魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第1章 禁断の魔道士

魔道竜(第1章、48)

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遠目に、ごくありきたりな岩だと思わせていたものは、実は近くでみれば異形な姿の妖魔、俗に言うところの魔族だった。



この魔族とは無色界(シンドラ)とよばれる色界とはことなる別の世界に住むといわれている。



悪魔族として魔道の世界では分類され、その長である魔王はあまたの眷属をひきつれ幾度となくこの色界(マントラ)に現れた。



そしてこの色界にその魔王がもたらしたものとは、煩悩、驕(おご)りたかぶる卑しい心、身勝手なふるまい、自省心のなさ、そしてもっとも厳罰視される自からがのぞんでそうなるべくしての非業の死。



あらゆる悪とされる諸悪の根源を人間の潜在かにうえつけたのがこの妖魔、なかでも攻撃面を重視されたファイター型の妖魔を魔族と分類するのである。



それが悪魔族、光りが精霊だとすればさしずめ悪魔族はその光りの影にできた闇。


邪蛇も少なからずこの闇と混同されてきたのだ。


ゆえにこの一件に魔族がからんでいたとしてもなんら驚くべきことではない。



「ちょっと待て。ここは色界だぞ? なんでこの世界に、置き忘れた財布みたいに事も無げに魔族なんて転がっているんだ!?」



魔王降臨か、はたまた何かしらの手違いか。



前者は確率的に無理があり、後者は絶対的にありえないので却下。



となると……一番濃厚な説は、



「おそらく、この魔族は黄泉の扉の番人……といったところかしら」



トカゲ石と冒険書にしるされた石は、あろうことか魔族にすげかえられている。



「黄泉の扉? さっき話していた地獄門のことか?」



「そぅ」



ティアヌは今一度この魔族をじっくりと吟味するように凝視した。



見た目は金属的な光沢をおびた胴体。短い四本の足。腹は地にすりつけるように接し、長い尾をふくめ大きさをザッと目測で見積もって、およそ二メートル強。



しかもその姿は爬虫類とは言いがたい妙に突起した触手があり、いくつもの小さな斑点模様が尻尾にあったりもする。



「封印された聖域の扉を開くとき、光りと闇が共鳴するかのように連動して黄泉の扉が開かれやすくなる。


それと同時に無色界から魔王がこの世界に降臨するともいわれているわ。今回はそのどちらでもない」



「と…いうことは?」



ティアヌは心のなかで反芻したのち、噛み締めながらゆっくりと言葉にする。



「ひとたび扉が開かれれば地獄へこの世の半数にあたる人間が無差別にひきずりこまれる。


っていうことは…魔族を召喚した真の狙いは他にもあるような気がするのよ。黄泉の扉を楯にして。


そして、それを知る誰かが扉の封印を無理にとかせないためにこの魔族を召喚した」



「…………」



「そこから推察できる召喚したであろう人物像は…おそろしくキレる。それも魔道の理屈もきちんと理解した上でやっているあたりが妙に手が込んでいる、できすぎよ。まるで誰かが描いたシナリオみたいじゃない」



「シナリオ?その召喚した人物って、ハンスじゃないのか?


ならばご丁寧に封印する必要もなかっただろうし、気軽に出入りすることも可能なんじゃないのか?」



「気軽に出入りできるわよ。扉を封印したのがそのハンス、ならね」



「ならば、他に首謀者がいるってことか?」



「濃厚ね」



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