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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、42)
しおりを挟む「ただし?」
ティアヌは再び指を鳴した。
するとロープはセルティガの胴体へグルグルと巻き付いた。
「さ、これで準備はOK! 行きましょうか」
セルティガはその言葉の意味を咀嚼するのにおもいのほか時間はようさなかった。
「お、おぃッ?」
みるみるうちにロープの先端が上昇していく。
それに吊られるようにしてセルティガの体が地に足をとどめておくことがかなわない。
「まさか…お前…俺を宙吊りにでもするつもりか?」
「大正解」
「…っざけんな! おぃ、こら…ちょっと待て!!」
「待たない。夕暮れと気持ちのよい風で、その頭(おつむ)を冷やすといいわ」
「待て、話しあおうじゃないか」
「話しあっている時間はないの、行くわよ!」
「オッ、オ? オーーーィーーーーーッーー!?」
夕暮れせまり、黄金色にそまった空にセルティガの絶叫が木霊した。
龍が天へとのぼるがごとくロープを波打たせ、宙吊りのセルティガを山頂へとはこぶ。
それを一瞥したティアヌはにんまりと微苦笑を浮かべずにはいられなかった。
「本当はこんなことに使うために用意したロープじゃないんだけど、我ながらナイスアイディア」
もはやセルティガは失神寸前。白目をむいている。
もしやセルティガって高所恐怖症?
ティアヌはちらりとも宙吊りによるものとは考えもしなかった。
くっそぅ~覚えてろ、そんなセリフが聞こえてきそうではあるが、生憎とセルティガはそれどころではない様子。
気分爽快。爽やかすぎる気持ちに心をはずませつつ苦情にはかたく耳をとざす。
ロープにしがみつくセルティガの必死な形相に今までの鬱憤を晴らした。
隣りの貧乏…鴨の味ってね。人はとかく他人の不幸を喜ぶもの。人にひどいことをしておくとそれが我が身にふりかかるのは因果応報というものだ。
やがて山頂が見え、ティアヌは浮遊術をとく。それと同時にセルティガにかけられた術もとけ、浮遊していたセルティガの体は地に打ち付けられた。
「到着!…ってあれ?なんでそんな所に転がってんの?」
「…っ痛てぇ…」
しこたま尻をうち、セルティガは恨みがましい目をティアヌにむけた。
「お前、俺を殺す気か?」
「殺すつもりならとっくに殺(や)っている」
「血も涙もない奴だな」
「ちょっと人を血のかよっていない冷血人間みたいに言わないでくれる?」
「冷血人間が嫌なら、鬼女だ鬼女」
「失礼な! よじ登るのが嫌だって言うから、わざわざ浮遊術をかけてあげたのに」
「だったら普通に浮遊術をかけてくれりゃあよかったじゃないか!」
「普通にかけたんじゃ面白くないでしょう!」
「面白くする必要がどこにあるんだ?」
確かに。セルティガの言っていることにも一理ある。
……が、しかし。
「日頃の行ないが悪いからそんな扱いをされるんでしょ? 悔い改めるなら今度はちゃんと浮遊術をかけてあげるわ」
セルティガは眉をひそめた。
「………また?」
もう懲り懲りだ、そうありありと告げる瞳はウンザリだとばかりにかたく閉ざされた。
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