魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、22)

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「時には凡人の苦悩とやらを味わうことも、じつに人間らしくていいじゃないか。
どんなに優れた人間だって所詮ひとりの人間にすぎない。
お前がどんなに魔道にたけたヤツだとしてもな。
魔法にばかりたよるのは、一番大事な基本をおろそかにし、機械に依存するヤツらとなんら違わない」

「機械にたよって何が悪いのよ。楽できるものなら、エレベーターだってエスカレーターでも、なんでも利用するわよ。そのためにあるんだから」

今となれば、これといって珍しくもないありふれた機械。されど一昔前までは機械など見向きもされなかった。

魔法が主流の世界にあって、魔法が使えない異端児は異質なる稀人。
それが近年になると、魔法そのものが存亡の危機におちいることになった。

魔法を受け継がない世代交代の歪みに翻弄され、人は魔法の加護なくして生活をすることを余儀なくされた。

そこで機械の新たなる開発に一躍脚光をあびることにいたったのだ。

あれば便利なだけに機械産業は魔道士たちにとっても大歓迎らしい。
機械とは、思わぬ時代の転換期、その副産物なのかもしれない。

「まぁな。でも魔道士がゾロゾロとエスカレーターに乗っている様は、魔道士協会の大御所連中によく叩かれるネタでもあるけどな」

「それはあれよ。魔法をもっと人様の前で使って、魔法の伝道師としての自覚をもてってやつでしょ。
甚だもってあれは迷惑いがいの何物でもないわ。
そんな今更アピールしたって、セルティガのように微弱な魔法しか使えない人ばかりしか生まれないなら、打つ手なしってもんでしょ」

「お前な~ホント容赦ねぇな」

古来より魔道士学校では、あまりにも魔力が微弱すぎると退校、あるいは除名としたり、
そのご生徒は、魔法そのものが使えなくなる封印がほどこされるなど、入学しても卒業できる者はかぎられ狭き門とされてきた。

もちろん一つしか魔法を使えないなど以ての外、魔道の世界では魔道士とは認められないのはもちろんのこと、一昔前の暗黒期、入学対象からも除外されたこともあったらしい。

それを考慮すると、もしやセルティガは、悪運だけはいいのかもしれない。

「よく卒業できたわよね……火竜玉だけで」

「あのな~お前が異常すぎるんだ! なんでお前はそんなに魔法が使えるんだ?何かコツでもあるのか?」

「天才、だから?」

「あ~アホらしい。やってらんねぇ……」

「何よ、自分で話しをふっておいて」

「ヤメヤメ。この話しは終わり。聞くだけ時間の無駄だ。
それより、その冒険書にはこの壁のこととか書かれてないのか?」

ティアヌは腰にさげた乙女の巾着袋から、古びた一冊の書物をとりだす。

どれどれ、と呟きながらセルティガに松明をもたせ、二枚目のピンクの付箋が付けられたページをめくる。



【゛炎の精霊バルバダイの試練に打ち勝った者だけが、扉を開く鍵のありかを知る。

穢すことなかれ。
炎の聖域には精霊と人とをつなぐ宝器、触れることなき炎の岬にてそれは時をたゆたわん゛】


「つまり、アレか。壁については何も書かれていないってことか。それに、バルバダイの試練に打ち勝った者、これらのトラップを乗り越え、その行き着く先に、精霊条約書とやらが本当にあるってことか?」


「多分……」


ティアヌにしては、いまいち歯切れの悪い曖昧さ。少なからず確信をもって断定するにはいたらない。

「…………ここまで来て不安にかられるなよ」


「俺が先にコレをのぼって様子を見てくるか?」


「……いいわよ、どうせのぼらなきゃならないんだし…同じことよ」


「それもそうだな」


ティアヌは松明じたいに浮遊の呪文をかけ、術者の動きにあわせ頭上たかく空中を漂わせる。

毎度のことながら、鮮やかな腕前だ。

「さ、ここにちょうどいい足場があるわ。行きましょ」

自身にかけなければ魔法はオッケーであることも把握済みである。


「ぉ、おぅ!」


いつもの破天荒さを感じられないティアヌの背中。
セルティガはそんなティアヌの背中を押すかのように、つとめて明るい話題をふった、つもりだった。


「しかしさっきの溶岩のアレは、マジ干からびかけたよな。河童なら渡りきるまえに皿までひび割れるぞ。ミイラだよな、ミイラ」


「!?」


するとティアヌの肩が、それとわかるまでに大きくふるわせた。


不自然にも、岩に手をかけたまま固まる。


「どうした!?」


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