魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

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第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、25)

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真実、そう呟いてからティアヌは知らず知らずのうちに耳をそばだてる。



「それで?」



次にセルティガが口にするであろう言葉が待たれる。



「魔道士学校へ入学にいたった経緯、確か話したことなかったよな?  お前らバカにするから」



「そうね。あえて否定はしないわ。
だって火竜玉しか使えない魔剣士なんて、聞いたこともお目にかかったこともなかったもの」



セルティガ以外に、と心の中でそっとささやくにとどめる。



今は残念ながらトドメを刺す気分にはなれそうにない。


チッ…つくづく命冥加なヤツだ、と心の中で毒づく。



果たしてセルティガは良いヤツなのか嫌なヤツなのか。はてしなく謎である。



「悪かったな、珍獣まがいの例外で。
まぁ~黙って俺の話しを聞けって。聞いて驚くなよ?
卒業を間近にひかえたある日。どうも一部の客員講師が独断で内密に保護者にうまい話しをもちかけ、大枚を報酬として受け取り、斡旋をおこなっていたらしいとの噂が広まった。
ズバリ、裏口入学の疑惑が急浮上ってわけだ」



「う…裏口入学?」



「ま、それまでただの噂にすぎなかった。前々からささやかれてはいたみたいだがな。噂はすぐに鎮静化して、何事もなく卒業したわけであるが。
しかしなんの弾みか、俺が卒業してから数年後、それが急にマスコミで叩かれはじめた」



嫌な予感がティアヌの胸をよぎった。



「まさか………」



「そこで第三者委員会による調査が開始され、きわめてあやしい人物のリストが作成された。口利きで入学したであろうリストのなかに、俺の名前があったわけだ。おかげで危うく修了証明書が取り消されかけた」




「まさか……そんなことが……」



「お前らだって再三にわたり、俺が火竜玉オンリーでよく卒業できたもんだ…とか、言っていたじゃないか。
確かにたいして才能のない俺が何ゆえ入学できたのか、それだけでも我ながら説得力がある」



あっけらかんとして見えるが、セルティガの胸中は決して穏やかではないはずだ。



それを告白するために、どれだけの勇気を必要としたのだろう。



もしや…それは、ティアヌのため?



そうだとしたら、その気持ちにどうこたえるべきなのか。



「…………」



ティアヌはセルティガの手をかりながら、再び岩をよじのぼる。



ふと手をとめ、苦しい胸の内を感じさせまいとするセルティガの気持ちをくみ取る。




おそらくこの案件は、有耶無耶のうちに闇から闇へと葬りさられ、セルティガにとって不名誉きわまりない忌々しい過去となったにちがいない。



その話しが浮上するたびに傷つき、誇り高き剣士は剣でその自尊心をかろうじて保つ一方、誰からも肯定されることのない過去にどれだけくるしめられただろう。



それでも一番重要なことは、あらゆる見解をのべてやること。



人は誰かに自らの過去や胸中を語るとき、ある程度の結論を出しつくしたあとで話しを切り出すものだ。



そこに助言などは必要とされない。



ただそれを聞いて欲しい人と、それに対して意見を求める人。それをただ肯定してほしいだけの人。
おそらくセルティガは後者を求めている。



セルティガは裏口入学かもしれない、そう認めている節がそこかしこに感じられる。きわめてあやしいのもまた事実。



貴族の子息ともなれば世間体をおもんじ、生半可な期待ではなかっただろう。あらゆる手段を選ばない。そのひとつが裏口だった可能性も否定できない。

上流階級の意地、一族の期待は半端ないはずだ。
しかも長男ともなればなおのこと、その重圧は想像以上だろう。


結論からいえば、セルティガは自信がもてないのだ。



本来ならば、立証されてしかるべきはずの機会さえ与えられず、名誉を回復されることなく自信を著しく損失し、あげくいわれのない中傷にさらされ続けた結果、今のセルティガにつながる。



しかしティアヌの見解はセルティガにとって、意表を衝きまくっていた事はいうまでもない。



「そうかしら」


「 違うのか?」



「確かに疑わしきは罰せず、臭いものには蓋をしろ、それが大人の常套句、セオリーよね。それこそまさに協会の考えそうなゴシップってものじゃない」



「ゴシップ? なんでわざわざ協会が自らの首をしめるようなまねを……」



「言わずとしれたこと。話題性よ」



「は?」



「低迷しつつある魔道士の地位向上、および知名度アップってところかしら。
良くも悪くも話題性さえあれば、それなりに注目される。つまり、協会側は確固たる財源の確保、保身にはしったってことよ。

なにせ今や魔道は機械産業におされ氷河期真っただ中、話題性がありさえすればかなりの資金が動くことになるわ」



ティアヌは背中にまわされた腕の温もりに意識をかたむける。



そこから伝わるもの、それは人を労る温もり。



人を気遣い、心から親身に接しようと心掛けなければ、人の温もりからは何も感じることなどできない。



口は悪いが、根っからの悪意をもたないセルティガ。



人に優しく接する、人を労る、人に対し親身になれる。当たり前なことなのに、当たり前なものこそ一番難しかったりもする。
セルティガはそれができる人。


もし仮に、セルティガは口が悪いだけで、意気消沈したティアヌを気遣えるこの優しさが本来のセルティガなのだとしたら、どちらのセルティガもセルティガにはちがいない。



「もし仮に大枚を積んで裏口入学できたとして、魔法を使えない時点で即刻退学、除名よ。
すくなくとも魔法を使える時点で、まったく裏口だとは断言できないわ」



「慰めならよしてくれ」



「あら、本当よ。昔魔道士養成科へ入学したいという人の家庭教師をやったことがあるけれど、本当に才能のない人は、煙りですら生み出すことが出来なかったもの」




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