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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、28)
しおりを挟む「先輩にむかってなんて口のきき方をしやがる」
「あら~? 海の上では私が法律だってことを忘れているみたいね。そういえば私…前々から魚に餌をあげてみたかったのよ~栄養満点のいい生き餌だわ………サメの」
じっとりとセルティガをみすえる。
「真顔でこっちを見るな!……ったく悪い冗談だ」
「冗談で言っているように見えるのなら腕のいい目医者か霊媒士(シャーマン)を紹介するわ」
「この俺を脅しているのか?」
「いいえ、別に。そういうわけじゃないけど、ねぇ~セイラ」
セイラも一物ためていたのか打てば響くかのようにチクリと物申す。
「たしかにねぇ~。でもろくに呪文を唱えられない魔剣士なんてタダの剣士じゃなぁい?」
するとセルティガの顔つきがかわった。
「呪文を一つでも使えればそれだけで立派な魔剣士だ!! 誰がなんと言おうと」
「あっそ。これも見解の相違ってところかしら。でも一つしか使えない呪文がタダの火の玉とは……ホント使えないわよね」
「余計なお世話だ! お前に使えないなんて言われる筋合いはない」
「それって魔剣士として致命的じゃない。戦いを有利に運ぶうえでも最低二・三個は使えないと」
「たしかに俺は呪文は一つしか使えない。だがこれだけは言っておく。剣の腕前だけは誰にも負けない自信がある」
「やっぱりタダの剣士、決定ね」
「違う! 俺は魔剣士だ!!」
魔剣士、そこにセルティガなりのこだわりがあるのか肩書きのないごくありきたりな剣士という言葉そのものに、何かしら彼なりに思うところがあるのかもしれない。
大抵どんな魔道士でも最低二つ三つ呪文はあつかえるもの。そのなかでセルティガはただ一つ。それも昨日見た限り威力のほどは期待できない。せいぜい小火(ぼや)程度、家一件一瞬にして消炭にするにはいたらない。
普段の姿からは想像しがたいが、おそらくセルティガは血反吐を吐くほどの努力をかさね火の玉の呪文、火竜玉を会得したのかもしれない。
魔法を使える人と使えない人、二種類の人にわけられる。そのなかでも魔法を使えない人はどんな努力と犠牲をはらっても永遠に使えないとか。
しかしセルティガも魔道士学校に入学できたのならばその適性は少なからず認められていたはずだ。
魔道士学校へ入学するには必ず適性検査が義務付けられている。
なんといっても魔道士は誰もがうらやむ花形の職業。その適性検査を国民は一生に一度は必ずうけているとされる。
親は我が子こそ禁断の魔道士ではないかと競ってお受験させ、たとえ入学できたとしても卒業にいたるのはほんのひとにぎり。
狭き門を叩き希望に胸をふくらませ、通常課程を習得後、やっと魔道士学校卒業にいたり、その証書を手にしたものだけがエリートとよばれるのである。つまり学校を無事に卒業できないと魔道士として認められないのだ。
だから今のティアヌのように学生という立場では未来のエリート候補と持て囃されるものの正式な魔道士とは認められないのが実情だ。
どんなに優秀で使える魔法の種類が豊富でも卒業できないと高額な学費もすべてが水の泡。約束された未来は手の届かない夢におわる。
すべての学生は裕福な家ばかりではない。ティアヌもふくめ高額な学費を払ってでも証書を手にする価値がたしかにある。
ティアヌは幸いなことに特待生としてあらゆる特権があたえられ、医療費、学生寮費、国家図書館閲覧禁止の本を許可なく閲覧可能などすべて免除の対象とされた。
聞くところによると、歴代の学生のなかでもこれだけ免除され特別待遇をうけたのはティアヌをぬいてただ一人だけだとか。それが禁断の魔道士とよばれた二度目に精霊と条約を結んだ人なのだ。
魔道士学校の歴史はもっとも古く、創立した年もあやふやだ。
ゆえにその二度目に条約が結ばれた年代がいつの頃の話しなのかそれすらも正確につたわっていない。しかも条約を結んだ人物の名も今もって不明として公表されない異常なまでの徹底さ。そのため今世紀最大のミステリーと話題が話題をよぶ。
なにゆえそれらが文献などに記されなかったのか。秘密にしなければならない事情があったとか?
それとも…意図的に残せなかった理由がそこにあるのか?
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