕ら二人で行ったところで、門前払いかも」
「……そ、そうだよな…………。えっと、じゃあ、一回会って話がしたいってとりあえず秋風に連絡してみるとか……?」
「ん~……。ライン、昨日送ったけど既読がつかないんだよね。しゅーか、見てないんじゃないかな」
「! あ……! そういや俺の弟と妹も、既読つかないって言ってたわ…………」

 桃星も双子もダメなんじゃ、俺も絶対連絡拒否されていそうだ。というか、秋風が今一番話したくない存在は確実に俺だろう。
 俺がこんな状況でメールや電話をしてみたところで、出てくれるわけがない。

「……」

 (……うーん……。やっぱり、ダメ元で突撃しかないかな……)

 前もって連絡したら無視かお断りだろうけど……、急に家の前まで行ってみたら?

 そしたら、さすがに秋風も折れるかもしれない。

 一昨日、渋々俺を家にあげてくれた時のように。秋風は押しに弱いから。もしかしたら──。

「門前払いだとしても、俺、やっぱ秋風のとこ行ってみる……! やってみないと、なにも分からないから」
「……!」
「モモも……一緒に行ってくれるか?」

 俺が顔を上げて聞くと、きょとんとしていた桃星がふっと笑った。

「……ん。いいよ」
「!! ありがとう……! けど、無理はしてほしくないし、今日はやめとこうな」
「そうだね。日を改めよう。僕もさっきは思わず勢い余って今すぐ行こうとしちゃったけどさ、よく考えたら今しゅーかは撮影でお家にいないからね……」
「……え……?」

 桃星の言葉に、俺は首を傾げた。

「お前、なんでそんなこと……。秋風のスケジュール知ってんのか……?」
「ん? 知ってるよ」

 桃星はあっけらんと答えた。

「僕、しゅーか専属のマネと仲良いもん。全部教えてもらってるよーーん」

 (じょ……情報漏洩!!?)

 ごちゃまぜのマネージャーとは別に、秋風個人の芸能活動を担当しているマネージャーが居ることは俺も知っている。ただ、その人とは話したことすらない。桃星は、どうやって繋がったんだ。

 さすが桃星と言うべきか……、っいや、さすがじゃないっ。ダメだろ!

「モモ、ダメだろそれ!! 秋風のプライバシー……!!」
「え~~。同じグループのメンバーだから別に良いでしょっっ」
「……えぇ……。良いのか……??」
「ちなみに、しゅーかが夕方に仕事が終わって夜確実にお家にいる日は、三日後だね。明日と明後日は夜もスケジュールが入ってるから」
「な、なるほど……」

 桃星は俺の注意を気にしたそぶりもなく、パンパンと手を叩いて決めた。

「──じゃ、三日後の夜っ。しゅーかの家の最寄り駅で集合して、決行ね! それまでに僕、体をしっかり休めて回復しておくから」
「……」

 若干、本当に良いのかという気もしなくもないけど……でも、こんなチャンスはもうない。
 桃星も一緒なら、俺も安心だ。

 俺はゆっくりと大きく頷いた。

「分かった。よろしくな、モモ」
「うん! ……あ」

 桃星は自分のおでこをつんつんしながら、質問してきた。

「それまでに何かまだ、僕に聞いておきたいことはある? ないなら良いけど。今しかないよ」
「……! はっ……! そうだ」

 俺はまだ桃星に聞いておきたいことがあったのを思い出し、前のめりになった。

「一個、ある! えっと、これは……噂話でも聞いたし、秋風本人も認めてたことなんだけど……」
「? うん」
「秋風、高校の時……彼女いっぱい居たって本当か? 女遊びが激しかったって……」
「……」

 桃星は眉をひそめ、気まずそうに肯定した。

「ああ……。そうだね。うん……。女遊びって言い方は好きじゃないけど、どの子とも長く続かなかったのは確かに本当のことだね」
「……!!」

 (……やっぱり、そうなのか……)

 事実だった衝撃に肩を落とした俺の前で、桃星はぶつぶつと呟いた。

「しゅーか、入学したての頃は興味なさそうだったのに、ある時から急に告白を受けるようになったね。今思えば、どうしてなんだろう……? その時は、優しすぎてもう断るのに疲れたのかな、みんなが諦められるように思い出作りで一瞬だけ遊んであげてるのかな、しゅーかは……って、僕は解釈してたけど」
「! そうなんだ……。秋風、自分から告白とかはしてたのか?」
「え? ないない! それは一回も見たことない。しゅーかは誰も追わないし、向こうから来た人の中から付き合っているだけだよ。たぶん小中の頃だってそうだったでしょ?」
「う、うん。そうだった……。本当、週一は誰かしらに告白されてて……」
「だよね。高校でもそうだったよ。男子に告白されてるところも何回か見たけど、全部断っていたっけ……。告白を受けるのは、絶対女子だけだった。だから僕は、しゅーかが自分と一緒で恋愛は異性とじゃないと無理な人だと思っていたんだよ」
「……! え……」

 (男子からは、断ってたのか……)

 なのに、なんで。俺を好きだって、言うんだろう。

「……うーん。今思いついた想像だけど……もしかしたらしゅーかは、『男が好き』というより、『アオだけ特別』ってことなのかもしれないね」
「……!!」
「性別にとらわれず、アオが女子でも男子でも、変わらず好きになっていたんじゃない? しゅーかは。容姿や性別よりも中身を大事にしている人だから」
「…………」

 (……中身…………)

 いや……。

 俺の中身が、他の人と比べて優れているとはマジで思えない。かといって、顔も良くないから、顔の好みで選ばれているという気も全くしない。
 男が好きということならまだ分かるけど、男が好きなわけでもないのに──……なんで俺?

「……よ、余計、むずくなった…………」
「はは」

 桃星は苦笑し、伸びをした。

「まあ、時間はまだあるし。ゆっくり考えたら」
「うん……」

 そこで時計を見た俺は、慌てて腰を浮かした。

 まずい。もう、夕方になりそうだ。

「あっ──!! じゃあ、俺そろそろ帰るな! モモ、色々教えてくれてありがとう……!」
「んーん~。気をつけてね」

 体調の悪い桃星を、長々と話に付き合わせてしまった。

 そろそろおいとましなくては、執事さん達も心配してしまうだろう。

「それじゃ、お邪魔しま──あッ……」

 よいしょとリュックを背負った俺は、なんかいつもよりこれ重いな……と思って、持ってきていたものの存在を思い出した。危ない。忘れていた。

「そだ……! これ、差し入れ持ってきてたんだった!!」
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