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第1章 禁断の魔道士

魔道竜(第1章、43)

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「これから地下におりるの。浮遊術じゃなきゃおりられない場所もあるし、ロープじゃなきゃ進めない所もあるの」



「いやに詳しいな」



「あのね~すべて調べつくしてあるから詳しいに決まっているじゃない」



「なんだ、もともとここに来る予定だったのか」



「そういうこと。この先に何人たりとも足を踏み入れることのできない神の領域への道標が間違いなくあるはずよ」



「神の領域? まさか…あそこに行くつもりなのか?」



「ヘプロスの先にある孤島、神の聖域ポントワトンにね」



「おいおい本気なのか?」



「本気も本気」



そこは聖なる島とよばれるほどの絶海の孤島、しかしその島は幻影の島なのだとか。


ある地点からだけ島が見えたり見えなかったり、一説には精霊界と人間界との時空の接点が合わさった特別なときにだけ島の全容がかいまみれる幻の島なのだそうだ。



あくまで噂なのだが、霧深くいまだ地核変動をくりかえす大変危険な島らしい。


そんな島ゆえ、人間によって棲みかを奪われた今ではとんとお目にかかれない貴重な鳥類が島全体を楽園にかえた。


その島には夫婦に赤子をさずけるコウノトリが生息しているらしい。


この世界では期が熟すとコウノトリが夫婦に赤子を女体に命を宿させる。


寝静まった真夜中、壁をすりぬけ新婚の夫婦のもとをおとずれるコウノトリが目撃されたとの事例もあるのだ。



コウノトリは赤子の魂をはこぶ神の御使いとされ、古くは文献の片隅に小さくコウノトリについて記述がしるされている。



【゛誰も穢すことなかれ、デスマウンテンは精霊と人間界とをつなぐ時空の入口。


聖域へはすべてを焼きつくすバルバダイの業火が道標となる。


その神殿へは神の御使いである赤子の御魂をはこぶ霊鳥コウノトリが導く。


神と精霊はひとしく、世界の始まりの原点であることを知るであろう゛]



ティアヌは記憶をあますことなく諳じてみた。



「どこかで聞いたことがあるような……」



「そうでしょうとも。これは冒険書の内容が正確であることを立証するのに一役かったある文献の一説だし、大きく世論に叩かれたネタでもあるしね」



「それでか。お前はその説を信じているのか?」



「問題は信じる信じないじゃないわ。そこに少しでも信憑性がひとカケラでもあるかよ。少なくとも私は信憑性においてこの説をおすわ」



山頂におりたつと日が翳りはじめ、エンタプルグの街のむこう、地平線の彼方へ消えゆこうとすべてを朱一色に染めあげる。




「道標……か」



「そういうこと。取っ掛かりはここからってわけよ」



「なるほどな」


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