45 / 132
第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、44)
しおりを挟む夕闇せまる赤黒くそまる小さな街なみ。
茜色の雲海。
観光でもしにきたのであれば申し分のない絶景。誰はばかることなく、セルティガの前でさえ思わず感涙により瞳をうるませていたのかもしれない。
海抜八千八百四十三メートル。世界最高峰の高山デスマウンテンは文字通り死の山。
死の世界の象徴であると同時に古くから人々の拠り所として崇められてきた。
その証しにこの神聖なる山に無暗やたらと訪れる旅人、島民すらいないとか。
ざっと見渡せば、降り積もった万年雪が厚い氷の層となって氷河がつらなる。
天高く黒煙を噴き上げる活火山。
山の表側は氷雪で雪化粧のほどこされた美しい大雪山系を目にできる。
しかし裏から見れば、途絶えることのない噴煙ふきあれる雄大な山、それがデスマウンテンたる由縁だ。
「ここが火口のようね」
「そのようだな」
巨大なクレーター状の噴火口にたどりついた。
死の山とよばれるだけあって地獄絵図のように煮えたぎるマグマの凄さときたら目がくらむ。
活発に火の粉を散らす赤々としたゼリー状のマグマは時に激しく煥発させ、腐敗した卵の硫黄臭が鼻を衝く。
「まさか……セルティガ……やっちゃった?」
じっとりと見据える。
「俺じゃねぇ!ガスはガスでもガス違いだ!」
「嘘よ嘘」
有毒ガスを発生させてはいないものの、念のために万年雪でしめらせた布きれで鼻と口をおおう。
それでもこれほどの異臭は布きれ一枚では排除しきれるものではなかった。
「それにしても臭い、セルティガ…臭さすぎるわ」
「だから俺じゃねぇって!」
そんな軽口をたたきつつ目をこらし様子をさぐる。
辺り一面地割れをおこし、そこかしこからおびただしいマグマが活発に脈動し、白煙と黒煙がいりまじった赤い大地は文字通り火の海だった。
刻々とせまる闇、朱にそまる夕影は小さな翳りをおとす。
辺りを照らしだすのはマグマの熱気と灼熱の大地の輝きのみとなろうとしていた。
「暗くなってきたな」
「急がなくちゃ!」
「なんでそんなに焦って探す必要があるんだ?」
なんとしても闇にとざされる前に洞窟の入口を探しあてねばならない。
「なぜって、闇が濃くなればなるほど邪蛇の力が増すと同時に黄泉の扉が開かれやすくなるからよ」
「黄泉の扉? 黄泉って死後のアレか?」
「そのアレよ。死ななくても行くだけなら可能よ。帰る方法さえ知っていれば黄泉とは恐れるにはおよばない。ようは死ななきゃいいだけのことだしね」
しかしその方法を知る者はこの世におそらく二人だけ、大神官とティアヌのみだろう。
時を自在にあやつる大神官には死すら訪れることがないという。
もはや人にあらず、精霊にもあらず、それらを超越した不老不死、大自然の一部にもひとしき生ける神なのだ。
「黄泉って死後の世界であると同時に色界(マントラ)、つまり私たちが現在いる世界の一番下に位置する世界…とするのが今のところ一般的な通説よね」
「世界の成り立ち……か」
「色界(マントラ)・欲界(ホルト)・無色界(シンドラ)からなる三つの三界。人とは輪廻転生をくりかえし、今私たちがいる世界も色界の一つだと言われているわ」
「ほぉ……っ」
ほぉ…って、世界の常識を知らないって……。
ま、相手がセルティガだけにこれもやむなし。
「ちなみに魔道の教えのなかでも色界の最下層には八大地獄があるとされているわ」
「八大地獄?」
「針の山とか血の池とか、魂は苦行のなかで数々の試練を与えられるそうよ。
それはそうと、なぜ急ぐのかきいたわよね?」
「あぁ」
「まさに黄泉と現世の仕切りって紙一重なの。とくにこの一件には邪蛇もからんでくるし。その紙一重な仕切りが交差したとしらどうなると思う?」
「考えるだに恐ろしい。現世と地獄の境界線がなくなるってことだろう?」
「そういうこと。さっきも言ったわよね、死ななくても黄泉に行くことは可能だって。黄泉を行き来するのに、一度死んで蘇る、という工程をふまなくてもその方法さえ知っていればどうにでもなるってこと。言いかえればそれさえ踏まえていれば死者も蘇みがえらせられるってことよ」
「……ん?」
「セルティガの理解レベルまでさげるわね。質問の仕方をかえましょうか。
もしも、その仕切りがとっぱらわれたとして、黄泉の扉が無理に開かれたとしたらどうなる?」
「死者(ゾンビ)であふれかえる、ってことか?」
「そう。自我をもたない死者はゾンビのまま。適切な手順をふまなければ死者は蘇ることはできないから。手っ取り早い話が、ゾンビのお人形さんが、わらわらと無限に扉から出てくる」
それも殺戮を繰り返す不死のお人形だ。
これは厄介だ。一度死んでいるため人のように簡単には倒せないうえに、残虐非道の限りをつくしても自我がないので心を痛めることもない。
とはいえ、倒せない相手ではない。問題はその量。全世界を席巻し恐怖で震撼つくし、そんなごてごて対応ではらちがあかない、ということにつきる。
一瞬で滅却できるティアヌほどの魔動士がもとめられるだろう。
「それに邪蛇は黄泉をつかさどる邪悪の化身。その邪蛇がからんできてることからして、無理に洞窟の入口を開こうとした時点で黄泉の扉も同時に開かれるおそれがあるってわけよ、質問の答えになったかしら?」
「……なった。門をあけなければいいってことだろう?明るいうちなら門のリスクはへる」
「危険性を理解したところで急ぎましょう。この山より大量のゾンビに襲われたくなかったらね」
「お、おぅ……」
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる