幼馴染のリスナーに媚びて人気者になりたい

久羽しん

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第3章

132 月に問う気持ち《後編》

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 結局、配信後の夕陽さんに電話をかけ、俺は自分の口でもう一度頼みこんだ。秋風を呼び出して欲しいと。

 すると、迷っていた夕陽さんも、『うーん……。確かに、ずっとこのままってわけにもいかないよねぇ。話し合いの場は必要だし、それがしゅーちゃんの為にもなるなら……』と了承してくれた。
 人を騙すことが苦手そうな夕陽さんに無理をさせてしまい申し訳ないけど、こうでもしないと秋風と会えそうにないのも確かだ。

 痴情のもつれ発言については、夕陽さんは黒さんの冗談だと受け取ったらしい。電話してもそこは特に深掘りされず、ホッとした。

 黒さんが、『繊細太陽くんはそっち方面に関してはかなり鈍いから、あの程度なら問題ねーだろうな』と言っていたが、その通りだった。

 でも、これは夕陽さんが特別察しが悪いというわけではないんだと思う。
 よりにもよって秋風が……、お……俺を好き……、……なんてこと、普通は絶対頭に浮かばない……。誰だって、あり得ないって思うから、夕陽さんが想像もしなくて当然だ。

 そして──次の日の夜。

 【なおちゃん! しゅーちゃんと連絡ついたよ~。九月二十二日のお昼、一二時にごちゃハウスに来てもらうことになった! 話し合い、頑張ってねっ。お兄さんより】

「……!!!」

 待っていた夕陽さんからのメッセージが来て、俺はガバッとベッドから飛び起きた。

 (二十二日……)

 思ったより、遠くない。大体あと二週間後だ。

「……」

 急にソワソワしてきた俺は、ベッドから飛び降り、自分の部屋の窓を開けた。

「……っ」

 涼しい夜風が窓から入り込み、髪を後ろに流していく。

 片目をすがめながら夜空を見上げると、まんまるの月が煌々と光っていた。

 どんなに多くの星たちに囲まれても輝きが失せない、一際大きくて、一際綺麗なもの──。

 形こそ違えど、その輝きは秋風と二人で遊んだ日に屋上庭園から眺めた月とおんなじだった。

「……」

 あの時秋風は、月じゃなくて、こっちを見ていた。俺を……見ていた。

 ──『波青は、月より綺麗だよ』

「…………っ」

 (……本気、だったってことだよな…………)

 あの時の秋風の表情を思い出すと、なんだか心臓がはやる。すごく、苦しそうな顔だった。無理して言ってるからとあの時は思っていたけど──きっと、そうじゃなかったのだ。

「……秋風……」

 ──『襲うフリをしてきたんなら、それは十中八九お前を自分自身から遠ざけたい、怖がらせる目的だろ?』

 黒さんの言葉が脳裏に浮かんできて、俺は月を見つめたまま唇を噛んだ。

 (お前は俺を……遠ざけたかったのか?)

 ──『無気力ピエロくんのことだから、もう言うしかないっていうギリギリの状況になったんなら、こう思うだろうな。『どうせ言わなきゃいけないのならもう、同情されないように完膚なきまでに嫌われよう……』、てな感じ』

 俺が秋風を、同情で受け入れないように……?

 俺が、のんきにお前のことを忘れて。何も気にせず、女の子と付き合えるように……?

 ──『波青のことを、女の子にするみたいに組み敷いて、妄想の中でセックスをしてるってこと』

 ──『波青は弱いし、力で俺に勝てない。こんなところで二人きりになったら、どうなるか分かんないよね』

 (俺に、嫌われようって……。わざと、あんなこと言ったのか? 怖い、演技……して。結局、無抵抗に俺に突き飛ばされて…………)

「全部……、俺のためだったのか……?」

 秋風のことを考えると、剥き出しの心臓が手でぎゅっと掴まれたみたいに痛む。

 その痛みは、ズキズキと、俺をずっと苛んでいる。

 ──『そしたらあいつ、こう言うわけ。『一緒にゲームして……なおの楽しそうな姿を見て……それから、俺の作ったご飯を食べてもらって……そ、それで、美味しいって嬉しそうな姿を見て……』……、ッくっ……やべー』

「秋風は、俺を喜ばせることばっかり望んで……」

 ──『そんで、風呂は泡風呂にして喜んでもらうんだってさ。『泡風呂にして喜んでもらって……それからベッド行ってヤんの?』って聞いたらな、あいつはふるふる首振って。……『え……? 可哀想だから、そんなこと絶対しない……!』だとさ』

「じゃあ……秋風は? お前自身は……どうなるんだよ」

 ──『『ベッドに行ったら……た、ただ、なおと、手を繋いで眠る……あとできたら、っ…………い、一回だけ、ハグも…………』とか、恥ずかしそうに言うわけよ』

「………………」

 俺を襲うなんて、ちっとも考えてなかった。

 秋風のピュアな願望を思い出すだけで、息が苦しくなる。

 なんて可愛いんだと、愛おしい奴なんだと思ってしまった。

 秋風は、男なのに……。

 同性に対して、こんなふうに可愛いって気持ちが生まれるなんて、思ってもいなかった。

 でも……秋風はずっと可愛い。今までも、いつもそうだった。

「なぁ、秋風……」

 俺は目に溢れる涙を無視して、真っ黒の空に浮かぶ金色の月に、心の中で話しかけた。

 (なぁ、知ってる?)

 俺ね、最近、毎日毎日お前のことばかり考えてるんだよ。

 お前のことで、頭がいっぱいなんだ。
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