魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第1章 禁断の魔道士

魔道竜(第1章、27)

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「マディソン号の船長として、あなたを解雇します。それにともない契約金を全額返還してもらいますからそのつもりで」



「なッ!?」



セルティガはあんぐりと口を開け放ち、パクパクとさせ顎がはずれたように開いた口がふさがらないようだ。



今まさにセルティガの頭の中をティアヌの台詞がかけめぐっているのにちがいない。



「当たり前よね? 昨日だって水怪獣のときもな~んにもしてないし」



「火竜玉で船を守ろうと必死にはたらいたじゃないか!お前の目は節穴か? それにこれからが腕の見せ所。俺の真価を問われるのは今じゃない、これからの俺をみてくれ」



やる気だけは一応あるのよね……。本人がここまで言っているのに一方的な解雇もへったくれもない。



「仕方がないわね、ラストチャンスをあげる。それで汚名を返上すること。今後のはたらきによって挽回の余地がまったくないわけじゃないしね」



「よし!決まったな。善は急げ」



そう告げてから後ろをふりかえる。



「だが……少しだけ待ってくれないか?」



名残惜しそうにチラリと踊り子に目をやる。



「解雇されたい?」



セルティガは顔つきをあらため襟をただした。



「その挽回の余地とは?」



さすがに変わり身が早い。世渡り上手ともいうべきか。



「セルティガには私たちのボディガードとしてついてきてもらいたいの。だってうら若き薄幸の美女ともなるといつ襲われるともかぎらないし」



するとセルティガは聞こえよがしに、「誰が薄幸の美女だって?どこにいるんだ? 金をつまれ拝みたおされたってこんなじゃじゃ馬、俺なら絶対襲わねぇ」



と呟いてから、「ぁ…でも待てよ、それはそれでじゃじゃ馬慣らしもおもしろそうだ」



何か妙案でもおもいついたかのように手の平をうつ。



「全部まる聞こえよ」



誰がじゃじゃ馬だ。



「ぇ? 俺ってば声に出してた?」



まことに嫌な事に、この口の悪さも免疫がついてきた。



「でなきゃ私はさしずめテレパシー能力者ってところね。それで、行くの、行かないの?」



「……行かさせて下さい」



「それなら行くわよ」



セルティガはれいのごとくブツブツとぼやいているがこちらの方がぼやきたいところである。



お人好しって損だ。すべてに対してどこかで妥協しなければならない。良くいえば人情味にあふれ、悪くいえば人に流されやすい。これがティアヌ最大の欠点であり、これ以上ないほどの美点といったところか。



「まだ着かないのか?」



「あのね~~」



ティアヌは歩調をはやめる。



言いいえぬ気配を感じとったからだ。



大通りをはずれわき道にはいる。すると街の印象が様変わりした。



「この街……ある意味すごいわ」



大通りが不自然なまでに田舎くさいのに対し、わき道へ一歩足を踏みいれればまるで異世界に迷いこんだかのよう。



ティアヌの額にうっすらと湿り気をおびる。



「どうやらおかしな宗教が流行っているようね」



これはただ事ではない。



まるで道祖神を祠るようにして街のいたるところに木に巻き付いた蛇の像が祠られている。しかもカーニバルの日のためか石像に麗々しい派手な彩色までほどこされている。



これはいったい……。



「…………」



まさか、ね。そんなことが実際にあるはずが……。



「ティアヌ……神に仕えるこの女僧スタイル、なんだか場違いすぎない?」



「なに言ってんだ、場違いもいいトコじゃないか。これって…………モゴモゴ!?」



ティアヌはセルティガの口を封じにかかる。



「何をするんだ! 窒息するぞ!!」



「大声ださないでよ!壁に耳あり障子に目ありってね。用心するにこしたことはない。それにあんまり命をソマツにするもんじゃないわ。もし捨てたいってなら止めないわ、心置きなく一人で捨てて。まだ私にはやらなければならない事があるんだから巻き込まないでよね。そこまで船長だからって付き合いきれないから、悪しからず!」



「なっ……」



セルティガは絶句した。口で敗北をなめたのはこれがはじめてだ。なんて女だ。


魔道士としても一流、面倒見もよく意外と気配りも行き届いて口も達者、達者じゃないところがコイツにあるのか?




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