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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、26)
しおりを挟む邪悪の化身『巨眼蛇』、もっぱら邪蛇とよばれている。
本性は女であるらしいがときに女の執念ほど恐ろしいものはない。今も邪蛇は神のすまう神殿の前の巨木にまきついているといわれ、虚海をこえて神殿へやってきた者の魂を餌とし、そのために無事に虚海からかえってきた者はいないとか。冒険者のなかでは比較的よく知られた話しである。
しかしながらなぜこんな場所で邪蛇が祠られているのか?
「………う~ん………」
矯めつ眇めつ邪蛇の神像をみつめる。
結論はいますぐだすべきではないようだ。これには裏がある。推測の域なら二つ三つは弾き出された。しかしまだそれを決定づける証拠や要素にかけていた。
「ティアヌ?」
セイラがティアヌの顔をのぞきこんできた。間近でみたセイラの唇はぷるんぷるんとしてまるでプリンのよう。もしティアヌが男ならおもわずチュー★したくなるようなみずみずしさ。
これが大人の女性の魅力……。
セルティガの気持ちもわからなくもない。
「ぇ? あ、うん」
「どうしたの?」
死んでもみとれていました、なんて口が裂けてもいいたくない。
「まだ推測段階だから……とりあえず逃げ延びたっていう女を探して話しを聞かせてもらいましょうか」
「そうねぇ~」
セイラは聡い人だから言葉の意味をすぐに理解したようだ。
「ほら、行くわよ!」
ティアヌは船員に声をかけるも誰ひとりとしてティアヌの声に耳をかさない。
船員にしてみればそれどころではないのだ。踊り子のお姉さん方が船員たちの前で腰をクネクネとさせてウインクして誘っていたからだ。
誘うといってもお捻(ひね)り。チップをねだって大サービスしているのだ。
これには怒り心頭。
「こぅらぁーーーッ!」
すると辺りにいた他の船員たちもこちらをふりかえった。
「マディソン号の船員たち、こちらを注目!」
こうなれば船長の威厳もかたなしだ。船員は嫌々こちらを注目する。
「役割分担を忘れているんじゃない? 食料の調達、水の補給。忘れているようなら思い出させてさしあげるけど?」
すると船員の顔つきがかわった。もしや昨日の一件でティアヌが禁断の魔道士とよばれる凄腕の魔道士だと誰かが小耳にはさんだのかもしれない。
船員の震え上がり方ときたらまるで化け物でもみるようだ。
失礼な!
次々と蜘蛛の子を蹴散らしたかのように雑踏にまぎれていく。
そんななか、まだ踊り子に釘付けのアイツがいた。
さも俺はスケベじゃありません、といわんばかりにもったいぶって腕組みをし、むっつりと頬を紅色にそめている。
「ちょっと、そこのお兄さん」
背後から声をかけてみるとチラリともふりかえらない。
「何だ? 話しならあとにしてくれないか。ウッヒャーーッ!スゲェ★」
すかさずセルティガは懐から財布をとりだし、頬を赤らめながらお姉さんのガーターベルトへ紙幣を数枚さしこんだ。するとお姉さんはセルティガの頬に唇をよせる。
「僕ちゃん、ありがと☆」
いぇ……そんな~、などとしどろもどろに言葉をにごす。
十九歳の若者にはお姉さまの魅力は絶大だ。
「ね、セルティガはず~とこの街にいたいのね?」
「こんないい街なら一生いてもいいかもな」
「へぇ~、その願いを叶えてあげてもいいわ」
この時やっとセルティガはティアヌをふりかえった。
「え?」
この時の間抜けなアホヅラをティアヌは一生忘れられないかもしれない。
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