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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、37)
しおりを挟む「イワレ? 私に、ですか?」
「これはあくまで私の仮説なんだけど、たとえば……あなたの結婚を快く思わない、あなたを心から愛する盲目的な男がいたとする」
でもって、とティアヌは続ける。
「男はあなただけをひたむきに愛し、長いこと影ながら見守っていた。
ところがある日、そんなあなたをどこの誰ともしれない他の男に横やりをいれられ、カッさらわれてしまった、とする」
「お前……ここにいたって仮説をもちだすなよ」
「あのね、人の話しは最後まで聞くように。仮説としたのはおおよその犯人像がみえてきたから。そのピースを組み合わせ、それをさらに犯罪心理学と照らし合わせる。でもって一枚のパズルにして犯人を絞り込もうって寸法じゃない」
「な……なるほど」
しきりに首を縦にふるセルティガは、これまたスルーされる。
「犯人像?」
彼女は驚いて目を見開く。
「そう。ところで、誰かにいいよられた、そんな覚えはない?」
「……いいよる? そういえば……ハンス、ハンスじゃないかしら? 二年前に突然姿を消した」
「姿を消した?」
「えぇ」
「二年前、前ぶれもなく…突然?」
こくこくと大きく彼女はうなづく。
この島がおかしくなったとされるのも二年前。ティアヌは見え隠れしだした真実に小さな笑みがこぼれた。
「人づてに聞いた話しでは、ごく近しい友人や親戚、近所の誰にも行き先も告げずに失踪したとか。家の中は家具などすべてが手付かずのまま、ある日ハンスだけが突然いなくなっていたとか」
ハンス(23才・独身)、一人暮らし。近所付き合いは挨拶程度。おおよその独り暮らしの男性はこれぐらいの近所付き合いがあれば、まずまずの好印象。
のちのち人物像を尋ねれば、会えば挨拶してくれますとインタビューに答えてくれるだろう。
だが人が変わったような言動がふえだした失踪するまでの約一年程の彼の評判は、彼女によるとさんざんなようだが。
「そのハンスってどんな人だったの?」
「……そうね……思い出したくもない、そんな感じ?」
彼女は思い出すだに身の毛がよだつらしい。
ティアヌとセイラは両腕をかかえ、わかる、わかる、とうなづく。
女性ならその手の経験は軽度によりけりだとして、少なからず一度はあるはずだ。
「確か写真があったはず。ちょっと待っていて、見てもらった方が手っ取り早いから」
そう言って彼女は寝室の扉のむこうにきえる。
見たくないような、見るには及ばないような、想像だけで人物像が構築されているのでお構い無く、ともいえない。
ほどなくして戻った彼女は一枚の写真をテーブルの上においた。
「な…なるほど…」
一同、テーブルにのりだし、不快げに目を細める。
決して近眼なわけではない。ましてや視力が突如下がったわけでもない。
だがどれだけ目を凝らしてもこれといった特徴のない容姿。どこにでもいる、青年。だからといってそこに爽やかさは1ミリも感じられない。
独特な空気をはなち、それが写真からも駄々もれだ。
「……………」
これが失踪一年前のハンスなる人物。
彼女の言うほどの不快感は当事者にしか理解できないものだとして、抜きにしても確かに目つきだけは常人とはことなった。
一言で言いあらわすと、どこか別の星にでもイッちゃってる?といった感じだ。
その言動も時折り理解しがたいものだったとか。
「おい、何がなるほどなんだ?」
男のセルティガにとって、このいかんともしがたい不快感は理解されにくいのか。
いや、単なるおバカなだけだろう。
もはや女性特有の生理的現象とでも言う他ない不快感を、説明しろ、と無茶ぶりされても言葉で表現するには難しく限界がある。
「…………よかったわね、おバカで。ある意味それは才能よ? 大事にして」
ポン、と隣のセルティガの肩に手をおく。
「バカにされて褒められる? いくら俺でも良い意味あいではないことだけは解る」
セルティガにぶんと手を振り払われた。
「それだけ解れば十分よ」
自分のバカさ加減、それがわかる人とわからない人。
人は必ず報われると信じてそれを努力と表する。
苦労を苦労とせず、どんな困難さえ厭わず。時に空回りしたり。それが滑稽だと嘲笑を浴びようと、それをもろともせず立ち向かおうとする。
きっと彼は間違った頑張り方をしてしまっただけなのかもしれない。
理屈や形のない深くて重い、特別な感情にふりまわされ、突き動かす理解不能な衝動にかられ。
人を愛することは罪ではない。なら、罪ではないもて余した一方的な感情のやり場は何処だ?
機械のようにゴミ箱へ捨て消去、なんてお手軽な恋愛では彼にはなかった。きっと一途で生真面目な青年だったのだろう。
その一途さが彼に過ちを犯させた。
「呪術とはちゃんとした工程をふまないと代価が必要となる。とくに大きな呪いをかけようとすればそれは凄まじい代価を要求されるでしょうね。たとえば……命、自らのすべてを捧げるほどの」
「あのハンスが?」
「黒幕がはっきりしてくるとその店員の不自然なセリフもうなずける。邪蛇の使徒となったモノは生前の姿をたもつことはできないから」
「じゃあ……あれはハンス自身……?」
「そう考えて間違いないでしょうね」
鬱々としてセイラと視線を絡めると、セイラも賛同するように小さく頷いてみせた。
「その拉致された時に見たという邪蛇の神像が島全体に呪いをかけるための媒介、よりしろとなっている可能性が濃厚ね。手っ取り早い話し、その神像を破壊すればこの島の呪いも解けるはずよ」
もちろん、あなたの呪いも、と付け足した。
「おい、ちょっと待て。この島のどこにその聖域への入口があるんだ? 誰も知らないんだろう?」
セルティガにしてはごもっともな発言だった。
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