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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、36)
しおりを挟む「たとえ一枚の紙切れであろうとも、そこにこめられた想いはゆっくり時間をかけ念にかわる。
約一名わかってなさそうなセルティガのためにわかりやすく説明すると、悪意をこめて術式を書けばそれだけで立派な魔道でいうところの呪術になる。
いい例が丑三つ時の丑の刻参りなんかは五寸釘で藁人形を大木に打ち付け憎い相手を呪うってのがあるでしょう?」
「つまり…あれか、呪術を発動させる工程をふまなくても一定の条件さえととのえば呪いは実行される、ってことか?」
「そぅ。珍しくのみこみが早いじゃない」
パチパチと手のひらを打つ。
「お前は先生か?」
「別にいいのよ? ティアヌ大先生と呼んでくれても。むしろ吝かじゃなくてよ」
「お前な……」
ティアヌは貪欲なまでにもさぼりくらうがごとく未知なる知識への探究心が人一倍強い反面、それを誰かにひけらかすかのように人に教えることを好む傾向がある。
いわゆる教え上手なのだ。
誰にでも理解しやすいように噛み砕き、その人がもっともわかりやすい言葉で伝える。
人の興味がそがれる原因をティアヌはよく理解していた。
伝えようとする側の言葉の稚拙さ、あるいはお前には理解できないだろう? という、伝える気概のなさによるものか。
その違いを実感したのは他ならぬセルティガだった。
「授業でもお前ぐらいわかりやすく説明してくれりゃあ、いくら俺でも理解できる。理論がどうだの、脱線しまくってチンプン★カンプンだっつぅの!」
「それは先生によりけりってもんじゃない?」
「たしかにな、それはいえてる」
「ま、珍しく意見が一致した奇跡はさておき、この場合は時間、釘と人形、打ち付ける大木。それらが呪いをおこなう上でのポイントってことになるわね、それと今回の紙切れも同じことがいえるのよ」
「ならばその小瓶は誰かを特定した上で海に流したわけではなく、無標的かつ無作為にこの島の島民全員を狙ったとか? それほどまでに島民に怨みをいだいて?」
「可能性として十分すぎる犯行理由よね」
耐えきれなくなった彼女は、ティアヌの上着をがっちりとわしずかむ。
「それで…邪蛇、邪蛇から逃れるにはどうしたら、どうしたらいいの!?」
ティアヌは不安で押し潰されそうな、白い手を、そっと解きほぐす。
「邪蛇はもっぱら御使いといわれる分身をつかって人をさらうとか。だから妙な店員に尋ねられたと言っていたじゃない?それがその邪蛇の使いの可能性が高いわよね。
ところで、顔とか何か特徴、覚えていることはない?どんな些細なことでもいいの」
するとはげしく女性は首を横にふる。
「そぅ、やっぱり顔まで覚えているわけないわよね……。そんな痕跡をのこすようなお粗末なマネするわけないものね、セルティガ並みのオツムならともかく。もし何か覚えていたなら、それなりの対策のしようもあったでしょうけど」
「ぉーぃ」
と反論の一声があがるも、ティアヌは一瞥もくれない。
「お願い!どうか私を助けて!!なんでもするから」
「方法がまったくないわけじゃないって言ったでしょう?むざむざ邪蛇の好きにさせてなるもんですか!」
「……助けて……くれるの?」
「もちろんよ。初めからそのつもりできたんだし。袖すりあうも他生の縁ていうし、それが旅の醍醐味ってもんじゃない?」
「ありがとう。私は何をすればいいの?」
「そうね……ならばそれを遠ざけるために、まずはじめに禊をおこないましょうか」
「禊?」
「でも禊は呪術を安全におこなうために必要なだけでそれだけで邪蛇に効果があるわけでもない。呪術とは本来、それをかける側にも、かけられた側にも、ひとしくリスクがともなうもの。
もしもリスクを少しでも回避しようと考えるのなら賢明な処置なだけ。でもしないより幾分ましね。
ミスなく無事に回避する呪術をかけたとしてもそれだけでは使者を追い返せない。そこで私の出番ってわけよ」
「あなたの?」
「あなたを狙うのは、れっきとしたイワレがあるのよ、気付いていた?」
怨念とでも言うべきか。
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